異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

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429 ジャレットの理由

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「よし、全員乗ったな?それじゃあ頼むよ」

午前5時30分、空が薄っすらと白み始めた頃、二台の馬車に分かれた俺達は、レイチェルの合図で店を出発した。
今日は朝の冷気がいつもより厳しく感じる。明日から11月だし冬に入ったと言っていいのだろう。

馬車は昨日の内にレイチェルが業者から借りて、店の脇に停めておいたのだ。
ジャレットさんとミゼルさんは操縦の経験があるらしく、一台づつ担当していた。

「すごいな、馬車の操縦なんてどこで覚えたんだろ?」

ジャレットさんの操縦する馬車に乗っている俺は、ワゴン内から手綱を握るジャレットさんに顔を向けて独り言ちた。

「ジャレットは昔、馬車の操縦士をやっていた事があったそうだ。久しぶりだと言っていたが、なかなかどうして安定した乗り心地じゃないか」

俺の呟きを聞き取ったレイチェルが、疑問に答えてくれた。
揺れが少なく、席から体に伝わって来る振動は微かなものだった。乗りてを考えた操縦をしていると感じる。

顔を正面に向けて、確かに上手だね、と感心を表すと、レイチェルは親指を自分の後ろにクイっと向けた。

「ミゼルはロンズデールで覚えたと言っていたな。昔あの国に住んでいた時、大海の船団というところをメインに仕事していたらしいが、酒とギャンブルで金に困って、馬車の仕事も掛け持ちしていたそうだ」

俺達の後ろを走る馬車はミゼルさんが操縦している。
レイチェルは少し呆れたような声で説明してくれたが、この前の宿屋でのミゼルさんの宣言以来、なんとなくミゼルさんに対して向ける目や声色に温かみが出てきたように感じる。


「・・・ジャレットもミゼルも、今は落ち着いているがけっこう苦労人なんだよ。仕事を転々としていて、やっとレイジェスで落ち着いてな。あぁ、ミゼルは酒とギャンブルだから苦労人ってのは違うか」

ミゼルさんに対する一言はわざとだろう。
そう思ったが、俺は相槌を打って話しの続きを待った。

「アラタには話してもいいだろう。アイツはキミを気に入っているからな。ジャレットは母子家庭でな、兄弟も下に3人いる。一番下が今年で18だったかな。ジャレットは10歳になる前から母親を助けるために働きに出て、安い賃金でも決して弱音を吐かずに頑張っていたそうだ。しかし、なかなか良い雇い主に出会えず、突然明日から来なくていいと解雇されたり、貧困だとからかわれて職場での居場所を奪われたりと、ずいぶん辛く苦しい思いをしてきたそうだ」

あまりに衝撃的な話しに、俺は再び振り返って馬車を操るジャレットさんを見た。

パーマがかった金髪のロングウルフ。この時期でも夏に焼いた肌の黒さが残っていて、鼻にはピアス。
どう見てもギャル男だ。
俺はこの世界に来たばかりの頃、第一印象ではジャレットさんに対して、チャラいギャル男以上の感想がなかった。

しかし、いざ一緒に働いてみると驚く程に面倒見がよく、そしてとても仲間想いだった。
今では尊敬すべき先輩として多くを習い見ている。

なんでジャレットさんが異世界から来たなんて俺の話しを信じて、こんなに俺に目をかけてくれているのか分かった気がする。

自分はどんなに辛い経験をしても決して道を逸れる事無く、家族を護るために頑張って来たからだ。

「ジャレットが18歳の時、何度目かの仕事をクビになって街をフラついていたそうだ。そこを店長に拾われたそうだが、胸糞悪いのはクビの理由だ。雇われた時には何も言われなかったそうだが、突然、何度も仕事を転職している人間は信用できない。そう言われたらしい。力仕事だったらしいから、大方忙しい時期だけ人手が欲しく、暇になったから難癖を付けて追い出したかったのだろう。ジャレットは笑いながらそう言っていたが、私は聞いてて殺意が湧いたよ。ただね、ジャレットは話しの最後に、クビになって良かったと言っていた。そのおかげで店長と出会えた今があるから・・とね」

「ジャレットさん・・・」

レイチェルの声色はとても優しくて、ジャレットさんを労わる気持ちが伝わって来た。
なんだか目頭が熱くなってきたので、上を向いて瞬きをしていると、隣に座っているカチュアが俺の背中をさすってくれた。

「・・・ジャレットさんすごいよね。私もね、この話しを聞いた時はムカってなったの・・・だって、酷すぎるよね。でもね、ジャレットさんは、今こうしてレイジェスでみんなと楽しく働けてるからいいんだって、そう笑って話すの。すごく強い人だなって思った・・・」

「・・・うん。本当にな」

前に向き直ると、レイチェルがハンカチを渡してきた。

「アラタ、キミって意外と涙もろいよな。あぁ、からかってるわけじゃないぞ。そういう人の痛みが分かるところだ。そこをジャレットは気に入ってるんだろう。キミを防具担当にして良かった。これからもジャレットの力になってくれ」

俺は黙って頷いてハンカチを受け取ると、目元に当て涙を拭った。
レイチェルとカチュアはそんな俺を、微笑ましい表情で見ている。

なんとなくまとまった雰囲気になり、俺達は顔を見合わせて笑った。


そしてレイチェルの隣に座っているリカルドは、背もたれに体を投げ出すようにもたれかかり、大口を開けて爆睡していた。

本当にリカルドは我が道を行くだ。
イビキをかいてないのは、うるさくなくて助かった。
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