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446 北東の塔 決着

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「おいカチュア、そんなヤツ助ける事ねぇって」

フィゲロアにヒールをかけるカチュアに、俺は顔をしかめた。
なんとか勝てたが、かなり際どかった。

俺は矢を全て使い果たし、ヒールをかけてもらったが、無理をしたせいで左肩もまだ満足に動かせない。

カチュアも魔力が枯渇寸前までいった。
直撃は受けてなかったが、あれだけ熱波にさらされたせいで、意識がとびかけていた。
それなのに戦いが終わったら自分より俺を優先してヒールして、今はフィゲロアの野郎を治療している。信じられねぇお人好しだ。

「・・・うん、気持ちはわかるけど・・・でも、助けられるんなら、助けたいって思って・・・」

「・・・ちっ、おい、じゃあせめて水くらい飲めよ。カチュアだって倒れそうな顔してんぞ」

俺はポーチから水袋を取り出して、カチュアに手渡した。

「うん、ありがとう・・・実は喉カラカラだったの」

そう言ってゴクゴク飲むところをみると、やはりあの熱波はかなりきいていたようだ。
体力型の俺だって相当堪えたんだ。体力の少ないカチュアは本当に厳しかったはずだ。


「・・・しかし、カチュア腕上げたよな?こいつギリギリ心臓は躱したみてぇだけど、それでも致命傷だったはずだぜ。よく回復できるよな」

カチュアの後ろに立って、治療の様子を見ていた俺は、その魔力操作に感心して声をかけた。

「・・・うん、あのね、協会で私はアラタ君を助けられなかったから・・・だから、あれから毎日訓練してたの。店長が出張に行ってから、あんまり訓練してなかったから、気持ちが緩んでたんだって思ったの。だめだよね・・・店長が帰って来たら、怒られちゃうかな・・・」

「・・・何言ってんだよ?そんなんで店長が怒ると思うか?自分でダメなとこに気付いて、今は毎日しっかり訓練してんだろ?カチュアのヒールは大したもんだぜ。それでいいじゃねぇか」

俺の言葉にカチュアは目を丸くする。

「・・・リカルド君って、たまにすっごい大人っぽい事言うよね」

「あぁ?馬鹿にしてんのか?」

俺がすごんでみせると、カチュアはクスクス笑い出した。

「あはは、ごめんね。そんなつもりじゃないよ。うん・・・でも、元気出たよ。ありがとう、リカルド君」


相当疲れている事は顔を見れば分かる。
でも、自分の事より目の前の命のために力を使う。これがカチュアなんだろうな・・・

フィゲロアの治療が終わると、カチュアは座っているのも辛いのか、仰向けに倒れた。
当然だろう、枯渇しかけた魔力で俺の肩と致命傷のフィゲロアを治したんだ。
魔力回復促進薬を飲んでいたって、追いつくもんじゃねぇ。


「カチュア、しばらく寝てろ。大障壁は俺が探す」

「ご・・・ごめん、ね・・・うぅ・・・」

もう目も開けていられないのか、カチュアは仰向けのまま口を微かに動かして、小さな声をやっと口にした。

「しゃべんな。寝てろ。俺が下までおぶってってやっから。ユーリが戻ってたらヒールも頼んでおくよ。たくっ、自分にヒールできねぇ程魔力使うなよ」

俺の憎まれ口に、カチュアは返事の代わりに口の端を少しだけ上げて笑った。


さて、肝心の大障壁はどこだ?
部屋の端に置いてある机の中には無かった。そしてこの部屋には他に何も無い。

「・・・やっぱ、こいつが持ってるってこったな」

フィゲロアの服を探ると、ベストの内側にポケットが付いていて、その中に十数センチくらいの銀のプレートが入っているのを見つけた。

「あ~、これか?ってか、これしかねぇな。魔力も感じるし今使ってますって感じだな。んじゃ、さっそくぶっ壊すか・・・けっこう堅そうだな・・・やっぱ撃つか」

床に叩きつけたくらいでは壊れそうにないから、俺は床に大障壁を置いて、鉄の矢で撃ち抜いた。なんとか弓を引けたが、やっぱ左肩はまだ本調子じゃない。

大障壁に矢が突き刺さったのを見て、俺は塔の壁穴から顔を覗かせて、クインズベリー城を見た。

「・・・あぁ~、こっからじゃよく分かんねぇな・・・けど、ちょっと薄くなったような感じはあるな。まぁ、やっぱ全部壊さねぇと駄目って事か」


壁穴から顔を外し、まだ横になっているカチュアに目を向ける。

「お~いカチュア、んじゃあそろそろ行くか?・・・ん?」

カチュアから何やらスースーという音が聞こえる。これは・・・あれか?寝息か?


「・・・あ~、やっぱなぁ・・・寝てるわ」

寝てる人間って、なんか起きてる時より重いんだよな・・・面倒くせぇ~・・・

「・・・はぁ~、しょうがねぇか・・・」

俺は腰を下ろしてカチュア背中に手を回して、上半身を起こした。
そのまま体を回し、自分の背中にカチュアを乗せて背負うと、一度だけ軽く体をゆすって体の軸にカチュアが合うように姿勢を整える。

「頑張り過ぎなんだよ・・・」

起きたらちょっと怒ってやんねぇとな。

自分にヒールかける魔力くらい残しておくべきだ。
しかも敵を回復させるために使うなんて、俺には理解できねぇ。


「・・・・・待て」


俺が部屋を出ようとすると、背中に声をかけられた。

「・・・てめぇ、気が付いたのか?勝負はついた。カチュアに助けてもらった命だ。大事にしとけ」

振り返らなくても分かる。

フィゲロアは意識は戻っていても、まだ体を動かす事はできない。
心臓の横を貫いたんだ。すぐに動けるわけがねぇ。

「・・・もう、お前らと、戦うつもりは、ない・・・聞け、国王は・・・お前らを、国賊、と言っていた・・・ここに、お前らが・・・来るように、しむけて、いた・・・油断、する、なよ・・・」


「あぁ?てめぇ・・・なんで俺にそんな事話すんだよ?」

振り返ると、やはりフィゲロアは体を起こしておらず、倒れたままだった。
やっと口を動かしているのか、途切れ途切れ、呟くような声だった。

「フッ・・・見せて、もらうぞ・・・お前、たちが、どこまで・・・できる、か・・・」

「・・・・・へっ、最後までやりとげてみせらぁ」


それ以上、フィゲロアが何も言ってこない事を確認して、俺達は部屋を出た。
カチュアを背負ったまま、一段一段ゆっくりと階段を下りる。


みんな、俺達は勝ったぞ。信じて待ってるからな。
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