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433 北西の塔

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「ユーリ、相手は黒魔法使いだ。打ち合わせ通り、僕が結界を使いながら攻撃を仕掛ける。ユーリは負傷した時の回復に専念してくれ」

「ジーンが怪我しなければすむ話し」

「あはは、うん、僕もユーリも怪我をしない。それが一番だね。そうできるように頑張るよ」

クインズベリー城を中心に、城を囲む城壁の四隅には、四勇士が護る四つの塔が建っている。
僕とユーリは北西の塔に来ていた。

間近で見るのは初めてだが、天に向かってそびえ建つ巨大な石造りの塔は、数十メートルはあろう高さだった。

数十、数百年の年月を感じさせる綻びはあるが、基礎からしっかりと造られているのだろう。
どんな雨風に晒されても、びくともしない強固な造りに見える。

この北西の塔には黒魔法使い、シャクール・バルデスという男がいて、大障壁を使いクインベリー城に結界を張っているらしい。

僕とユーリはこれからこの塔に入り、クインズベリー城を覆っている結界を解くために、シャクール・バルデスの持つ大障壁を破壊しなければならない。

「ジーン、聞いておきたい。城に張られた結界は、四つの塔の全ての大障壁を壊さないと解けない。でも、四つの魔道具で一つの結界を張っているのなら、一つでも壊せば普通は維持できないのではないの?」

ユーリの疑問に僕は一つの仮説で答えた。

「うん。普通はそうだよね。でもあの結界に触れて感じたんだけど、あれはおそらく大障壁の重ね掛けをしている。つまり、全部で四つの大障壁を使い城を護っているんだ。一つ壊せば一つの大障壁が解けると思う。でも、やはり全部破壊しなければ城へは入れないと思う」

「なるほど・・・さすがジーン、それならアタシも納得」

ユーリが腕を組み、二度三度軽く頷くのを見て、僕は塔の入口に目を向けた。
枠には鉄を使い、分厚い樹をはめた非常に強固に造られた門だ。

「じゃあ、そろそろ行こうか」

「あ、待って・・・はい、これ飲んでおいて」

ユーリは縁取りに茶色のパイピングをあしらった、フード付きの白いローブを着ている。
クインズベリー国白魔法使いの正統なローブだ。
肩から斜め掛けにした、小さな革のショルダーバックから、透明な液体の入った小瓶を出した。

「魔力回復促進薬。今のうちに飲んで」

「うん、そうだね。魔力を使い果たす程の相手と考えた方がいい・・・もらうよ。ありがとう、ユーリ」

ユーリの小さな手の平に乗っているビンを取り、蓋を開けて一気に喉の奥へ流し込んだ。
これで一定時間、魔力の自然回復が早まる。

僕が飲んだ事を確認して、ユーリも薬を飲みほした。

「・・・やっぱり美味しくはない。味、改良しないと。ジーンは普通に飲むよね?」

眉をしかめるユーリを見て、僕は少し笑ってしまった。

「はは、そうだね。少し苦い感じはするけど、僕はあまり気にならないよ。ユーリは甘党だよね?だからじゃないかな?ブラックコーヒーが飲めればなんて事ないさ」

「・・・帰ったら、砂糖入れてみようかな」

その言葉に、僕は目を閉じた。

帰ったら・・・・・
そうだ、なにをするにしても帰ってからだ。

僕は自分の心にいる大切な人を想い浮かべた。


ちょっと口が悪いけど、実は寂しがりで

負けず嫌いで、食事にいくと自分はもっと美味しく作ると意気込んだりする

自分の事より、いつも僕の事を考えてくれている

黒い鍔付き帽子を指で弾いて、明るいベージュの髪を揺らしながらいつも僕に微笑んでくれる


キミはあの日から、僕にとって一番大切な存在になった


ケイト、僕は必ず生きて帰って来るよ、長く待たせてしまったけれど、その時は僕の気持ちを聞いてほしい。


「・・・ジーン、何を考えているの?」

急に黙った僕を、ユーリが不思議そうに見つめている。

「・・・うん、ケイトの事・・・帰ったらそろそろちゃんと話そうと思ってさ」

「え!?ジーン・・・もしかしてついに?」

さすがに驚いたようだ。
目を丸くして僕を見ている。

「うん、だからまずは帰ってこないと始まらないよね。ユーリ、頑張ろう」

「うん。そんな話し聞かされたら、本気を出すしかない」

ユーリは左手を腰に当て、右腕は力こぶを見せるようにたたみ、胸を張って見せた。

「ジーン、頑張ろう!」

いつもは無表情なユーリだけど、頑張ろうと目に力を込めて言い放つユーリに、僕は力をもらったような気持ちになった。

「うん!ユーリ、行こう!」

そして僕とユーリは門を押し開けて、護りの塔へと入って行った。





「・・・暗い」

塔の中へ入り、隣に立つユーリが辺りを見渡してまず一言口にした。
全くというわけではないが、塔の中はほとんど陽が差さないようで、現在の時間を考えてもかなり薄暗かった。

「確かに、かなり暗いね・・・明るくしようか」

右手の平を上に向け魔力を放出すると、光輝く手の平サイズの球が作られ、辺りを照らした。

「青魔法って便利だよね。アタシもそれ欲しい」

「あはは、欲しいって言っても白魔法使いでは使えないからね。僕は怪我を治せる白魔法のヒールの方が羨ましいよ」

今使ったのは、周囲を明るく照らす魔法、サンライト。魔道具の発光石と同じ効力だ。
確かに便利だけど、発光石があれば代用できるから、どうしても必要な魔法というわけではない。

「そんな事ない。地味だけどその魔法は重宝する。使い道も多い」

「そうかな?まぁ・・・うん、そうだね。使い道を色々考えてみるよ」

相槌を打って、僕は上へと続く石造りの螺旋階段に足を乗せた。

手すりは無い。しばらく足を進め、建物で言えば5~6階分程度には登っただろうか?
何気なく下に目を向けると、その高さに少しだけ怖さを感じる。
体力型ならともかく、魔法使いがバランスを崩して落ちた場合、嫌な想像しかできない。

後ろから着いて来るユーリも、僕の視線に気付いたのか階下に目を落とすと、僕の背中に抗議の言葉を投げかけて来る。

「・・・ジーン、下は意識したくない。見るの止めて」

「あはは・・・ごめん、そうだよね。僕も怖いから止めるよ」

「・・・ジーン、この塔は最上階以外に部屋は無いんだね?」

「そう・・・みたいだね。ユーリ、上を見てごらん、多分今僕らがいる場所で半分くらいだ」

上に向かって指を指すと、ユーリは顔を上げて距離を測ったように、なるほど、と呟いた。

「ジーン、最上階に一部屋だけなのに、なんでこんなに高い塔が必要なんだろう?」

「・・・そうだね、多分だけど・・・ここは見張りのための塔なんじゃないかな?他国が攻めて来たり、賊が出た時に一早く発見して対応するための。この高さなら城の周辺どころかそれ以上、かなりの範囲が見渡せると思うよ」

「ふ~ん・・・納得かも。ジーンってそういう予想が得意だよね」

ユーリは感心したように、黒いコロンとした瞳で僕をじっと見る。

「そうかな?なんとなくそう思っただけだよ。さぁ、もう少しだ。足元に気を付けてね」

「ん、分かった」

話しを切り上げると、僕とユーリは再び足を動かして階段を上って行く。

そして最上階までたどり着くと、重厚そうな鉄の扉の脇に、まるで僕達を待っていたかのように一人の女性が立っていた。年の頃は二十歳前後というところだろう。

黒いワンピースに白いエプロン、アップにまとめた金色の髪にも白いキャップを付けている。
見た目から考えられるのは侍女としか言えない。
少しのそばかすがあり、シャープな顎のラインにキリっとした目と、やや吊り上がった眉からは、意思の強さが見て取れるかのようだった。

女性は僕達の姿を目にすると、腰を折りうやうやしく頭を下げた。

「私は、シャクール・バルデス様の身の回りのお世話をしております、サリー・ディルトン、と申します。バルデス様がお待ちです。どうぞ、お部屋の中へ」
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