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【378 ヤヨイとパトリック】
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「・・・ロペスさん、やっぱり私も東へ行かせてください」
ヤヨイは写しの鏡に浮かび上がったロペスと向かい合っていた。
ロペスの姿はぼんやりと透けていて、向こう側が見えてしまいそうな程、薄く消え入りそうなものだった。
日本にいた時に見た、立体映像という言葉が浮かんだが、それと比べるとひどく不安定なものに思えた。
『しかし北は大丈夫なのか?まだ壁の復旧も、隊の編成も、負傷者の治療も済んでいないのだろう?』
「はい、パトリックやみんなと相談しました。今は東の脅威に対抗するため戦力を集め一丸となって戦うべきだと。ブレンダン様の事・・・きっと生きてらっしゃると信じております。でも、ジャニスさんは強がって見えてもとっても繊細なんです。私はお姉ちゃんだから、こういう時には傍にいて力になりたいんです。それに・・・・・お義父(ロビン)さんがいたら、きっとここは任せて行って来って言うと思います」
少しの間ロペスはヤヨイの目をじっと見つめていたが、やがてヤヨイの意思をくんだように、二度三度頷いて口を開いた。
数日前、ヤヨイとパトリックも、ロビンが戦死したという報告を受けている。
本当であればすぐにでも首都に戻り、安置されているロビンに会いたいはずだ。
だが、個人の感情には蓋をして、今自分が何をすべきかを考えている。
強いな・・・指揮を執る者としてあるべき姿を見せている事に、ロペスは敬意を払った。
『・・・実はな、さっきもウィッカーから連絡が入って、あいつも同じ事を言っていたよ』
「え、ウィッカーさんも・・・ですか?」
『あぁ、あの二人は本当に長い付き合いだからな。ジャニスの今の精神状態をとても気にかけていた。
それに、ウィッカーはセシリアと戦った経験から、あの女の危険性を十分理解していた。血狂刃にはもう一段階上の力がある・・・それを危惧していたよ」
「そうでしたか。兄妹同然ですものね。それで、もしかしてウィッカーさんも東へ?」
ヤヨイの問いにロペスは首を横に振った。
『いや、西は本当にギリギリの勝利だったんだ。ウィッカーが間に合わなければ負けていただろう。多くの兵も失った。気持ちは分かるが、今ウィッカーを西から動かす事はできない』
ヤヨイも西の話しは聞いていた。
大勢の死傷者を出し、今はウィッカーが柱となって支えている。
指揮官クラスの女が撤退したという話しだが、もし再度攻め入られた場合、ウィッカーがいなければどうなるか分からない。今は動かす事ができないのは止むを得ないだろう。
『まぁ、ウィッカーも今の自分の立場は十分に理解している。東へ行きたそうに話してはいたが、ここを動く事ができないと自分で口にしていたからな。それでな、ウィッカーはもし戦局が許すのであれば、ヤヨイ、キミに加勢に行って欲しいと言っていた』
「え、ウィッカーさんが・・・私に、ですか?」
予想外の言葉にヤヨイは戸惑った。
確かにヤヨイ自身、東へ加勢に行きたい思いでいたが、まさかウィッカーからそのように話されているとは思いもしなかった。
『あぁ、悪いようにはとらないでくれ。自分は行く事ができない。代わりに誰がジャニスの力になれるかを考えた時、キミを頼りにしたんだろう。ジャニスはキミを実の姉のように慕っているそうだからな』
どうして私に?そう思ったけど、ウィッカーさんの心の内を聞いて、胸が温かくなった。
それだけ信頼してもらえていたという事が嬉しかった・・・
これまでの・・・出会ってからの6年の思い出が溢れだした。
瞳を閉じると、瞼の裏には楽しかった孤児院での生活がはっきりと見える。
みんなで笑い合って過ごした日々・・・初めてのクリスマス会・・・リサイクルショップ・レイジェスの開店・・・パトリックと結婚して二人の子供に恵まれた。
・・・私は、この世界が好きだ。
「・・・ロペスさん、私を東に行かせてください」
『あぁ・・・ヤヨイ、キミの力を貸してくれ』
「・・・ヤヨイ、気をつけてな」
写しの鏡での通信が終わると、隣で話しを聞いていたパトリックが肩にそっと手を置いた。
「うん、大丈夫・・・油断はしないわ。相手はあのセシリア・シールズ・・・決着をつける時がきたのね」
言葉少なに返す。できるだけ深刻にならないように言ったつもりだけど、やっぱり口調が少し硬くなる。
パトリックは心配そうに目を細め、私の両肩を掴んだ。正面から目が合う。
「えっと・・・パトリック?」
いつになく真剣な表情で私を見るパトリックに戸惑いの言葉をもらすけど、パトリックは視線を離さないまま口を開いた。
「ヤヨイ・・・絶対に生きて帰ってきてくれ」
「・・・パトリック・・・えぇ、もちろんよ。テリーとアンナを残して死ぬつもりはないわ」
「俺にもキミが必要だ」
そう言うなり、パトリックは私を強く抱きしめた。
「・・・パトリック・・・うん。ありがとう。なんか・・・男らしくなったよね?」
初めて会った時の事を思い出した。
私を前にするといつもガチガチに固まって緊張して、普通の会話ができるまでに時間がかかったなぁ。
でも、時間はかかったけど、少しづつデートにも誘うようになってくれて、告白してくれて、プロポーズも・・・・・テリーとアンナが産まれて、私この人と結婚して本当に良かった。
「はは・・・もう結婚して五年だよ?今言う事かい?」
「ふふふ・・・ちょっとね、出会った頃を思い出してたの。うん、パトリックは男らしくてかっこいいよ」
「あの頃の事はもう勘弁してよ。でも、ヤヨイにそう言ってもらえると自信がでるよ・・・・・本当に、気を付けて」
「うん・・・」
パトリックが腕の力を弱める。
少しだけ見つめ合った後、私とパトリックは口づけをした
ヤヨイ・・・愛している
私も愛しているわ、パトリック
ヤヨイは写しの鏡に浮かび上がったロペスと向かい合っていた。
ロペスの姿はぼんやりと透けていて、向こう側が見えてしまいそうな程、薄く消え入りそうなものだった。
日本にいた時に見た、立体映像という言葉が浮かんだが、それと比べるとひどく不安定なものに思えた。
『しかし北は大丈夫なのか?まだ壁の復旧も、隊の編成も、負傷者の治療も済んでいないのだろう?』
「はい、パトリックやみんなと相談しました。今は東の脅威に対抗するため戦力を集め一丸となって戦うべきだと。ブレンダン様の事・・・きっと生きてらっしゃると信じております。でも、ジャニスさんは強がって見えてもとっても繊細なんです。私はお姉ちゃんだから、こういう時には傍にいて力になりたいんです。それに・・・・・お義父(ロビン)さんがいたら、きっとここは任せて行って来って言うと思います」
少しの間ロペスはヤヨイの目をじっと見つめていたが、やがてヤヨイの意思をくんだように、二度三度頷いて口を開いた。
数日前、ヤヨイとパトリックも、ロビンが戦死したという報告を受けている。
本当であればすぐにでも首都に戻り、安置されているロビンに会いたいはずだ。
だが、個人の感情には蓋をして、今自分が何をすべきかを考えている。
強いな・・・指揮を執る者としてあるべき姿を見せている事に、ロペスは敬意を払った。
『・・・実はな、さっきもウィッカーから連絡が入って、あいつも同じ事を言っていたよ』
「え、ウィッカーさんも・・・ですか?」
『あぁ、あの二人は本当に長い付き合いだからな。ジャニスの今の精神状態をとても気にかけていた。
それに、ウィッカーはセシリアと戦った経験から、あの女の危険性を十分理解していた。血狂刃にはもう一段階上の力がある・・・それを危惧していたよ」
「そうでしたか。兄妹同然ですものね。それで、もしかしてウィッカーさんも東へ?」
ヤヨイの問いにロペスは首を横に振った。
『いや、西は本当にギリギリの勝利だったんだ。ウィッカーが間に合わなければ負けていただろう。多くの兵も失った。気持ちは分かるが、今ウィッカーを西から動かす事はできない』
ヤヨイも西の話しは聞いていた。
大勢の死傷者を出し、今はウィッカーが柱となって支えている。
指揮官クラスの女が撤退したという話しだが、もし再度攻め入られた場合、ウィッカーがいなければどうなるか分からない。今は動かす事ができないのは止むを得ないだろう。
『まぁ、ウィッカーも今の自分の立場は十分に理解している。東へ行きたそうに話してはいたが、ここを動く事ができないと自分で口にしていたからな。それでな、ウィッカーはもし戦局が許すのであれば、ヤヨイ、キミに加勢に行って欲しいと言っていた』
「え、ウィッカーさんが・・・私に、ですか?」
予想外の言葉にヤヨイは戸惑った。
確かにヤヨイ自身、東へ加勢に行きたい思いでいたが、まさかウィッカーからそのように話されているとは思いもしなかった。
『あぁ、悪いようにはとらないでくれ。自分は行く事ができない。代わりに誰がジャニスの力になれるかを考えた時、キミを頼りにしたんだろう。ジャニスはキミを実の姉のように慕っているそうだからな』
どうして私に?そう思ったけど、ウィッカーさんの心の内を聞いて、胸が温かくなった。
それだけ信頼してもらえていたという事が嬉しかった・・・
これまでの・・・出会ってからの6年の思い出が溢れだした。
瞳を閉じると、瞼の裏には楽しかった孤児院での生活がはっきりと見える。
みんなで笑い合って過ごした日々・・・初めてのクリスマス会・・・リサイクルショップ・レイジェスの開店・・・パトリックと結婚して二人の子供に恵まれた。
・・・私は、この世界が好きだ。
「・・・ロペスさん、私を東に行かせてください」
『あぁ・・・ヤヨイ、キミの力を貸してくれ』
「・・・ヤヨイ、気をつけてな」
写しの鏡での通信が終わると、隣で話しを聞いていたパトリックが肩にそっと手を置いた。
「うん、大丈夫・・・油断はしないわ。相手はあのセシリア・シールズ・・・決着をつける時がきたのね」
言葉少なに返す。できるだけ深刻にならないように言ったつもりだけど、やっぱり口調が少し硬くなる。
パトリックは心配そうに目を細め、私の両肩を掴んだ。正面から目が合う。
「えっと・・・パトリック?」
いつになく真剣な表情で私を見るパトリックに戸惑いの言葉をもらすけど、パトリックは視線を離さないまま口を開いた。
「ヤヨイ・・・絶対に生きて帰ってきてくれ」
「・・・パトリック・・・えぇ、もちろんよ。テリーとアンナを残して死ぬつもりはないわ」
「俺にもキミが必要だ」
そう言うなり、パトリックは私を強く抱きしめた。
「・・・パトリック・・・うん。ありがとう。なんか・・・男らしくなったよね?」
初めて会った時の事を思い出した。
私を前にするといつもガチガチに固まって緊張して、普通の会話ができるまでに時間がかかったなぁ。
でも、時間はかかったけど、少しづつデートにも誘うようになってくれて、告白してくれて、プロポーズも・・・・・テリーとアンナが産まれて、私この人と結婚して本当に良かった。
「はは・・・もう結婚して五年だよ?今言う事かい?」
「ふふふ・・・ちょっとね、出会った頃を思い出してたの。うん、パトリックは男らしくてかっこいいよ」
「あの頃の事はもう勘弁してよ。でも、ヤヨイにそう言ってもらえると自信がでるよ・・・・・本当に、気を付けて」
「うん・・・」
パトリックが腕の力を弱める。
少しだけ見つめ合った後、私とパトリックは口づけをした
ヤヨイ・・・愛している
私も愛しているわ、パトリック
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