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理太郎

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【394 樹々に囲まれた小屋の中で ④】

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ブレンダンはカエストゥスで生まれ育ち70年である。
首都の近辺など庭のようなものだった。

当然、今自分がいる場所もおおよそ分かってはいる。
ゆるかやに流れる川、そして顔を上げると少し遠くに見える首都バンテージのエンスウィル城。

目に映るエンスウィル城の大きさからして、おそらく首都から歩きで30~40分程度の距離だろうと検討も付いた。

川沿いに歩き続ければ問題なく着く。
・・・そのはずだった。



「・・・考えてみれば、ワシはこんな小屋初めて見るぞ。かなり年期が入っているようじゃが、いったいいつ誰が作ったんじゃ?」

森を歩き続け、出発地点の小屋に戻ってしまったブレンダンとクラレッサは、まさかと思いながら小屋の中を覗き込んだ。
自分達は小屋を出てから、川沿いを真っ直ぐ歩き続けた。
戻って来るはずが無いのだ。
似たような小屋があっただけだと・・・


しかし出発前に魚を食べた時の焚火の跡もあり、否が応でもここが出発した時の小屋だという現実を突きつけられてしまう。


「・・・おじいさん、どういう事でしょうか?」

「・・・分からん。ワシらは真っ直ぐに川沿いを歩いた。一周して戻ってくるなんてありえんぞ」

一先ず小屋に入って休もう、その言葉にクラレッサは小さく、はい、とだけ返事をして中へ足を踏み入れた。



水を飲んで腰を下ろし体を休める。
クラレッサは何も言わず、膝を抱えたまま黙ってブレンダンの隣に座っている。
何が起きているのか分からず、不安になっている事が伝わって来る。

「・・・クラレッサ、もう一度歩いてみるか?」

ブレンダンの問いかけに、クラレッサはすぐには反応を見せなかったが、少しの沈黙の後、意を決したうようにハッキリと頷いた。

「・・・はい。もう一度歩いてみます。今度は周りをよく見て歩きます」

そうじゃな。ブレンダンはそう一言言葉を返すと、ローブについた砂や誇りを払い立ち上がった。

「ここでじっとしてても何も変わらんからな。ワシもなにがおかしいか注意しながら歩くとしよう」


小屋を出るとだいぶ陽が傾いていた。
夕焼けが樹々の枝葉を赤く染め始めている。

「・・・陽は持ってあと一時間というところかの。冬は暗くなるのが早くてこういう時は困るな」

「そうですね。急ぎましょう」

うむ、とブレンダンが頷くと、二人はまた川の流れに沿って並んで歩き出した。

焦りや不安からか、やや足速ではある。
だが、なにか異常があれば見落とさないように、周囲に気を配る事は忘れない。

ブレンダンはクラレッサの緊張をほぐすように、足元への注意や、歩くペースなどに織り交ぜて、それとなく声をかけた。
それに対しクラレッサは、大丈夫です。と言葉少なに返事をするだけだった。
表情が硬く、やはり緊張しているのは見て取れる。



「・・・クラレッサ」

「・・・はい、やっぱりここは一度通ってます」

10分、15分程歩いただろうか。
二人は足を止めて辺りを見回した。

「・・・ふむ、ここは確かに一度通った場所じゃ。そこの大岩は見間違いようがない」

ブレンダンが川沿いの大岩を指差した。
大人二人は座れそうな平たい岩で、覚えやすい目印と言える。

「はい。私もこの岩を目印にしました。それともう一つ、あそこの樹の根が盛り上がっていて、兎くらいならくぐれそうだと思ってあれも目印にしてました。二つも同じ特徴があれば、これは間違いないでしょう」

「よく見とるのう・・・して、どうじゃ?なにか分かるか?」

「・・・いえ、私とおじいさんがこの森に捕らわれてしまったのは理解できましたが、なぜこのようになってしまったのかは分かりません」

首を横に振るクラレッサ。ブレンダンもまた、原因が分からず首をひねるだけだった。

陽が沈むギリギリまで周囲を調べて回ったが、結局何も見つける事ができず二人はその場を後にした。




「結局、ここに戻ってしまいましたね」

半壊した小屋を前にしてクラレッサとブレンダンは立ち止まっていた。

クラレッサは表情が読めず、ただぼんやりと小屋を眺めているようにも見える。
ブレンダンは腕を組み、眉間にシワを寄せている事から、今後について頭を悩ませているようだ。

「うむ・・・じゃが、これでハッキリしたな。川沿いを真っすぐ歩けばここに戻って来る。時間は感覚的なものじゃが、30分前後というところじゃろう。」


原因は分からないが、自分達は今この森に捕らわれている。
これがどういう現象なのかは分からないが、ただ歩くだけではこの森から出られそうにない。


「・・・おじいさん、暗くなりました。今日のところはこの小屋で休みませんか?」

「・・・今日のところは、そうするしかなさそうじゃな」

先に小屋に入ったクラレッサの後に続いて、ブレンダンも小屋の出入口をくぐる。

開けたままでは風が入ると思い、玄関の引き戸を閉めようと手をかけ動かそうとするが、
ガタガタと揺れてスムーズには動かせなかった。建付けの悪さというよりは、もはや壊れているのだろう。
それでも少し強く引くと、なんとか玄関戸は閉められた。






「・・・暖かいですね」

「そうじゃな。クラレッサが火を起こしてくれたからじゃよ。ありがとう」

食欲が沸かない事もあったが、暗くなり川の魚が見えないため、夜は水だけ飲んで何も食べていなかった。

二人は隣同士に座り、目の前で揺れる火にあたりながら、これからの事を考えていた。
本来であればすでに首都に入っていたはずだった。
あれから戦いはどうなったのだろう?城が見えた事から、首都はまだ被害を受けていないようだ。
セシリアもさすがに単身で首都に乗り込む事はしなかったのだろう。
自分達が逃げた後、戦力補給に動き時間がかかっているのかもしれない。

思わぬ形で足を止める事になり、そして脱出の方法がまるで分からない。
こうしている間にも、戦いの状況はどんどん変わっていく。
ブレンダン握り合わせた両手は、はやる気持ちを表すように、赤くなるほど強く力が入っていた。


「・・・おじいさん・・・あれは、なんでしょうか?」

つい、考え込んでしまっていると、クラレッサがブレンダンの袖を掴んだ。

「ん?あぁ、どうしたんじゃ?」

そこでクラレッサが指差す先に目を向ける。
ひび割れた窓ガラスは、一部が欠けていて小屋の外を見る事ができる。


窓ガラスの先でブレンダンの目に映ったものは、暗闇の中、列を作り歩く無数の人影だった
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