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【367 ブレンダン 対 テレンス ①】

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「・・・これは?」

目には見えない。だが、テレンスは自分が何かに囲まれている事に気づき身構えた。
これは魔力・・・そしてもう一つはクラレッサを通して感じる力・・・霊力。

霊気と魔力を合わせた力、霊魔力。
ブレンダンは空気中に霊魔力を撒いてた。

クラレッサに使用した時には戦闘経験の浅さを見越して、視認できる程に密度濃く集中させたが、テレンスが相手では話しは違う。

密集させるより威力は落ちるが、広域に散布する事で逃げ場を無くす。
結界を使えない黒魔法使いに、目に見えない程に極小の粒子となった霊魔力を躱すべはない。

「戦う以上、ちょいと痛い目に合ってもらうぞ」

ブレンダンが魔空の枝に気を込め念じると、テレンスの周囲の空気が一斉に爆ぜた。
何十発、何百発もの凄まじい爆音が森中に響き渡る。

一発一発は爆裂弾程度の威力である。
だが、これは霊気と魔力を合わせた霊魔力。半分は霊気である。
魔力には抵抗できるためダメージを軽減する事はできる。
だが、霊力に対して抵抗する手段を持たないテレンスは、身を固めて護るしかすべがない。


「・・・ちと、やりすぎたかの?生きとるか?」

とぼけた口調でブレンダンが爆煙の中に呼びかける。
それに答えるかのように、濛々と立ち込める煙を突き破って、怒りの表情に満ちたテレンスが飛び出してきた。

霊魔力の爆発は躱す事はできない。

だが、身に纏う灼炎竜は攻防一体の魔法である。爆発の衝撃を吸収し和らげる事はできる。
そして強い覚悟を持って受ければ耐える事も可能。


「じじいッ!骨さえ残さねぇぞッツ!」

切れた頬から血が流れ、深紅のローブはところどころ破けている。
だが、目に見えての大きなダメージは見つからなかった。


「むっ!?思った以上に頑丈じゃな?」

全力ではなかったが、それなりのダメージを負わせるつもりで撃った攻撃だった。
予想外にダメージを与えられてなかった事で、ブレンダンが受けに回る。

テレンスが右手を突き出すと、その手を発射口として、炎の竜が渦巻くように登り撃ち放たれた。


腰を落とし、地面を踏みしめるように足に力を入れる。
結界にぶつかってきた灼炎竜は、そのまま結界ごとブレンダンを呑み込もうとするかのように、大きく顎を開けて喰らいついている。

「大した圧力じゃ、ワシでなかったらこの一撃で結界を砕かれておったろうな」

テレンスの放った灼炎竜は、およそ4~5メートル。森ごと焼き払うつもりであればもっと大きな竜をだせばいいが、そこまでするつもりはないようだ。

4~5メートル。術者が一般の魔法使いのレベルであれば、ブレンダンにとってなんて事の無い大きさだった。

だがテレンスの灼炎竜には、倍以上はあると思える程の大きな圧力があった。


「フン!受け止めただけで終わると思うなよ!」

テレンスの魔力が高まると、それに呼応し灼炎竜が押し込んでくる力も強くなる。
青く光り輝く結界を挟んではいるが、燃え盛る炎の熱気は結界を通しても伝わってきて、それだけで後ろへ倒れそうになる。

倒されまいと強く踏みしめた両足の踵には、押されて地面を掘り返された土が乗っていた。

「フハハハハハ!どうした?大陸中にその名をとどろかすブレンダン・ランデルも、寄る年波には勝てないか?ならばこのまま焼け死ぬがいい!」

「くっ、こやつっ!」


ブレンダンの使用している結界は、結界の最高峰、天衣結界である。

ただの結界では到底持たない。
それがテレンスの灼炎竜を見たブレンダンの判断であった。
そして、そのブレンダンの結界を食い破らんと、今まさにテレンスの灼炎竜が大口を開けて押し込んでいた。




このまま耐える事ができないわけではない。

じゃが、あまり長引かせるわけにもいかん。

さっきまでのクラレッサとの戦いで、霊力も魔力もだいぶ消耗してしまった。

このテレンスも、マーヴィンとの戦いで消耗はしておるじゃろう。
だが、どの程度かが読めん。

しかし、これ程の灼炎竜を撃ってくるんじゃ。まだかなり余裕はあると見た方がいい。

ならばどうすべきか・・・ワシの魔力が切れる前に倒す!


「ヌオォォォォォォーッツ!」


結界は受けるだけの物。

その常識を覆したブレンダンの技。

両手を前に出し展開している天衣結界。
青い輝きを放ち、ドーム状にブレンダンを囲むこの結界を、ブレンダンは回した。

前に出した両手を左に振り払う。
腕の動きに合わせるように、結界が勢いよく横回転をして見せる。


「なッ!にぃーッツ!?」


結界に食らいついていた灼炎竜が、まるで流されるようにグルリと向きを変え、術者であるテレンスに向かって牙を剥いた。


「これぞこの六年で磨き上げた結界技、返し、じゃ」


自身が放った灼炎竜がテレンスに食らいつき、その体を紅蓮の炎が包む。

六年前、闘技場でのベン・フィングとの試合の時点では、エネルギーの塊をぶつける爆発魔法しかはね返す事はできなかった。

だが結界を回転させる事により、受けて流す。
この技術で火魔法でさえ返す事を可能にしていた。


「このッ・・・くそじじいがぁぁぁーッツ!」

怒りの声を上げるとともに魔力を放出させ、自分の体を焼く炎を吹き飛ばす。

「・・・ふむ、まぁそうじゃろうな。術者が己の灼炎竜で焼かれるわけはあるまいて。じゃが、ちょっとは驚いたかの?」


灼炎竜によるダメージはほとんど受けていなかった。
深紅のローブの高い火耐性を除いても、自分が身に纏っていた灼炎竜で大きなダメージを受けるはずはない。
しかし、灼炎竜を返され体を焼かれたという事実は、テレンスのプライドを刺激し激怒させた。


「そうカッカするでない。お前さん、意外と頭に血が上りやすいんじゃな?」

肩を上下させ、息を切らしながら自分を睨みつけるテレンスに、ブレンダンは挑発めいた言葉を投げた。

そしてその言葉がテレンスの頭を冷やし、本気を引き出した。


「・・・・・後悔するなよじじい」


一瞬、ブレンダンはテレンスが何をしようとしているのか理解できなかった。
魔法を使うためには、両手を起点とした攻撃が基本である。
だが、テレンスは両腕をローブの中に隠したのだ。

それでは攻撃魔法の狙いはつけられない。

一体何をしようとしているのか?


そう思い至った時、先程の宙に浮かんだ腕が脳裏によみがえった。


次の瞬間、ブレンダンの胸と背中を挟むように、肘から先だけの腕が現れた。


「今度はクラレッサの助けはないぞ」
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