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414 遅れた朝

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「・・・俺達は行くぞ。助けられた事に少しでも感謝する気持ちがあるなら、もうカチュアにつきまとうな」

道神様は消えた。
あれは日本で言うところの成仏なのだろうか?
それともまだここにとどまっているのか?それは分からない。

だけど、心なしかこの道の空気が和らいだように感じる。きっと道神様の悲しみが安らいだからだろう。


俺はまだ立つ事ができず、放心状態のトーマスにそう言葉をかけるが反応はない。
聞いているのかいないのかも分からないが、これ以上はさすがに面倒を見れないし見る気もないから、トーマスはそのまま放置する事にした。

「カチュア、行こうか・・・」

「・・・うん」

膝の怪我はヒールで治したから、歩く事に支障はない。
ただ、ワンピースの破れているところは気になるので、店に行ったら新しいのを買ってあげよう。
女の子なんだし、服が破れているのは恥ずかしいだろう。

俺とカチュアは街に出る方に歩き出した。
一度だけカチュアは振り返ったが、トーマスは変わらず砂利道に座り込んで動く様子を見せない。

カチュアは悲しそうに目を伏せたけど、すぐに振り切るように前を向いて、行こう!と強く言葉にした。


もうトーマスがカチュアに言い寄って来ることはないだろう。

話した訳でもないが、それだけは分かった。




「アラタ君」

「うん、なに?」

「昨日ね、夢を見たの。お母さんとお父さんの夢」

「え、もしかして夢見の花で?」

「うん。本当に見れたんだよ。お母さん達、私とアラタ君の結婚喜んでくれてた」

「そっか・・・嬉しいね」

「うん、あのね、だから・・・道神様もきっと会えると思うの。夢の中でも・・・」


足を止めて、カチュアは空を仰ぎ見た。
覆い被さるような樹の葉に遮られながらも、一筋の陽の光がカチュアを優しく照らす。

「・・・アラタ君、私も一緒に行くね。道神様に夢見の花を届けに」

「・・・うん、一緒に行こう」

カチュアも道神様の事を考えていてくれたんだ。
夢の中だとしても、会いたい人に会えるのならば、それはとても幸せだと思う。

俺達は道神様がお父さんとお母さんに会えるようにと、心の中で願った。




砂利道を抜けると、昨日の朝寄った花屋さんの角に出た。
街道は当然樹の葉の屋根が無くなるので、眩しいくらいの陽射しに目を細めてしまう。

「・・・アラタ君、今何時くらいかな?」

カチュアが、きょろきょろ辺りを見回している。
人通りの多さに、予定よりだいぶ時間が経っている事を感じているようだ。

「多分・・・けっこう遅刻してると思う。花屋さんで聞いてみよう」


花屋さんに入ると、昨日と同じくパメラさんが顔を出して迎えてくれた。

「あれ?いらっしゃい。今日はどうしたのかしら?」

昨日今日と続けて来た俺達に、首をかしげている。

「あ、おはようございます。あの、すみません。今何時ですか?」

「今?えっと・・・九時を過ぎたところですね」

掛け時計に目をやって、パメラさんは何でもないように時間を告げるが、俺とカチュアは顔を見合わせて、お互い苦い顔をして頷いた。

「ありがとうございました!また来ます!」

「夢見の花ちゃんと見れました!また買いに来ますね!」

「え、あ、はい、ありがとうございましたー!またねー!」

時間を聞くなり急ぎ足で店を出る俺達に、パメラさんは訳が分からないという顔をしていたが、それでも手を振って見送りしてくれた。

「う~、アラタ君!遅刻だよー!」

「もうしかたない!とにかく走ろう!」

カチュアの走る速さに合わせて、二人でレイジェスを目指して足を急がせる。
予定通りなら8時前には着いていたはずなので、軽く1時間の遅刻だ。


・・・レイチェル怒ってるかな?

・・・うーん、なにかしら言われると思う

・・・う~、余裕もって出てきたのに

・・・まぁ、しかたないな。事情説明するしかないよ


携帯でもあればと考えてしまうのは、日本で育ったゆえだろう。
こういう時に、メールの一つでも送る事ができれば、ここまで慌てる事もないのに。
こっちの世界にも慣れて来たけど、日本人としての考え方はずっと残るだろうな・・・・・


・・・アラタ君、また考え事してるね?

・・・ん?あ・・・ごめん

・・・あはは、謝る事じゃないよ。ちょっと言ってみただけ

石畳を二人で小走りに進む。カチュアは少し息が上がっている。
そう言えば、前に体力は全然ないと言っていたなと思い出す。


・・・ねぇ、アラタ君

・・・ん、なに?

・・・これからもよろしくね

・・・あはは!急にどうした?

・・・なんとなく

・・・カチュア、俺の方こそよろしくね

・・・うん!
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