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412 カチュアの家へ ⑦
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翌朝、俺とカチュアは朝食を食べ支度を済ませると、ハンナさんとフリオさんに玄関先で挨拶を交わした。
「昨日は急におじゃましたのに、こんなにお世話になってしまって、本当にありがとうございました」
「いやいや、ワシらが泊まっていきなさいと言ったんだ。それにまだ式は挙げていないが、ワシらはアラタ君をもうカチュアの夫として見ているよ。もうワシらとも家族だ。遠慮せずいつでも遊びに来てくれ」
「おじいちゃん・・・私嬉しい。ありがとう」
「アラタさん、それじゃあカチュアをよろしくね」
また来ます。そう言って俺達はカチュアの家を後にした。
時刻は午前七時半。今日はこのまま真っ直ぐ出勤だ。店に着くのは8時前くらいだろう。
カチュアはとても機嫌が良かった。
繋いだ手を、前に後ろに大きく振って表情がとても明るい。
「なんだか、すごく機嫌良いね?」
「うん!だって、おじいちゃん達アラタ君の事気に入ってくれたんだもん!本当に嬉しいよ!」
「あはは、そうだね。俺も嬉しいよ。あんなに歓迎してもらって、お祖父さん達は本当に優しいね」
「うん、本当に優しいの。アラタ君も昨日おじいちゃんとお酒飲んでたし、仲良くなって本当に嬉しいんだ」
カチュアの笑顔に俺も嬉しくなって笑みがこぼれる。
のんびり砂利道を歩いて行くと、少し傾斜になっている石造りの階段が見えた。
その先の林の道は、悪さをすると暗いところに連れて行かれるという、道神様の道だ。
「こうして林の外から見ると、本当に陽を遮るように覆われてるんだね」
「うん。昔からそうなんだよ。だからいつも薄暗いの。じゃあ行こうか」
二人で林の中に入ると、陽が遮られているからか、気温が一段下がったように感じた。もうすぐ10月も終わりだし、陽が差さないとけっこう違うものだなと思いながら前に進む。
「え?・・・・・なんで?」
突然カチュアが足を止めるので俺も立ち止まる。
どうしたのかとカチュアに目を向けると、カチュアは眉を潜めて不安気に前を見ている。その視線を追って俺も気付いた。
「・・・あいつは」
俺達が自分に気付いた事を察したのか、樹の陰から姿を表したそのおとこは、昨日カチュアに激しく言い寄ったトーマスだった。
「カチュア・・・ここで待ってれば、会えると思ったよ」
樹の陰から出たトーマスは、俺なんか見えていないかのように、カチュアだけに目を合わせ一歩一歩ゆっくりと足を進めてきた。
トーマスは昨日と同じ黒い革ジャンを着ている。
二日続けて着る事もあるだろうし、それだけなら不思議はない。
だけど、俺もはっきり覚えているわけではないので気のせいかもしれないが、上から下まで着ている服が全部昨日と同じように見える。
もし、そうだとすると、俺は背筋がゾッとした。
コイツは昨日、あれから家に帰らず、ずっとここで俺達が来るのを待っていたと言うのか?
いや、だが夜はどうするんだ?トバリがいる以上、夜通し外にいるのは不可能だ。
「・・・アラタ君」
カチュアはトーマスから目を逸らすと、怯えるように俺の後ろに隠れた。
無理もない。昨日は腕を捕まれて怖い思いをしたのだ。
「なにか用か?」
4~5メートルくらいは距離があるだろうか。
俺がトーマスを見据えて言葉をだすと、トーマスはピタリと足を止めた。
「・・・てめぇ、カチュアを騙しやがって・・・なにが旦那だ!ふざけてんじゃねぇぞ!」
額に青い筋を浮かべ、憎しみのこもった目を俺に向けるトーマスだが、俺は全く心が乱れず冷めた目でトーマスを見ていた。
やはり協会での一件は、俺を精神的にずいぶんと強くしてくれたようだ。
そしてこの男は体力型なのだろうが、俺よりはるかに弱い。
ジャブ一発で終わらせる事も可能だろう。正面から見合ってそれがよく分かる。
「騙してなんかいない。お前、いつからここにいたんだ?その格好、もしかして昨日から着替えていないのか?」
トーマスを指差して服装を指摘すると、トーマスはなにやら薄ら笑いを浮かべて、自分の服に目を落とした。
「昨晩からだよ。お前達が朝一で帰るかもしれないから、昨晩からずっと待ってたんだよ」
「どうやって?夜はトバリが出るだろう?」
俺が率直に疑問を投げると、後ろのカチュアが俺を呼ぶようにシャツを引いた。
「・・・もしかして、道神様の祠かも・・・」
「祠?」
俺が顔を後ろに向けてそう口にすると、トーマスが正解とでも言うように両手を数回叩き合わせた。
「あぁ、その通りだよカチュア!そこの道神様の祠の中で、夜が明けるまで一晩中起きて待ってたんだ!恐ろしいもんだったぜ!いくら扉を閉めていても、すぐそこにトバリがいるのがハッキリ分かるんだ!全部お前のせいだぞ!」
トーマスが右手で林の中を指す方に顔を向けると、樹々の間に隠れるように少し寂れた木造りの祠が見えた。少し離れているが、大人一人~二人くらいは余裕を持って入れそうな大きさだ。
俺が祠に顔を向けていると、トーマスは大声でカチュアを責める言葉を喚きながら近づいて来た。
カチュアは一層怯えたように、俺の背中でシャツを強く掴んでいる。
俺は祠からトーマスに顔を戻した。
「・・・・・お前、さっきから何言ってんだよ?カチュアは昨日ハッキリ言ったはずだぞ。俺がカチュアの旦那だって。それに、昔は面倒見の良いお兄ちゃんだったとも言っていた。これ以上カチュアをガッカリさせるまねはやめろ」
目の前で俺を見下ろし睨むトーマスに、俺も見上げる形で睨み返した。
「ふざけるなよ!そんな事俺は認めない!俺の方がカチュアをよく分かっている!今は気の迷いとお前に騙されているだけだ!」
「そんな事ない!」
トーマスが再び大声を出すと、後ろからカチュアも振り絞るように声を出した。
そして俺のシャツは掴んだままだが、背中から体を出してトーマスの顔を見てハッキリと言い切った。
「トーマスさん、私はアラタ君が好きだから一緒にいるの!騙されてもいないし、気の迷いでもない!もう私達は夫婦なの!だからお願い、私の事は諦めて!昔みたいに優しいトーマスお兄ちゃんに戻って!」
カチュアの言葉にトーマスは言葉を失い、ふらふらとおぼつかない足取りで数歩後ろに下がった。
「・・・そ、そんなはずはない・・・そうだ、そんなはずない・・・俺の方が、俺の方が・・・」
トーマスは頭を押さながら、ブツブツと現実から目を背ける言葉を呟きだした。
「・・・カチュア、危ないかもしれない。俺の後ろにいてくれ」
「う、うん・・・」
カチュアが俺の後ろに隠れると、俺は左拳を軽く握り、右手は顔の横に、体を半身にした構えをとった。
「ア、アラタくん!暴力は駄目だよ!この道で人を殴ったら道神様に連れて行かれちゃう!」
ファイティングポーズをとった俺に、カチュアが慌てて声を上げた。
「え、あ、自己防衛もだめなのか?」
俺が振り向いてカチュアにそう尋ねると同時に、トーマスが張り裂けんばかりの声を上げて俺に掴みかかってきた。
「しまっ・・・!」
このタイミングでも左を合わせる事はできる。
だが、自己防衛も悪さと判断されるのならば、殴るわけにはいかない。
どうすべきか判断に迷った俺は、まず巻き込まれないようにと、カチュアを軽く押して逃がした。
そのタイミングでトーマスは俺の両肩を掴み、そのまま体格差をいかして俺を地面に押し倒した。
「てめぇのせいだ!全部てめぇが悪いんだ!俺のカチュアを!俺のカチュアをたぶらかしやがって!」
馬乗りの体勢で、トーマスが俺の顔面目掛けて拳を振り下ろしたが、俺の目には止まって見える。
難なく避けて次に備えながらトーマスを説得した。
「おい、やめろ!お前もここ住んでるなら知ってるんだろ?道神様に連れて行かれるぞ」
「うるせぇ!だからなんだ!どうせ作り話だ!そんなの一度も見た事ねぇんだよ!」
何度も殴ろうと拳を振るうが、全てかわされるか防がれて一度も当たらない。
苛立ったトーマスは俺の胸ぐらを掴むと、そのまま激しく揺すりながら頭を地面に打ち付けた。
「この野郎!死ね!死ね!」
頭を砂利に打ち付けられて、痛みに顔をしかめる。
トーマスの手を掴んで剥がす事は、暴力に含まれるのだろうか?
引き剥がす事は簡単だ。だが、加減しても多少の痛みは与えるだろう。
自分を守るための行為だが、相手が痛がれば暴力になり悪と判断されるのだろうか?
地面に頭を打ちつけられても、俺のダメージ自体はほとんど無い。
軽く小突かれた程度の痛みだ。だから、このままトーマスの気がすむまで、されるがままでも問題はない。
しかし、気分は悪いので、どうしたらいいか悩んでいると、カチュアがトーマスの腕を掴んだ
「もうやめてよ!私のアラタ君に乱暴しないで!」
「なっ!くそ!カチュアお前!」
トーマスが捕まれた右腕を振り払うと、カチュアがバランスを崩して転ばされてしまった。
「おい!」
転んだカチュアを目にした瞬間、俺はトーマスの左腕を力任せに引き剥がした。
「ぐあっ!」
よほど痛かったのか、トーマスは顔をしかめ左腕を押さえて背中を丸くしている。
「カチュア!大丈夫か!?」
体を起こし、カチュアのそばに駆け寄り、怪我がないか確認をする。
「う、うん。ちょっと擦りむいただけ、大丈夫だよ。アラタ君は大丈夫?」
「俺はどこも怪我してないよ。カチュア・・・膝、よくもこんな・・・」
転んだ時に切ったのだろう。ワンピースが少し破れて、膝が擦りむけて血が出ていた。
俺は振り返ってトーマスを睨み付けた。
大切な人を傷つけられて、黙っている事はできない。
道神様なんて知った事か!
「お前、覚悟できてんだろうな・・・」
拳を握りしめトーマスに一歩近づいた。
俺の声に反応してトーマスも顔を上げ、歯を食い縛りながら睨んでくる。
「アラタ君!駄目だよ!暴力は絶対に・・・え?」
背中に届いたカチュアの声が急に途切れた。
「ア、アラタ君!あ、あれ!」
カチュアが後ろから俺の肩を掴み強く揺する。
一体どうしたのかと、カチュアが指差す方向に目を向けると、さっき見た道神様の祠の前に、真っ白い服を着た5~6才くらいの女の子が立っていた。
「昨日は急におじゃましたのに、こんなにお世話になってしまって、本当にありがとうございました」
「いやいや、ワシらが泊まっていきなさいと言ったんだ。それにまだ式は挙げていないが、ワシらはアラタ君をもうカチュアの夫として見ているよ。もうワシらとも家族だ。遠慮せずいつでも遊びに来てくれ」
「おじいちゃん・・・私嬉しい。ありがとう」
「アラタさん、それじゃあカチュアをよろしくね」
また来ます。そう言って俺達はカチュアの家を後にした。
時刻は午前七時半。今日はこのまま真っ直ぐ出勤だ。店に着くのは8時前くらいだろう。
カチュアはとても機嫌が良かった。
繋いだ手を、前に後ろに大きく振って表情がとても明るい。
「なんだか、すごく機嫌良いね?」
「うん!だって、おじいちゃん達アラタ君の事気に入ってくれたんだもん!本当に嬉しいよ!」
「あはは、そうだね。俺も嬉しいよ。あんなに歓迎してもらって、お祖父さん達は本当に優しいね」
「うん、本当に優しいの。アラタ君も昨日おじいちゃんとお酒飲んでたし、仲良くなって本当に嬉しいんだ」
カチュアの笑顔に俺も嬉しくなって笑みがこぼれる。
のんびり砂利道を歩いて行くと、少し傾斜になっている石造りの階段が見えた。
その先の林の道は、悪さをすると暗いところに連れて行かれるという、道神様の道だ。
「こうして林の外から見ると、本当に陽を遮るように覆われてるんだね」
「うん。昔からそうなんだよ。だからいつも薄暗いの。じゃあ行こうか」
二人で林の中に入ると、陽が遮られているからか、気温が一段下がったように感じた。もうすぐ10月も終わりだし、陽が差さないとけっこう違うものだなと思いながら前に進む。
「え?・・・・・なんで?」
突然カチュアが足を止めるので俺も立ち止まる。
どうしたのかとカチュアに目を向けると、カチュアは眉を潜めて不安気に前を見ている。その視線を追って俺も気付いた。
「・・・あいつは」
俺達が自分に気付いた事を察したのか、樹の陰から姿を表したそのおとこは、昨日カチュアに激しく言い寄ったトーマスだった。
「カチュア・・・ここで待ってれば、会えると思ったよ」
樹の陰から出たトーマスは、俺なんか見えていないかのように、カチュアだけに目を合わせ一歩一歩ゆっくりと足を進めてきた。
トーマスは昨日と同じ黒い革ジャンを着ている。
二日続けて着る事もあるだろうし、それだけなら不思議はない。
だけど、俺もはっきり覚えているわけではないので気のせいかもしれないが、上から下まで着ている服が全部昨日と同じように見える。
もし、そうだとすると、俺は背筋がゾッとした。
コイツは昨日、あれから家に帰らず、ずっとここで俺達が来るのを待っていたと言うのか?
いや、だが夜はどうするんだ?トバリがいる以上、夜通し外にいるのは不可能だ。
「・・・アラタ君」
カチュアはトーマスから目を逸らすと、怯えるように俺の後ろに隠れた。
無理もない。昨日は腕を捕まれて怖い思いをしたのだ。
「なにか用か?」
4~5メートルくらいは距離があるだろうか。
俺がトーマスを見据えて言葉をだすと、トーマスはピタリと足を止めた。
「・・・てめぇ、カチュアを騙しやがって・・・なにが旦那だ!ふざけてんじゃねぇぞ!」
額に青い筋を浮かべ、憎しみのこもった目を俺に向けるトーマスだが、俺は全く心が乱れず冷めた目でトーマスを見ていた。
やはり協会での一件は、俺を精神的にずいぶんと強くしてくれたようだ。
そしてこの男は体力型なのだろうが、俺よりはるかに弱い。
ジャブ一発で終わらせる事も可能だろう。正面から見合ってそれがよく分かる。
「騙してなんかいない。お前、いつからここにいたんだ?その格好、もしかして昨日から着替えていないのか?」
トーマスを指差して服装を指摘すると、トーマスはなにやら薄ら笑いを浮かべて、自分の服に目を落とした。
「昨晩からだよ。お前達が朝一で帰るかもしれないから、昨晩からずっと待ってたんだよ」
「どうやって?夜はトバリが出るだろう?」
俺が率直に疑問を投げると、後ろのカチュアが俺を呼ぶようにシャツを引いた。
「・・・もしかして、道神様の祠かも・・・」
「祠?」
俺が顔を後ろに向けてそう口にすると、トーマスが正解とでも言うように両手を数回叩き合わせた。
「あぁ、その通りだよカチュア!そこの道神様の祠の中で、夜が明けるまで一晩中起きて待ってたんだ!恐ろしいもんだったぜ!いくら扉を閉めていても、すぐそこにトバリがいるのがハッキリ分かるんだ!全部お前のせいだぞ!」
トーマスが右手で林の中を指す方に顔を向けると、樹々の間に隠れるように少し寂れた木造りの祠が見えた。少し離れているが、大人一人~二人くらいは余裕を持って入れそうな大きさだ。
俺が祠に顔を向けていると、トーマスは大声でカチュアを責める言葉を喚きながら近づいて来た。
カチュアは一層怯えたように、俺の背中でシャツを強く掴んでいる。
俺は祠からトーマスに顔を戻した。
「・・・・・お前、さっきから何言ってんだよ?カチュアは昨日ハッキリ言ったはずだぞ。俺がカチュアの旦那だって。それに、昔は面倒見の良いお兄ちゃんだったとも言っていた。これ以上カチュアをガッカリさせるまねはやめろ」
目の前で俺を見下ろし睨むトーマスに、俺も見上げる形で睨み返した。
「ふざけるなよ!そんな事俺は認めない!俺の方がカチュアをよく分かっている!今は気の迷いとお前に騙されているだけだ!」
「そんな事ない!」
トーマスが再び大声を出すと、後ろからカチュアも振り絞るように声を出した。
そして俺のシャツは掴んだままだが、背中から体を出してトーマスの顔を見てハッキリと言い切った。
「トーマスさん、私はアラタ君が好きだから一緒にいるの!騙されてもいないし、気の迷いでもない!もう私達は夫婦なの!だからお願い、私の事は諦めて!昔みたいに優しいトーマスお兄ちゃんに戻って!」
カチュアの言葉にトーマスは言葉を失い、ふらふらとおぼつかない足取りで数歩後ろに下がった。
「・・・そ、そんなはずはない・・・そうだ、そんなはずない・・・俺の方が、俺の方が・・・」
トーマスは頭を押さながら、ブツブツと現実から目を背ける言葉を呟きだした。
「・・・カチュア、危ないかもしれない。俺の後ろにいてくれ」
「う、うん・・・」
カチュアが俺の後ろに隠れると、俺は左拳を軽く握り、右手は顔の横に、体を半身にした構えをとった。
「ア、アラタくん!暴力は駄目だよ!この道で人を殴ったら道神様に連れて行かれちゃう!」
ファイティングポーズをとった俺に、カチュアが慌てて声を上げた。
「え、あ、自己防衛もだめなのか?」
俺が振り向いてカチュアにそう尋ねると同時に、トーマスが張り裂けんばかりの声を上げて俺に掴みかかってきた。
「しまっ・・・!」
このタイミングでも左を合わせる事はできる。
だが、自己防衛も悪さと判断されるのならば、殴るわけにはいかない。
どうすべきか判断に迷った俺は、まず巻き込まれないようにと、カチュアを軽く押して逃がした。
そのタイミングでトーマスは俺の両肩を掴み、そのまま体格差をいかして俺を地面に押し倒した。
「てめぇのせいだ!全部てめぇが悪いんだ!俺のカチュアを!俺のカチュアをたぶらかしやがって!」
馬乗りの体勢で、トーマスが俺の顔面目掛けて拳を振り下ろしたが、俺の目には止まって見える。
難なく避けて次に備えながらトーマスを説得した。
「おい、やめろ!お前もここ住んでるなら知ってるんだろ?道神様に連れて行かれるぞ」
「うるせぇ!だからなんだ!どうせ作り話だ!そんなの一度も見た事ねぇんだよ!」
何度も殴ろうと拳を振るうが、全てかわされるか防がれて一度も当たらない。
苛立ったトーマスは俺の胸ぐらを掴むと、そのまま激しく揺すりながら頭を地面に打ち付けた。
「この野郎!死ね!死ね!」
頭を砂利に打ち付けられて、痛みに顔をしかめる。
トーマスの手を掴んで剥がす事は、暴力に含まれるのだろうか?
引き剥がす事は簡単だ。だが、加減しても多少の痛みは与えるだろう。
自分を守るための行為だが、相手が痛がれば暴力になり悪と判断されるのだろうか?
地面に頭を打ちつけられても、俺のダメージ自体はほとんど無い。
軽く小突かれた程度の痛みだ。だから、このままトーマスの気がすむまで、されるがままでも問題はない。
しかし、気分は悪いので、どうしたらいいか悩んでいると、カチュアがトーマスの腕を掴んだ
「もうやめてよ!私のアラタ君に乱暴しないで!」
「なっ!くそ!カチュアお前!」
トーマスが捕まれた右腕を振り払うと、カチュアがバランスを崩して転ばされてしまった。
「おい!」
転んだカチュアを目にした瞬間、俺はトーマスの左腕を力任せに引き剥がした。
「ぐあっ!」
よほど痛かったのか、トーマスは顔をしかめ左腕を押さえて背中を丸くしている。
「カチュア!大丈夫か!?」
体を起こし、カチュアのそばに駆け寄り、怪我がないか確認をする。
「う、うん。ちょっと擦りむいただけ、大丈夫だよ。アラタ君は大丈夫?」
「俺はどこも怪我してないよ。カチュア・・・膝、よくもこんな・・・」
転んだ時に切ったのだろう。ワンピースが少し破れて、膝が擦りむけて血が出ていた。
俺は振り返ってトーマスを睨み付けた。
大切な人を傷つけられて、黙っている事はできない。
道神様なんて知った事か!
「お前、覚悟できてんだろうな・・・」
拳を握りしめトーマスに一歩近づいた。
俺の声に反応してトーマスも顔を上げ、歯を食い縛りながら睨んでくる。
「アラタ君!駄目だよ!暴力は絶対に・・・え?」
背中に届いたカチュアの声が急に途切れた。
「ア、アラタ君!あ、あれ!」
カチュアが後ろから俺の肩を掴み強く揺する。
一体どうしたのかと、カチュアが指差す方向に目を向けると、さっき見た道神様の祠の前に、真っ白い服を着た5~6才くらいの女の子が立っていた。
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