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435 白魔法使いの拳

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およそ、魔法使いらしくない服装だった。
目の前に立つ男、四勇士シャクール・バルデスは黒魔法使いだ。

クインズベリー国の黒魔法使いのローブは着ておらず、金の刺繍をあしらった白いシャツに、黒いロングパンツ。高価そうな宝石の付いた指輪をはめている。一見すると貴族か金持ちだ。
やや長めの銀色の髪は後ろに流しており、額は出している。
少し線は細いが背も高く、男らしい端正な顔立ちをしているが、その青い瞳は冷たさを感じる程に鋭い。


「バルデス様・・・」

頬に傷を負ったバルデスを心配するように、サリーが前に出て近づいてくる。

「サリー、下がっていろ。私の雷を防いだのだ、国王から聞いていた通り、この四勇士シャクール・バルデスと戦う資格はあるようだ」

バルデスはイスから腰を上げると、サリーを止めるように手を前に出し制する。
そのまま僕達に向かってゆっくりと足を進め、戦闘準備ができていると教えるように、その体から魔力を放出し始めた。


「ジーン・・・こいつ、強い」

ユーリの声が緊張からか、やや上ずっている。

「・・・あぁ、まだ全力ではないだろうけどすごい魔力だ。でもユーリ、僕達を鍛えてくれているのは誰だい?」

ユーリより体一つ前に立つ。白魔法使いのユーリは黒魔法から身を護るすべが無い。
僕が前に立ち結界で護るしかない。

バルデスの魔力には僕も驚かされた。だけど僕達をこれまで鍛えてくれたのはバリオス店長なんだ。

「・・・ジーン・・・うん、そうだね。アタシ達を鍛えてくれたのは店長・・・負けるわけがない」

ユーリの声に力強さが戻る。


「おしゃべりは終わりかな?それではいかせてもらおう」

バルデスは僕達の数メートル手前で足を止める。こちらに向けた手の平には、魔力が炎に形を変え燃え盛っている。


「ユーリ、来るぞ!僕から離れるな!」

僕が声を張り上げると同時に、バルデスは火球を打ち放った。







「ジーン!大丈夫!?」

「ぐっ・・・だ、大丈夫・・・だ!ユーリ、は僕の、後ろに・・・」

止む事無く延々と撃ち込まれるバリオスの火球を、僕はただひたすら結界を張って耐え凌いでいた。

結界に打ち込まれ爆ぜる火球によって、部屋の中には煙が充満し視界は遮られ、爆音によって耳も痛いくらいに利かなくなっている。


「・・・防ぐだけで精一杯か?いや、私の雷を防いだのだ、そんな程度ではないよな?私は決して貴様達を侮らない。とっておきがあるのなら早く出す事だな。このまま貴様の魔力が尽きるまで打ち続けてもいいのだぞ?」

私の頬に傷を付けたのは青魔法使いの男の方だろう。
つまりコイツの魔道具は攻撃系、そして目ではとらえ難く、風切り音と共に物体を斬りつける。
ここまで分かれば対策は立てられる。

女の方は白魔法使い、これはクインズベリーの白魔法使いのローブを着ている事から、間違いないだろう。さっきの攻撃はこの女という事も考えられるが、男が護るように前に出ている立ち位置から考えて、その可能性は低い。
完全に回復要因と考えていいかもしれんな。


現状から考えられるコイツらの策は、結界で私の攻撃を防ぎながら、さっき私の頬を斬った攻撃をしかける。これが一番可能性が高いだろう。


「だが・・・ここまで待っても仕掛けてこないのならば・・もう終わらせるぞ?」

より強い魔力を練ると、左右の手から天井を焦がす程の燃え盛る火柱が立ち昇る。

「中級の魔法だが、私が使えば並みの黒魔法使いの灼炎竜など軽く上回るぞ・・・受けて見ろ!」

中級黒魔法 双炎砲

火柱の立つ両手を前に出し撃ち放ったそれは、荒々しく猛る二発の業火が絡まり合いながら、
目の前の結界を焼き尽くさんと襲いかかった。

「耐えきれるかな?」

この私の双炎砲に貴様の結界が持つかどうか、試してやろう。






「くっ、うおぉぉぉぉぉッツ!」

炎がまるで押し寄せる波のように結界にぶつかり、その圧力によって結界ごと体を吹き飛ばされそうになる。

「ジーン!」

心配そうに声を上げるユーリに、僕は安心させるように笑って見せた。

大丈夫、ここまでは予想通りだよ。
青魔法使いの僕が格上の黒魔法使いを相手にする場合、防戦になる事は十分考えられた。

そして反撃の方法ももちろん考えてある。

火球を連続して撃ち続けられる方が厳しかった。
大技を使ってくるという事は、止めに入ったという事。
その場合、生死を確認するため必ず攻撃の手が止まる。





「・・・さて、生きているかな?」

双炎砲が炎々と焼く様子を見て手を下すと、それを待っていたかのように見えない何かが炎を斬り裂いた。

耳元に届く微かな風切り音は、私に攻撃を知らせた。


「・・・やはりな!」

この私の雷を防いだのだ。この程度で終わるわけはないと思っていたよ。
そして攻撃の機会を与えれば、こうして仕掛けてくるだろうとな。

なにかが耳に触れそうになった瞬間、腰を落として回避する。
目の前にパラパラと落ちて来る見慣れた銀色の髪を目にし、自分の髪が斬り裂かれた事を確認する。


攻撃の軌道は薙ぎ払うようなものだった。
つまりブーメランなんかの飛び道具ではないな・・・
そして攻撃に使われた道具が見えないという事は、透明な物、もしくは見えない程に細いのか?


「フッ・・・だいたい絞り込めてきたぞ」


目の前に落ちて来る髪に気を取られたのは、ほんの僅かな時間だった。
だが私が視線を前に戻すと、そのほんの僅かな時間で、拳を振り被った白魔法使いの女が眼前に迫っていた。

「なにっ!?」

「ヤァッ!」

反射的に盾にした両腕に女の拳がめり込み、骨を軋ませる音が体を駆け抜ける。

な、なんだこの威力は!?白魔法使いではないのか!?

痛みを感じるよりも、小柄な女の予想外の攻撃力に驚愕させられる。

そして女はそのまま力任せに腕を振り抜き、私の体を後方に吹っ飛ばした。


数メートルは体を浮かせられただろう。
背中を壁に叩きつけられた衝撃で、一瞬呼吸が止まり苦痛に顔を歪めさせられる。

「ぐ・・・お、女・・・貴様、体力型だったのか?」

単純な手だった。
白魔法使いのローブを纏っていたのは、体力型という事を隠し、私に接近戦はないと思わせるため。

まんまといっぱい食わされたと歯噛みすると、私をここまで殴り飛ばした小さな女は、呆れた顔で私に言い放った。


「何言ってんの?このローブ見て分からない?どこからどう見ても白魔法使いでしょ?馬鹿なの?」
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