387 / 1,263
【386 光と炎】
しおりを挟む
赤く染まった身体、血を呑み込み赤をより赤く染めた刀身・・・セシリアの体から発せられる気は弥生を上回っていた。
「ぐうぅっ!」
セシリアの振るう一撃を受け止めきれず、弥生はその体を吹き飛ばされた。
女の細腕の打ち込みとは思えない、とてつもない膂力だった。
「ヤヨイーッツ!」
嬉々とした表情でセシリアがヤヨイに迫りくる。
一瞬で目の前に現れ、振り下ろされた深紅の刃が弥生の頭を狙う。
「あっ・・・ぐぅッ!」
薙刀の柄を前に出し受け止めるが、そのままセシリアに振り抜かれ、体ごと押し潰すかのように弥生は地面に叩きつけられた。
「あがッツ!」
地面を割る程の強い衝撃を全身に受け、一瞬視界が真っ白になるが、続けて襲い来るセシリアの殺気をその身に感じ、意識ではなくその体が反射的に弥生の体を動かした。
「あら!?すごいじゃない!あの体勢から躱すなんて、あなた本当に最高よ!」
躱すとほぼ同時に、一瞬前まで弥生の体があった場所に、斬撃が撃ち込まれる。
セシリアから大きく距離を取った弥生だったが、セシリアは開いた距離を一瞬で埋めて弥生の眼前に現れた。
「どうしたの!?あなたの力はこんなものじゃないでしょ!?私をがっかりさせないで!」
「くそっ!」
下がりながら苦し紛れに振るった一撃だが、セシリアは右手一本で弥生の刃を受け止め、そのまま驚きの顔を浮かべた弥生の左脇腹を蹴り抜いた。
「あぐッ・・・!」
蹴り飛ばされた弥生はそのまま地面に叩きつけられ、何度かその体を跳ねさせた後、体中を土と砂にまみれさせてやっと動きを止めた。
脇腹に残る強い痛みに顔を歪めながら体を起こし、口の中に入った砂利を吐き出す。
血液が混じったそれは茶色の地面に赤く色を付ける。
「・・・ねぇ、どうしたの?ヤヨイ、あなた本当にこれで精いっぱい?・・・だとしたらガッカリだわ。何年も待ち続けたのに、あなたも血狂刃の本性は受け止めきれないの?」
膝に手を着いてなんとか体を起こす弥生を見て、セシリアは溜息を付いた。
かつてカエストゥスの城で初めて弥生を目にした時、その体の中に眠る秘めた力・・・そう、魔法とは違う、なにか大きな力を感じ興味を持った。
それがなにかは分からなった。
だが、セシリアは弥生に対し運命めいたものを感じていた。
いつか自分はこの女と戦う時が来るだろう。そしてその時は持てる力の全てをぶつけられるはずだと。
血狂刃の第一段階は互角だった。
セシリアは確信した。
弥生が隠し持っている力、そして自分の血狂刃の本性・・・・・
互いの全力をぶつけられるはずだと
「・・・期待しすぎちゃったのかしらね。ヤヨイ、本当にそれが全力なら、もう終わりにしましょうか。あなたの代わりに、そうね・・・ウィッカーにでも相手してもらおうかしら。あの男も血狂刃の本性を見せるだけの力はあったしね」
ゆっくりと弥生の前まで歩いてくると、セシリアは深紅の片手剣を弥生の顔に突きつけた。
「・・・さよなら、ヤヨイ」
落胆の色をあらわにした冷たい声で別れを告げると、剣を上げ弥生の首筋を狙い振り下ろした。
「・・・え?」
セシリアの目が驚きに開かれる。
何かを隠しているとは思っていた。風の力も強力な武器だが、それだけではないと思っていた。
「・・・ヤヨイ、意外に人が悪いのね・・・こんなの初めて見たわ」
全身から眩いばかりの光を発し、弥生は右手一本でセシリアの剣を止めていた。
さっきまでは両手でも受けきれなかった。
だが今はセシリアが力を込めて押し切ろうとしても、弥生の薙刀も押し返そうと力をぶつけて来る。
「あはっ!すごいじゃない!なによそれ!?その光はなんなのよ!?」
「セシリア・・・見せてやるよ、アタシの全力を!」
声を上げて薙刀を振るいセシリアの剣を弾き返す。
その勢いでセシリアの体が右に流れて胴が空くと、弥生はその気を逃さず左拳をセシリアの右脇腹に叩きこんだ。
「ぐっうぅッ・・・」
セシリアの顔が痛みに歪む。今度はセシリアが弥生から距離を取る番だった。
大きく後ろに飛び退くと、ダメージを確認するように脇腹に手を当て軽く撫でる。
「・・・一発、返させてもらったよ」
弥生は薙刀を軽く振るい体を半身にすると、刃は地面と平行にし、左手で片端を上から持ち、右手は腰の辺りで下から持ち構えた。脇構えである。
「この光がなんなのか、アタシもよく知らないんだ。でもアンタのその炎に対抗できる力なのは間違いない。セシリア、覚悟しな!」
弥生の体から発せられる光は、セシリアの炎に勝るとも劣らない気を放っていた。
そのプレッシャーは木々を揺らし、舞い散る葉を破裂させる。
「うふふ・・・いいわ。それでこそ、私の見込んだ女よ。来なさい、弥生」
自分の体を吹き飛ばさんとする程の気を浴びせられるが、セシリアは狂気と愛情の入り混じった赤い瞳で、愛しい恋人でも見るかのように目を細めて微笑み浮かべながら、血狂刃を構えた。
二人の視線は交わり合っているが、もはやセシリアに瞳の力を使うつもりはなかった。
そんな決着は望んでいない。弥生に求めるものは血と肉が感じられる魂のぶつけ合い。
睨み合う両者の間に一枚の葉が舞い落ちる。
空気を破裂させる乾いた音が鳴り響き、木の葉が二つに割れた時、弥生とセシリアの刃がぶつかり合った。
「ぐうぅっ!」
セシリアの振るう一撃を受け止めきれず、弥生はその体を吹き飛ばされた。
女の細腕の打ち込みとは思えない、とてつもない膂力だった。
「ヤヨイーッツ!」
嬉々とした表情でセシリアがヤヨイに迫りくる。
一瞬で目の前に現れ、振り下ろされた深紅の刃が弥生の頭を狙う。
「あっ・・・ぐぅッ!」
薙刀の柄を前に出し受け止めるが、そのままセシリアに振り抜かれ、体ごと押し潰すかのように弥生は地面に叩きつけられた。
「あがッツ!」
地面を割る程の強い衝撃を全身に受け、一瞬視界が真っ白になるが、続けて襲い来るセシリアの殺気をその身に感じ、意識ではなくその体が反射的に弥生の体を動かした。
「あら!?すごいじゃない!あの体勢から躱すなんて、あなた本当に最高よ!」
躱すとほぼ同時に、一瞬前まで弥生の体があった場所に、斬撃が撃ち込まれる。
セシリアから大きく距離を取った弥生だったが、セシリアは開いた距離を一瞬で埋めて弥生の眼前に現れた。
「どうしたの!?あなたの力はこんなものじゃないでしょ!?私をがっかりさせないで!」
「くそっ!」
下がりながら苦し紛れに振るった一撃だが、セシリアは右手一本で弥生の刃を受け止め、そのまま驚きの顔を浮かべた弥生の左脇腹を蹴り抜いた。
「あぐッ・・・!」
蹴り飛ばされた弥生はそのまま地面に叩きつけられ、何度かその体を跳ねさせた後、体中を土と砂にまみれさせてやっと動きを止めた。
脇腹に残る強い痛みに顔を歪めながら体を起こし、口の中に入った砂利を吐き出す。
血液が混じったそれは茶色の地面に赤く色を付ける。
「・・・ねぇ、どうしたの?ヤヨイ、あなた本当にこれで精いっぱい?・・・だとしたらガッカリだわ。何年も待ち続けたのに、あなたも血狂刃の本性は受け止めきれないの?」
膝に手を着いてなんとか体を起こす弥生を見て、セシリアは溜息を付いた。
かつてカエストゥスの城で初めて弥生を目にした時、その体の中に眠る秘めた力・・・そう、魔法とは違う、なにか大きな力を感じ興味を持った。
それがなにかは分からなった。
だが、セシリアは弥生に対し運命めいたものを感じていた。
いつか自分はこの女と戦う時が来るだろう。そしてその時は持てる力の全てをぶつけられるはずだと。
血狂刃の第一段階は互角だった。
セシリアは確信した。
弥生が隠し持っている力、そして自分の血狂刃の本性・・・・・
互いの全力をぶつけられるはずだと
「・・・期待しすぎちゃったのかしらね。ヤヨイ、本当にそれが全力なら、もう終わりにしましょうか。あなたの代わりに、そうね・・・ウィッカーにでも相手してもらおうかしら。あの男も血狂刃の本性を見せるだけの力はあったしね」
ゆっくりと弥生の前まで歩いてくると、セシリアは深紅の片手剣を弥生の顔に突きつけた。
「・・・さよなら、ヤヨイ」
落胆の色をあらわにした冷たい声で別れを告げると、剣を上げ弥生の首筋を狙い振り下ろした。
「・・・え?」
セシリアの目が驚きに開かれる。
何かを隠しているとは思っていた。風の力も強力な武器だが、それだけではないと思っていた。
「・・・ヤヨイ、意外に人が悪いのね・・・こんなの初めて見たわ」
全身から眩いばかりの光を発し、弥生は右手一本でセシリアの剣を止めていた。
さっきまでは両手でも受けきれなかった。
だが今はセシリアが力を込めて押し切ろうとしても、弥生の薙刀も押し返そうと力をぶつけて来る。
「あはっ!すごいじゃない!なによそれ!?その光はなんなのよ!?」
「セシリア・・・見せてやるよ、アタシの全力を!」
声を上げて薙刀を振るいセシリアの剣を弾き返す。
その勢いでセシリアの体が右に流れて胴が空くと、弥生はその気を逃さず左拳をセシリアの右脇腹に叩きこんだ。
「ぐっうぅッ・・・」
セシリアの顔が痛みに歪む。今度はセシリアが弥生から距離を取る番だった。
大きく後ろに飛び退くと、ダメージを確認するように脇腹に手を当て軽く撫でる。
「・・・一発、返させてもらったよ」
弥生は薙刀を軽く振るい体を半身にすると、刃は地面と平行にし、左手で片端を上から持ち、右手は腰の辺りで下から持ち構えた。脇構えである。
「この光がなんなのか、アタシもよく知らないんだ。でもアンタのその炎に対抗できる力なのは間違いない。セシリア、覚悟しな!」
弥生の体から発せられる光は、セシリアの炎に勝るとも劣らない気を放っていた。
そのプレッシャーは木々を揺らし、舞い散る葉を破裂させる。
「うふふ・・・いいわ。それでこそ、私の見込んだ女よ。来なさい、弥生」
自分の体を吹き飛ばさんとする程の気を浴びせられるが、セシリアは狂気と愛情の入り混じった赤い瞳で、愛しい恋人でも見るかのように目を細めて微笑み浮かべながら、血狂刃を構えた。
二人の視線は交わり合っているが、もはやセシリアに瞳の力を使うつもりはなかった。
そんな決着は望んでいない。弥生に求めるものは血と肉が感じられる魂のぶつけ合い。
睨み合う両者の間に一枚の葉が舞い落ちる。
空気を破裂させる乾いた音が鳴り響き、木の葉が二つに割れた時、弥生とセシリアの刃がぶつかり合った。
0
お気に入りに追加
142
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる