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理太郎

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【363 ブレンダンとクラレッサ ④】

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クラレッサの兄、テレンスに霊力は無い。

だが、霊力が無くともその力を感じ取る事はできる。そして血を分けた妹の力であれば間違いようは無い。

かなり遠くまで追って行ったようだ。
魔法使いのテレンスの足では、追いつくにはもう少し時間がかかる。

妹を心配しているからこそ追っているわけだが、テレンスはクラレッサが戦いに負けるとは思っていなかった。

相手があのブレンダン・ランデルといえども、クラレッサが敗れる事は万一にもありえない。
それはクラレッサの力への全面的な信頼。

それほどまでにクラレッサの悪霊は、すさまじい力を持っている。

だが、心は揺さぶられるかもしれない。

ブレンダンが現れてから、クラレッサの話しには、よくブレンダンの名が出て来るようになった。

クラレッサは非常に不安定な状態で生きている。

昔を思い出させる可能性のある人間との接触は避けたかった。


「クラレッサ、余計な事は考えずにブレンダンを殺すんだ。そいつは危険だ・・・なにッ!?」


突如、強烈な波動を感じ取る。離れていても伝わってくる強過ぎる恨みと憎しみ。

それが自分に向けられれば、身動き一つとる事すら敵わないだろう。

それは人の心の奥底まで凍り付かせるような恐怖・・・悪霊の波動。

ブレンダンを追って行った妹のクラレッサ、その悪霊が本性を現した事を感じ取った。


「く、くそ!まさかそこまで追い詰められたのか!?クラレッサーッツ!」

一瞬で妹のおかれている状況を理解したテレンスは、風魔法を足に纏うと、樹々の枝が頬を打つのも構わずに全力で森を飛びぬけた。







「パパとママが悪いんです・・・パパとママが悪いんです・・・パパとママが悪いんです・・・パパとママが悪いんです・・・パパとママが悪いんです・・・パパとママが悪いんです・・・」


まるで血のように赤く、そして恨みの強さを具現化したようにドス黒い。
赤と黒が混じった悪霊の波動。

クラレッサの身体から溢れだす赤黒い波動は、容赦なくブレンダンを叩き潰した。

衝撃は地面を揺らし、土煙が立ち上げる。

「あぁぁぁぁぁーッツ!」

ブレンダンを叩き潰した波動を振り上げると、絶叫と共に周囲に波動をぶつけ、樹々をなぎ倒し始めた。
悪霊の波動をぶつけられた木は、折れた箇所から命を蝕まれるように腐り、緑の葉は茶色に変色し枯れ落ちる。

正気を失ったクラレッサは悪霊を制御できず、感情のままに力を振り回し暴れ、生命を蹂躙していた。




「やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!おじいさん!おじいさん!おじいさん!おじいさん!おじいさん!助けてよーーーッツ!」




消えかかった意識の底に、一滴の水が波を打ったように聞こえた声が、ブレンダンを動かした。


・・・な、んじゃ・・・やっぱり・・・こ、まって・・・たん、じゃ、ないか・・・


右腕・・・動く。魔空の枝を握り締め、肘で支えるように上半身を起こす。

左腕・・・動かそうとすると激痛が走る。左腕は折れているようだ。

右足・・・動く。膝を着く。

左足・・・動く。両膝を着いて腰を持ち上げる。

胸に強い痛みが走る・・・肋骨が何本か折れているのだろう。


あれをくらってこの程度で済んだのは、運が良かった・・・・・



「・・・ク・・クラ、レッサ・・・・・ワシは、ここ・・・じゃ・・・・・がはッ」


目が霞むが、気力を振り絞って立ち上がる。
込み上げてくるものを吐き出すと吐血だった。

内蔵にもダメージを受けているようだ。
もはや戦える状態ではない、だが、それでもブレンダンは自分の生存をクラレッサに伝える。


かすれるような弱い声だったが、それが聞こえたのかクラレッサの悪霊が動きを止めた。



「おじいさん」


一瞬でブレンダンを捉えその姿を認識する。


「クラ、レッサ・・・ぜぇ・・・はぁ・・・ワシが、たすけて・・・やる」


額から流れる血が目に入り、ブレンダンの視界に映るクラレッサが赤い血に染まって見える。
ブレンダンの声が聞こえ正気を取り戻したのか、クラレッサの悪霊は動きを止めたままだ。


「おじいさん・・・おじいさんは、私の・・・お友達ですか?」


表情はなかった。
血に濡れて赤黒く光る右目、御霊の目は変わらず強い霊気を発しブレンダンに圧力を放っている。

だが左目は、助けを求めているようにブレンダンには見えた。


「こんな、じじいでよけりゃ・・・友達に、なって、やるわい・・・」


孫と言っていい程に年の離れた友達・・・・・か


「じゃあ・・・私を、助けてくれますか?」


・・・何度も言うておろう


「もちろんじゃ・・・ワシが絶対に、助けてやる」



ワシが・・・この命に代えても、お主から悪霊を取り払ってやる
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