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【348 二人の援軍】
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「なぁ、俺達このままここで待機してていいのか?」
カエストゥス軍、エロール隊の魔法使いの一人が、耐えきれなくなったように口を開いた。
「そう言われてもなぁ・・・エロール隊長がここで待てって言ったんだから、そうするしかないんじゃないか?」
言葉を返す魔法使いも歯切れが悪い。迷いが言葉ににじみ出ていた。
エロールとルシアンが戦っている場所から400メートル弱、帝国軍のサーチにギリギリかからない場所で、エロール隊5000人は待機を命じられていた。
樹々の間に身を隠し、それぞれがエロールの向かった先へと視線を置く。
もちろん400メートルという距離があり、闇につつまれているため、現在の状況は分からない。
だが、一度夜空に大きく明かりが灯ったかと思うと、次の瞬間視線の先で炎が燃え上がった事は分かった。
エロールが戦っている。それは感じ取れたが、現状がどうなっているか分からないまま時間だけが過ぎ、隊の中にしびれを切らした意見が出始めていた。
このまま5000人で挑めば総力戦になり、人数で劣るエロール隊の苦戦は免れないが、勝算が無いわけではない。
だが、エロールが一番警戒していたのは、ルシアンのナパームインパクトだった。
話しに聞いていた威力では、実力上位の青魔法使いの天衣結界で耐えきれるかどうか、数十メートルにおよぶ家屋を吹き飛ばす程の広範囲の大爆発。
使用されれば、自軍に壊滅的なダメージを与えうる技だった。
最初にルシアンをなんとかしなければ。そう考えたエロールが出した答えは一騎打ちだった。
指揮官のルシアンさえ倒せば、あとは数で劣っていても十分な勝機が見込めるとう、エロールの判断だった。
「・・・隊長の考えは分かったけど、それでもここでじっとしてるのは、なんだか落ち着かねぇよ」
「でも、まだ合図が出てない。信じるしかないでしょ?」
口々に不安にかられた言葉が出始め、収拾がつかなくなり始めていた。
「・・・なぁ、隊長は無事か?」
魔法使いの一人が、サーチを担当する青魔法使いへ確認をする。
「・・・あぁ、まだ隊長の魔力は感じる・・・けど・・・かなり、弱くなっている・・・」
険しい顔で、言いにくそうにその言葉を口にすると、周囲のざわめきが一層大きくなった。
「もうがまんできねぇ!俺は行くぜ!」
「待てよ!隊長が信じられねぇのか!?合図を待て!」
「あの炎が見えねぇのか!?隊長が危ないかもしれないだろ!」
「待てって!エロール隊長はきっと大丈夫だ!ジャック・パスカルにだって勝っただろ?」
「あぁ、確かに勝ったよ!でも、死にかけたって話しじゃないか!隊長は無理するとこあるから、今回だってそうなるかもしれないだろ!?」
「私も行く!エロール隊長は白魔法使いの鏡!ジャニス様が一線を退かれてから、ずっと白魔法を支えてきた人だもん!絶対に失っちゃだめよ!」
「気持ちは分かるけど、隊長の命令だろ!隊長を信じて待てよ!」
隊の中でも意見が分かれ、まとまりを欠いてきたその時、まるで口論を諫めるように一陣の風が吹き、エロール隊の顔を撫でた。
「俺達が行こう」
樹々を揺らす風が治まり、その男はふわりと軽やかに空から降り立ち、静かだがハッキリとした口調でそう告げる。
「あ、あなたは・・・どうしてここに!?」
その男を目にすると、今までの喧噪が嘘のように治まり、場が静まり返った。
少し細身だが、深い緑色のマントからのぞく引き締まった両の腕、体のラインが見える黒い上着からは、鍛え抜かれた身体がよく分かる。
耳の下くらいまでの束感のあるアイスブルーの髪。
髪と同じ色をした切れ長の目が、エロール隊を見渡す。
「俺とジャニスに任せろ。必ずエロールを無事に連れて戻る」
ジョルジュ・ワーリンは、両腕で抱いていたジャニスをそっと地面に下ろした。
「疲れていないか?」
「ん?大丈夫だよ。病人じゃないんだから、そんなに気を遣わないでよ。ずっと抱っこされてたんだし、楽ちんだったよ」
一本結びにした明るい栗色の髪を肩へと流す。
髪と同じ栗色のパッチリとした瞳に、優し気な笑みを浮かべ、ジャニスはジョルジュに顔を向ける。
「そうか、それならいいんだ」
「もぅ、ジョルジュは心配症だなぁ。あ、それより早くエロールの加勢に行かなきゃね!急ごう!」
再びジョルジュがジャニスを抱きかかえようとすると、エロール隊の魔法使いの一人が慌てたように声をかけた。
「ちょ、ちょっと待ってください!な、なんでお二人がここに?それに、ジャニス様はもう戦わないと、身を引かれたはずでは?」
「風だ」
「・・・え?」
魔法使いの疑問に、ジョルジュが真正面から目を見て答えた。
だが、全く伝わらず、その魔法使いは目を瞬かせ、言葉を返せず立ち尽くしている。
「あ~・・・ジョルジュ、あんたねぇ、私やヤヨイさんじゃないんだから、それじゃ分かんないって。
あのね、時間がないから簡単に言うけど、ジョルジュの風の精霊の力でここに来るまでに状況はだいたい分かってるから。私はこの戦争で首都に運び込まれる怪我人の治療のために、少し前から王宮入りしてるの。ここには、昨日写しの鏡でペトラから応援要請をもらって、さっき着いたの。でも、すぐにエロールが危険だと分かったから、ここまで飛んできたのよ」
ペトラは先日の会議で、そろそろ帝国が本腰で攻めてい来るというエロールの意見を聞き、盤石の備えとして首都バンテージにいるエマヌエル・ロペスに応援を要請していたのだった。
帝国軍の指揮官がルシアン・クラスニキと知ったロペスは、一度対戦し優位に立っていたジョルジュを向かわせたのだが、そこでジャニスは自分も付いて行くと声を上げたのだった。
【首都もまだ大変だけど、落ち着いてきているわ。ブローグ砦には三万人もいて、帝国がこれから総攻撃を仕掛けて来るんなら、私の力はきっと役に立つわ!】
ジョルジュもブレンダンも、ジャニスを戦場に行かせる事には反対だった。
だが、自分が戦場に行く事で助けられる命もある。そのための白魔法だ。
そう言葉にするジャニスの強い意思を見て、二人は受け入れるしかなかった。
「ジャニス、そろそろ・・・」
「あ、うん急ごう!じゃあ、みんなはここで待ってて!私達がエロールを助けるから!」
説明を終えるなり、ジョルジュはジャニスを抱きかかえ、全身に風を纏い飛び上がった。
「いいか、お前達が突撃するタイミングは俺が知らせる。お前達もエロールの部下なら、隊長の言葉を信じて待て」
最後に一言そう言い残すと、ジョルジュとジャニスはあっという間に、夜の闇に溶けるように消えて行った。
カエストゥス軍、エロール隊の魔法使いの一人が、耐えきれなくなったように口を開いた。
「そう言われてもなぁ・・・エロール隊長がここで待てって言ったんだから、そうするしかないんじゃないか?」
言葉を返す魔法使いも歯切れが悪い。迷いが言葉ににじみ出ていた。
エロールとルシアンが戦っている場所から400メートル弱、帝国軍のサーチにギリギリかからない場所で、エロール隊5000人は待機を命じられていた。
樹々の間に身を隠し、それぞれがエロールの向かった先へと視線を置く。
もちろん400メートルという距離があり、闇につつまれているため、現在の状況は分からない。
だが、一度夜空に大きく明かりが灯ったかと思うと、次の瞬間視線の先で炎が燃え上がった事は分かった。
エロールが戦っている。それは感じ取れたが、現状がどうなっているか分からないまま時間だけが過ぎ、隊の中にしびれを切らした意見が出始めていた。
このまま5000人で挑めば総力戦になり、人数で劣るエロール隊の苦戦は免れないが、勝算が無いわけではない。
だが、エロールが一番警戒していたのは、ルシアンのナパームインパクトだった。
話しに聞いていた威力では、実力上位の青魔法使いの天衣結界で耐えきれるかどうか、数十メートルにおよぶ家屋を吹き飛ばす程の広範囲の大爆発。
使用されれば、自軍に壊滅的なダメージを与えうる技だった。
最初にルシアンをなんとかしなければ。そう考えたエロールが出した答えは一騎打ちだった。
指揮官のルシアンさえ倒せば、あとは数で劣っていても十分な勝機が見込めるとう、エロールの判断だった。
「・・・隊長の考えは分かったけど、それでもここでじっとしてるのは、なんだか落ち着かねぇよ」
「でも、まだ合図が出てない。信じるしかないでしょ?」
口々に不安にかられた言葉が出始め、収拾がつかなくなり始めていた。
「・・・なぁ、隊長は無事か?」
魔法使いの一人が、サーチを担当する青魔法使いへ確認をする。
「・・・あぁ、まだ隊長の魔力は感じる・・・けど・・・かなり、弱くなっている・・・」
険しい顔で、言いにくそうにその言葉を口にすると、周囲のざわめきが一層大きくなった。
「もうがまんできねぇ!俺は行くぜ!」
「待てよ!隊長が信じられねぇのか!?合図を待て!」
「あの炎が見えねぇのか!?隊長が危ないかもしれないだろ!」
「待てって!エロール隊長はきっと大丈夫だ!ジャック・パスカルにだって勝っただろ?」
「あぁ、確かに勝ったよ!でも、死にかけたって話しじゃないか!隊長は無理するとこあるから、今回だってそうなるかもしれないだろ!?」
「私も行く!エロール隊長は白魔法使いの鏡!ジャニス様が一線を退かれてから、ずっと白魔法を支えてきた人だもん!絶対に失っちゃだめよ!」
「気持ちは分かるけど、隊長の命令だろ!隊長を信じて待てよ!」
隊の中でも意見が分かれ、まとまりを欠いてきたその時、まるで口論を諫めるように一陣の風が吹き、エロール隊の顔を撫でた。
「俺達が行こう」
樹々を揺らす風が治まり、その男はふわりと軽やかに空から降り立ち、静かだがハッキリとした口調でそう告げる。
「あ、あなたは・・・どうしてここに!?」
その男を目にすると、今までの喧噪が嘘のように治まり、場が静まり返った。
少し細身だが、深い緑色のマントからのぞく引き締まった両の腕、体のラインが見える黒い上着からは、鍛え抜かれた身体がよく分かる。
耳の下くらいまでの束感のあるアイスブルーの髪。
髪と同じ色をした切れ長の目が、エロール隊を見渡す。
「俺とジャニスに任せろ。必ずエロールを無事に連れて戻る」
ジョルジュ・ワーリンは、両腕で抱いていたジャニスをそっと地面に下ろした。
「疲れていないか?」
「ん?大丈夫だよ。病人じゃないんだから、そんなに気を遣わないでよ。ずっと抱っこされてたんだし、楽ちんだったよ」
一本結びにした明るい栗色の髪を肩へと流す。
髪と同じ栗色のパッチリとした瞳に、優し気な笑みを浮かべ、ジャニスはジョルジュに顔を向ける。
「そうか、それならいいんだ」
「もぅ、ジョルジュは心配症だなぁ。あ、それより早くエロールの加勢に行かなきゃね!急ごう!」
再びジョルジュがジャニスを抱きかかえようとすると、エロール隊の魔法使いの一人が慌てたように声をかけた。
「ちょ、ちょっと待ってください!な、なんでお二人がここに?それに、ジャニス様はもう戦わないと、身を引かれたはずでは?」
「風だ」
「・・・え?」
魔法使いの疑問に、ジョルジュが真正面から目を見て答えた。
だが、全く伝わらず、その魔法使いは目を瞬かせ、言葉を返せず立ち尽くしている。
「あ~・・・ジョルジュ、あんたねぇ、私やヤヨイさんじゃないんだから、それじゃ分かんないって。
あのね、時間がないから簡単に言うけど、ジョルジュの風の精霊の力でここに来るまでに状況はだいたい分かってるから。私はこの戦争で首都に運び込まれる怪我人の治療のために、少し前から王宮入りしてるの。ここには、昨日写しの鏡でペトラから応援要請をもらって、さっき着いたの。でも、すぐにエロールが危険だと分かったから、ここまで飛んできたのよ」
ペトラは先日の会議で、そろそろ帝国が本腰で攻めてい来るというエロールの意見を聞き、盤石の備えとして首都バンテージにいるエマヌエル・ロペスに応援を要請していたのだった。
帝国軍の指揮官がルシアン・クラスニキと知ったロペスは、一度対戦し優位に立っていたジョルジュを向かわせたのだが、そこでジャニスは自分も付いて行くと声を上げたのだった。
【首都もまだ大変だけど、落ち着いてきているわ。ブローグ砦には三万人もいて、帝国がこれから総攻撃を仕掛けて来るんなら、私の力はきっと役に立つわ!】
ジョルジュもブレンダンも、ジャニスを戦場に行かせる事には反対だった。
だが、自分が戦場に行く事で助けられる命もある。そのための白魔法だ。
そう言葉にするジャニスの強い意思を見て、二人は受け入れるしかなかった。
「ジャニス、そろそろ・・・」
「あ、うん急ごう!じゃあ、みんなはここで待ってて!私達がエロールを助けるから!」
説明を終えるなり、ジョルジュはジャニスを抱きかかえ、全身に風を纏い飛び上がった。
「いいか、お前達が突撃するタイミングは俺が知らせる。お前達もエロールの部下なら、隊長の言葉を信じて待て」
最後に一言そう言い残すと、ジョルジュとジャニスはあっという間に、夜の闇に溶けるように消えて行った。
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