439 / 1,369
438 カエル飛び
しおりを挟む
「・・・ここで放てる全力だが、あのレベルの結界では防ぐ事はできん。死んだな」
男の方はなかなかの使い手だった。
3メートル級とはいえ、私の灼炎竜を防ぐどころか掻き消した事には驚かされた。
そして二度までも私の雷を防いだ。
王宮の魔法使い達と比べても、頭一つ抜けている魔力だ。
そして自称白魔法使いの女だ。
私の右腕をへし折ったあの攻撃力、もし顔か腹にでも受ければ戦闘不能だっただろう。
多少冷や汗をかかせられたが、少し本気を出せばあっけないものだ。
「・・・さて、戦闘は終わりだ。サリー、ヒールを頼めるか?」
残りは青魔法の男一人、だが頼みの魔道具も通用しないところを見せた以上、もう戦うすべはあるまい。
大人しく引き下がるならば見逃してもいい。だが、向かってくるならば・・・・・
後ろに待機していたサリーに体を向けると、サリーは私の言葉など聞こえていないかのように、目を見開きただ前だけを見ていた。
「サリー?」
ただならぬ様子に、眉を潜めもう一度声をかけると、サリーはゆっくりと右手を出して、私の後ろを指差した。
「・・・バルデス様、まだです。まだ、終わっておりません」
その言葉と同時に、背後から発せられる魔力を感じ、私は後ろを振り返った。
「強くなりたい?」
「うん、私が小さいからって、いつも馬鹿にされる。もう頭にきた」
私は13歳の時にレイジェスで働きだした。
レイジェスを選んだ理由は、なんとなくだ。リサイクルショップに興味があったわけではない。
食堂でも服屋でも花屋でもなんでもよかった。強いて言えば家から近かったからだ。
「ミゼルかな?まぁ、馬鹿にしてるって程ではないと思うが、少しからかいが過ぎたか?」
「うん、一発殴ってやりたい。でも私は魔法使いだから力は弱い。店長ならなんとかできない?」
店長はサラリとした金色の髪を搔き上げて、少しだけ困ったように、でもどこか楽しそうに笑った。
「・・・うん、なんとかできると思うよ。魔力を筋力に変換する魔道具を作ればいい」
「え、本当!?」
言ってみるものだ。
店長ならもしかしてと思ったけど、まさか本当にできるとは思わなかった。
驚く私に、店長は優しく微笑んでくれた。
「反作用の糸って魔道具があってね、白の魔力を、黒や青の魔力に変換して使われていたんだ。
その仕組みを応用すれば、多分作れると思うよ。まぁ、俺も初めて作るから絶対とは言い切れないけどね」
そう言った店長は、一週間後にアタシの求めた魔道具を作り上げてくれた。
振り返った私の目に映ったのは、血まみれの青い髪の男を抱きかかえる女の姿だった。
必死に男の名を口にし、ヒールをかけているところを見ると、どうやら男が身を挺して女をかばったようだ。
確かに女の方は、多少ローブが焼け焦げたくらいで、外傷はほとんど無いように見える。
そして雷の余波で、女の足を固めた氷も溶けてしまったようだ。
結界で防ごうとしたが破られたから、その体を盾にした・・・というところか。
敵ながら見上げた男だ・・・まさか自分の体を盾にしてまで仲間の女を護るとはな。
それにしてもこの女、本当に白魔法使いだったのか。
そして高い魔力を持っているようだ。男の傷がみるみる塞がっていく。
これならば命は助かるだろう。
だが意識はすぐには戻るまい。つまり男の方はこの戦いには復帰できない。
「・・・女、これで終いだ」
手の平を向け魔力を込める。
女は男にヒールをかけながら、私を睨み付けた。私がもう一度雷を放てば、もはや防ぐすべはない。
目の前に死を突きつけられているのに、この女の目には全くの恐れが見えない。
それどころか、この目は・・・・・
・・・・・この二人、本当に国王の言う通りの国賊なのか?・・・・・
女の真っすぐな目を見て、ふと疑問が頭をよぎった。
塔の中での限られた魔力だったが、それらをことごとく防ぎ、最後にはその身を盾にして仲間をかばった青い髪の男。仲間のためにここまでできる男が、果たして身勝手な理由で国家に牙を剝くだろうか?
そして白魔法使いでありながら、並みの体力型を大きく上回る腕力を持つ女。
言動から性格に問題がある事は分かるが、戦いに信念は感じられる。
それはただ利益だけを求めたものではない。自分の命をかけてでも、やりとげねばならない何かがあるのだろう。
・・・・・国王に感じた小さな違和感。あの時は大して気にも留めなかったが、やはり何かあるのか?
私は何か大きな間違いをしているのでは・・・・・その迷いが私に雷を放つ事を躊躇わせた。
そして私の僅かな逡巡を、女は見逃さなかった。
躊躇った!?
理由は分からない。だけど、バルデスが私に向けた手の平から、魔力を放つ事を躊躇った事は分かった。
そしてこのチャンスを逃す程、私は馬鹿ではない。
私の魔道具、膂力のベルト。
腰に巻いてあるベルトは、店長が作ってくれた魔力を筋力に変換する魔道具。
これに流す魔力が多ければ多い程、私の筋力も強くなる。
でも、だからと言って全魔力を変換するという事はできない。
私の体が耐えられないからだ。
だから今の私に耐えられる限界まで、魔力を筋力に変換する。
私は一歩でバルデスの懐まで入り込んだ。
あまりのスピードに私の姿を見失ったバルデスは、まるで反応ができていない。
一瞬前まで私がいた場所をただ見ているだけだ。
「ヤァァーッツ!」
ようやくバルデスが私に気付き、顔を下に向けようとしたその時、アタシはバルデスの足元までかがんだ体勢から飛び上がり、右アッパーでバルデスの顎を打ち抜いた。
カエル飛びアッパー!アラタ、決まったよ!
男の方はなかなかの使い手だった。
3メートル級とはいえ、私の灼炎竜を防ぐどころか掻き消した事には驚かされた。
そして二度までも私の雷を防いだ。
王宮の魔法使い達と比べても、頭一つ抜けている魔力だ。
そして自称白魔法使いの女だ。
私の右腕をへし折ったあの攻撃力、もし顔か腹にでも受ければ戦闘不能だっただろう。
多少冷や汗をかかせられたが、少し本気を出せばあっけないものだ。
「・・・さて、戦闘は終わりだ。サリー、ヒールを頼めるか?」
残りは青魔法の男一人、だが頼みの魔道具も通用しないところを見せた以上、もう戦うすべはあるまい。
大人しく引き下がるならば見逃してもいい。だが、向かってくるならば・・・・・
後ろに待機していたサリーに体を向けると、サリーは私の言葉など聞こえていないかのように、目を見開きただ前だけを見ていた。
「サリー?」
ただならぬ様子に、眉を潜めもう一度声をかけると、サリーはゆっくりと右手を出して、私の後ろを指差した。
「・・・バルデス様、まだです。まだ、終わっておりません」
その言葉と同時に、背後から発せられる魔力を感じ、私は後ろを振り返った。
「強くなりたい?」
「うん、私が小さいからって、いつも馬鹿にされる。もう頭にきた」
私は13歳の時にレイジェスで働きだした。
レイジェスを選んだ理由は、なんとなくだ。リサイクルショップに興味があったわけではない。
食堂でも服屋でも花屋でもなんでもよかった。強いて言えば家から近かったからだ。
「ミゼルかな?まぁ、馬鹿にしてるって程ではないと思うが、少しからかいが過ぎたか?」
「うん、一発殴ってやりたい。でも私は魔法使いだから力は弱い。店長ならなんとかできない?」
店長はサラリとした金色の髪を搔き上げて、少しだけ困ったように、でもどこか楽しそうに笑った。
「・・・うん、なんとかできると思うよ。魔力を筋力に変換する魔道具を作ればいい」
「え、本当!?」
言ってみるものだ。
店長ならもしかしてと思ったけど、まさか本当にできるとは思わなかった。
驚く私に、店長は優しく微笑んでくれた。
「反作用の糸って魔道具があってね、白の魔力を、黒や青の魔力に変換して使われていたんだ。
その仕組みを応用すれば、多分作れると思うよ。まぁ、俺も初めて作るから絶対とは言い切れないけどね」
そう言った店長は、一週間後にアタシの求めた魔道具を作り上げてくれた。
振り返った私の目に映ったのは、血まみれの青い髪の男を抱きかかえる女の姿だった。
必死に男の名を口にし、ヒールをかけているところを見ると、どうやら男が身を挺して女をかばったようだ。
確かに女の方は、多少ローブが焼け焦げたくらいで、外傷はほとんど無いように見える。
そして雷の余波で、女の足を固めた氷も溶けてしまったようだ。
結界で防ごうとしたが破られたから、その体を盾にした・・・というところか。
敵ながら見上げた男だ・・・まさか自分の体を盾にしてまで仲間の女を護るとはな。
それにしてもこの女、本当に白魔法使いだったのか。
そして高い魔力を持っているようだ。男の傷がみるみる塞がっていく。
これならば命は助かるだろう。
だが意識はすぐには戻るまい。つまり男の方はこの戦いには復帰できない。
「・・・女、これで終いだ」
手の平を向け魔力を込める。
女は男にヒールをかけながら、私を睨み付けた。私がもう一度雷を放てば、もはや防ぐすべはない。
目の前に死を突きつけられているのに、この女の目には全くの恐れが見えない。
それどころか、この目は・・・・・
・・・・・この二人、本当に国王の言う通りの国賊なのか?・・・・・
女の真っすぐな目を見て、ふと疑問が頭をよぎった。
塔の中での限られた魔力だったが、それらをことごとく防ぎ、最後にはその身を盾にして仲間をかばった青い髪の男。仲間のためにここまでできる男が、果たして身勝手な理由で国家に牙を剝くだろうか?
そして白魔法使いでありながら、並みの体力型を大きく上回る腕力を持つ女。
言動から性格に問題がある事は分かるが、戦いに信念は感じられる。
それはただ利益だけを求めたものではない。自分の命をかけてでも、やりとげねばならない何かがあるのだろう。
・・・・・国王に感じた小さな違和感。あの時は大して気にも留めなかったが、やはり何かあるのか?
私は何か大きな間違いをしているのでは・・・・・その迷いが私に雷を放つ事を躊躇わせた。
そして私の僅かな逡巡を、女は見逃さなかった。
躊躇った!?
理由は分からない。だけど、バルデスが私に向けた手の平から、魔力を放つ事を躊躇った事は分かった。
そしてこのチャンスを逃す程、私は馬鹿ではない。
私の魔道具、膂力のベルト。
腰に巻いてあるベルトは、店長が作ってくれた魔力を筋力に変換する魔道具。
これに流す魔力が多ければ多い程、私の筋力も強くなる。
でも、だからと言って全魔力を変換するという事はできない。
私の体が耐えられないからだ。
だから今の私に耐えられる限界まで、魔力を筋力に変換する。
私は一歩でバルデスの懐まで入り込んだ。
あまりのスピードに私の姿を見失ったバルデスは、まるで反応ができていない。
一瞬前まで私がいた場所をただ見ているだけだ。
「ヤァァーッツ!」
ようやくバルデスが私に気付き、顔を下に向けようとしたその時、アタシはバルデスの足元までかがんだ体勢から飛び上がり、右アッパーでバルデスの顎を打ち抜いた。
カエル飛びアッパー!アラタ、決まったよ!
0
お気に入りに追加
219
あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈


悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる