398 / 1,253
【397 樹々に囲まれた小屋の中で ⑦】
しおりを挟む
すぐに分かりました。
だって私とずっと一緒にいてくれた兄様ですから。
あの得体の知れないナニかは、兄様が追い払ってくれたんですね。
躊躇いはありませんでした。
引き戸を開けると、そこには私と同じ白い髪と黒い瞳・・・いつもと変わらない姿の兄様が立っていました。
「・・・兄様」
嬉しさのあまり声が振るえて涙が零れそうになる。もう一度会えるなんて思いませんでした。
ちゃんとお別れを言えなかったから・・・それがずっと心に残ってて苦しかった・・・
一歩近づくと、兄様は優しく微笑んで私の頭に手を置いてくれました。
不思議な感覚でした。
触られているようだけど感触がなくて・・・だけど暖かくてとても落ち着く・・・
『・・・クラレッサ、もう大丈夫だよ。よく頑張ったね・・・』
いつだって、どんな時だって、私を支えてくれた温かな兄様の声でした。
「・・・私は何もできませんでした。おじいさんがいなければ今頃どうなっていたか・・・」
『・・・ブレンダンに良くしてもらってるみたいだね・・・・・・』
そう言って兄様はおじいさんに顔を向き直ると、深く腰を折って頭を下げました。
『ブレンダン・・・妹を護ってくれてありがとう・・・』
兄様の言葉に、おじいさんは目を細めて頷きました。
とても優しい笑顔・・・きっと孤児院の子供達は、みんな毎日この笑顔に見守られているのでしょう。
子供達には全く興味はなかったけれど、少しだけ知りたいと思いました。
「約束じゃからな。それに、ワシはもうクラレッサを自分の娘と思うておるよ。護るのは当然じゃろ?」
おじいさんの気持ちに私は胸が温かくなりました。
おじいさんは本当の父様ではありません。
だけど、おじいさんが私を本当の娘と思ってくださるのなら・・・私もおじいさんを本当の父様と思える日が来るかもしれません。
兄様はおじいさんから私に視線を戻すと、私の右目にそっと手を当てました。
冷たかった右目が少しだけ温かくなります。
『クラレッサ、悪霊は僕が連れて行くよ。もうクラレッサを苦しめるものは何もない』
「え・・・兄様、そんな事ができるのですか?」
兄様は優しく微笑むと最後に私をそっと抱き締めてくれました。
『もう行かなきゃ・・・・・クラレッサの幸せを願っている』
「兄様・・・」
私を抱き締める腕を離し背を向けた兄様を見て、直感が知らせました。
おそらくこれが最後・・・・・もう兄様には会えない。
そう感じて、私は兄様の背中に声をかけました。
「兄様!また・・・また会えますか?」
会えないと分かってるのに・・・・・
兄様は立ち止まると、少しだけ何かを考えるように間を置きました。
それからゆっくりと振り返って、私に笑顔を見せてくれました。
『もちろんだよクラレッサ・・・・・また会おう』
・・・・・だから一生懸命生きるんだよ・・・・・
そして兄様の体は少しずつ色を失うように薄くなっていき、風に流されるように消えていきました・・・・・
「・・・・・兄様、ありがとう」
悲しいけれど、どこか温かい・・・・・私の心に刺さっていた棘が抜けた気がしました。
兄様が護ってくれたこの命を、私は兄様が安心できるように、兄様が喜んでくれるように、精一杯前を向いて生きようと思います。
「おじいさん、私・・・孤児院のみんなと仲良くしたいです」
「クラレッサ・・・うむ、心配するでない。前にも言うたがみんな優しい良い子達じゃ。すぐに仲良くなれる」
おじいさんはとても嬉しそうに答えてくれました。
良い顔になった、そう言って私の頭を撫でてくれるその手は、とても大きく優しさに満ちていました。
カエストゥスは私が生まれた国・・・そして遠い昔、家族四人で一緒に暮らした国。
あれから10年以上経って、また帰って来るなんて思いませんでした。
もう父様と母様と兄様もいないけれど、私にはおじいさんがいます。
孤児院の子供達とはまだ会ってないけれど、仲良くできたら嬉しいな・・・・・
大丈夫、きっと仲良くなれる。
だっておじいさんが、私を家族としてむかえてくれるんだから。
これから共に生きる新しい家族を想い、私は心を弾ませた。
だって私とずっと一緒にいてくれた兄様ですから。
あの得体の知れないナニかは、兄様が追い払ってくれたんですね。
躊躇いはありませんでした。
引き戸を開けると、そこには私と同じ白い髪と黒い瞳・・・いつもと変わらない姿の兄様が立っていました。
「・・・兄様」
嬉しさのあまり声が振るえて涙が零れそうになる。もう一度会えるなんて思いませんでした。
ちゃんとお別れを言えなかったから・・・それがずっと心に残ってて苦しかった・・・
一歩近づくと、兄様は優しく微笑んで私の頭に手を置いてくれました。
不思議な感覚でした。
触られているようだけど感触がなくて・・・だけど暖かくてとても落ち着く・・・
『・・・クラレッサ、もう大丈夫だよ。よく頑張ったね・・・』
いつだって、どんな時だって、私を支えてくれた温かな兄様の声でした。
「・・・私は何もできませんでした。おじいさんがいなければ今頃どうなっていたか・・・」
『・・・ブレンダンに良くしてもらってるみたいだね・・・・・・』
そう言って兄様はおじいさんに顔を向き直ると、深く腰を折って頭を下げました。
『ブレンダン・・・妹を護ってくれてありがとう・・・』
兄様の言葉に、おじいさんは目を細めて頷きました。
とても優しい笑顔・・・きっと孤児院の子供達は、みんな毎日この笑顔に見守られているのでしょう。
子供達には全く興味はなかったけれど、少しだけ知りたいと思いました。
「約束じゃからな。それに、ワシはもうクラレッサを自分の娘と思うておるよ。護るのは当然じゃろ?」
おじいさんの気持ちに私は胸が温かくなりました。
おじいさんは本当の父様ではありません。
だけど、おじいさんが私を本当の娘と思ってくださるのなら・・・私もおじいさんを本当の父様と思える日が来るかもしれません。
兄様はおじいさんから私に視線を戻すと、私の右目にそっと手を当てました。
冷たかった右目が少しだけ温かくなります。
『クラレッサ、悪霊は僕が連れて行くよ。もうクラレッサを苦しめるものは何もない』
「え・・・兄様、そんな事ができるのですか?」
兄様は優しく微笑むと最後に私をそっと抱き締めてくれました。
『もう行かなきゃ・・・・・クラレッサの幸せを願っている』
「兄様・・・」
私を抱き締める腕を離し背を向けた兄様を見て、直感が知らせました。
おそらくこれが最後・・・・・もう兄様には会えない。
そう感じて、私は兄様の背中に声をかけました。
「兄様!また・・・また会えますか?」
会えないと分かってるのに・・・・・
兄様は立ち止まると、少しだけ何かを考えるように間を置きました。
それからゆっくりと振り返って、私に笑顔を見せてくれました。
『もちろんだよクラレッサ・・・・・また会おう』
・・・・・だから一生懸命生きるんだよ・・・・・
そして兄様の体は少しずつ色を失うように薄くなっていき、風に流されるように消えていきました・・・・・
「・・・・・兄様、ありがとう」
悲しいけれど、どこか温かい・・・・・私の心に刺さっていた棘が抜けた気がしました。
兄様が護ってくれたこの命を、私は兄様が安心できるように、兄様が喜んでくれるように、精一杯前を向いて生きようと思います。
「おじいさん、私・・・孤児院のみんなと仲良くしたいです」
「クラレッサ・・・うむ、心配するでない。前にも言うたがみんな優しい良い子達じゃ。すぐに仲良くなれる」
おじいさんはとても嬉しそうに答えてくれました。
良い顔になった、そう言って私の頭を撫でてくれるその手は、とても大きく優しさに満ちていました。
カエストゥスは私が生まれた国・・・そして遠い昔、家族四人で一緒に暮らした国。
あれから10年以上経って、また帰って来るなんて思いませんでした。
もう父様と母様と兄様もいないけれど、私にはおじいさんがいます。
孤児院の子供達とはまだ会ってないけれど、仲良くできたら嬉しいな・・・・・
大丈夫、きっと仲良くなれる。
だっておじいさんが、私を家族としてむかえてくれるんだから。
これから共に生きる新しい家族を想い、私は心を弾ませた。
0
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。
▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ......
どうしようΣ( ̄□ ̄;)
とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!!
R指定は念のためです。
マイペースに更新していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる