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【371 幼き日の笑顔】

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「うふふふふ、本当に妹想いね?いいわ、あなたの気持ちに免じて、あなたから先に燃やしてあげる!」

セシリアの片手剣 血狂刃が、地上のテレンスに向かって振り下ろされた。
切っ先に集まっていた巨大な炎の球体、それはまるで太陽の如き激しさと強さを持っていた。


「ぜぇ・・・はぁ・・・なめる、なよ・・・黙って、殺される程・・・僕は大人しくは、ない!」

立ち上がったテレンス。
満身創痍のその体から、溢れんばかりの魔力を放出する。
その魔力は空気を震わせ、足元の揺るがし地面を割る程に高められた。

「あら?もしかして、私のプロミネンスとやり合うつもり?面白いわ!撃ってみなさいよ!」




クラレッサ・・・お前は僕が絶対に護ってみせる。
この女はここで僕が倒す!

両手を上空に向け、迫り来る灼熱の太陽を睨みつける。

「セシリアァァァァァーッツ!」

テレンスの全魔力を込めた光源爆裂弾が撃ち放たれた。





プロミネンスと光源爆裂弾。
ぶつかり合う二つの力から生み出された衝撃波は、切り立った崖を崩し、樹々を薙ぎ倒し、流れる川の水を巻き上げ吹き飛ばした。

「ぐ、あ、がぁぁぁッツ!」

せめぎ合う巨大な力と力。
それは体が押し潰されそうな程の凄まじい重圧だった。
胸を刺された出血と痛みで、本来なら立つ事もできない程の重傷を負っているテレンスには、そのプレッシャーだけで全身を粉々にされそうな痛みを感じていた。

歯を食いしばり、震える足に力を入れ無理やり立たせる。
体力はとうに尽きている。テレンスを支えているのはただ一重に妹への愛情だった。


「ああはははは!すごいわテレンス!素敵よ!そんな体でよく頑張るじゃない!」

「ぐっ・・・一人では、死なない!貴様だけは僕がここで倒す!」


拮抗する力にセシリアは歓喜した。
すでに死に体のテレンスに、これほどのまでの力が残っていた。
一瞬で終わってしまうなら、それはそれでいい。

だが、せっかくならば少しでも自分を楽しませて欲しい。
黒魔法兵団団長のテレンスは、セシリアの想像以上の力を持っていた。

血狂刃が血を吸うにふさわしい。

「さすがね!皇帝のお気に入りなだけあるわ!でも、これでお終いよ!」

再び刀身を頭の上に振り上げると、刃を伝い一滴一滴と真っ赤な血がセシリアの体に滴り落ちて来る。

それは全身を濡らす血の雨となり、セシリアの赤い髪を、赤い唇を、そして雪のような真っ白の肌を赤く赤く、血の赤に染め上げた。


「テレンス!燃え尽きなさい!」


血狂刃の力を解放したセシリアの気が充実し高まっていく。

互角のせめぎ合いだったプロミネンスと光源爆裂弾だったが、一気に形勢が傾き、テレンスを呑み込まんと押し迫った。


「ク・・・クラ、レッサ・・・」

目が霞む
血を流し過ぎた

ここまでか・・・


思いこされるのは楽しかった幼き頃

家族四人が笑い合っていたあの懐かしい日々

あの日を境に全てが変わってしまったが、一つだけ変わらないものがあった

自分を呼ぶクラレッサの声




兄さま・・・・・




「ウオォォォォォォォーーーーーッツ」

テレンスから発せられる魔力が質を変えた。
死にかけていたとは思えない程に充実した魔力が全身を駆け巡る。

「な!?こ、これは!?」

セシリアが驚きに目を剥いた。
今まさにテレンスを焼き尽くさんとした燃え盛る炎の塊は、呑み込みかけた光源爆裂弾に押し返されようとしているのだ。


「セシリアァァァァーッツ!」


テレンスはその命を燃やしていた。

妹のため、この女・・・セシリア・シールズだけは何が何でも道連れにする。
その想いは力となり、尽きかけたテレンスの魔力を補い、その力を増大させていた。



「・・・本当に素敵よテレンス・・・でもね。現実は残酷なの」



セシリアは右手に持った深紅の片手剣、血狂刃で自分の左腕を切り付けた。

流れ出る己の血を、血狂刃に垂らす。まるで飲み込ませるかのように・・・・・


「さぁ、血狂刃!本性を見せなさい!」

セシリアの赤い目に火が灯り、体中から血煙の如き赤いオーラが溢れ出る。
腰まである赤く長い髪はそのオーラにあてられるように逆立った

次の瞬間、セシリアの放ったプロミネンスが真っ赤に染まった。

それはまるで血濡れの太陽だった。



「なにッ!?」


テレンスが驚愕に目を開いた時、すでに光源爆裂弾は消滅し、真っ赤な炎がテレンスを呑み込んだ。



・・・クラレッサ・・・どうか・・・生きて・・・く・・・れ・・・・・・



一瞬の内に焼き尽くされたテレンス、その最後の瞬間に見えたもの


それは笑顔で自分の名を呼ぶ幼き日のクラレッサだった
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