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444 リカルドの魔道具

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「・・・それにしても、みっともない。お前、戦いの場で悲鳴を上げて転げ回るなんて、恥ずかしいと思わないのか?」

フィゲロアは床を転げるリカルド君に、まるで汚い物でも見るような目を向ける。
リカルド君は転げるのをやめて、右手を床についてゆっくりと体を起こした。

「・・・はぁ、はぁ・・・ふぅ・・・・お前、馬鹿なんだな?」

「・・・なんだと?」

リカルド君は表情も声色も変えず、いたって普通にフィゲロアに顔を向けて言葉を発した。
馬鹿という言葉に、フィゲロアの眉がピクリと反応する。


「水がねぇんだよ。火が付いたら転げ回って消すのが当たり前だろ?知らねぇのか?体が燃えてんだぞ?見てくれを気にする方が馬鹿なんだよ。馬鹿。あとな、体が焼けりゃ誰だって声くらい上げんだよ。馬鹿。分かったか?馬鹿」

「・・・そのざまで、よくそこまで減らず口がたたけたものだな」


リカルド君の過剰なまでの挑発は、フィゲロアに一定の効果があった。

私とリカルド君に向けられていた注意が、リカルド君一人に向く。
これは、リカルド君が引きつけてくれたという事だ。

「魔風の羽よ!」

私は魔風の羽を、頭の上から振り下ろし、左から右へ真横に振り切り、斜めに切り払った。

三つの風の刃が、鋭く空を切る音と共に、フィゲロアを目掛けて放たれた。



「・・・ふん」

フィゲロアの体を纏う結界が強さを増した。
私の風の刃を受けてもびくともしない。防がれた風は爆発し、暴風となって荒れ狂う。

「馬鹿が、あの程度の挑発で他への注意が無くなると思ったか?」

だけど通用しない事は予想できていた。
私の狙いは、防がれた後のこの暴風だ。





「ナイスだカチュア」

カチュアの風は防がれたが、結界にぶつかり散らされた事によって起きた暴風で、フィゲロアの野郎は体勢をくずし俺に対して、杖での狙いを正確に定められなくなっている。

俺は矢筒から一本の矢を握って右手を振り上げると、フィゲロアに向けて狙いを定めた。

「なっ!?矢を手で投げると言うのか!?」

フィゲロアは俺が矢を投げるつもりだと分かると、驚きに声を上げ、杖に魔力を込めて俺に向けた。


こいつは俺のとっておきだ。

今、俺の左肩には数センチ程の穴が空いている。あんま血が出てなくて、穴から赤黒い煙が出ているところを見ると、焼け焦げているのだろう。

何をされたか見えなかったが、おそらく野郎は炎を圧縮して貫通力を高めて撃ったんだ。
そうでなきゃこんな傷を負うはずがない。

とんでもねぇ野郎だ。
今も痛みで気が遠くなりそうだが、俺はまだ戦える。

弓使いが片手では戦えないとでも思ったか?
あいにくだが俺は片手でも戦えんだよ。

このとっておきは射貫くための矢じゃねぇ・・・ぶつかればいいんだよ!

「させるか!炎の杖よ!」

「くらいやがれくそ野郎!これが俺の大地の矢だ!」





一瞬だった、フィゲロアの杖の先が光ったかと思うと、俺の右脇腹を熱を持った何かが抉りぬいていった。

「ぐッ!・・・うぅ・・・」

左肩の傷と同じだ・・・
脇腹に穴が空き、傷口が焼ける痛みに顔が引きつる。
全身から嫌な汗が吹き出し、立っている事もできず俺は片膝をついた。



「ぐぁぁぁぁぁーッツ!」

俺が片膝をつくと同時に、フィゲロアの叫び声が響き渡る。

脇腹を抉られた俺のダメージは大きい。

「はぁ・・・はぁ・・・へっ、てめぇのダメージは、もっとでけぇんじゃねぇのか?」

俺の目に映るフィゲロアは、まるで火山が噴火でもしたかのように、激しく撃ち上げられる砕けた床石に全身をさらされて、その体を宙に跳ね上げられていた。







「リカルド、土の精霊の声が聞こえてきたんじゃないか?」

「ん~~~、どうだろうな~、よくわかんねぇや。けどよ、心を鍛えるってのは、なんとなく分かってきたぜ」

「そうか、それが分かればいずれ精霊の声も聞こえるさ。ほら、頼まれてた魔道具・・・できたぞ」

店長は俺に一本の矢を渡してきた。

シャフト(軸)は樹で、羽も特別な物は使われてはいないようだ。
ただ、矢尻は鉄のようだが土色だった事が変わっているとは思った。

「・・・店長、この矢尻、何?」

「材質はただの鉄だよ。ただ、土の精霊に頼んで、強めに加護を入れてもらった。リカルドが正しい事に力を使う限り、精霊が力を貸してくれるよ」


店長はさらっと口にしているが、土の精霊に直接頼める時点でぶっとんでいる。しかもそれを聞いてもらえるってんだから、相変わらずとんでもねぇ人だ。

「ふぅ・・・まぁ、店長の能力を今更どうこう言ってもしかたねぇか。色々ぶっとんでんだからな。それで店長、この矢の力を教えてくれよ」

「あぁ、まず名前だが、大地の矢と名付けた。これは弓で射ってもいいんだが、もし何らかの理由で弓を使えない時は、素手で投げてもいい。この矢は矢尻を叩きつければその力を発揮する」

「へぇ・・・矢なのに刺すんじゃなくて、ぶつければいいのか?」

俺が矢をジロジロ眺めていると、店長は少しだけ笑って矢を指さした。

「まぁ、使ってみるのが一番だな。練習しようか」






「はぁ・・・はぁ・・・最初は俺も、びびったぜ。叩きつけたら、まさか・・・地面が砕けて、石が空に向かって撃ち上げられるんだからな・・・はぁ・・・はぁ・・・何十発、何百発って叩きこまれて、体が吹っ飛ばされるんだ。あんなの、結界が持つわけ・・・ねぇ」

大地の矢は、地面でも床でも、撃ちつけた場所を砕き、そして砕いた石を上空に向かって勢いよく撃ち上げる。

これは土の精霊の力であり、魔力を持たないリカルドが使用できる理由である。

やがて石が底をつくと、頭上5~6メートル程の天井まで撃ち上げられたフィゲロアは、まるで糸の切れた操り人形のように、力無く無防備に落下してきた。


「リカルド君!大丈夫!?・・・・・ひどい、ヒール!」

カチュアが駆けより、リカルドの脇腹に手を当てて治療を始めた。

「へっ・・・大丈夫、だよ。そんな、心配すんな」

「リカルド君、強がらないで。これが大丈夫なわけないよ・・・恥ずかしい事じゃないんだから、じっとしてて」

「・・・・・」

真剣な顔でリカルドの傷を診るカチュアに、リカルドは口をつぐんだ。
暖かなヒールに、眩暈すら覚えた痛みは少しづつ引いていき、リカルドは体が楽になっていく事を感じていた。

「・・・悪ぃな、助かるぜ」

「え・・・リカルド君がそんな事言うなんて・・・ 」

「おい!」

「ふふ、冗談だよ。リカルド君、一緒に戦ってるんだから、助け合うのは当たり前なんだよ」

少しだけ穏やかな空気が流れた。


「・・・ちっ・・・カチュア、下がれ」

脇腹の傷が塞がりかけた頃、リカルドが鋭く緊迫感のある声を出した。



「・・・・・焼き尽くしてやる」

地の底から響くような声だった

まるで呪詛のように耳に残り、怒りに満ちたその声を発した男・・・フィゲロアは上半身を起こすと、ゆっくり立ち上がった。


「リカルド君・・・」

カチュアは一歩後ろ下がったが、魔封の羽を握り締め、フィゲロアを見据えている。戦意は衰えていない。

「へっ、しぶてぇ野郎だぜ。大人しく寝てればよかったのによ・・・まぁいいや。決着付けようぜ」


マントは大きく破け、シャツは血で赤く染まっていた。後ろに縛っていた髪は解けてボサボサと広がっている。
格下と見下していた相手にここまでやられて、フィゲロアのプライドはズタズタに傷つけられていた。


「・・・炎の杖よ、全開だ」


赤い石が強く輝くと、フィゲロアの上空に無数の炎の塊が出現した。


「裁きの炎だ、貴様らは骨すら残さん・・・死ね!」
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