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【359 マーヴィン 対 テレンス ③】

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お互いの距離は数メートル程の開きがあるが、マーヴィンならば一歩で詰める事は可能である。
そして魔法使いのテレンスでは、懐に入ったマーヴィンの剣を躱すすべはない。

マーヴィンもダメージが大きいが、この状況では視覚を奪われているテレンスが不利に見える。

だがマーヴィンは攻めあぐねいていた。
一歩踏み込んでテレンスを斬る。
それだけの体力は残っている。
だがテレンスの謎の余裕が気にかかり、どうしても距離を詰める事ができずにいた。

・・・・・なにかある

テレンスは自分の魔道具を見せ、能力の説明まで行った。
だが、それが全てとは限らない。

まだなにか、マーヴィンに見せていない切り札があるのではないか?

一度疑念が生まれると、そうとしか考えられなくなる。

一対一に応じた魔法使いが、体力型との戦いを想定していないとは思えない。
懐に入られた時の対策はあるはずだ。


灼炎竜か?


黒魔法使いの接近戦と言えば、まず最初に思いつくのが防御としても有効な灼炎竜だった。
炎の竜は身に纏っているだけで強力な防御手段になる。
ベターだが確立した対抗策は無い。術者の力量を上回れるかどうかの純粋な力の勝負をするしかないのだ。

睨み合いから数分・・・マーヴィンは重心をやや低く後ろに引いた右足に力を込めると、剣はテレンスの喉元に狙いを付け、中段に構えた。






マーヴィン・マルティネスか・・・なるほど、生ける伝説と言われるだけの事はある。
体力型のくせに、魔法の知識も深そうだ。
そして僕の魔道具、幻の腕を見破った観察眼には恐れ入ったよ。

そしてそれだけの力と頭があるのなら、僕のこの余裕にも当然疑問を持つだろう。
まだなにか隠しているだろうと・・・


灼炎竜。

おそらくは最初に考えるのは灼炎竜だ。あれほど攻守ともに優れた魔法は無い。
黒魔法使いが接近戦を挑むなら、ヘタに裏をかいた魔法を使うより、灼炎竜を使う事が一番確実だ。

そして灼炎竜を相手にする剣士の多くは、距離を保ちながら攻撃をできるある技を使用する。

おそらく突きだ。

テレンスはマーヴィンの技を突きだと想定した。







突きだ。

俺の攻撃は突き。こいつはそう読んでいるだろう。
正直なところ、こいつの切り札が何かは分からん。だが、灼炎竜であろうとなかろうと、黒魔法使いに有効な攻撃手段は、一番距離を保てる突きである事は間違いない。

踏み込みは鋭く、だが突きは腕を伸ばしきる程強いものでなくていい。

ほんの5cm程度でも喉を突き刺せばそれで終わりなのだ。

一撃を躱される可能性を考えて、戻りは早くしなければならない。
もし躱されれば二撃、三撃と繋いでいく。

浅くていい。必要なものはスピードだ。






所詮は魔法使い。
喉か胸を突き刺せばそれで終わり。そう思ってんだろ?じいさん。

その通りだ。
僕は鎧も兜も盾も持っていない。軽く一突き入れる事ができればそれでお終いだ。

そして灼炎竜でなくても、魔法使いに突きは有効な攻撃手段だ。
じいさん、あんたの選択は間違ってはいない。正解と言えば正解だ。

だが、最適解ではない。

ローブの中に隠した両腕が消える。
テレンスの幻の腕が発動する。それと同時に、炎の竜がテレンスの体を纏い現れた。




テレンスの灼炎竜が現れると同時に、マーヴィンは大地を蹴った。

やはり灼炎竜か!
大きさは約5メートルといったところか?ならば十分に貫ける!

俺の鴉は斬った相手の視覚を奪う。それだけだと思われているがもう一つ、魔法への抵抗力が非常に強い。このおかげで刀身を痛める事なく魔法を斬り裂いている。

灼炎竜の炎も、魔力が源だ。
ならば当然鴉が斬って突き抜ける事は容易い!

鴉の切っ先がテレンスの灼炎竜に触れた。






やはり突きか!

僕の魔法をああも簡単に斬れるはずがない!

おそらく魔力への耐性、抵抗力が非常に強いのだろう。目に見えない地味な能力かもしれないが、魔法使いからしたらこれほど嫌な能力はない。
そして今、その剣の切っ先が灼炎竜を突き破り、この僕の喉を目掛けて突き進んでくる。

灼炎竜の炎に触れた剣の位置から、マーヴィンの位置を読み取る。

さすがだ、マーヴィン・マルティネス・・・

僕の読み通りだが、技のキレは想定をはるかに上回っている!

読んでいてなお、躱して仕掛けるにはギリギリだ・・・


しかし突きを出した直後では、両脇腹ががら空きだろう?


じいさん、あんたの読み通り、僕の策は灼炎竜だと思わせた上で、幻の腕による両脇腹への爆裂空破弾!
灼炎竜はおとり!そして視界を奪われた僕が相手の位置を捉えるためだ!
これが僕の勝ち筋だ!受けて見ろ!

マーヴィンの突きがテレンスの喉に届くより早く、テレンスの幻の腕が、マーヴィンの左右の脇腹で爆発の魔力を解き放った。






若造が・・・俺の半分も生きてねぇくせに、相手の思考を読み切ったつもりか?

あまいぜ。

この灼炎竜はおとりだ!貴様は必ず最後は消える腕でくる。
そんな事は、貴様が自分の能力を説明した時点で分かり切っている。

そして、貴様がその魔道具を発動した時点で、頭か背中か脇腹か、どこか死角を狙ってくる事も読めている。

突きを出す以上、脇腹が無謀になる事は言うまでもない。

貴様が脇腹を狙ってくるのは十分に予想できていた。

そして俺の突きより先に貴様が魔法を使う事もな!


「飛べ!鴉!」

「爆ぜろ!」

マーヴィンの剣先から放たれた鋭く黒い波動が、テレンスの喉を斬り裂いた。

テレンスの幻の手から放たれた爆裂空破弾が、マーヴィンの両の脇腹で爆音を上げた。




相打ちか!?
離れて見ていたマーヴィンの側近達も、決着の瞬間に目を大きく見開いた。

自分達の大将は腹に受けた爆撃で体を大きく吹き飛ばされた。
だが、テレンスは首を切断されたのだ。マーヴィンの勝利と言っていいだろう。


後ろに吹き飛ばされたマーヴィンは、受け身も取れず背中から地面に落ち、そのまま体を転がされてやっと動きを止めた。

「ハッ!マ、マーヴィン様!」
「おい!お前早くヒールをかけろ!急げ!」

壮絶な決着に一瞬固まってしまったが、側近達はすぐにマーヴィンに駆け寄り、体の状態を確認し始めた。

決着はついた。マーヴィンの勝利だ。
誰もがそう判断した。首を斬り飛ばされたのだ。当然である。


「うっ・・・ぐ・・・」

うっすらと目を開き、苦しそうにうめき声を漏らす。
マーヴィンはまだ息はあるが、両の脇腹は抉られており出血も酷い。このままでは長くは持たないだろう。

「ヒール!」
側近の白魔法使いがヒールをかける。
レベルの高い魔法使いだが、鎧を弾き飛ばす程の爆裂魔法を何十発を受けており、マーヴィンのダメージは深い。

「・・・どうだ?」
「・・・厳しい・・・ジャニス様なら、いや・・・全力を尽くす!」
状態を問われ、現状の厳しさに弱音を見せそうになったが、白魔法使いは表情を引き締め直し、全魔力を集中させ、回復にあたった。

この場での戦いは終わり、カエストゥスは勝利を治めた。
あとはなんとしてもマーヴィンを助けるだけだ。

誰もがそう思ったその時、背後でなにかが砂利を踏む音が聞こえ、側近達は後ろを振り返った。



「・・・な!?」
「・・ば、ばかな!」
「・・・どう、やって・・・」


首を失ったテレンスが手を付いて立ち上がった。



ほとんどの側近がその信じられない光景に息を飲み、驚きと緊張で体動かせない中、側近の剣士が一早く飛び出した。

何が起きているか?考えるのは後でいい。
首をはねられても動くのならば、二度と動く事ができない程、細切れにすればいい!

「オォォォォォッツ!」

テレンスの右肩目掛けて剣を振り下ろす。

だが、その剣が届くよりも先に、幻の腕が剣士の顔の前に現れ、首から上を爆発で吹き飛ばした。

噴水のように噴き上げる真っ赤な血が、テレンスの深紅のローブをより赤く染める。


「う・・・わぁぁぁぁーッツ!」

側近の黒魔法使いが両手の平を重ね、一気に魔力を高める。

テレンスはそれに気付いたように体を向けると、幻の手を戻し右手の平を側近へと向ける。

「俺の全魔力だ!消えろーッツ!」

側近の光源爆裂弾が放たれた。

「で、でけぇ!」
「こ、これなら!」

マーヴィンの回復にあたっている白魔法使いと、もう一人の青魔法使いが、その大きさに驚きと期待の声を上げた。


だが、対抗するようにテレンスから放たれた爆裂魔法は、側近の光源爆裂弾を呑み込み、そのままカエストゥス側へと突き進んだ。

「なにっ!?」
「う、うわぁぁぁぁーッツ!」


光源爆裂弾でさえ呑み込んだ巨大な破壊のエネルギー弾が炸裂し、大爆発を起こした。

濛々と立ち込める黒煙。
巻き上げられる土は、やがて空から降り注がれる。




テレンスは自分以外、動く者がいなくなった事を確認するようにしばらく立ち尽くしていたが、
やがて納得したのか、後ろに落ちている自分の頭に向かいゆっくりと歩を進めた。

腰を下ろし、両手をしっかりと掴むと、位置を確かめるように左右に動かしながら首の切断面を合わせる。


「・・・ふぅ・・・どれ、確認はしておこうか」

元通りに首を取り付けると、テレンスは首の具合を確かめるようにぐるりと回す。
まだ視界は闇で蔽われており、カエストゥス側で今だに上がっている煙を確認はできない。
だが、魔力をさぐると、自分以外の魔力を感じる事はなかったため、側近達の死は確認できた。

勝負はほぼ決したと考えるが、それでも相手はあのマーヴィン・マルティネス。
死体を見るまでは油断できなかった。


爆煙を風魔法を吹き飛ばすと、そこにはマーヴィンの側近達が、マーヴィンを護るかのようにその体に重なりあって倒れていた。

「・・・この辺りかな?・・・あぁ、なるほど、自分の体を盾にしたのか・・・すごいな」

おおよその当たりはついていたため、手探りでマーヴィンの位置を調べると、マーヴィンの側近が盾となり庇った事が分かる。

そしてマーヴィン・マルティネスにはまだかろうじて息があった。

だが、すでに瀕死の状態だった上に、いくら庇われたと言ってもいまの爆発でダメージがないはずもなく、全身血まみれのその体からは命の灯が消えかかっていた。

マーヴィンの上に重なる側近達の死体を無造作にどかすと、テレンスはマーヴィンのとなりに片膝をつく形で腰を下ろした。


「・・・じいさん、あんたの敗因は思い込みだ。自分の推理に自信を持ち過ぎたね。だから、僕の説明も鵜呑みする。幻の腕、この名前で消せるのが腕だけだと思い込むからだ。
幻の腕はね、本当は幻の体・・・首だって取り外しができるんだよ」


その言葉は、マーヴィンにかろうじて残っていた意識に届いた。

すでに声を出す事も敵わないが、わずかに眉を寄せ、悔しさがにじみ出る。


「・・・強かったよ。じいさんとの戦いは忘れない。じゃあね」


風を切る鋭い音と共に、マーヴィン・マルティネスの首が真っ二つに切り裂かれ、血しぶきが上がる。


「・・・うん、どうやら使い手が死ぬと消えるみたいだな。ずっと闇の中だと思ったから、少し焦ったよ。さて、クラレッサ・・・今行くからね」


目をおおっていたいた闇が晴れる。
太陽の光に眩しそうに目を細め、テレンスはブレンダンとクラレッサの後を追った。
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