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【345 ボルケーノ】

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身長190cm以上、体重100キロを超えるルシアンの巨体が、宙を舞った。

その光景に帝国軍は釘付けになる。
それもそのはずだった。

ルシアンの槍の一撃を防ぎ、カウンターで爆発魔法を浴びせる。
これをいとも簡単にやってのけたのが、なんと白魔法使いだと言うのだから。


打ち上げられたルシアンは、そのまま地面に落下するかと思われた。
だが、空中でくるりと縦に回転すると、両足で地面を揺らし降り立った。

「へぇ~、あれで立つか?けっこう頑丈じゃねぇか」

口笛を吹いて両手を打ち鳴らすと、ルシアンは音が鳴る程に歯を噛みしめ、エロールを睨み付けた。

「・・・貴様、名は何と言う?」

地の底から響くような、低く怒りを込めたの声だった。

ルシアンの深紅の鎧は胴の中心に亀裂が入っているが、鎧としての機能を失う程ではなかった。
反作用の糸による爆撃を受ける瞬間、ルシアンも深紅の鎧から炎を噴射し、完全とまではいかなくとも威力を減少させていたのだ。

「・・・エロールだ。エロール・タドゥラン。てめぇをこれからボコる男だ。覚えとけ」

「この私を前によくもそこまで大口を叩いたものだ・・・後悔させてやろう!」

ルシアンが再び距離を詰める。
頭、肩、胸、腹、腕、目にも止まらぬ速さで連続の突きを撃ち放ってくる。

エロールの反射神経では、到底捉えきれない連続攻撃だった。

だが、ルシアンが距離を詰めて来た瞬間に、全てを一度に受け切る結界を張る事は可能である。

首から外したマフラーを、左右の端を合わせて円を作る。

それはエロールの体を全て隠せる程の大きな盾。
青く輝く結界となり、ルシアンの攻撃を全て防ぎきった。

「ぬるいな。そんなんで俺の反作用の糸はやぶれねぇぞ」

「だろうな。この程度で倒せるならば私の前に立つ資格はない」

いつの間にかルシアンは落ち着きを取り戻していた。
繰り出す槍は全てエロールの結界に防がれているが、想定内というように、その表情には余裕すら浮かんでいる。




なにを考えてやがる?
この野郎、意外にクレバーだ。挑発に乗って雑な攻撃をしかけてくるかと思えば、小さくまとめてきやがる。
激情してもすぐに抑えるすべを持っている。面倒なヤツだ。

最初の一撃もだいぶ威力を殺されている。攻撃をくらう瞬間に、炎を噴射したようだな。
機転の利くやつだ。同じ師団長でも、あの斧野郎よりやりにくいぜ。

だが・・・俺の予想通りだ。
ジョルジュから聞いていた通り、コイツはプライドが高い。
格下と見ている白魔法使い相手なら、部下に手を出させず、一対一に持ち込めると思っていたが的中だ。

こいつら動く気配がねぇ。ルシアンからの指示を待ってやがる。
そう教育されてきたんだろうが、こいつら馬鹿だ。いや、ルシアンが馬鹿なんだな。
面子を保つ事なんて考えてねぇで、さっさと俺を全員で襲って殺しちまえばいいのよ。

よっぽど自分に自信があるんだな。白魔法使いなんかに負けるとは微塵も思ってねぇんだ。
なめやがって。けど、それでいい。そうでないと困る。
そうでないと、つけいる隙がないからな!





白魔法使いと言っていたが、これほど戦えるとはな。
私の槍を全て受け切り、かつ反撃の機会をうかがっている。
なるほど、私に一撃くらわせるだけの事はある。

大した男だ。白魔法使いへの見方が変わりそうだよ。

しかし、どれだけ私の動きを読み、対策を立てようと無駄な事だ。
所詮、白魔法使いは白魔法使い。

その魔道具による、結界と爆発魔法には驚かされた。それは認めよう。
だが、結局はそれだけだ。

そんなチンケな結界、すぐに破壊してくれるわ!

「うぉぉぉぉぉぉーッツ!」

深紅の鎧が炎を発する。
全身を紅蓮の炎に包み、ルシアンは空高く飛び上がった。




ナパームインパクトか!?
空高く飛び上がったルシアンを見て、エロールの警戒が上がった。

ウィッカーとジョルジュから聞いていた。
ルシアンはナパームインパクトを使った時、上空から地上へ向け肩から落下してきたと。

ジョルジュは風を使い、ウィッカーを抱え空へ逃れたと言うが、当然エロールには不可能だった。
ナパームインパクトを使われた場合、エロールは結界で凌ぐ。この一択しかない。

飛び上がったルシアンを睨み攻撃に備えるが、エロールの予想に反し、ルシアンの攻撃は槍によるものだった。




「深紅の鎧から発する炎を全て槍に集中させる!これぞ我が槍の最大の一撃、ボルケーノ!」

ルシアンの振り上げた槍の穂先から、火山の噴火を彷彿させる程、天高く炎が噴き上がる。
それは、大きく激しく凄まじい熱を放り、夜空を赤く染めていた。

「骨さえ残さん!燃え尽きろぉぉぉーッツ」

その一撃は、エロールの体を叩き潰すように振り下ろされた。
紅蓮の炎がエロールを呑み込み、大地を焼いて燃え広がる。
その凄まじい炎の熱は、ルシアンの後ろで待機する帝国軍にまで伝わる程だった。


「フッフッ・・・ハァーッハハハハ!少しはできるヤツだったが、所詮白魔法使い!私が本気を出せばこの通りだな!」

地面に突き刺さった槍を引き抜くと、片手で弧を描くように回し持ち直す。
大地を焼き、激しく燃え上がる炎を前に、ルシアンは勝利を確信し笑い声を上げた。


「どれ、黒焦げになった姿でも見てやるか。まてよ・・・一人でこの場に出てきたくらいだ、それなりの立ち位置の者なのだろう。カエストゥスの陣営に叩き付けてやれば、連中も動揺するかもしれん。そういう使い方でも・・・なッツ!?」

自ら焚きつけた炎の中に歩を進めようと一歩踏み出したその時、燃え盛る炎の中から青く輝く結界を身に纏ったエロールが飛び出した。

「ば、馬鹿な!」

「オラァァァーッツ!」

体に巻き付けたマフラーを引き外し結界を解除すると、そのまま破壊の魔力に変換させる。
エロールは高質化したマフラーを、ルシアンの頭に振り下ろした。
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