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437 三度目の雷

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これも防ぐか・・・

初撃より強い魔力で撃ったが・・・なるほど、この青魔法の男、この場に立つだけの事はある。

女の体を包む青い光を確認する。
後方から青魔法使いの男が結界を飛ばしてフォローに入っている。

白魔法の女は拳を構え、重心を低くいつでも飛び出せる体制に入っている。

なるほど、もうほぼ見極めた。
女が接近戦をしかけ、男が防御をしつつ遠距離攻撃でフォローに入る。
いい連携だ。

私の雷の余波が治まると、女は拳を振り被って、結界から飛び出してきた。


本当に驚かされる。
この女は自分を魔法使いと言っているが、この踏み込みといい、私の腕をへし折った攻撃力といい、鍛え抜かれた体力型としか思えん。

だが、どうでもいい事だ。
もう私は、この女の正体になど興味はない。
白魔法を使う体力型と考えればいいだけだ。

「二度も私に触れられると思うなよ?」

女の拳が届くより早く私の体から発せられた炎は、天に向かって燃え上がり竜を形作る。

「むっ!?」

「ユーリ!下がれ!」

炎に触れる直前で拳を止めた女は、すぐに後方に飛び退いた。

上級黒魔法 灼炎竜

「貴様らも魔法使いなら知っているだろう?攻防一体の灼炎竜、これを突破して私を倒す事ができるかな?」

ここの広さを考えれば、精々3メートル程度の大きさしか出せない。
それ以上に大きくしては、塔そのものを破壊してしまうだろうし、サリーまで巻き込んでしまいかねない。

端に下がっているサリーに顔を向けると、サリーもまた私を見つめていた。





10年・・・・・
私が13の時にこの四勇士のお役目を、先代の父から継承して今年で10年だ。

四勇士のお役目はただ一つ。
有事の際には城に結界を張り、大障壁を死守する事。

それを先祖代々守り抜いてきた。
生活の全てはこの塔の中。外に出る事など無い。

来る日も来る日も塔から外だけを眺める日々。
最初の一年は使命感を持っていた。
次の一年は孤独を感じていた。

そして三年目からは、お役目に疑問を感じるようになった。
いつまでこのお役目を続ければいい?自分はただこの塔の中から外を見て一生を終えるのか?

自分の存在価値さえ疑うような毎日だったが、ある日変化が訪れた。


「本日より、バルデス様の身の回りのお世話をさせていただきます。サリー・ディルトンと申します」


少しそばかすがあり、やや目つきのキツイ感じの女が部屋の戸を叩いた。


私が一人護りの塔に入り、5年の月日が経っていた。






「案ずるなサリー!私は四勇士だぞ!こんなヤツらに遅れを取ると思うか!?」

僅かに眉を下げているその表情を見て、サリーがこの戦いに不安を抱いた事を感じとる。

さっきの一撃だろう。
白魔法使いと言い張る女の一撃で、私の右腕は使い物にならなくなった。
今もだらりと下がったまま脳に響く痛みが続いている。

我ながら不甲斐ない姿を見せてしまったものだ。

案ずるな?私は四勇士だ?自分で言っていて恥ずかしくなる。


だが、私の魔力がこの二人を大きく上回っている事は事実!
もう奇襲は受けん!負ける要素は何もない!


「炎の竜に喰われるがいい!」


目の前の敵に向け左手を振るう。私の竜がその炎の顎を開き、焼き尽くさんと襲い掛かった。






竜は一体、大きさは3メートルといったところだろう。
標準と言える灼炎竜だ。

だがバルデスの体から放出される魔力の高さが、この灼炎竜の持つ桁違いの攻撃力を僕に教えていた。

「ユーリ!僕の後ろへ!」

僕の声に、ユーリが背中に隠れる。
緊張から少し強い言い方になってしまったが、ユーリが小さく頷くのが目の端に入った。

当初、僕が防御と攻撃を担当し、ユーリには回復に専念させる作戦だったが、バルデスの最初の攻撃を受けて、とても無理だと判断せざるを得なかった。

バルデスの魔力は想像以上に高く、また勘が良かった、
バルデスの隙を付いて二回攻撃をしかけたが、一度目は頬をかすめ、二度目はほぼ完全に躱された。

二度目の攻撃を躱された瞬間ユーリが飛び出したのは、打ち合わせに無かった事だった。

だが、バルデスの間隙を付いたユーリの一撃は、どうやらバルデスの右腕を破壊したらしい。
きっと、ユーリは事前に話し合ったら僕が反対すると思ったのだろう。
だから状況を見て、自分の考えで、自分が出た方がいいと判断して出たんだ。

事前に言ってほしかったが、助かった事は事実。そして実際に戦って分かった。
ユーリが攻撃に参加しないで、このバルデスに勝てる可能性は非常に低い。

「・・・ユーリ、ヤツの攻撃は僕が全て防ぐ。だからさっきみたいにユーリのタイミングで攻撃をしかけてくれ。僕は、研ぎ糸、で援護する。ヤツに勝つにはキミの力が必要だ!」

僕の魔道具、研(と)ぎ糸(いと)。

僕の両手首にはめてある銀のバングルから、極めて細く、強固で鋭い糸を射出し攻撃をする事ができる。
糸は魔力を流す事で炎でさえ切り裂く事ができる。

正直なところ、初見でこれを躱されるとは思わなかった。
研ぎ糸を使えば、四勇士であろうと一撃で終わらせる事ができる。

そんなうぬぼれがあったから、それが通用しなかった時の作戦まで立てる事ができなかったんだ・・・・・


「ジーン、まかせて!」

まるで僕を励ますような声だった、
弱気になりそうになった時、ユーリの声が僕に力をくれた。




バルデスの灼炎竜は並みの結界では防ぐ事は無理だ。天衣結界しかない。

両手を前に出し、青く光り輝く結界を張り巡らせる。結界の最高峰、天衣結界。

バルデスの放った灼炎竜が、大きく顎を開けて僕達を喰らわんと迫り来る。
ぶつかった衝撃はビリビリと体に響き、結界越しにも伝わる凄まじい圧力に、必死に足を踏ん張り耐える。

この灼炎竜がもう少し大きければ、とても防げなかっただろう。

塔の中での戦いで良かった。
おそらく塔の中だからこそ、これ以上大きくするわけにはいかないのだ。
これ以上大きくして、塔を破壊し尽くしてしまったら、城を護るどころではないだろうからな。

もし外で戦ったとしたら、僕達はとっくに負けていただろう。

四勇士との魔力の差をあらためて痛感させられる。だが、それでも勝ってみせる!


「うあぁぁぁぁぁーっつ!」

気合と共に結界に込める魔力を高め、バルデスの灼炎竜をかき消す。

「なにっ!?」

「ユーリ!今だ!」

僕が叫ぶよりも早く、ユーリは飛び出していた。
炎を消されたバルデスは無防備にユーリの接近を許し、その顔面を狙いすましたユーリの拳に撃ち抜かれる・・・・・はずだった。


「・・・なんてな」

灼炎竜をかき消され、驚きの表情を見せていたはずのバルデスが、ふいにニヤリと口の端を上げる。

「ん!?え、え!?」

そして突然ユーリの足が止まり、あと一歩のところでバルデスの顔面に拳が届かせる事ができず、困惑に焦りの声をもらしていた。

「ユーリ!」


後ろで見ていた僕には一早く原因が分かった。
早すぎる・・・早すぎて、いつ放ったのか分からない程だった。

「え・・・うそ!?」

ユーリの足は膝から下が氷漬けにされ、まるで根が生えたかのように床にガチガチに固められていた。
氷魔法を使ったのだろうが、いつ使ったのか全く分からなかった。

ユーリも自分の足が止まった原因に気付き、自分の凍らされた足に目を奪われている。

「・・・そこの青魔法使い。貴様の結界がどの程度まで防げるかはもう分かった。今度は助けられんぞ」

バルデスは僕に目を向けた後、まるで助けられるのものなら助けて見ろ。そう言うかのようにゆっくりと左手の人差し指をユーリの頭上に向けた。

「三度目だ。言っておくが、今までの二発は半分の力も出していないぞ。今度は少し本気を出そう。防げるものなら防いでみろ」

「させるか!」

右手を突き出して、バルデスの喉元を狙い研ぎ糸を飛ばす。

しかし射出した糸はバルデスに届く前に、天から落ちて来た雷によって燃やされ、灰となり風に散らされてしまった。


「フッ、それはもう見切った。おそらく糸だな?目に見えない程に細くそして強靭な糸だ。そして魔力を流し、自在に操り対象を切り裂くというところか。確かに肉眼ではとらえきれないが、私に手を向けて撃てば攻撃の軌道が丸わかりではないか?これだけ地力の差がある相手に、それで通用すると思うか?」

「そ・・・そんな」

力の差は分かっていた。
だけど、ユーリが一撃を食らわせて、勝機もあると思っていた。

しかしバルデスが少し本気を出しただけで、何も通用しなくなった。
ここまでとは・・・・・


「まぁ、貴様らはよくやったよ。私の魔法をここまで防ぎ、腕一本へし折られた。大したものだ。
それを誇りに死ぬがいい」

実力の違いを見せつけ、僕に絶望を与えると、
バルデスは足を固められ動けないユーリに向き直り、左手を振り上げる。

魔力がユーリの頭上に集められ、これまでとは比べ物にならない程の巨大なエネルギーとなっていく。

「くそ!こんな氷!」

ユーリが足を固める氷から逃れようともがくが、氷はびくともしない。
額から流れ落ちる汗が焦燥感を伝えて来る。

そしてバルデスそんなユーリを前に一切の躊躇を見せず、まるで死刑を告げるようにその手を振り下ろした。

「ユーリッ!」

三度目、これまでで一番強い雷がユーリを直撃した。
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