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【361 ブレンダンとクラレッサ ②】
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「ぐっ!ぬぐわぁぁぁーッツ!」
魔空の枝の霊力を全開し、気合と共にクラレッサの悪霊をはねのける。
「おじいさん、やっぱりすごいです。でも、これ以上は抵抗しないでください。おじいさんを苦しめたくないんです」
「はぁ・・・ぜぇ・・・じゃ、じゃったら、手を引いて、くれんかの?もう、すでに苦しいわい」
涼しい顔のクラレッサとは反対に、ブレンダンは膝をつき、肩で息をしていた。
冬だというのに全身に汗をかき、髪が額にへばりつくほど消耗していた。
し・・・信じられん・・・王宮で相対した時から、もしやワシよりも上かもしれん、そう感じてはいたが、ここまでとは・・・・・
クラレッサの悪霊を防ぐためには、ワシは全力を尽くさねばならん。
じゃが、クラレッサはどうじゃ?
ワシの全力に対して、いったい何割の力を出しておる?
あの涼しい顔を見れば、明らかに手をぬいておるのがよう分かる・・・・・
この、ブレンダン・ランデルを相手に・・・・・
「おじいさんが帝国に来てくれたら、私もこんな事しないでいいんですよ?」
感情のこもらない声で答えると、クラレッサは右手を軽く振り払う。
「ぐ、はぁッツ!」
クラレッサの手の動きに合わせるように、まるで空気の塊のような圧力を持った見えないなにかが、ブレンダンの身体を弾き飛ばした。
反応できなかったブレンダンは、魔空の枝での防御も間に合わずまともに浴びてしまう。
受け身すらとれず、したたかに背中を地面に打ちつけ、体を何度も弾ませ転がされていく。
「おじいさん、そろそろ降参しませんか?私、おじいさんをいじめたくありません」
ブレンダンは、鼻にあたる土の匂いに遠い記憶を呼び覚ましていた。
若かりし頃の修行時代。ブレンダンがまだ家を飛び出す前の貴族だった頃。
ブレンダンにも師はいた。
優しい師だったが、修行の時は情け容赦なく、ブレンダンは毎日のように地面に這いつくばっていた。
その度に、こうして土の匂いを嗅いでいた。
結局ブレンダンが家を出てから一度も師と再会する事はなかった。
だが、何十年ぶりに地面に顔をうずめ嗅いだ土の匂いは、あの厳しかった修行時代を思い出させた。
「おじいさん、寝ちゃいましたか?連れて帰りますよ?」
前のめりに倒れ伏している自分のすぐ足元で、クラレッサが見下ろすようにして声をかけてくる。
・・・・・あぁ・・・久しぶりに思い出したのう・・・・・
まったく師匠に歯が立たず、来る日も来る日も叩き潰されたっけなぁ・・・・・
「ま・・・だ、じゃ・・・」
「あれ?起きるんですか?」
両手を着き、力を振り絞り上半身を起こす。
膝に力を入れ、歯を食いしばり腰を上げる。
擦り切れたローブ、全身汗と泥まみれで息もきれぎれだった。
「はぁ・・・はぁ・・・あまく、みるなよ・・・」
「・・・おじいさん?」
立ち上がったブレンダンを見て、クラレッサは何かが変わったと感じた。
身に纏う空気、これまではのんびりとしていた口調も少し乱暴になっていた。
そして振り向いたブレンダンの表情を見て、クラレッサは悪霊の力を全面に押し出し防御の体制に入った。
咄嗟の判断だった。
だが、クラレッサが咄嗟に防御を選択するほどに、ブレンダンは鋭く、まるで視線だけで殺されるかと思う程の殺気をクラレッサにぶつけていた。
「・・・勝負は、ここからだ」
若かりし頃の、自分こそが最強であると強さを求めていた頃のブレンダンが、クラレッサの前に立ちはだかった。
「霊力が強いだけでは勝てんぞ。お主に戦い方を教えてやろう」
ブレンダンの気力が充実し、体から発せられる気がクラレッサにプレッシャーとなって圧力をかけていく。明らかに凄みが増した事で、クラレッサは完全に受け身に回っている。
「・・・すごい。おじいさん、本当はそんなに強かったんですね?驚きました」
「いくぞ!」
ブレンダンが魔空の枝を上から下へと縦に振り下ろす。
その一振りでクラレッサの全身に圧力が加わり、その場で押しつぶされそうになる。
だが、そこまでだった。
かつてこの攻撃で、孤児院を襲撃してきた殺し屋、ミック・メリンドを圧殺したが、クラレッサは押し潰そうとするブレンダンの霊力に自分の霊力をぶつけ、押し返そうとしている。
やや前傾に体を曲げてられているが、汗一つかかずにブレンダンに笑顔を見せた。
「おじいさん、さっきまでよりずっと強い霊力を感じます。やっぱりおじいさんはすごいです。でも、私には勝てませんよ」
その言葉を終えると同時に、空気が弾ける乾いた音が鳴り響いた。
ブレンダンの霊力が打ち消され、クラレッサは背筋を伸ばし乱れた髪を手櫛で直す。
「おじいさん、もういいでしょう?」
「苦戦をした事がないというのも問題だな。一方的に勝ち過ぎているから先が読めない」
「・・・おじいさん、何を・・・え?」
自分の周囲を漂う霊気に気が付く。
それはまるで霧のように薄っすら白く、そして少しの冷たさを感じさせクラレッサを取り囲んでいた。
「防げるもんなら防いでみな」
ブレンダンが魔空の枝をクラレッサに突きつけると、クラレッサを取り囲んだ霊気が一斉に爆発を起こした。
周囲の樹々がヘシ折られ吹き飛ばされる程の破壊力。静寂な森に耳をつんざく爆音が鳴り響く。
白い爆煙がクラレッサを一瞬にして呑み込んだ。
「魔空の枝は、霊力と魔力を融合させ、それを空気中に散布する事ができる。そしてその力、霊魔力に気を込める事で、力を爆発させる事ができる」
空気中に無数に撒かれた霊力と魔力の融合の力。
それは目に見えない程の細かいエネルギー。一つ一つはとても目に見えないが、何百、何千、何万と集まり霧のようになっていたのだ。
「これがワシの魔空の枝だ。勉強になったかな?娘さん」
突きつけた魔空の枝を下ろさず、目の前の白く立ち昇る爆煙を見据えていた。
まだ終わらないと言うように。
魔空の枝の霊力を全開し、気合と共にクラレッサの悪霊をはねのける。
「おじいさん、やっぱりすごいです。でも、これ以上は抵抗しないでください。おじいさんを苦しめたくないんです」
「はぁ・・・ぜぇ・・・じゃ、じゃったら、手を引いて、くれんかの?もう、すでに苦しいわい」
涼しい顔のクラレッサとは反対に、ブレンダンは膝をつき、肩で息をしていた。
冬だというのに全身に汗をかき、髪が額にへばりつくほど消耗していた。
し・・・信じられん・・・王宮で相対した時から、もしやワシよりも上かもしれん、そう感じてはいたが、ここまでとは・・・・・
クラレッサの悪霊を防ぐためには、ワシは全力を尽くさねばならん。
じゃが、クラレッサはどうじゃ?
ワシの全力に対して、いったい何割の力を出しておる?
あの涼しい顔を見れば、明らかに手をぬいておるのがよう分かる・・・・・
この、ブレンダン・ランデルを相手に・・・・・
「おじいさんが帝国に来てくれたら、私もこんな事しないでいいんですよ?」
感情のこもらない声で答えると、クラレッサは右手を軽く振り払う。
「ぐ、はぁッツ!」
クラレッサの手の動きに合わせるように、まるで空気の塊のような圧力を持った見えないなにかが、ブレンダンの身体を弾き飛ばした。
反応できなかったブレンダンは、魔空の枝での防御も間に合わずまともに浴びてしまう。
受け身すらとれず、したたかに背中を地面に打ちつけ、体を何度も弾ませ転がされていく。
「おじいさん、そろそろ降参しませんか?私、おじいさんをいじめたくありません」
ブレンダンは、鼻にあたる土の匂いに遠い記憶を呼び覚ましていた。
若かりし頃の修行時代。ブレンダンがまだ家を飛び出す前の貴族だった頃。
ブレンダンにも師はいた。
優しい師だったが、修行の時は情け容赦なく、ブレンダンは毎日のように地面に這いつくばっていた。
その度に、こうして土の匂いを嗅いでいた。
結局ブレンダンが家を出てから一度も師と再会する事はなかった。
だが、何十年ぶりに地面に顔をうずめ嗅いだ土の匂いは、あの厳しかった修行時代を思い出させた。
「おじいさん、寝ちゃいましたか?連れて帰りますよ?」
前のめりに倒れ伏している自分のすぐ足元で、クラレッサが見下ろすようにして声をかけてくる。
・・・・・あぁ・・・久しぶりに思い出したのう・・・・・
まったく師匠に歯が立たず、来る日も来る日も叩き潰されたっけなぁ・・・・・
「ま・・・だ、じゃ・・・」
「あれ?起きるんですか?」
両手を着き、力を振り絞り上半身を起こす。
膝に力を入れ、歯を食いしばり腰を上げる。
擦り切れたローブ、全身汗と泥まみれで息もきれぎれだった。
「はぁ・・・はぁ・・・あまく、みるなよ・・・」
「・・・おじいさん?」
立ち上がったブレンダンを見て、クラレッサは何かが変わったと感じた。
身に纏う空気、これまではのんびりとしていた口調も少し乱暴になっていた。
そして振り向いたブレンダンの表情を見て、クラレッサは悪霊の力を全面に押し出し防御の体制に入った。
咄嗟の判断だった。
だが、クラレッサが咄嗟に防御を選択するほどに、ブレンダンは鋭く、まるで視線だけで殺されるかと思う程の殺気をクラレッサにぶつけていた。
「・・・勝負は、ここからだ」
若かりし頃の、自分こそが最強であると強さを求めていた頃のブレンダンが、クラレッサの前に立ちはだかった。
「霊力が強いだけでは勝てんぞ。お主に戦い方を教えてやろう」
ブレンダンの気力が充実し、体から発せられる気がクラレッサにプレッシャーとなって圧力をかけていく。明らかに凄みが増した事で、クラレッサは完全に受け身に回っている。
「・・・すごい。おじいさん、本当はそんなに強かったんですね?驚きました」
「いくぞ!」
ブレンダンが魔空の枝を上から下へと縦に振り下ろす。
その一振りでクラレッサの全身に圧力が加わり、その場で押しつぶされそうになる。
だが、そこまでだった。
かつてこの攻撃で、孤児院を襲撃してきた殺し屋、ミック・メリンドを圧殺したが、クラレッサは押し潰そうとするブレンダンの霊力に自分の霊力をぶつけ、押し返そうとしている。
やや前傾に体を曲げてられているが、汗一つかかずにブレンダンに笑顔を見せた。
「おじいさん、さっきまでよりずっと強い霊力を感じます。やっぱりおじいさんはすごいです。でも、私には勝てませんよ」
その言葉を終えると同時に、空気が弾ける乾いた音が鳴り響いた。
ブレンダンの霊力が打ち消され、クラレッサは背筋を伸ばし乱れた髪を手櫛で直す。
「おじいさん、もういいでしょう?」
「苦戦をした事がないというのも問題だな。一方的に勝ち過ぎているから先が読めない」
「・・・おじいさん、何を・・・え?」
自分の周囲を漂う霊気に気が付く。
それはまるで霧のように薄っすら白く、そして少しの冷たさを感じさせクラレッサを取り囲んでいた。
「防げるもんなら防いでみな」
ブレンダンが魔空の枝をクラレッサに突きつけると、クラレッサを取り囲んだ霊気が一斉に爆発を起こした。
周囲の樹々がヘシ折られ吹き飛ばされる程の破壊力。静寂な森に耳をつんざく爆音が鳴り響く。
白い爆煙がクラレッサを一瞬にして呑み込んだ。
「魔空の枝は、霊力と魔力を融合させ、それを空気中に散布する事ができる。そしてその力、霊魔力に気を込める事で、力を爆発させる事ができる」
空気中に無数に撒かれた霊力と魔力の融合の力。
それは目に見えない程の細かいエネルギー。一つ一つはとても目に見えないが、何百、何千、何万と集まり霧のようになっていたのだ。
「これがワシの魔空の枝だ。勉強になったかな?娘さん」
突きつけた魔空の枝を下ろさず、目の前の白く立ち昇る爆煙を見据えていた。
まだ終わらないと言うように。
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