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【343 白魔法使いの戦場】
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「・・・もう大丈夫です!次の人!」
ディーン・モズリーの一撃からエリンを護ったフローラは、そのまま負傷兵にヒールをかけて回っていた。
反作用の糸で、なんとかペトラを援護できないかとも考えたが、エリンを護るために投げたマフラーが上手く結界を張って攻撃を防いだのは、ほとんどまぐれだった。
同じ事をもう一度やれと言われても不可能だろう。
自分はペトラの近くにいても邪魔になるだけだ。
そう判断したフローラは、自分のやるべき事に専念した。一人でも多くの負傷者を治す。
それこそが白魔法使いのなすべき事。
「フローラ隊長!重体者です!こちらを先にお願いします!」
「了解です!」
助けを求められフローラは立ち上がる。
治しても治しても、終わりが見えない程に負傷兵が横たわっている。
自分で歩ける者はいい。
だが、自力で歩けず担がれて来る者は、ほとんどが意識も無く危険な状態に陥っている。
回復にも魔力を多く使い、時間もかかる。
戦場を初めて経験するフローラは、息つく暇も無いプレッシャーの中、無我夢中で治し続けた。
早く・・・早く治さなきゃ!
苦しんでいる人が沢山いる・・・急がなきゃ!
また運ばれてきたっ・・・血がいっぱい出てる・・・この人は、私じゃとても・・・・・
【クセッ毛、一回深呼吸しろ】
【お前の魔力ならこの怪我は治せる】
【焦ったら、できる事もできねぇぞ】
【落ち着いて体の中を流れる魔力を感じ取れ】
【やればできるじゃねぇか?自信持てよ、お前はできる】
諦めかけたその時、これまで指導をしてくれたエロールの言葉が思い起こされた。
「・・・フローラ隊長・・・この人は、もう・・・ジャニス様でも無ければ・・・」
体を袈裟懸けに斬り裂かれている。
その傷口の深さ、流れ出る大量の血液を見て、完全に致命傷を負っている事が分かる。
呼吸も消えかかっており、もう手の施しようがないのは誰の目にも明らかだった。
「・・・いいえ!まだです!私は諦めません!」
深呼吸をし、心を落ち着かせる。体内に流れる魔力を感じ取り手の平に集中させる。
フローラのヒールは、これまでより一層強い輝きを放った。
「こ、これは!?」
「す、すごい!なんという輝き!」
「おお!傷が塞がっていく!」
誰もがあきらめかけていた重体の兵士、しかしフローラのヒールに体が包まれると、袈裟懸けに斬られた傷口がみるみるとふさがっていった。
で、できる・・・私のヒールでも、この人を助けられる!
「痛っ!」
ふいに強く頭が痛み、フローラは思わず頭を押さえうずくまる。
「痛い・・・痛い・・・」
【魔力の受け皿であるお前の体が、ちょっとばかし追いついてねぇんだよ】
【だから俺がお前の体の成長に合わせて、魔力の使い方を教えてたんだ】
【加減が分からねぇで強い魔力を使うと、ひでぇ頭痛を起こすからな】
先輩の言う通りです・・・頭がすごく痛い・・・
でも、今私が頑張らないと、この人・・・助からない・・・
「先輩・・・・・」
「フローラ隊長!私も手伝います!」
「俺も!」
「みんなで重ねがけしましょう!フローラ隊長の負担を減らすんです!」
くじけそうになった。だけどフローラは前を向いた。
もう一度ヒールをかけようとすると、周りで見ていた白魔法使い達が手を差し出し、次々とヒールを重ねてかけていく。
「み、みんな・・・」
「隊長!一人で無理しないでください!」
「俺らも一緒にやれば、なんとか助けられるはずです!」
「大変な時は、遠慮しないで頼ってください!」
「・・・うん!ありがとう!」
仲間と力を合わせ、フローラ隊は傷ついた兵士達を懸命に治療していった。
先輩・・・私、頑張ります!
一人でも多く救って見せます!
だから、先輩・・・絶対に帰ってきてください!
フローラは今だ激戦を続ける前線に目を向けた。
指揮官として戻ったエリンが奮闘し、一度は押された軍を立て直した。
そして、そのエリンが率いる隊よりもさらに前方では、ダークグリーンの髪の、一見すると女性のような中世的な顔立ちをした小柄な男が一人、帝国軍ルシアン・クラスニキを前に立っていた。
切れ長の目で、ふてぶてしさ前面に出しながら、エロールはルシアンに向かい口を開く。
「よぉ、ダミアンて言ったか?王位継承の儀以来だな」
「・・・ルシアンだ。ルシアン・クラスニキだ。二度と間違えるな」
額に青筋を浮かべ、ルシアンはエロールを睨み付けた。
ディーン・モズリーの一撃からエリンを護ったフローラは、そのまま負傷兵にヒールをかけて回っていた。
反作用の糸で、なんとかペトラを援護できないかとも考えたが、エリンを護るために投げたマフラーが上手く結界を張って攻撃を防いだのは、ほとんどまぐれだった。
同じ事をもう一度やれと言われても不可能だろう。
自分はペトラの近くにいても邪魔になるだけだ。
そう判断したフローラは、自分のやるべき事に専念した。一人でも多くの負傷者を治す。
それこそが白魔法使いのなすべき事。
「フローラ隊長!重体者です!こちらを先にお願いします!」
「了解です!」
助けを求められフローラは立ち上がる。
治しても治しても、終わりが見えない程に負傷兵が横たわっている。
自分で歩ける者はいい。
だが、自力で歩けず担がれて来る者は、ほとんどが意識も無く危険な状態に陥っている。
回復にも魔力を多く使い、時間もかかる。
戦場を初めて経験するフローラは、息つく暇も無いプレッシャーの中、無我夢中で治し続けた。
早く・・・早く治さなきゃ!
苦しんでいる人が沢山いる・・・急がなきゃ!
また運ばれてきたっ・・・血がいっぱい出てる・・・この人は、私じゃとても・・・・・
【クセッ毛、一回深呼吸しろ】
【お前の魔力ならこの怪我は治せる】
【焦ったら、できる事もできねぇぞ】
【落ち着いて体の中を流れる魔力を感じ取れ】
【やればできるじゃねぇか?自信持てよ、お前はできる】
諦めかけたその時、これまで指導をしてくれたエロールの言葉が思い起こされた。
「・・・フローラ隊長・・・この人は、もう・・・ジャニス様でも無ければ・・・」
体を袈裟懸けに斬り裂かれている。
その傷口の深さ、流れ出る大量の血液を見て、完全に致命傷を負っている事が分かる。
呼吸も消えかかっており、もう手の施しようがないのは誰の目にも明らかだった。
「・・・いいえ!まだです!私は諦めません!」
深呼吸をし、心を落ち着かせる。体内に流れる魔力を感じ取り手の平に集中させる。
フローラのヒールは、これまでより一層強い輝きを放った。
「こ、これは!?」
「す、すごい!なんという輝き!」
「おお!傷が塞がっていく!」
誰もがあきらめかけていた重体の兵士、しかしフローラのヒールに体が包まれると、袈裟懸けに斬られた傷口がみるみるとふさがっていった。
で、できる・・・私のヒールでも、この人を助けられる!
「痛っ!」
ふいに強く頭が痛み、フローラは思わず頭を押さえうずくまる。
「痛い・・・痛い・・・」
【魔力の受け皿であるお前の体が、ちょっとばかし追いついてねぇんだよ】
【だから俺がお前の体の成長に合わせて、魔力の使い方を教えてたんだ】
【加減が分からねぇで強い魔力を使うと、ひでぇ頭痛を起こすからな】
先輩の言う通りです・・・頭がすごく痛い・・・
でも、今私が頑張らないと、この人・・・助からない・・・
「先輩・・・・・」
「フローラ隊長!私も手伝います!」
「俺も!」
「みんなで重ねがけしましょう!フローラ隊長の負担を減らすんです!」
くじけそうになった。だけどフローラは前を向いた。
もう一度ヒールをかけようとすると、周りで見ていた白魔法使い達が手を差し出し、次々とヒールを重ねてかけていく。
「み、みんな・・・」
「隊長!一人で無理しないでください!」
「俺らも一緒にやれば、なんとか助けられるはずです!」
「大変な時は、遠慮しないで頼ってください!」
「・・・うん!ありがとう!」
仲間と力を合わせ、フローラ隊は傷ついた兵士達を懸命に治療していった。
先輩・・・私、頑張ります!
一人でも多く救って見せます!
だから、先輩・・・絶対に帰ってきてください!
フローラは今だ激戦を続ける前線に目を向けた。
指揮官として戻ったエリンが奮闘し、一度は押された軍を立て直した。
そして、そのエリンが率いる隊よりもさらに前方では、ダークグリーンの髪の、一見すると女性のような中世的な顔立ちをした小柄な男が一人、帝国軍ルシアン・クラスニキを前に立っていた。
切れ長の目で、ふてぶてしさ前面に出しながら、エロールはルシアンに向かい口を開く。
「よぉ、ダミアンて言ったか?王位継承の儀以来だな」
「・・・ルシアンだ。ルシアン・クラスニキだ。二度と間違えるな」
額に青筋を浮かべ、ルシアンはエロールを睨み付けた。
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