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450 弱点

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この男、とぼけた感じだが意外に頭が回るヤツだ。
幻覚の階段を突破したのも、女の方じゃないな。きっとコイツの知恵だろう。

そして用心深い。
腕の治療中、あえて隙を見せたが仕掛けて来なかった。
あれで攻撃をしかけてくれれば、分身を一体出して楽に始末できたんだけどな。

爆発系の魔法を使ったならば、その爆炎を目くらましにして。
刃物でも持っていて近づいてくるなら、背中を取る事も容易かっただろう。

僕の分影の首飾りが、幻覚を作るだけだと思っていたなら、あの時しかけてきてくれればもう決着はついていた。

でも、この男は何かを感じ取って攻撃はせずに、様子見に回った。
それは結果的に僕の腕を完治させる事になり、この男にとっても不利になる事だったが、それでも男は動かなかった。

何を基準に行動しているかまでは読めないが、自分の判断に自信を持って動くタイプのようだ。

揺さぶりは通用しなそうだ。だから僕は、こいつとは正面からやりあう事にした。



「お前、名前は?」

「・・・ミゼル・アルバラードだ」

「そうか、僕もあらためて名乗ろう。四勇士、エステバン・クアルトだ」

名乗り終えると、僕の前に立ち並ぶ、15人の分身がミゼルに向けナイフを構えた。




「・・・けっこうな人数だな・・・いくぜ」

ミゼルは両の拳を握り締めると、体中から魔力を放出し始めた。
魔力は紅蓮の炎になり、炎は竜を形作る。

「うん、まぁ、灼炎竜しかないだろうね。これだけのナイフを向けられているんだ。攻防一体の灼炎竜は正解と言えるよ」

でもね、ミゼル・・・僕がそれを予想できないと思ったかい?

僕が黒魔法使いと戦う場合、灼炎竜を使われる事は十分に考えられる。
いや、それしかないとも言えるだろう。

なんの対策も考えていないと思ったかい?だとしたらガッカリだ。

「・・・まぁ、やってみれば分かる事だ。来なよ、ミゼル」






「ハァァァァーッツ!」

俺は炎を纏い、三メートル級の灼炎竜を三体出現させると、前方のクアルトの分身体に向け撃ち放った。

この部屋はかなり広い。俺を中心に幅は半径10メートル以上あるだろう。天井までの高さも5~6メートルは見て取れる。
だが、灼炎竜を暴れさせるには、三メートル以上は大き過ぎるし、必要も無いだろう。
それに下手に塔を壊して、まだ意識の戻らないケイトになにかあったら、ジーンに死んでも詫びきれない。

クアルトは白魔法使い。
障害物の無いこの広く開放された部屋で、正面から放たれた灼炎竜を躱し防ぐすべはない。

しかも十数人がほとんど間隔を空けずに、横並びで立っていたため、一体目の竜がクアルトの分身を3人まとめて焼き払った。
二体目、三体目も同じく、大きな顎を開けて数人まとめて吞み込んでいく。


「・・・なんだ?こんなもんなのか?」


灼炎竜がベストだと思っていた。だが、ここまであっけないものか?
このままなら次の攻撃で終わりだぞ?

あまりの手応えの無さに拍子抜けすら感じたその時、炎に焼かれて倒れていた分身体の一人が、何事もなかったようにスッと起き上がり、握り締めたナイフを構えると、俺に向かって走って来た。

服は焼け焦げ、全身に酷い火傷を負っているが、その表情からは痛みを全く感じていないように見える。

「なっ!?まさか!?」

「ふはははは!何を驚いている!?最初に言ったじゃないか?こいつらは痛みを全く感じないって!行動不能にならない限り、どこまでもお前を追い狙うぞ!」

「くっ、やっかいな魔道具を!」

一人立ち上がると、二人、三人と次々と立ち上がり、ナイフを構え向かってくる。

こいつらはただ焼くだけじゃだめだ・・・行動不能に、消し炭にしてやる!


「オォォォォォーッツ!」

大きさは変わらない。しかし魔力を凝縮し、より力強さを増していく。

分身体の一人が飛び掛かって来る。
右手を振るい灼炎竜を操り分身体へとぶつけると、クアルトの姿をしていた分身体は、一瞬にしてその体を動かぬ黒い炭へと変え、その場に崩れ落ちる。

そのまま二人目、三人目と竜が呑み込みクアルトの分身体を炭へと変えていく。






「やるじゃないか。どうやら火魔法が得意なようだな、なかなかの魔力だ。だが、意識の薄い部分ならどうかな?」

11・・・10・・・9・・・一瞬で僕の分身を灰にする程の魔力は大したものだよ。でもね、僕の目なら見抜けるよ。お前の魔力にはムラがある。三体出した灼炎竜のうち、自分の体に纏い、防御に回した一体は、攻撃に使っている二体に比べ魔力が弱い。

つまり、接近さえすればお前は積みだ。

「一斉にかかれ!」

残り8人、僕の分身体は合図を出すと、ミゼルを囲み一斉に飛び掛かった。






「ちぃっ!」

残り8人の分身体は円を描くように俺を取り囲むと、一斉に襲い掛かってきた。
二体の灼炎竜を操り分身体を消し炭へと変えていくが、ここに来てそれまで単調な動きだった分身体が、的をしぼらせないように連携を取り始めた。

「くそっ!さっきまでとは全然違う!まさか、さっきまでは手を抜いてやがったか!?」

前に出て来る分身体に竜を仕向けると、すぐ脇からナイフを構えた分身体が、ぶつかるように突進してくる。
防ごうと竜を前に出し盾にすると、背後からも同様に飛び掛かられる。

この動き・・・全員で一撃だけを取りに来てやがる!
分身体には意思がないのか?だから、死ぬのが怖くないという事か?

一撃・・・全員で俺に一撃だけを与えればいいという事か!?


まさか・・・こいつら、気付いてやがるのか!?俺の魔力操作の穴に!?




「ミゼル、苦手という程ではないのだろう。格下相手なら気に留める必要もないくらいだ。だが、このレベルの戦いではお前の魔力操作は致命的だぞ。たかが三体の灼炎竜で、均等に魔力を分けられんとはな。日々の訓練を怠ったか?それとも真面目にやってその程度か?まぁ、いずれにしろその弱点がお前の敗因だ」


クアルトの目が怪しく笑った時、ミゼルの纏う炎に飛び込んだ一人の分身体のナイフが、ミゼルの体を刺し貫いた。
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