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451 余力

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「やる気を出せと言っても、やる気のある人間は言われなくてもだすからな。ミゼル、お前にやる気がない以上、俺が無理に教える事は無い」

「え、店長、それって俺を見捨てるって事ですか?」

そりゃ確かに訓練にはいまいち力が入っていないけど、見捨てられるのはさすがに困る。
そもそも俺が面倒くさがりなのは店長も知ってるだろう。
それを今更つけ放されても・・・・・

「ははは、見捨てるなんて事はしないさ。今まで通りだよ。ただ、訓練はやる気になるまでやらなくていい。ミゼルの気が向いたらその時にやろうか」


今思えばずいぶん自分勝手な言い分だったが、店長はそんな俺にも変わらず接してくれた。

その日から俺は魔法の訓練をしなくなった。
レイジェスの仕事だけやって、訓練はしないで酒を買って家に帰る日々。

そもそも、俺は戦いをしたいわけじゃない。店長が俺を拾ってくれた事には感謝している。
色々隠し事も多いけど、その人間性は尊敬もしている。
けれど俺は金がほしくて働いているわけで、魔法を覚えて戦いたいわけじゃない。

だから、店長がどういうつもりで魔法を教えてくれのか分からないけど、乗り気でないにはそれなりの理由もあるんだ。






「・・・ぐぅっ・・・ははは、甘えていた報いだな・・・帰ったら・・・店長に鍛えて・・・もらわねぇと・・・な」

俺は自分の左腕に深く突き刺さるナイフを見ていた。
腕を貫通して、真っ赤な血に濡れた刃先が目に映る。危なかった・・・なんとか間に合ったが、タイミングがずれていたら、胸を抉られていただろう。


一人、倒しきれなかった。
俺が体に纏う灼炎竜に躊躇なく飛び込み、炎に焼かれながら体ごと俺にぶつかってきた。

行動不能になるまで襲ってくる・・・・・痛みを感じない分身体だからできる事だ。
一瞬で炭になるほどに焼き払わなければ、これほど体が焼かれても向かってくるのか。

俺の左腕にナイフを突き立てたクアルトの分身体は、焼かれながらも表情一つ変える事はない。しかし力尽きたのか、ナイフから手が離れるとその場に膝から崩れ落ち、二度と立つ事は無かった。


「・・・はぁ、はぁ・・・くそっ!こんなに、痛ぇのか、よ・・・」

左腕の刺さったナイフを引き抜いて投げ捨てる。血が勢いよく流れ出るが、まだ戦いは続いている。
クアルトから目を離す訳にはいかない。


「へぇ、なかなか気持ちが強いんだね?まぁ、頭か腹を狙ったんだけど、結局腕だしね。戦意も衰えて無さそうだ」

全ての分身体を灰にすると、クアルトが両手を叩き合わせてにこやかに、楽しそうな声を出した。

「・・・ふん、このくらいで・・・俺達は命懸けてきてんだ!なめんなよ!」

痛みで額から汗があふれ出て来る。だが、傷薬を塗る余裕はない。
さっき俺がクアルトを待ったように、クアルトが俺を待つ保証はどこにもない。
視線を切った瞬間、なんらかの攻撃を受ける可能性は十分ある。

しかし、このまま放置すれば、もって数分のうちに、出血多量で戦闘不能になるだろう。
動けるうちに決着をつけなければならない。

最悪相打ちでも構わない。
俺は残りの魔力を全開し、灼炎竜の力を高めた。


「へぇ・・・まだ灼炎竜でくるの?」

「俺は炎が得意なんでな・・・俺の弱点に気付いたようだが、分身体を失ったお前にまだ勝ち目はあるのかな?」

「・・・これならどうかな?」

クアルトの様子から、まだ何かあるだろうとは思っていた。
手の内を全て出したとは思えない余裕が見えたからだ。

だが、それは俺の予想の範囲をはるかに裏切っていた。


さっきの倍は優に超えているであろう、数十人の分身体がズラリと並び立ち、同じく全員が俺に向けナイフを構えた。


「・・・てめぇ、一体何人出せるんだよ?」

「魔力が許す限りだ。試した事はないが、百は軽く出せるだろうな。ここが狭い室内で良かったな?」

「なにっ!?」

俺だって魔法使いの端くれだ。自分で使った事はないが、この実体を作り出す魔道具に、どれほどの魔力を使う想像はできる。

・・・これだけの数を出して、まだ余力があるというのか・・・?


「さぁ、おじゃべりはお終いだ・・・その出血でどこまでやれるか見せてもらおうか!」


クアルトが俺に指先を突きつけると、数十個もの殺意を持った目が一斉に俺に向けられた。
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