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【364 友達】
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「おじいさん、痛くないですか?」
「・・・うむ、大丈夫じゃ。白魔法使いと聞いておったが、大したもんじゃのう。これ程の魔力とは」
ブレンダンは左腕と肋骨を骨折し、打撲や裂傷で全身にダメージを負っていたが、クラレッサはそれだけの怪我をほんの5分足らずで治療して見せたのだ。
白魔法使いとしてはジャニスには及ばないが、それに次ぐレベルの魔力だった。
「良かったです。それでは、一緒に帝国に行きましょう」
「うむ、それなんじゃがな、やはりワシの孤児院に来て欲しいんじゃ。子供達は気にせんでええ。ワシと二人でゆっくり遊ぼうではないか」
ブレンダンの提案に、クラレッサは迷いを見せた。
表情には出ていないが、口をつぐみ無言でブレンダンを見つめている。
「・・・無理にとは言わん。お主の意思を尊重しよう。ワシとクラレッサは友達じゃろ?」
「・・・はい。私とおじいさんはお友達です。だから迷ってます。私も無理やり帝国に連れて行きたくありません。でも、兄さまを置いてカエストゥスに行く事もできません」
ブレンダンがクラレッサを助けると言葉にすると、クラレッサは悪霊を抑えブレンダンにヒールをかけた。
治療の間、クラレッサは自分の事を口にし始めた。
ブレンダンの反応は一切気にしていないようで、独り言のような語り口だった。
クラレッサは5歳までカエストゥスに住んでいたと言う。
父も母も優しく、家族四人で幸せに暮らしていた。
しかし、宝石商を営んでいた父が、ある日どこからか手に入れてきた水晶のせいで、一家の運命が大きく狂わされる事になる。
ゆっくりと時間をかけて崩壊は始まった。
順調だった父の仕事は負債を抱えるようになり、いつしか両親の口論が増えていった。
季節ごとに新しく買ってもらえた服は、丈が短くなっても去年の物を着るしかなくなり、食事も前日の残り物が多くなり、柔らかいパンは食べられなくなった。
クラレッサとテレンスに対して、虐待が始まるまでにそう時間はかからなかった。
ある日の夜、クラレッサは誰かに呼ばれて目が覚める。
こっちだよ
不思議な声だった。
男性の声だと思うと、次は女性の声が聞こえる。
若い男の声かと思うと、おばあさんの声に聞こえる。
クラレッサは声を追って歩いた。
真夜中に家を出る。
それは五歳の小さな女の子にとっては勇気のいる事だったが、どうしても行かなければならない。
夜の闇の恐怖より、行かなければならないという気持ちが大きかった。
たどり着いた先は父の店だった。
カギは開いていた。
閉め忘れただけかもしれないが、裏口から入り、店内に足を踏み入れる。
沢山の宝石がガラスのショーケースに並べられている。
どれも鍵がかかっていて開ける事はできなかったが、一か所だけ開ける事ができた。
中には小さな水晶が一つだけ入っていた。
・・・これはお前のものだ
・・・これはあなたのものよ
・・・これはキミのものだ
頭の中に直接聞こえる声。
クラレッサはそのまま声に従うように、水晶を手に取った。
そこから先は記憶が曖昧でぼんやりとしている。
覚えているのは、父と母が倒れていて、テレンスがずっと抱きしめてくれていた事。
なぜか右目が見えなくなっていた事。
自分の右目があの時の水晶に代わっていたと知ったのはずいぶん先の事だった。
不思議な事に、水晶の見た目は自分の右目と全く同じになっていた。
もうこの国にはいられないから、二人で逃げようと言うテレンスに手を引かれ、カエストゥスを出た事。
そしてブロートン帝国に流れ着いた。
「クラレッサ、お主の兄と話す事はできんかの?」
「兄さまとですか?分かりました。私が聞いてみます」
「・・・ほっ、軽いのう?聞いておいてなんだが、よいのか?」
あまりにあっさりとした返事に、ブレンダンは拍子抜けしたように笑い声をもらした。
「はい。おじいさんがそうしたいと言うのでしたら」
「・・・友達じゃからか?」
「はい。お友達ですから。おじいさんも私を助けてくれるとおっしゃいましたよね?」
「・・・ほっほっほ、そうじゃな。ワシもお主を助ける。うむ、友達じゃな」
その言葉を聞いて、クラレッサは目を細めて微笑んだ。
・・・こうしておると、年頃の可愛い娘にしか見えん。
・・・あの兄もそうなのじゃろう。本当は人を傷つける事なんてしない優しい男なのじゃろう。
「・・・おじいさん、立てますか?」
「ん、すまんのう・・・だいじょう・・・む!?」
差し伸べられた手を握ろうとした時、こちらに向け放たれた魔力に気が付き、クラレッサの手を掴み引き寄せ結界を張る。
次の瞬間、ブレンダンの結界に無数の氷の槍が弾かれる。
「・・・噂をすれば、なんとやらじゃな。来おったか・・・」
つまり・・・マーヴィンは・・・・・
「兄さま・・・」
ブレンダンとクラレッサ、二人が見上げる視線の先には、テレンスが冷たい眼差しを向けて空に立っていた。
「・・・うむ、大丈夫じゃ。白魔法使いと聞いておったが、大したもんじゃのう。これ程の魔力とは」
ブレンダンは左腕と肋骨を骨折し、打撲や裂傷で全身にダメージを負っていたが、クラレッサはそれだけの怪我をほんの5分足らずで治療して見せたのだ。
白魔法使いとしてはジャニスには及ばないが、それに次ぐレベルの魔力だった。
「良かったです。それでは、一緒に帝国に行きましょう」
「うむ、それなんじゃがな、やはりワシの孤児院に来て欲しいんじゃ。子供達は気にせんでええ。ワシと二人でゆっくり遊ぼうではないか」
ブレンダンの提案に、クラレッサは迷いを見せた。
表情には出ていないが、口をつぐみ無言でブレンダンを見つめている。
「・・・無理にとは言わん。お主の意思を尊重しよう。ワシとクラレッサは友達じゃろ?」
「・・・はい。私とおじいさんはお友達です。だから迷ってます。私も無理やり帝国に連れて行きたくありません。でも、兄さまを置いてカエストゥスに行く事もできません」
ブレンダンがクラレッサを助けると言葉にすると、クラレッサは悪霊を抑えブレンダンにヒールをかけた。
治療の間、クラレッサは自分の事を口にし始めた。
ブレンダンの反応は一切気にしていないようで、独り言のような語り口だった。
クラレッサは5歳までカエストゥスに住んでいたと言う。
父も母も優しく、家族四人で幸せに暮らしていた。
しかし、宝石商を営んでいた父が、ある日どこからか手に入れてきた水晶のせいで、一家の運命が大きく狂わされる事になる。
ゆっくりと時間をかけて崩壊は始まった。
順調だった父の仕事は負債を抱えるようになり、いつしか両親の口論が増えていった。
季節ごとに新しく買ってもらえた服は、丈が短くなっても去年の物を着るしかなくなり、食事も前日の残り物が多くなり、柔らかいパンは食べられなくなった。
クラレッサとテレンスに対して、虐待が始まるまでにそう時間はかからなかった。
ある日の夜、クラレッサは誰かに呼ばれて目が覚める。
こっちだよ
不思議な声だった。
男性の声だと思うと、次は女性の声が聞こえる。
若い男の声かと思うと、おばあさんの声に聞こえる。
クラレッサは声を追って歩いた。
真夜中に家を出る。
それは五歳の小さな女の子にとっては勇気のいる事だったが、どうしても行かなければならない。
夜の闇の恐怖より、行かなければならないという気持ちが大きかった。
たどり着いた先は父の店だった。
カギは開いていた。
閉め忘れただけかもしれないが、裏口から入り、店内に足を踏み入れる。
沢山の宝石がガラスのショーケースに並べられている。
どれも鍵がかかっていて開ける事はできなかったが、一か所だけ開ける事ができた。
中には小さな水晶が一つだけ入っていた。
・・・これはお前のものだ
・・・これはあなたのものよ
・・・これはキミのものだ
頭の中に直接聞こえる声。
クラレッサはそのまま声に従うように、水晶を手に取った。
そこから先は記憶が曖昧でぼんやりとしている。
覚えているのは、父と母が倒れていて、テレンスがずっと抱きしめてくれていた事。
なぜか右目が見えなくなっていた事。
自分の右目があの時の水晶に代わっていたと知ったのはずいぶん先の事だった。
不思議な事に、水晶の見た目は自分の右目と全く同じになっていた。
もうこの国にはいられないから、二人で逃げようと言うテレンスに手を引かれ、カエストゥスを出た事。
そしてブロートン帝国に流れ着いた。
「クラレッサ、お主の兄と話す事はできんかの?」
「兄さまとですか?分かりました。私が聞いてみます」
「・・・ほっ、軽いのう?聞いておいてなんだが、よいのか?」
あまりにあっさりとした返事に、ブレンダンは拍子抜けしたように笑い声をもらした。
「はい。おじいさんがそうしたいと言うのでしたら」
「・・・友達じゃからか?」
「はい。お友達ですから。おじいさんも私を助けてくれるとおっしゃいましたよね?」
「・・・ほっほっほ、そうじゃな。ワシもお主を助ける。うむ、友達じゃな」
その言葉を聞いて、クラレッサは目を細めて微笑んだ。
・・・こうしておると、年頃の可愛い娘にしか見えん。
・・・あの兄もそうなのじゃろう。本当は人を傷つける事なんてしない優しい男なのじゃろう。
「・・・おじいさん、立てますか?」
「ん、すまんのう・・・だいじょう・・・む!?」
差し伸べられた手を握ろうとした時、こちらに向け放たれた魔力に気が付き、クラレッサの手を掴み引き寄せ結界を張る。
次の瞬間、ブレンダンの結界に無数の氷の槍が弾かれる。
「・・・噂をすれば、なんとやらじゃな。来おったか・・・」
つまり・・・マーヴィンは・・・・・
「兄さま・・・」
ブレンダンとクラレッサ、二人が見上げる視線の先には、テレンスが冷たい眼差しを向けて空に立っていた。
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