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430 城内突入
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10月30日 午前5時50分。城内突入10分前。
「よぉ、時間通りだな」
クインズベリー城から少し離れた高い樹の影に馬車を止めると、先に着いていたヴァンとフェンテスがこちらに近づいて来た。
治安部隊のアーマーを着用し、腰にはやや大振りのナイフを携えている。
「・・・ヴァン、フェンテス」
レイチェルが手を差し出すと、ヴァンがその手を握り視線を交わした。
お互いにこの戦いに対する決意を確かめ合うように。
「城門前にはアンリエール様の用意した番兵と、そしてエリザベート様がお待ちだ。合流次第、一気に城へ入るぞ。最速最短で偽国王の首を獲る。途中騎士団や四勇士と事を構える事になれば、打合せ通りに行動する事。アラタは止むを得ない場合を除き、アンリエール様の元にたどり着く事だけを考えろ。いいな?」
ヴァンが俺達に顔を向け、あらためて今日の動きを口にし伝える。
やはり治安部隊隊長だ。レイチェルにも目くばせしつつ、自然と指揮を執っている。こういうリーダーシップは天性のものもあるのだろう。
俺はもう意思を固めている。しっかりとヴァンの目を見て頷くと、ヴァンもそれを受けて頷き返した。
「よし・・・じゃあレイチェル、頼む」
ヴァンはレイチェルに目を向けると、一歩後ろに下がった。
突入前の最後の号令をレイチェルに譲ったと言う事だろう。
ほとんどレイジェスのメンバーで構成されているからだろう、指揮をとっても最後はレイチェルに任せるようだ。
「みんな、店長が不在のこの半年余り、至らない私によく付いて来てくれたな。ありがとう」
前に立ったレイチェルは、開口一番お礼の言葉をのべた。
「おいおい、なんだよ急に?」
ジャレットさんが肩をすくめ、少しの笑いを含んだ声をレイチェルに向けた。
「・・・本当に感謝してるんだ。私が引っ張って行くつもりで頑張ってみたが、いつもみんながフォローしてくれていた事を知っている。ジャレットは私が指示を出しやすいように、いつも隣から言葉を添えてくれていたし、ミゼルは細かい事務仕事を引き受けてくれた。ジーンはよくレジ当番を変わってくれた。ケイトは私がやるべきクレーム対応を代わってくれた。シルヴィアはみんなから不満がでないよう、いつも私の代わりにシフトを調整してまとめてきてくれた。カチュアはいつも私の体調を気にかけてくれたし、話しを聞いてもらった。ユーリはよく事務所を掃除してくれたね、おかげで気持ちよく仕事ができた・・・」
レイチェルがみんなに伝える感謝の想いには、一言一言気持ちがこもっていた。
名前を呼ばれると、それぞれがレイチェルに優しい目を向け微笑んでいる。
レイジェスの絆の強さがひしひしと感じられる。
「アラタ・・・キミはレイジェスに入ってまだ日が浅い。だけど、キミが来て防具の担当も二人体制になったし、店にも活気が出たよ。ありがとう」
「いや、そんな俺なんて助けてもらってばっかで・・・」
「フッ・・・そう言えばキミは、そういう謙虚なヤツだったな」
面と向かって褒められるのは、どうも恥ずかしくなってしまう。
下を向いて頭を掻くと、そんな俺にレイチェルが小さく笑った。
「・・・おい、レイチェル。俺は?」
リカルドが手を上げると、みんなの視線が一斉に集まった。
そう言えば・・・リカルドだけ何も言われていなかった。
「・・・・・リカルド、キミは・・・いつも気持ち良い食べっぷりだよな!」
「おい!ふざけてんじゃねぇぞ!俺に感謝はねぇのかよ!?」
困ったような笑みを浮かべて、思いついたように両手を打ち合わせて話すレイチェルに、リカルドが掴みかからんと詰め寄る。
「ははは、ごめんごめん!悪ふざけが過ぎたね、緊張を解そうとおもってさ。リカルドはたまに私にお菓子くれる時あるよね?あれ、私が疲れてるなって思ったんでしょ?ほらよって感じで一方的に渡してくるけど、私はキミのぶっきらぼうな言い方の中にある優しさをちゃんと見てるよ。リカルド、ありがとう」
「なっ!お、おまえ・・・ち、ちげぇよ!腹いっぱいだったから・・・」
ふいにリカルドの目をしっかりと見て、感謝の気持ちを口にするレイチェル。
純粋な謝意をストレートに向けられ、リカルドは予想外だったのかしどろもどろになってしまう。
「リカルドが・・・お腹いっぱい?」
腹いっぱいと言うリカルドの言葉に、ユーリが目を丸くする。
「う、うっせぇよ!ったく、調子狂うな・・・あぁ、ほら、もう時間だろ?ぼけっとしてていいのかよ?」
頭をガシガシと乱暴に掻いてリカルドが背中を向けると、レイチェルはクスリと笑って、俺達一人一人の顔を見た。
「みんな・・・私は明日も明後日も、来年も・・・これからもずっとみんなと一緒に働きたい。だから、全員で生きて帰ろう」
「おう!もちろんだぜ!」
ジャレット・キャンベル。25歳、体力型。
「私も同じ気持ちよ。レイチェル」
シルヴィア・メルウィー。24歳、黒魔法使い。
「僕もみんなと一緒じゃないと嫌だ。だからみんな、気をつけて」
ジーン・ハワード。22歳、青魔法使い。
「アタシも誰か欠けるなんて嫌だね。みんなちゃんと帰ってくんだよ」
ケイト・サランディ。20歳、青魔法使い。
「まさか俺達がこんな戦いをする事になるなんてな。分からねぇもんだな」
ミゼル・アルバラード。25歳、黒魔法使い。
「・・・負けない」
ユーリ・ロサリオ。18歳、白魔法使い。
「私達全員で帰って、また一緒にお仕事しようね」
カチュア・バレンタイン。18歳、白魔法使い。
「へいへい、まぁ俺も死にたくはねぇしな。しっかり生き残ってやんよ」
リカルド・ガルシア。16歳、体力型。
「レイチェルも生き残るんだぞ?」
坂木 新。22歳、体力型。
「フッ・・・あぁ、もちろんだ。では、行くか」
レイチェル・エリオット。19歳、体力型。レイジェス副店長。
「隊長・・・良いチームですね」
モルグ・フェンテス。29歳、体力型。治安部隊。
「クックック、あぁ、よくまとまってる。俺達も治安部隊をこうしていかねぇとな。フェンテス、気合入れていこうぜ」
ヴァン・エストラーダ。32歳、体力型。治安部隊隊長。
6時00分。クインズベリー城、突入。
「よぉ、時間通りだな」
クインズベリー城から少し離れた高い樹の影に馬車を止めると、先に着いていたヴァンとフェンテスがこちらに近づいて来た。
治安部隊のアーマーを着用し、腰にはやや大振りのナイフを携えている。
「・・・ヴァン、フェンテス」
レイチェルが手を差し出すと、ヴァンがその手を握り視線を交わした。
お互いにこの戦いに対する決意を確かめ合うように。
「城門前にはアンリエール様の用意した番兵と、そしてエリザベート様がお待ちだ。合流次第、一気に城へ入るぞ。最速最短で偽国王の首を獲る。途中騎士団や四勇士と事を構える事になれば、打合せ通りに行動する事。アラタは止むを得ない場合を除き、アンリエール様の元にたどり着く事だけを考えろ。いいな?」
ヴァンが俺達に顔を向け、あらためて今日の動きを口にし伝える。
やはり治安部隊隊長だ。レイチェルにも目くばせしつつ、自然と指揮を執っている。こういうリーダーシップは天性のものもあるのだろう。
俺はもう意思を固めている。しっかりとヴァンの目を見て頷くと、ヴァンもそれを受けて頷き返した。
「よし・・・じゃあレイチェル、頼む」
ヴァンはレイチェルに目を向けると、一歩後ろに下がった。
突入前の最後の号令をレイチェルに譲ったと言う事だろう。
ほとんどレイジェスのメンバーで構成されているからだろう、指揮をとっても最後はレイチェルに任せるようだ。
「みんな、店長が不在のこの半年余り、至らない私によく付いて来てくれたな。ありがとう」
前に立ったレイチェルは、開口一番お礼の言葉をのべた。
「おいおい、なんだよ急に?」
ジャレットさんが肩をすくめ、少しの笑いを含んだ声をレイチェルに向けた。
「・・・本当に感謝してるんだ。私が引っ張って行くつもりで頑張ってみたが、いつもみんながフォローしてくれていた事を知っている。ジャレットは私が指示を出しやすいように、いつも隣から言葉を添えてくれていたし、ミゼルは細かい事務仕事を引き受けてくれた。ジーンはよくレジ当番を変わってくれた。ケイトは私がやるべきクレーム対応を代わってくれた。シルヴィアはみんなから不満がでないよう、いつも私の代わりにシフトを調整してまとめてきてくれた。カチュアはいつも私の体調を気にかけてくれたし、話しを聞いてもらった。ユーリはよく事務所を掃除してくれたね、おかげで気持ちよく仕事ができた・・・」
レイチェルがみんなに伝える感謝の想いには、一言一言気持ちがこもっていた。
名前を呼ばれると、それぞれがレイチェルに優しい目を向け微笑んでいる。
レイジェスの絆の強さがひしひしと感じられる。
「アラタ・・・キミはレイジェスに入ってまだ日が浅い。だけど、キミが来て防具の担当も二人体制になったし、店にも活気が出たよ。ありがとう」
「いや、そんな俺なんて助けてもらってばっかで・・・」
「フッ・・・そう言えばキミは、そういう謙虚なヤツだったな」
面と向かって褒められるのは、どうも恥ずかしくなってしまう。
下を向いて頭を掻くと、そんな俺にレイチェルが小さく笑った。
「・・・おい、レイチェル。俺は?」
リカルドが手を上げると、みんなの視線が一斉に集まった。
そう言えば・・・リカルドだけ何も言われていなかった。
「・・・・・リカルド、キミは・・・いつも気持ち良い食べっぷりだよな!」
「おい!ふざけてんじゃねぇぞ!俺に感謝はねぇのかよ!?」
困ったような笑みを浮かべて、思いついたように両手を打ち合わせて話すレイチェルに、リカルドが掴みかからんと詰め寄る。
「ははは、ごめんごめん!悪ふざけが過ぎたね、緊張を解そうとおもってさ。リカルドはたまに私にお菓子くれる時あるよね?あれ、私が疲れてるなって思ったんでしょ?ほらよって感じで一方的に渡してくるけど、私はキミのぶっきらぼうな言い方の中にある優しさをちゃんと見てるよ。リカルド、ありがとう」
「なっ!お、おまえ・・・ち、ちげぇよ!腹いっぱいだったから・・・」
ふいにリカルドの目をしっかりと見て、感謝の気持ちを口にするレイチェル。
純粋な謝意をストレートに向けられ、リカルドは予想外だったのかしどろもどろになってしまう。
「リカルドが・・・お腹いっぱい?」
腹いっぱいと言うリカルドの言葉に、ユーリが目を丸くする。
「う、うっせぇよ!ったく、調子狂うな・・・あぁ、ほら、もう時間だろ?ぼけっとしてていいのかよ?」
頭をガシガシと乱暴に掻いてリカルドが背中を向けると、レイチェルはクスリと笑って、俺達一人一人の顔を見た。
「みんな・・・私は明日も明後日も、来年も・・・これからもずっとみんなと一緒に働きたい。だから、全員で生きて帰ろう」
「おう!もちろんだぜ!」
ジャレット・キャンベル。25歳、体力型。
「私も同じ気持ちよ。レイチェル」
シルヴィア・メルウィー。24歳、黒魔法使い。
「僕もみんなと一緒じゃないと嫌だ。だからみんな、気をつけて」
ジーン・ハワード。22歳、青魔法使い。
「アタシも誰か欠けるなんて嫌だね。みんなちゃんと帰ってくんだよ」
ケイト・サランディ。20歳、青魔法使い。
「まさか俺達がこんな戦いをする事になるなんてな。分からねぇもんだな」
ミゼル・アルバラード。25歳、黒魔法使い。
「・・・負けない」
ユーリ・ロサリオ。18歳、白魔法使い。
「私達全員で帰って、また一緒にお仕事しようね」
カチュア・バレンタイン。18歳、白魔法使い。
「へいへい、まぁ俺も死にたくはねぇしな。しっかり生き残ってやんよ」
リカルド・ガルシア。16歳、体力型。
「レイチェルも生き残るんだぞ?」
坂木 新。22歳、体力型。
「フッ・・・あぁ、もちろんだ。では、行くか」
レイチェル・エリオット。19歳、体力型。レイジェス副店長。
「隊長・・・良いチームですね」
モルグ・フェンテス。29歳、体力型。治安部隊。
「クックック、あぁ、よくまとまってる。俺達も治安部隊をこうしていかねぇとな。フェンテス、気合入れていこうぜ」
ヴァン・エストラーダ。32歳、体力型。治安部隊隊長。
6時00分。クインズベリー城、突入。
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