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445 沢山の力
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それは一つ一つが、俺やカチュアなんてあっさり呑み込んでしまうような、大きな炎の塊だった。
そしてフィゲロアが杖を振るうと、天井を埋め尽くすほどに広がった炎の塊が、次々と俺達に向かって降りかかってきた。
「魔風の羽よ!」
カチュアが魔風の羽を前に出し魔力を放つと、風の盾が俺達を包み囲み、炎を防いだ。
「うぅっ・・・うっ・・・」
「カチュア、大丈夫か?」
数発防いだだけで、すでにカチュアはキツそうに眉をよせ、額には汗が滲み出ている。
フィゲロアの一発を防ぐだけで、相当な魔力を消費をしているようだ。
本気を出されれば地力がものを言う。フィゲロアの魔力の高さがどれほどか嫌でも分からされる。
「す、すごい、威力・・・頑張るけど、あんまり、持ちそうにない・・・」
そう話している間にも、カチュアの風の盾には何発もの炎が頭上から降り注ぎ、防いだとしてもその衝撃の大きさに、まともに立つ事でさえ困難になる。
「・・・カチュア、少しだけ耐えてくれ」
まるで炎の雨だ。
しかも一発一発が馬鹿みたいにでけぇ。フィゲロアの野郎はさっきの大地の矢で受けたダメージがでけぇみたいだが、これだけの炎を出し続けている事を考えると、まだ余裕があるんだろう。
このままフィゲロアと根競べをしても、先にへばるのはカチュアだ。
そしてカチュアの魔力がつきれば、逃げ道のねぇ俺達は一瞬で丸焼きにされちまうだろう。
「俺が必ずあの野郎をぶっ倒してやる」
俺が最後に頼ったのは自分の腕だった。
絶対に大陸一の弓使いになってみせる。そう強く思って毎日訓練を続けて来た。
ジョルジュ・ワーリントンには今は及ばないだろう。
でも、必ず追い抜いて見せる。俺なら追い抜ける!
そう自分を信じて弓を引いて来たんだ・・・・・
「うぉぉぉぉぉぉーッツ!」
穴を空けられた左腕を無理に動かしたため、左肩の傷がものすごく傷み、ぶるぶると震えて狙いが定まらない。
「リ、リカルド君!?なにやってるの!?その怪我で弓が引けるわけ・・・」
「カチュァーッツ!俺を信じろ!俺は大陸一の弓使い、リカルド・ガルシアだ!」
カチュアの言葉にかぶせて俺は声を張り上げた。
この風の盾の外は、炎が荒れ狂い、とても視界が効くものではない。
でも俺は知っている。目に頼らないでも正確に矢を射った人を。
店長は言っていた、目に頼るのではなく風を感じるんだと。
俺はレイジェスに入った時には、すでに親父から鍛えられてそれなりの腕前だった。
だけど、働き出して少し経った頃、店長が外で弓を引いているのを偶然見て、その姿に目を奪われた。
矢を放つまでの一連の動作が、まるで自然と一体になったのかと思う程、そこだけ時が止まってしまったかと思う程に静かだった。
そして店長は目を閉じていた。
この時の俺の常識では、目を閉じて矢を射るなんて事は全く考えられなかった。
頭がおかしいんじゃねぇのか?とさえ思った。
けれど、店長はその状態で的とした樹の中心に見事に矢を当てたのだ。
「・・・リカルドか、どうした?」
俺は音を立てていなかった。けれど店長は、後ろに立った俺に振り返らずに気が付いた。
一体なにをどうしたらこんな事ができるんだ?
「え、いや、店長よ、すっげぇな・・・魔法使いなのに、なんだよその弓の腕?」
「・・・魔法使いでも、弓や剣が使えないわけではないからな。訓練を積めばできるものだぞ」
「いや、今見てたけど、目を閉じてたよな?それで的に当てるなんてよ、ちょっと頭がおかしいレベルだぜ?店長何者だよ?どこでそんな技覚えた?」
さらりと言っているが、店長のやった事は俺にはとてもできない。
魔法使いが習得できる技術ではなかった。
「・・・悪いな、リカルド。言えないんだ。けれど、俺は目に頼ってはいない。風を感じてるんだ。リカルド、キミが技術の先に行きたいのならば、自然に耳を傾ける事だ・・・風にも、土にもな」
それから俺は店長に弓を師事するようになった。
自然を感じるんだ・・・
俺は目を閉じて、心を静かに自分の立つこの二本の足で土を感じた
石造りの床だが、この石だって自然の産物、精霊は宿っているはずだ
なぁ、土の精霊・・・俺に力を貸してくれ。フィゲロアの場所を教えてくれねぇか?
結局よ、戦いってのはどっちにも正義があると思うんだ
俺には俺の、フィゲロアにはフィゲロアの、でもよ偽国王は、この国をダメにしようとしてんだ
それは止めなきゃならねぇ
だから俺に力をかしてくれ
・・・祈りが芽を出した
カチュアの風の盾が、フィゲロアの降らす炎の塊を防ぐ、それによって起こる爆発、空気の振動、それらあらゆる全てが、足元から俺に伝えて教えてくれる・・・・・
・・・フィゲロアはここにいると・・・・・
捉えたぜ!
目に頼らなくてもてめぇがどこにいるか体で感じる事ができる!
「カチュア!正面の風を解け!」
フィゲロア!てめぇは俺の正面10メートル先、体二つ分左だ!
「リカルド君!」
頭上からは巨大な炎の塊が降り注いでいる。一部でも一瞬でも、風の盾を解く事は大きな恐怖のはずだ。だが、カチュアは躊躇なく風の盾を解いた。
何も聞かず俺を信じてくれたって事だ!これで決めなきゃ男じゃねぇ!
「いけぇぇぇぇぇーッツ!」
左腕の震えがなんだ?これまでいったいどれほど弓を引いてきたと思っている!?
俺は放った矢は吸い込まれるように、荒れ狂う炎と風の中に消えていった
結界にぶつかる金属音に目を向けると、一本の鉄の矢がぶつかり落ちた。
あの体力型の男が撃ったのだろうが、この炎と風が荒れ狂う状況で、矢を射って届かせたというのか?そう思った時だった・・・
「ば、馬鹿な!?」
二本、三本、瞬く間に同じ個所に鉄の矢がぶつかり落ちていく。
ま、まさか・・・この悪条件で、こんな事が可能なのか!?
最初の時とは比べようも無い程だ!地面に落ちた炎は燃え上がり、風が吹き荒れているのだぞ!?
四本目の矢が当たった時、結界に亀裂が入るのが目に入った。
「くっ!この男、どういう腕をしている!?・・・だが、なめるなよ!」
体の底から魔力を引き出す。
結界がより強い光を放ち、輝きを大きく増していく。
「このライース・フィゲロアの天衣結界、破れるものなら破ってみろ!」
五本・・・六本・・・七本・・・そうか、これでも結界を破れねぇって事は、野郎は結界のレベルを上げやがったって事か。
この局面で使う結界は、天衣結界しかねぇだろう。おもしれぇ・・・やってやんよ!
クインズベリー国で最高レベルの四勇士、その青魔法使いの天衣結界だ、どれだけ撃ち込めば破れるだろうな?
俺の矢が尽きるまで、てめぇの結界が持てばてめぇの勝ちだ。
だが、俺が結界を破れば、確実にてめぇの心臓を撃ち抜いてやんよ!
「勝負だくそ野郎ぉぉぉぉぉぉーッツ!」
八・・・九・・・十・・・・・
続けて十本、全く同じところに当ててきやがった・・・・・天衣結界でなければ、とっくに破られている。
大した男だ、敬意を払おうじゃないか。
お前は俺の結界に勝負をしかけているんだろ?
お前の矢が尽きる前に、俺の結界を破れるかどうかを?
いいだろう。ここまで俺を追い詰めたんだ、俺もプライドの回復には、お前を真っ向から叩き潰す必要がある。だから受けてたとう!
「さぁ、どんどん撃って来い!そんな矢で破られる程、俺の結界はあまくねぇぞ!」
「うっ・・・はぁ・・・はぁ・・・あ、あつ、い・・・・・」
正面の風を外したため、そこから入り込む強烈な熱波に私は眩暈を覚えた。
まだ・・・まだ、だめ・・・私が気を失ったら、上を護るこの風の盾は解けてしまう。
もし風の盾が解けたら、今も降り注ぐこの炎の塊に、私とリカルド君は押し潰されてしまう。
・・・・・魔力回復促進薬を飲んでおいてよかった。
本当だったら、多分もう尽きている・・・でも、もう少しだけ頑張れそう・・・・・
だから振り絞るの・・・魔力の最後の一滴まで・・・・・
リカルド君・・・・・
私は自分の一歩前で、矢を撃ち続けるリカルド君に目を向ける。
信じてるよ・・・リカルド君なら、きっと勝てるって・・・・・
十五・・・十六・・・十七・・・
まだか?これだけ撃っても破れない程、天衣結界は強力だというのか?
間隔を空けずに連続で射撃している俺の矢は、フィゲロアの結界の同じ個所に直撃し続けているが、いまだに手ごたえが感じられない。
矢も残り少ない、このまま続けて果たして破る事ができるのか?
焦りで心が乱れそうになる。
いいや、余計な事は考えるな・・・この非常に繊細な感覚は土の精霊の加護によるものだ。
心を乱せば、二度と取り戻せないだろう。
自分を信じろ!精霊を信じろ!俺の矢が続く限り勝機はある!
気力が精霊に呼応し、矢に力が加わった。
「なにっ!?」
それはこれまでとは違った音だった。突如結界にぶつかる矢の威力が増し、受ける衝撃も大きくなった。
それに続く矢も同様の威力を持っている事から、まぐれ当たりではない。
なぜだ?なぜ突然威力が増した?
結界を通じて感じる衝撃はかなりのものだった。
冷たい汗が頬を伝う。これは初めての経験だった。
四勇士たる俺の天衣結界に、ここまでのダメージを与える程の攻撃力を、ただの一介の弓使いが持っているというのか?
「これほどの使い手だったとは・・・なっ!?」
受ける矢の数がニ十五を数えた時、とうとう結界に亀裂が入った。
二十八・・・二十九・・・・・これで最後だ・・・・・
もう左肩の感覚がねぇ・・・・こんな状態でここまで射る事ができたのは、土の精霊のおかげだ。
店長、俺分かったぜ。心を鍛える事の本当の意味が・・・
俺は一人で戦ってんじゃねぇんだ。
仲間がいて、精霊がいて、色んな力を借りて戦ってんだ。
呼吸を整える。こんな状況なのに、心は波一つたたない静かなものだった。
目を閉じたまま矢をつがえる。
見える・・・・・フィゲロアのまで続く矢の通り道が見える。
「・・・ありがとよ、土の精霊」
体全体で感じる軌道に矢を乗せて放った。
「がっ!・・・あ、ぐぁ・・・」
深く胸に刺さった矢に目を落とす。
この一射は来ると分かっていても躱す事はできなかった。
俺の天衣結界を突き破り、まるで矢が意思を持っているかのように、淀みなく俺の胸を貫いたのだ。
喉の奥からなにかがせり上がって来て、口の中に一瞬溜まり吐き出すと、真っ赤な血だった。
この俺が、血を吐かされるとはな・・・・・
「敗北を・・・認める・・・しか、ねぇか・・・」
立っている事も出来ない程足から力が抜けて、俺は膝から崩れ落ちた。
そしてフィゲロアが杖を振るうと、天井を埋め尽くすほどに広がった炎の塊が、次々と俺達に向かって降りかかってきた。
「魔風の羽よ!」
カチュアが魔風の羽を前に出し魔力を放つと、風の盾が俺達を包み囲み、炎を防いだ。
「うぅっ・・・うっ・・・」
「カチュア、大丈夫か?」
数発防いだだけで、すでにカチュアはキツそうに眉をよせ、額には汗が滲み出ている。
フィゲロアの一発を防ぐだけで、相当な魔力を消費をしているようだ。
本気を出されれば地力がものを言う。フィゲロアの魔力の高さがどれほどか嫌でも分からされる。
「す、すごい、威力・・・頑張るけど、あんまり、持ちそうにない・・・」
そう話している間にも、カチュアの風の盾には何発もの炎が頭上から降り注ぎ、防いだとしてもその衝撃の大きさに、まともに立つ事でさえ困難になる。
「・・・カチュア、少しだけ耐えてくれ」
まるで炎の雨だ。
しかも一発一発が馬鹿みたいにでけぇ。フィゲロアの野郎はさっきの大地の矢で受けたダメージがでけぇみたいだが、これだけの炎を出し続けている事を考えると、まだ余裕があるんだろう。
このままフィゲロアと根競べをしても、先にへばるのはカチュアだ。
そしてカチュアの魔力がつきれば、逃げ道のねぇ俺達は一瞬で丸焼きにされちまうだろう。
「俺が必ずあの野郎をぶっ倒してやる」
俺が最後に頼ったのは自分の腕だった。
絶対に大陸一の弓使いになってみせる。そう強く思って毎日訓練を続けて来た。
ジョルジュ・ワーリントンには今は及ばないだろう。
でも、必ず追い抜いて見せる。俺なら追い抜ける!
そう自分を信じて弓を引いて来たんだ・・・・・
「うぉぉぉぉぉぉーッツ!」
穴を空けられた左腕を無理に動かしたため、左肩の傷がものすごく傷み、ぶるぶると震えて狙いが定まらない。
「リ、リカルド君!?なにやってるの!?その怪我で弓が引けるわけ・・・」
「カチュァーッツ!俺を信じろ!俺は大陸一の弓使い、リカルド・ガルシアだ!」
カチュアの言葉にかぶせて俺は声を張り上げた。
この風の盾の外は、炎が荒れ狂い、とても視界が効くものではない。
でも俺は知っている。目に頼らないでも正確に矢を射った人を。
店長は言っていた、目に頼るのではなく風を感じるんだと。
俺はレイジェスに入った時には、すでに親父から鍛えられてそれなりの腕前だった。
だけど、働き出して少し経った頃、店長が外で弓を引いているのを偶然見て、その姿に目を奪われた。
矢を放つまでの一連の動作が、まるで自然と一体になったのかと思う程、そこだけ時が止まってしまったかと思う程に静かだった。
そして店長は目を閉じていた。
この時の俺の常識では、目を閉じて矢を射るなんて事は全く考えられなかった。
頭がおかしいんじゃねぇのか?とさえ思った。
けれど、店長はその状態で的とした樹の中心に見事に矢を当てたのだ。
「・・・リカルドか、どうした?」
俺は音を立てていなかった。けれど店長は、後ろに立った俺に振り返らずに気が付いた。
一体なにをどうしたらこんな事ができるんだ?
「え、いや、店長よ、すっげぇな・・・魔法使いなのに、なんだよその弓の腕?」
「・・・魔法使いでも、弓や剣が使えないわけではないからな。訓練を積めばできるものだぞ」
「いや、今見てたけど、目を閉じてたよな?それで的に当てるなんてよ、ちょっと頭がおかしいレベルだぜ?店長何者だよ?どこでそんな技覚えた?」
さらりと言っているが、店長のやった事は俺にはとてもできない。
魔法使いが習得できる技術ではなかった。
「・・・悪いな、リカルド。言えないんだ。けれど、俺は目に頼ってはいない。風を感じてるんだ。リカルド、キミが技術の先に行きたいのならば、自然に耳を傾ける事だ・・・風にも、土にもな」
それから俺は店長に弓を師事するようになった。
自然を感じるんだ・・・
俺は目を閉じて、心を静かに自分の立つこの二本の足で土を感じた
石造りの床だが、この石だって自然の産物、精霊は宿っているはずだ
なぁ、土の精霊・・・俺に力を貸してくれ。フィゲロアの場所を教えてくれねぇか?
結局よ、戦いってのはどっちにも正義があると思うんだ
俺には俺の、フィゲロアにはフィゲロアの、でもよ偽国王は、この国をダメにしようとしてんだ
それは止めなきゃならねぇ
だから俺に力をかしてくれ
・・・祈りが芽を出した
カチュアの風の盾が、フィゲロアの降らす炎の塊を防ぐ、それによって起こる爆発、空気の振動、それらあらゆる全てが、足元から俺に伝えて教えてくれる・・・・・
・・・フィゲロアはここにいると・・・・・
捉えたぜ!
目に頼らなくてもてめぇがどこにいるか体で感じる事ができる!
「カチュア!正面の風を解け!」
フィゲロア!てめぇは俺の正面10メートル先、体二つ分左だ!
「リカルド君!」
頭上からは巨大な炎の塊が降り注いでいる。一部でも一瞬でも、風の盾を解く事は大きな恐怖のはずだ。だが、カチュアは躊躇なく風の盾を解いた。
何も聞かず俺を信じてくれたって事だ!これで決めなきゃ男じゃねぇ!
「いけぇぇぇぇぇーッツ!」
左腕の震えがなんだ?これまでいったいどれほど弓を引いてきたと思っている!?
俺は放った矢は吸い込まれるように、荒れ狂う炎と風の中に消えていった
結界にぶつかる金属音に目を向けると、一本の鉄の矢がぶつかり落ちた。
あの体力型の男が撃ったのだろうが、この炎と風が荒れ狂う状況で、矢を射って届かせたというのか?そう思った時だった・・・
「ば、馬鹿な!?」
二本、三本、瞬く間に同じ個所に鉄の矢がぶつかり落ちていく。
ま、まさか・・・この悪条件で、こんな事が可能なのか!?
最初の時とは比べようも無い程だ!地面に落ちた炎は燃え上がり、風が吹き荒れているのだぞ!?
四本目の矢が当たった時、結界に亀裂が入るのが目に入った。
「くっ!この男、どういう腕をしている!?・・・だが、なめるなよ!」
体の底から魔力を引き出す。
結界がより強い光を放ち、輝きを大きく増していく。
「このライース・フィゲロアの天衣結界、破れるものなら破ってみろ!」
五本・・・六本・・・七本・・・そうか、これでも結界を破れねぇって事は、野郎は結界のレベルを上げやがったって事か。
この局面で使う結界は、天衣結界しかねぇだろう。おもしれぇ・・・やってやんよ!
クインズベリー国で最高レベルの四勇士、その青魔法使いの天衣結界だ、どれだけ撃ち込めば破れるだろうな?
俺の矢が尽きるまで、てめぇの結界が持てばてめぇの勝ちだ。
だが、俺が結界を破れば、確実にてめぇの心臓を撃ち抜いてやんよ!
「勝負だくそ野郎ぉぉぉぉぉぉーッツ!」
八・・・九・・・十・・・・・
続けて十本、全く同じところに当ててきやがった・・・・・天衣結界でなければ、とっくに破られている。
大した男だ、敬意を払おうじゃないか。
お前は俺の結界に勝負をしかけているんだろ?
お前の矢が尽きる前に、俺の結界を破れるかどうかを?
いいだろう。ここまで俺を追い詰めたんだ、俺もプライドの回復には、お前を真っ向から叩き潰す必要がある。だから受けてたとう!
「さぁ、どんどん撃って来い!そんな矢で破られる程、俺の結界はあまくねぇぞ!」
「うっ・・・はぁ・・・はぁ・・・あ、あつ、い・・・・・」
正面の風を外したため、そこから入り込む強烈な熱波に私は眩暈を覚えた。
まだ・・・まだ、だめ・・・私が気を失ったら、上を護るこの風の盾は解けてしまう。
もし風の盾が解けたら、今も降り注ぐこの炎の塊に、私とリカルド君は押し潰されてしまう。
・・・・・魔力回復促進薬を飲んでおいてよかった。
本当だったら、多分もう尽きている・・・でも、もう少しだけ頑張れそう・・・・・
だから振り絞るの・・・魔力の最後の一滴まで・・・・・
リカルド君・・・・・
私は自分の一歩前で、矢を撃ち続けるリカルド君に目を向ける。
信じてるよ・・・リカルド君なら、きっと勝てるって・・・・・
十五・・・十六・・・十七・・・
まだか?これだけ撃っても破れない程、天衣結界は強力だというのか?
間隔を空けずに連続で射撃している俺の矢は、フィゲロアの結界の同じ個所に直撃し続けているが、いまだに手ごたえが感じられない。
矢も残り少ない、このまま続けて果たして破る事ができるのか?
焦りで心が乱れそうになる。
いいや、余計な事は考えるな・・・この非常に繊細な感覚は土の精霊の加護によるものだ。
心を乱せば、二度と取り戻せないだろう。
自分を信じろ!精霊を信じろ!俺の矢が続く限り勝機はある!
気力が精霊に呼応し、矢に力が加わった。
「なにっ!?」
それはこれまでとは違った音だった。突如結界にぶつかる矢の威力が増し、受ける衝撃も大きくなった。
それに続く矢も同様の威力を持っている事から、まぐれ当たりではない。
なぜだ?なぜ突然威力が増した?
結界を通じて感じる衝撃はかなりのものだった。
冷たい汗が頬を伝う。これは初めての経験だった。
四勇士たる俺の天衣結界に、ここまでのダメージを与える程の攻撃力を、ただの一介の弓使いが持っているというのか?
「これほどの使い手だったとは・・・なっ!?」
受ける矢の数がニ十五を数えた時、とうとう結界に亀裂が入った。
二十八・・・二十九・・・・・これで最後だ・・・・・
もう左肩の感覚がねぇ・・・・こんな状態でここまで射る事ができたのは、土の精霊のおかげだ。
店長、俺分かったぜ。心を鍛える事の本当の意味が・・・
俺は一人で戦ってんじゃねぇんだ。
仲間がいて、精霊がいて、色んな力を借りて戦ってんだ。
呼吸を整える。こんな状況なのに、心は波一つたたない静かなものだった。
目を閉じたまま矢をつがえる。
見える・・・・・フィゲロアのまで続く矢の通り道が見える。
「・・・ありがとよ、土の精霊」
体全体で感じる軌道に矢を乗せて放った。
「がっ!・・・あ、ぐぁ・・・」
深く胸に刺さった矢に目を落とす。
この一射は来ると分かっていても躱す事はできなかった。
俺の天衣結界を突き破り、まるで矢が意思を持っているかのように、淀みなく俺の胸を貫いたのだ。
喉の奥からなにかがせり上がって来て、口の中に一瞬溜まり吐き出すと、真っ赤な血だった。
この俺が、血を吐かされるとはな・・・・・
「敗北を・・・認める・・・しか、ねぇか・・・」
立っている事も出来ない程足から力が抜けて、俺は膝から崩れ落ちた。
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