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【379 復讐の風】

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「およそ一万か・・・厳しいな。こっちの三倍以上だ」

「そうね。ジョルジュがセシリアを押さえるとして、他は私達でなんとかしないといけないわけだし、私がヒールを頑張ったとしても、この数の差は埋められないと思うわ」

東の拠点で先発隊と合流したジョルジュとジャニスは、先発隊の隊長の男から現在の状況を受け、策を練っていた。
十数人は入れそうな大きなテントの中で、東の地図を広げながら帝国の進軍ルートを確認し、自軍の戦力でどう戦えるか考える。

「その件ですが、お二人が到着される前に大臣から写しの鏡で連絡を受けまして、北からは風姫様がこちらに向かっているそうです。そして、南は余力があるそうなので五千人程で編成を組み、すでにこちらに向けて出立しているとの事でした」

「え!ヤヨイさん来るの!?」

ジャニスの反応に、隊長の男が笑みを見せる。

「はい。ジャニス様は風姫様と、とても仲が良いとお伺いしております。待ち遠しいですね」

「はい、とっても楽しみ!」

急に元気が良くなったジャニスを見て、ジョルジュも笑いをもらした。

「ははっ、ジャニスは本当にヤヨイが好きだな?まぁ、元気が出たようで何よりだ」

「うん、だって私のお姉ちゃんだから!」


ジョルジュも満足そうにうなずくと、隊長へと向き直った。

「南からの五千はありがたいな。八千と一万ならば勝算は十分ある。足りない二千は、俺とヤヨイとジャニスで補おう」

「ありがとうございます。お三方は一騎当千、隊の士気も上がっております。きっとこの戦場も勝利を治められるでしょう」


その後、陽が沈み夜も更けた頃まで対策会議は行われた。

援軍で来るヤヨイと五千の兵に十分が希望が見え、カエストゥス軍も高い士気で帝国を迎え撃つ事ができるだろう。

ジョルジュの読み通りであれば明日の夜には帝国とぶつかる。






「・・・ねぇ、なんだか難しい顔してるけど・・・どうしたの?」

ジョルジュとジャニス。二人用のテントの中で、ジャニスは明日に備え休もうと横たわっていたが、隣のジョルジュがいつまでも横にならず、片膝を立て眉間にシワを寄せている姿を見て、ジャニスも体を起こした。

薄いテントの生地越しに見える、ぼんやりとした灯りは見張りの兵士のものだろう。
それ以外に人の動きは感じられず、辺りはすっかり闇に包まれ静まり返っている。


「・・・六年前、俺達が戦った殺し屋、確か・・・ディーロと言ったか、覚えているか?」


唐突にジョルジュの口から出た名前に、ジャニスはすぐには反応できなかった。

きょとんとしているジャニスに顔を向けると、ジャニスが言葉を返すまで待つと言うように、何も言わずただジャニスを見つめている。


「・・・えっと・・・・・うん、忘れてはいないよ。そりゃ、私も怖いねにあったし。でも、それがどうかしたの?」

少しの間を置いてジャニスが覚えていると口にすると、ジョルジュの目が鋭く光った。


「・・・そいつと同じ風を感じた。いるぞ・・・すさまじい憎しみを持って向かって来ている」


六年前、ブレンダンが当時の大臣ベン・フィングと闘技場で戦った時、ベン・フィングが万一に備え雇った殺し屋がジャーガル・ディーロ。
そしてその男はジョルジュが矢で頭を射抜き殺した。

ディーロは三兄弟だった。
末の弟ジャーガルが殺された事で、兄二人がジョルジュの家と孤児院に襲撃をかけてきたが、ジョルジュとブレンダン達が力を合わせ返り討ちにできた。

ディーロ三兄弟は全員の死が確認され、それで終わりだった。

そのはずだった。




「おそらくあの三人のうちの誰かの子供だ・・・俺が射殺したヤツも年の頃は三十程には見えた。子供の一人や二人いてもおかしくはない。あれから六年、成長し親と同じ道を辿ったようだ」


「・・・そんな・・・」

ジャニスの脳裏に、あの日のジャーゴル・ディーロとの戦いが思い起こされる。
数百発の爆裂弾を撃ち込まれた記憶は、思い出すのも苦痛を感じる程に恐怖だった。


「・・・ヤツの狙いはカエストゥスではない。俺達だ・・・あの日、自分の親を殺した、俺と孤児院の人間だ。強いぞ・・・復讐を糧に鍛えに鍛え抜いたのだろう。親よりはるかに強い風を感じる」

ジャニスの表情が曇る。
自分にヒールをかけ続ける事で凌ぐという荒業をやってのけた。ジャニスはあの時、精神力でジャーゴル・ディーロを上回ったが、それでも死を感じる程に追い込まれたあの経験は、ジャニスの心に恐怖となって残っていた。


「ジャニス、心配するな。俺が護る。俺がジャニスに指の一本も触れさせん。俺はジャニスの夫だからな。安心してくれ」

「ジョルジュ・・・うん、頼りにしてるね」

俯くジャニスを抱きしめるジョルジュ。
その温もりと心強さに、ジャニスの中の恐怖心が薄れ消えていく。



言葉には出さなかったが、ジョルジュは感じていた。

この復讐に染まった風は脅威だ。
目的のためなら手段を選ぶことはないだろう。
それこそ、自分の命でさえ道具のように使い捨てるかもしれない。

ヤヨイが間に合えばいいが、そうでなければ俺一人でセシリアを押さえつつ、コイツを相手にするしかない。

懸念を胸にジョルジュは目を閉じた。
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