421 / 1,298
420 クリスの宿屋で ⑤
しおりを挟む
男部屋は雑魚寝だった。
ベットのある部屋もあるが、みんな安くていいと枕と毛布だけを借りて床に転がっている。
畳にして八畳分くらいはあるだろうが、レイジェスの男5人で寝ころべばあまりスペースに余裕はない。
ちなみにエルちゃん一家は別に個室を取ってある。
レイチェルが、まだ子供のエルちゃんは、家族そろって一部屋の方が安心だろうと配慮したからだ。
宿代は自分達で出すと言われたらしいが、経費で落とすからと言って話しをつけたそうだ。
「アラタ、起きてるか?」
酒が入っているからか、多少窮屈でも横になるとすぐに瞼が落ちそうになる。
これはすんなり寝れそうだと思ったところで、隣で横になっていたジーンが小声で話しかけて来た。
「ん・・・あぁ・・・ジーン、どう、したんだ?」
無理やり意識を繋ぎ留め、体を反転させてジーンに顔を向けると、ジーンは少しすまなそうな声を出した。
「あ、寝る寸前だったかな?邪魔してごめんよ」
「いや・・・いい・・・んで、どうした?」
「・・・うん、あのさ・・・結婚おめでとう」
「・・・おいおい、店でも飲み会の時も、みんな何度もお祝いの言葉くれたじゃないか?そう何回も言われると俺も困るぞ」
眠気が飛んでだんだん頭が冴えてきた。
発光石も消してあるから部屋は真っ暗闇だが、時間と共に暗さに目も慣れてくる。
ジーンにも何回もお祝いの言葉をもらった。
俺は少し冗談めかして言ったのだが、ジーンは俺に顔を向けず、天井を見つめたまま言葉を続けた。
「・・・あのさ、僕もケイトにプロポーズするよ」
「・・・え!?」
予期せぬ言葉に、思わず声が大きくなった。
慌てて回りを見るが、幸いみんなぐっすり寝てて誰も起きた様子はない。
「・・・ふぅ~、いや・・・しかし、そっか。とうとう気持ちが固まったんだな?」
ひそひそと小声で話しかけると、ジーンは小さく笑って俺に顔を向けた。
「うん・・・本当についさっきなんだけどね。今日、アラタとカチュアを見てたら、羨ましくなってさ。カチュアは本当に幸せそうだ。アラタ・・・僕もね、ケイトをあんなふうに喜ばせてあげたいって思ったんだ。以前話した僕とケイトの関係を覚えているかな?ケイトが僕に依存してるって・・・」
俺が黙って頷くと、ジーンは言葉を続けた。
「僕はケイトには自分の事ももっと考えて欲しいって、そう思うから結婚にはなかなか進めないでいたんだ。でも、難しく考え過ぎていたのかもしれない。僕もケイトを支えたい、その気持ちがあるのなら結婚して二人で同じ幸せを持てばいいじゃないか・・・そう思ったんだ」
「ジーン・・・そっか。うん、良かったよ。俺、ジーンとケイトにも絶対幸せになってほしいからさ」
俺はジーンがケイトとの結婚を決めた事がとても嬉しかった。
ジーンは俺がこの世界に来て、初めてできた同い年の男友達だ。
ケイトとの関係で悩んでいるのは知っていたから、話しを聞くくらいしかできないけど、なんとか前向きな気持ちになってくれればと思っていたけ。
だからこの決断は本当に嬉しく思う。
「あはは、僕の決心がついたのは、アラタ・・・キミとカチュアのおかげだよ。本当にありがとう」
「なんか、そう言われると照れるな。ケイト、きっとすごい喜ぶぞ」
ジーンは、うん、と笑って頷いてくれた。
前にパスタ屋に行った時も、ケイトはとにかくジーンと結婚したいと言っていた。
いつジーンがプロポーズするか分からないけど、ケイトの喜ぶ顔が目に浮かぶようだ。
それから最近の俺とカチュアの事や、ジーンとケイトが家だとどんな感じなのかとか、仕事以外でのそれぞれの話しをひとしきりして、そろそろ寝るかという空気になった時、ジーンはふいに真顔になって俺を見た。
「・・・アラタ、みんなそうだけど、僕はケイトを、アラタはカチュアを護らないといけない。だから、僕達も生き残って勝つんだ」
「・・・ジーン・・・・あぁ、そうだな・・・」
きっとジーンは、これが言いたかったんだろう。
俺ももう一人の体ではない。カチュアを護っていくんだ。
前にカチュアに、自分の事も大事にしてと言われた事がある。
「俺もジーンも・・・レイジェス全員が生き残るんだ」
俺の返事にジーンは満足そうに笑うと、そろそろ寝よう・・・そう言って目を閉じた。
ベットのある部屋もあるが、みんな安くていいと枕と毛布だけを借りて床に転がっている。
畳にして八畳分くらいはあるだろうが、レイジェスの男5人で寝ころべばあまりスペースに余裕はない。
ちなみにエルちゃん一家は別に個室を取ってある。
レイチェルが、まだ子供のエルちゃんは、家族そろって一部屋の方が安心だろうと配慮したからだ。
宿代は自分達で出すと言われたらしいが、経費で落とすからと言って話しをつけたそうだ。
「アラタ、起きてるか?」
酒が入っているからか、多少窮屈でも横になるとすぐに瞼が落ちそうになる。
これはすんなり寝れそうだと思ったところで、隣で横になっていたジーンが小声で話しかけて来た。
「ん・・・あぁ・・・ジーン、どう、したんだ?」
無理やり意識を繋ぎ留め、体を反転させてジーンに顔を向けると、ジーンは少しすまなそうな声を出した。
「あ、寝る寸前だったかな?邪魔してごめんよ」
「いや・・・いい・・・んで、どうした?」
「・・・うん、あのさ・・・結婚おめでとう」
「・・・おいおい、店でも飲み会の時も、みんな何度もお祝いの言葉くれたじゃないか?そう何回も言われると俺も困るぞ」
眠気が飛んでだんだん頭が冴えてきた。
発光石も消してあるから部屋は真っ暗闇だが、時間と共に暗さに目も慣れてくる。
ジーンにも何回もお祝いの言葉をもらった。
俺は少し冗談めかして言ったのだが、ジーンは俺に顔を向けず、天井を見つめたまま言葉を続けた。
「・・・あのさ、僕もケイトにプロポーズするよ」
「・・・え!?」
予期せぬ言葉に、思わず声が大きくなった。
慌てて回りを見るが、幸いみんなぐっすり寝てて誰も起きた様子はない。
「・・・ふぅ~、いや・・・しかし、そっか。とうとう気持ちが固まったんだな?」
ひそひそと小声で話しかけると、ジーンは小さく笑って俺に顔を向けた。
「うん・・・本当についさっきなんだけどね。今日、アラタとカチュアを見てたら、羨ましくなってさ。カチュアは本当に幸せそうだ。アラタ・・・僕もね、ケイトをあんなふうに喜ばせてあげたいって思ったんだ。以前話した僕とケイトの関係を覚えているかな?ケイトが僕に依存してるって・・・」
俺が黙って頷くと、ジーンは言葉を続けた。
「僕はケイトには自分の事ももっと考えて欲しいって、そう思うから結婚にはなかなか進めないでいたんだ。でも、難しく考え過ぎていたのかもしれない。僕もケイトを支えたい、その気持ちがあるのなら結婚して二人で同じ幸せを持てばいいじゃないか・・・そう思ったんだ」
「ジーン・・・そっか。うん、良かったよ。俺、ジーンとケイトにも絶対幸せになってほしいからさ」
俺はジーンがケイトとの結婚を決めた事がとても嬉しかった。
ジーンは俺がこの世界に来て、初めてできた同い年の男友達だ。
ケイトとの関係で悩んでいるのは知っていたから、話しを聞くくらいしかできないけど、なんとか前向きな気持ちになってくれればと思っていたけ。
だからこの決断は本当に嬉しく思う。
「あはは、僕の決心がついたのは、アラタ・・・キミとカチュアのおかげだよ。本当にありがとう」
「なんか、そう言われると照れるな。ケイト、きっとすごい喜ぶぞ」
ジーンは、うん、と笑って頷いてくれた。
前にパスタ屋に行った時も、ケイトはとにかくジーンと結婚したいと言っていた。
いつジーンがプロポーズするか分からないけど、ケイトの喜ぶ顔が目に浮かぶようだ。
それから最近の俺とカチュアの事や、ジーンとケイトが家だとどんな感じなのかとか、仕事以外でのそれぞれの話しをひとしきりして、そろそろ寝るかという空気になった時、ジーンはふいに真顔になって俺を見た。
「・・・アラタ、みんなそうだけど、僕はケイトを、アラタはカチュアを護らないといけない。だから、僕達も生き残って勝つんだ」
「・・・ジーン・・・・あぁ、そうだな・・・」
きっとジーンは、これが言いたかったんだろう。
俺ももう一人の体ではない。カチュアを護っていくんだ。
前にカチュアに、自分の事も大事にしてと言われた事がある。
「俺もジーンも・・・レイジェス全員が生き残るんだ」
俺の返事にジーンは満足そうに笑うと、そろそろ寝よう・・・そう言って目を閉じた。
0
お気に入りに追加
152
あなたにおすすめの小説
幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。
元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。
ファンタスティック小説家
ファンタジー
科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。
実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。
無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。
辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~
白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。
日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。
ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。
目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ!
大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ!
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。
【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる