362 / 1,298
【361 ブレンダンとクラレッサ ②】
しおりを挟む
「ぐっ!ぬぐわぁぁぁーッツ!」
魔空の枝の霊力を全開し、気合と共にクラレッサの悪霊をはねのける。
「おじいさん、やっぱりすごいです。でも、これ以上は抵抗しないでください。おじいさんを苦しめたくないんです」
「はぁ・・・ぜぇ・・・じゃ、じゃったら、手を引いて、くれんかの?もう、すでに苦しいわい」
涼しい顔のクラレッサとは反対に、ブレンダンは膝をつき、肩で息をしていた。
冬だというのに全身に汗をかき、髪が額にへばりつくほど消耗していた。
し・・・信じられん・・・王宮で相対した時から、もしやワシよりも上かもしれん、そう感じてはいたが、ここまでとは・・・・・
クラレッサの悪霊を防ぐためには、ワシは全力を尽くさねばならん。
じゃが、クラレッサはどうじゃ?
ワシの全力に対して、いったい何割の力を出しておる?
あの涼しい顔を見れば、明らかに手をぬいておるのがよう分かる・・・・・
この、ブレンダン・ランデルを相手に・・・・・
「おじいさんが帝国に来てくれたら、私もこんな事しないでいいんですよ?」
感情のこもらない声で答えると、クラレッサは右手を軽く振り払う。
「ぐ、はぁッツ!」
クラレッサの手の動きに合わせるように、まるで空気の塊のような圧力を持った見えないなにかが、ブレンダンの身体を弾き飛ばした。
反応できなかったブレンダンは、魔空の枝での防御も間に合わずまともに浴びてしまう。
受け身すらとれず、したたかに背中を地面に打ちつけ、体を何度も弾ませ転がされていく。
「おじいさん、そろそろ降参しませんか?私、おじいさんをいじめたくありません」
ブレンダンは、鼻にあたる土の匂いに遠い記憶を呼び覚ましていた。
若かりし頃の修行時代。ブレンダンがまだ家を飛び出す前の貴族だった頃。
ブレンダンにも師はいた。
優しい師だったが、修行の時は情け容赦なく、ブレンダンは毎日のように地面に這いつくばっていた。
その度に、こうして土の匂いを嗅いでいた。
結局ブレンダンが家を出てから一度も師と再会する事はなかった。
だが、何十年ぶりに地面に顔をうずめ嗅いだ土の匂いは、あの厳しかった修行時代を思い出させた。
「おじいさん、寝ちゃいましたか?連れて帰りますよ?」
前のめりに倒れ伏している自分のすぐ足元で、クラレッサが見下ろすようにして声をかけてくる。
・・・・・あぁ・・・久しぶりに思い出したのう・・・・・
まったく師匠に歯が立たず、来る日も来る日も叩き潰されたっけなぁ・・・・・
「ま・・・だ、じゃ・・・」
「あれ?起きるんですか?」
両手を着き、力を振り絞り上半身を起こす。
膝に力を入れ、歯を食いしばり腰を上げる。
擦り切れたローブ、全身汗と泥まみれで息もきれぎれだった。
「はぁ・・・はぁ・・・あまく、みるなよ・・・」
「・・・おじいさん?」
立ち上がったブレンダンを見て、クラレッサは何かが変わったと感じた。
身に纏う空気、これまではのんびりとしていた口調も少し乱暴になっていた。
そして振り向いたブレンダンの表情を見て、クラレッサは悪霊の力を全面に押し出し防御の体制に入った。
咄嗟の判断だった。
だが、クラレッサが咄嗟に防御を選択するほどに、ブレンダンは鋭く、まるで視線だけで殺されるかと思う程の殺気をクラレッサにぶつけていた。
「・・・勝負は、ここからだ」
若かりし頃の、自分こそが最強であると強さを求めていた頃のブレンダンが、クラレッサの前に立ちはだかった。
「霊力が強いだけでは勝てんぞ。お主に戦い方を教えてやろう」
ブレンダンの気力が充実し、体から発せられる気がクラレッサにプレッシャーとなって圧力をかけていく。明らかに凄みが増した事で、クラレッサは完全に受け身に回っている。
「・・・すごい。おじいさん、本当はそんなに強かったんですね?驚きました」
「いくぞ!」
ブレンダンが魔空の枝を上から下へと縦に振り下ろす。
その一振りでクラレッサの全身に圧力が加わり、その場で押しつぶされそうになる。
だが、そこまでだった。
かつてこの攻撃で、孤児院を襲撃してきた殺し屋、ミック・メリンドを圧殺したが、クラレッサは押し潰そうとするブレンダンの霊力に自分の霊力をぶつけ、押し返そうとしている。
やや前傾に体を曲げてられているが、汗一つかかずにブレンダンに笑顔を見せた。
「おじいさん、さっきまでよりずっと強い霊力を感じます。やっぱりおじいさんはすごいです。でも、私には勝てませんよ」
その言葉を終えると同時に、空気が弾ける乾いた音が鳴り響いた。
ブレンダンの霊力が打ち消され、クラレッサは背筋を伸ばし乱れた髪を手櫛で直す。
「おじいさん、もういいでしょう?」
「苦戦をした事がないというのも問題だな。一方的に勝ち過ぎているから先が読めない」
「・・・おじいさん、何を・・・え?」
自分の周囲を漂う霊気に気が付く。
それはまるで霧のように薄っすら白く、そして少しの冷たさを感じさせクラレッサを取り囲んでいた。
「防げるもんなら防いでみな」
ブレンダンが魔空の枝をクラレッサに突きつけると、クラレッサを取り囲んだ霊気が一斉に爆発を起こした。
周囲の樹々がヘシ折られ吹き飛ばされる程の破壊力。静寂な森に耳をつんざく爆音が鳴り響く。
白い爆煙がクラレッサを一瞬にして呑み込んだ。
「魔空の枝は、霊力と魔力を融合させ、それを空気中に散布する事ができる。そしてその力、霊魔力に気を込める事で、力を爆発させる事ができる」
空気中に無数に撒かれた霊力と魔力の融合の力。
それは目に見えない程の細かいエネルギー。一つ一つはとても目に見えないが、何百、何千、何万と集まり霧のようになっていたのだ。
「これがワシの魔空の枝だ。勉強になったかな?娘さん」
突きつけた魔空の枝を下ろさず、目の前の白く立ち昇る爆煙を見据えていた。
まだ終わらないと言うように。
魔空の枝の霊力を全開し、気合と共にクラレッサの悪霊をはねのける。
「おじいさん、やっぱりすごいです。でも、これ以上は抵抗しないでください。おじいさんを苦しめたくないんです」
「はぁ・・・ぜぇ・・・じゃ、じゃったら、手を引いて、くれんかの?もう、すでに苦しいわい」
涼しい顔のクラレッサとは反対に、ブレンダンは膝をつき、肩で息をしていた。
冬だというのに全身に汗をかき、髪が額にへばりつくほど消耗していた。
し・・・信じられん・・・王宮で相対した時から、もしやワシよりも上かもしれん、そう感じてはいたが、ここまでとは・・・・・
クラレッサの悪霊を防ぐためには、ワシは全力を尽くさねばならん。
じゃが、クラレッサはどうじゃ?
ワシの全力に対して、いったい何割の力を出しておる?
あの涼しい顔を見れば、明らかに手をぬいておるのがよう分かる・・・・・
この、ブレンダン・ランデルを相手に・・・・・
「おじいさんが帝国に来てくれたら、私もこんな事しないでいいんですよ?」
感情のこもらない声で答えると、クラレッサは右手を軽く振り払う。
「ぐ、はぁッツ!」
クラレッサの手の動きに合わせるように、まるで空気の塊のような圧力を持った見えないなにかが、ブレンダンの身体を弾き飛ばした。
反応できなかったブレンダンは、魔空の枝での防御も間に合わずまともに浴びてしまう。
受け身すらとれず、したたかに背中を地面に打ちつけ、体を何度も弾ませ転がされていく。
「おじいさん、そろそろ降参しませんか?私、おじいさんをいじめたくありません」
ブレンダンは、鼻にあたる土の匂いに遠い記憶を呼び覚ましていた。
若かりし頃の修行時代。ブレンダンがまだ家を飛び出す前の貴族だった頃。
ブレンダンにも師はいた。
優しい師だったが、修行の時は情け容赦なく、ブレンダンは毎日のように地面に這いつくばっていた。
その度に、こうして土の匂いを嗅いでいた。
結局ブレンダンが家を出てから一度も師と再会する事はなかった。
だが、何十年ぶりに地面に顔をうずめ嗅いだ土の匂いは、あの厳しかった修行時代を思い出させた。
「おじいさん、寝ちゃいましたか?連れて帰りますよ?」
前のめりに倒れ伏している自分のすぐ足元で、クラレッサが見下ろすようにして声をかけてくる。
・・・・・あぁ・・・久しぶりに思い出したのう・・・・・
まったく師匠に歯が立たず、来る日も来る日も叩き潰されたっけなぁ・・・・・
「ま・・・だ、じゃ・・・」
「あれ?起きるんですか?」
両手を着き、力を振り絞り上半身を起こす。
膝に力を入れ、歯を食いしばり腰を上げる。
擦り切れたローブ、全身汗と泥まみれで息もきれぎれだった。
「はぁ・・・はぁ・・・あまく、みるなよ・・・」
「・・・おじいさん?」
立ち上がったブレンダンを見て、クラレッサは何かが変わったと感じた。
身に纏う空気、これまではのんびりとしていた口調も少し乱暴になっていた。
そして振り向いたブレンダンの表情を見て、クラレッサは悪霊の力を全面に押し出し防御の体制に入った。
咄嗟の判断だった。
だが、クラレッサが咄嗟に防御を選択するほどに、ブレンダンは鋭く、まるで視線だけで殺されるかと思う程の殺気をクラレッサにぶつけていた。
「・・・勝負は、ここからだ」
若かりし頃の、自分こそが最強であると強さを求めていた頃のブレンダンが、クラレッサの前に立ちはだかった。
「霊力が強いだけでは勝てんぞ。お主に戦い方を教えてやろう」
ブレンダンの気力が充実し、体から発せられる気がクラレッサにプレッシャーとなって圧力をかけていく。明らかに凄みが増した事で、クラレッサは完全に受け身に回っている。
「・・・すごい。おじいさん、本当はそんなに強かったんですね?驚きました」
「いくぞ!」
ブレンダンが魔空の枝を上から下へと縦に振り下ろす。
その一振りでクラレッサの全身に圧力が加わり、その場で押しつぶされそうになる。
だが、そこまでだった。
かつてこの攻撃で、孤児院を襲撃してきた殺し屋、ミック・メリンドを圧殺したが、クラレッサは押し潰そうとするブレンダンの霊力に自分の霊力をぶつけ、押し返そうとしている。
やや前傾に体を曲げてられているが、汗一つかかずにブレンダンに笑顔を見せた。
「おじいさん、さっきまでよりずっと強い霊力を感じます。やっぱりおじいさんはすごいです。でも、私には勝てませんよ」
その言葉を終えると同時に、空気が弾ける乾いた音が鳴り響いた。
ブレンダンの霊力が打ち消され、クラレッサは背筋を伸ばし乱れた髪を手櫛で直す。
「おじいさん、もういいでしょう?」
「苦戦をした事がないというのも問題だな。一方的に勝ち過ぎているから先が読めない」
「・・・おじいさん、何を・・・え?」
自分の周囲を漂う霊気に気が付く。
それはまるで霧のように薄っすら白く、そして少しの冷たさを感じさせクラレッサを取り囲んでいた。
「防げるもんなら防いでみな」
ブレンダンが魔空の枝をクラレッサに突きつけると、クラレッサを取り囲んだ霊気が一斉に爆発を起こした。
周囲の樹々がヘシ折られ吹き飛ばされる程の破壊力。静寂な森に耳をつんざく爆音が鳴り響く。
白い爆煙がクラレッサを一瞬にして呑み込んだ。
「魔空の枝は、霊力と魔力を融合させ、それを空気中に散布する事ができる。そしてその力、霊魔力に気を込める事で、力を爆発させる事ができる」
空気中に無数に撒かれた霊力と魔力の融合の力。
それは目に見えない程の細かいエネルギー。一つ一つはとても目に見えないが、何百、何千、何万と集まり霧のようになっていたのだ。
「これがワシの魔空の枝だ。勉強になったかな?娘さん」
突きつけた魔空の枝を下ろさず、目の前の白く立ち昇る爆煙を見据えていた。
まだ終わらないと言うように。
0
お気に入りに追加
152
あなたにおすすめの小説
異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。
ファンタスティック小説家
ファンタジー
科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。
実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。
無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。
辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。
幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~
白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。
日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。
ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。
目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ!
大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ!
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。
【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる