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【384 風と炎が交差する時】

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「ジャニス・・・カエストゥスで、いえ、この大陸で一番と言われる白魔法使い。本当に驚かされたわ。ほとんど一瞬で次から次と治して、噂以上の魔力ね・・・ハッキリ言って邪魔だわ」

「セシリア、あんたになんて負けない」

睨み合う二人。まだ数メートルの距離があるが、セシリアが一歩詰めて来た。

「うふふ・・・面白い事言うのね?白魔法使いのあなたが、私に勝つつもり?どうやって?」

「私は治す事しかできない。だから武器を持ってあんたと戦う事はできない。私の戦いはあんたの炎と剣から、みんなを護る事よ。あんたはヤヨイさんが絶対に倒してくれる」



「・・・あなた、私の瞳が怖くないの?」

セシリアから視線を外さないジャニスに、セシリアは少しだけ首を傾げた。

「今のヒールを見てたでしょ?やってごらんなさいよ?その瞬間に回復するから私には何の脅威でもないわ」


「・・・あなた、とっても素敵だわ」

セシリアの目が嬉しそうに細められ、その赤い唇の端が持ち上がる。

「セシリアァァァーッツ!」

ジャニスへ向けられたセシリアの殺気を感じ取ったエリンが、剣を振りかぶって後ろから飛び掛かった。

不意打ちにも関わらず大声を上げたのは、注意を自分に向けるため。
そしてこの一撃が当たるとは思ってもいない。


ジャニス様は死なせてはいけない!
これだけの回復魔法、一体どれだけの人を救えるのか・・・この人は希望だ!


当たるとも思っていない一撃であっても繰り出したのは、身を盾にしてでもジャニスを護る!
その強い意思からであった。

「うるさいわね・・・今、いいところなのよ!」

まるで背中に目があるとでも言うかように、全く後ろを確認せずにセシリアは体をわずかに右にずらすと、たった今までセシリアの頭があった場所を、エリンの上段から振り下ろした剣が風を斬って通り過ぎた。

「なっ!」

当たると思ってはいなかったが、まさか振り返る事もなく躱された事に、エリンは驚きの声を上げた。

「もう、あなたには興味ないわ」

頭の後ろから感情のこもらない冷たい声がかけられる。
まるで興味の無くなった玩具を捨てる時のように、とても無機質で、しかしとても残酷な声色に、ゾクリとした寒気がエリンの全身を襲う。


この後自分の身に起こる事は、絶対的強者による命の刈り取り。
エリンの首筋にセシリアの炎の刃が触れた時、熱さと鋭い痛みを脳が認識したその時、刃と刃がぶつかり合う音が背後で鳴り響いた。



「・・・うふふ、やっと来た。待ってたわよ」


振り返ると長い黒髪の女性が、槍のように長い武器を持って、セシリアの深紅の片手剣を受け止めていた。

「ヤヨイさん!」


「エリン、無事でよかったよ。ここからはアタシに任せな」


両端を持った薙刀で、両手で押し出すようにしてセシリアの剣を弾き返す。
一歩後ずさるセシリア。

弥生は薙刀の刃を地面に当てると、セシリア目掛けて勢いよく振り上げた。
風の刃が大地を斬り裂きセシリアへと襲い掛かる。


「はぁぁぁぁッ!」

振り上げたセシリアの深紅の片手剣が、紅蓮の炎を発し赤々と燃え上がる。

「ヤヨイ!楽しませてよ!」

振り下ろした剣の切っ先から放たれた炎が、風の刃とぶつかり合う。
風が炎を斬り裂き、炎が風を呑み込む。


「・・・行くよ、新緑!」
ジョルジュの住む森の樹を使い作り上げた薙刀。これを握ると精霊が近く感じられる。
風の精霊よ・・・アタシに力をかして!


「来な!決着をつけようじゃない!ヤヨイ!」
深紅の片手剣 血狂刃を振り上げる。刃から真っ赤な血が滴り落ちセシリアの体を、雪のように白い肌を赤く染めていく。
激しく燃え上がった炎がセシリアの気を引き上げる。

「ヤヨイーッツ!」
「セシリアーッツ!」

風と炎、二つの刃が交差しぶつかり合った。
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