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408 カチュアの家へ ③
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「お花屋さん、親切だったね」
「うん、ちょっと変わった人だったけど、話しやすかったしね」
花屋を出た俺とカチュアは、花屋の角を曲がった林に入り砂利道を歩いていた。
裏道というヤツだろうか。
人が二人並んで歩けるくらいの道幅はあるが、頭上を覆い隠す程に高く伸びた樹々は陽の光を遮り、辺りは薄暗く寂しい雰囲気だった。
「カチュア・・・いつもこの道通って出勤してるの?」
「うん、そうだよ」
「・・・・・危なくないか?その、女の子一人でこんな人気もなくて薄暗い道って」
少し心配になり周囲を見渡す。
日本ならあまり女性一人で歩かせたくない道だ。
「心配してくれてるんだ。ありがとう。でも、大丈夫なんだよ。だってこの道で悪い事をする人はいないから」
前を歩くカチュアが振り向いて足を止めるので、俺も合わせて立ち止まった。
「え?・・・どういう事?」
「うん。クインズベリーの人だったら、誰もしないと思うよ」
さも当然というように、全く自分の言葉を疑う様子もないカチュアの目を見ると、言葉に詰まってしまう。
「あ、ごめんね、アラタ君は知らなくて当然だよね。あのね、この道で悪い事をすると道神様に連れて行かれちゃうんだよ。だからクインズベリーの人は、この道では絶対に悪い事をしないんだよ」
「ミチガミ・・・様?なにそれ?」
初めて聞く言葉に戸惑いながら確認をすると、カチュアは両手を腰の後ろで組んで、クルリと回って俺に背中を向けた。
「・・・昔々、ある村に小さな女の子が住んでいました。女の子の家は村の外れにあり、家に帰るためには薄暗い樹々の間の、じゃり道を通って行くしか道がありません」
「・・・え、カ、カチュア?」
突然低い声で話しだしたカチュアの背中に声をかけるが、カチュアは背中を向けたまま言葉を続ける。
「ある日、女の事が家に帰ろうといつものようにじゃり道を歩いていると、突然知らない男の人に口を塞がれ、林の奥に連れて行かれて殺されてしまったのです。それ以来、女の子が連れて行かれた道で悪さをすると、小さい女の子の霊が現れ、暗い所へ連れて行かれて二度と帰って来れなくなるのでした」
カチュアの話しに俺は息を飲んだ。なぜなら、今の流れで語られた話しは、どう考えても・・・
「そ、それって、この道・・・だよね?」
「・・・ワッ!」
「うおぉッツ!」
勢いをつけて振り返り、カチュアが口の脇で両手を筒のように形どり声を上げるので、俺は驚きで一歩二歩と後ろに下がってしまった。
「あははは!驚いた?ごめんね。ちょっとビックリさせてみた!」
イタズラが成功して笑う子供のような表情を見せるカチュアに、俺は胸を押さえて不満を口にした。
「勘弁してくれよ~、まだドキドキしてる。カチュアってたまに悪ノリするよね?この前もレイチェルと一緒に、お金の管理でイジってきたし」
「ふふふ、ごめんね。怒らないで」
そう言ってカチュアは俺の前に来ると手を繋いできた。
「う~ん、ここで手を繋ぐのはなんかズルいぞ。怒れないじゃないか」
「いいからいいから、じゃあ行こっか」
ニコニコと楽しそうな笑顔のカチュアを見ると、しかたないなという気持ちになってしまい、俺はポリポリ頭を掻いて歩き出した。
「でもね、さっきの話しは本当なんだよ?みんな信じてるから、この道で悪い事をする人はいないの。怖いけど見方を変えれば、悪い人から護ってくれてるでしょ?だから道神様って呼ぶようになったんだって」
「へぇ・・・この道の神様って事か」
あらためて辺りを見回した。
やはり薄暗くて寂しい道だ。確かに護ってくれているという見方はできるが、そういう逸話のある道だから、わざわざ舗装したり手を加えようとせずに、そのままになっているのかもしれない。
「うん。私はそう思ってるよ。というか、この先に住んでる人はみんなかな。だから、ここを通るのは全然怖くないの」
「そっか、うん。それなら安心だね」
今話しを聞いたばかりなので正直なところ半信半疑だった。
だが魔法のあるこの世界なら、そういう神様がいても不思議ではないだろうと否定はしなかった。
なによりカチュアが信じているのならば、自分も信じようという気持ちだった。
それから10分ちょっとくらいだと思う。
道なりに歩いて行くと、林を抜けて開けた場所に出た。
少し傾斜があり、数段程度の短い石造りの階段があったので、二人で手を繋いで階段を降りる。
降りるとまたじゃり道なのだが、林の中と比べると大きな石も無く歩きやすい。
「アラタ君、見えて来た。あそこだよ」
小石を踏む音を鳴らして歩いていると、カチュアが前を指差したのでそれを目で追うと、街と同じく赤レンガの家が目に入ってきた。そして同じような造りの家が十数件程度だろうか、一定の感覚で並んでいる。
率直な印象としては、街外れの民家の集まりという感じだった。
敷地内は石畳で舗装されており、俺達はやっとじゃり道から解放された。
辺りをぐるりと見回すと、子供の頃夏休みに行った祖父母の家を思い出した。
途中までは何でもある便利な街並みなのだが、そこを車で十数分程度離れるだけで急に静かで何も無い田舎になるのだ。
ここもちょうどそんな印象だった。
日本とは全然違う家の造りだが、どこか懐かしさを感じる。
「アラタ君、私の家はこっちだよ」
「あ、うん」
そんな事を考えているとカチュアに手を引かれたので、そのままカチュアに連れられて歩いて行くと、二階建ての赤レンガの家の前で足を止めた。
玄関前には青と黄色の花が植えてあり、赤レンガともコントラストが合っていてとても綺麗だった。
「おじいちゃん達いるかな」
「カチュア!」
そう呟いてカチュアがドアに手をかけると、突然後ろから少し大きい声でカチュアの名前が呼ばれる。
振り返ると、見上げた感じから俺より10cmは背が高く、黒い革ジャンを着た長身でダークブラウンの髪の男が、険しい顔で立っていた。
「うん、ちょっと変わった人だったけど、話しやすかったしね」
花屋を出た俺とカチュアは、花屋の角を曲がった林に入り砂利道を歩いていた。
裏道というヤツだろうか。
人が二人並んで歩けるくらいの道幅はあるが、頭上を覆い隠す程に高く伸びた樹々は陽の光を遮り、辺りは薄暗く寂しい雰囲気だった。
「カチュア・・・いつもこの道通って出勤してるの?」
「うん、そうだよ」
「・・・・・危なくないか?その、女の子一人でこんな人気もなくて薄暗い道って」
少し心配になり周囲を見渡す。
日本ならあまり女性一人で歩かせたくない道だ。
「心配してくれてるんだ。ありがとう。でも、大丈夫なんだよ。だってこの道で悪い事をする人はいないから」
前を歩くカチュアが振り向いて足を止めるので、俺も合わせて立ち止まった。
「え?・・・どういう事?」
「うん。クインズベリーの人だったら、誰もしないと思うよ」
さも当然というように、全く自分の言葉を疑う様子もないカチュアの目を見ると、言葉に詰まってしまう。
「あ、ごめんね、アラタ君は知らなくて当然だよね。あのね、この道で悪い事をすると道神様に連れて行かれちゃうんだよ。だからクインズベリーの人は、この道では絶対に悪い事をしないんだよ」
「ミチガミ・・・様?なにそれ?」
初めて聞く言葉に戸惑いながら確認をすると、カチュアは両手を腰の後ろで組んで、クルリと回って俺に背中を向けた。
「・・・昔々、ある村に小さな女の子が住んでいました。女の子の家は村の外れにあり、家に帰るためには薄暗い樹々の間の、じゃり道を通って行くしか道がありません」
「・・・え、カ、カチュア?」
突然低い声で話しだしたカチュアの背中に声をかけるが、カチュアは背中を向けたまま言葉を続ける。
「ある日、女の事が家に帰ろうといつものようにじゃり道を歩いていると、突然知らない男の人に口を塞がれ、林の奥に連れて行かれて殺されてしまったのです。それ以来、女の子が連れて行かれた道で悪さをすると、小さい女の子の霊が現れ、暗い所へ連れて行かれて二度と帰って来れなくなるのでした」
カチュアの話しに俺は息を飲んだ。なぜなら、今の流れで語られた話しは、どう考えても・・・
「そ、それって、この道・・・だよね?」
「・・・ワッ!」
「うおぉッツ!」
勢いをつけて振り返り、カチュアが口の脇で両手を筒のように形どり声を上げるので、俺は驚きで一歩二歩と後ろに下がってしまった。
「あははは!驚いた?ごめんね。ちょっとビックリさせてみた!」
イタズラが成功して笑う子供のような表情を見せるカチュアに、俺は胸を押さえて不満を口にした。
「勘弁してくれよ~、まだドキドキしてる。カチュアってたまに悪ノリするよね?この前もレイチェルと一緒に、お金の管理でイジってきたし」
「ふふふ、ごめんね。怒らないで」
そう言ってカチュアは俺の前に来ると手を繋いできた。
「う~ん、ここで手を繋ぐのはなんかズルいぞ。怒れないじゃないか」
「いいからいいから、じゃあ行こっか」
ニコニコと楽しそうな笑顔のカチュアを見ると、しかたないなという気持ちになってしまい、俺はポリポリ頭を掻いて歩き出した。
「でもね、さっきの話しは本当なんだよ?みんな信じてるから、この道で悪い事をする人はいないの。怖いけど見方を変えれば、悪い人から護ってくれてるでしょ?だから道神様って呼ぶようになったんだって」
「へぇ・・・この道の神様って事か」
あらためて辺りを見回した。
やはり薄暗くて寂しい道だ。確かに護ってくれているという見方はできるが、そういう逸話のある道だから、わざわざ舗装したり手を加えようとせずに、そのままになっているのかもしれない。
「うん。私はそう思ってるよ。というか、この先に住んでる人はみんなかな。だから、ここを通るのは全然怖くないの」
「そっか、うん。それなら安心だね」
今話しを聞いたばかりなので正直なところ半信半疑だった。
だが魔法のあるこの世界なら、そういう神様がいても不思議ではないだろうと否定はしなかった。
なによりカチュアが信じているのならば、自分も信じようという気持ちだった。
それから10分ちょっとくらいだと思う。
道なりに歩いて行くと、林を抜けて開けた場所に出た。
少し傾斜があり、数段程度の短い石造りの階段があったので、二人で手を繋いで階段を降りる。
降りるとまたじゃり道なのだが、林の中と比べると大きな石も無く歩きやすい。
「アラタ君、見えて来た。あそこだよ」
小石を踏む音を鳴らして歩いていると、カチュアが前を指差したのでそれを目で追うと、街と同じく赤レンガの家が目に入ってきた。そして同じような造りの家が十数件程度だろうか、一定の感覚で並んでいる。
率直な印象としては、街外れの民家の集まりという感じだった。
敷地内は石畳で舗装されており、俺達はやっとじゃり道から解放された。
辺りをぐるりと見回すと、子供の頃夏休みに行った祖父母の家を思い出した。
途中までは何でもある便利な街並みなのだが、そこを車で十数分程度離れるだけで急に静かで何も無い田舎になるのだ。
ここもちょうどそんな印象だった。
日本とは全然違う家の造りだが、どこか懐かしさを感じる。
「アラタ君、私の家はこっちだよ」
「あ、うん」
そんな事を考えているとカチュアに手を引かれたので、そのままカチュアに連れられて歩いて行くと、二階建ての赤レンガの家の前で足を止めた。
玄関前には青と黄色の花が植えてあり、赤レンガともコントラストが合っていてとても綺麗だった。
「おじいちゃん達いるかな」
「カチュア!」
そう呟いてカチュアがドアに手をかけると、突然後ろから少し大きい声でカチュアの名前が呼ばれる。
振り返ると、見上げた感じから俺より10cmは背が高く、黒い革ジャンを着た長身でダークブラウンの髪の男が、険しい顔で立っていた。
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