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【338 エロールとフローラ②】
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「ご馳走様・・・」
手を合わせてスプーンを置き、皿を持って立ち上がると、フローラが、いいですよ、と言いながらエロールから皿を受け取りキッチンへ持って行く。
「片づけくらいやるぞ」
エロールが言葉をかけると、フローラはチラリと顔を向け笑って見せた。
くつろいでいるが、エロールもフローラも、白のパイピングに深緑色のローブという、いつもの白魔法使いの服装で過ごしている。
これは、現在の状況を考えての事だ。
敵がいつ攻めて来るかわからないから、こうしていつでも出られるように控えているに過ぎない。
「いいですよ。あ、先輩はカフェオレでしたよね?座って待っててください」
「そうか、何から何まで悪いな」
イスに腰を下し、部屋を見回す。
ブローグ砦内には、部隊長、指揮官クラスにだけ分け与えられた個室がある。
備えは、最低限の料理が作れるキッチンと、シングルベット、そしてイスとテーブルがあるだけだが、
平の兵士が大部屋という事を考えれば、贅沢と言える待遇だ。
「俺の部屋とほとんど同じ作りだな」
「そりゃそうですよ、結局は砦の個室なんですから、はいどうぞ」
カップを受け取り一口含む。ほんのりとした甘さと温かさに、ほっと息を付く。
「・・・美味いな」
「甘さ、それくらいで丁度良かったですよね?」
「あぁ、このくらいでいい」
「クッキーもありますよ。先輩、チョコとか何も入ってない普通のクッキーが好きでしたよね?」
「あぁ、それが好きなんだ」
エロールがクッキーをかじり、カフェオレを飲む。
フローラは正面に座り、ニコニコと満足気にその様子を見ている。
「・・・なぁ、クセッ毛」
「無造作ヘアですけど、なんですか?先輩」
「お前・・・戦えるか?」
チラリとフローラに目を向け、エロールが探るようにその言葉を口にすると、フローラの表情が曇った。
「・・・はい、私も部隊長に任命されてから、戦う覚悟は決めてきました。怖いですけど・・・頑張ります」
「・・・・・そうか」
エロールは腰を上げると、脇に置いていた紙袋を手に取りフローラの前に置いた。
「やるよ」
「え!せ、先輩が・・・私にプレゼントですか?」
フローラは目を開き、目の前の紙袋と、エロールの顔を何度も交互に見る。
「・・・驚き過ぎだ。ったく、話しが進まねぇな・・・ほら、これだ」
エロールはフローラの隣に腰を下すと、紙袋の中からマフラーを取り出し、フローラの首に巻いていく。
「え!えぇっ!?ちょっ、せ、せんぱい!・・・あ、これって?」
「俺と同じ魔道具、反作用の糸だ・・・と言っても、俺のと全く同じ効果があるわけじゃない。お前の今のレベルじゃ、攻撃も防御も全部使いこなすのは負担がでかすぎる。だから、防御だけだ。いいかクセッ毛、この反作用の糸がどんな攻撃からもお前を護る。だから安心しろ」
エロールに巻いてもらったマフラーの魔道具、反作用の糸を手に取り見つめるフローラ。
その口元が喜びでほころんでいく。
「・・・嬉しいです。先輩が編んでくれたんですよね?」
「俺以外に誰が編めんだよ?」
「先輩と同じ水色だ・・・えへへ」
「・・・あ~、他に糸が無かったからな」
「先輩、私・・・怖くなくなりました」
「おぅ、そりゃ良かった。・・・んじゃ、俺はそろそろ行くぞ」
エロールが立ち上がると、フローラが袖を掴み、エロールを引き留める。
「ん、どうした?」
「もう、帰っちゃうんですか?」
「・・・ん?食事もしたし、マフラーも渡したし、あと帰るしかないだろ?」
「・・・先輩って、ほんっとーに先輩ですよね?」
「なに言ってんだお前?」
エロールが心底理解できないという顔で首を傾げると、フローラは、もういいです!と少し強く言い、エロールの背中を押して部屋から追い出した。
「痛ってぇーなぁ!クセッ毛!お前本当になんなんだよ!?」
「先輩はもっと女心を勉強してください!」
バタン!と、勢いよくドアを閉められると、エロールは頭をぽりぽりとかきながら、わけわかんねぇ、と呟きフローラの部屋から離れる。
「先輩!なんでそこで帰るんですか!」
「あ!?」
今度は、バン!と、勢いよくドアが開き、口をへの字に曲げたフローラが顔を出す。
「普通、ドアの前で必死に謝って、なんとか機嫌直してもらおうと頑張るとこですよ!」
「あぁ!?お前何言ってんだ!?」
「もぅ!本当に先輩ですね!もういいです!じゃあ、早く入ってください!」
「いやいや、なんで?食ったし渡したし、あと何もする事ねぇよな!?」
「まだ七時じゃないですか!用事がないなら私の部屋でお話ししましょうよ!」
「なんで用事ねぇって決めつけてんだよ!」
「あるんですか!?」
「ねぇよ!」
「じゃあ私と一緒にいればいいじゃないですか!先輩、私の事嫌いなんですか!?」
「え?い、いや、そんな事ねぇけど・・・」
「・・・じゃあ、一緒にいてくださいよ・・・」
俯きながらエロールの前まで来ると、フローラはエロールの袖を摘まんだ。
「・・・面白い話しとか、なにも知らねぇぞ?」
「・・・先輩、ここは余計な事言わないで、ぎゅっとするとこですよ?」
「あぁ?なに言ってんだお前?」
「・・・もういいです。ほら、早く入ってください」
「はぁ~、わぁったよ。もうちょっと付き合うわ・・・」
エロールは諦めたように大きく息をつくと、フローラに袖を引かれ部屋に戻って行った。
手を合わせてスプーンを置き、皿を持って立ち上がると、フローラが、いいですよ、と言いながらエロールから皿を受け取りキッチンへ持って行く。
「片づけくらいやるぞ」
エロールが言葉をかけると、フローラはチラリと顔を向け笑って見せた。
くつろいでいるが、エロールもフローラも、白のパイピングに深緑色のローブという、いつもの白魔法使いの服装で過ごしている。
これは、現在の状況を考えての事だ。
敵がいつ攻めて来るかわからないから、こうしていつでも出られるように控えているに過ぎない。
「いいですよ。あ、先輩はカフェオレでしたよね?座って待っててください」
「そうか、何から何まで悪いな」
イスに腰を下し、部屋を見回す。
ブローグ砦内には、部隊長、指揮官クラスにだけ分け与えられた個室がある。
備えは、最低限の料理が作れるキッチンと、シングルベット、そしてイスとテーブルがあるだけだが、
平の兵士が大部屋という事を考えれば、贅沢と言える待遇だ。
「俺の部屋とほとんど同じ作りだな」
「そりゃそうですよ、結局は砦の個室なんですから、はいどうぞ」
カップを受け取り一口含む。ほんのりとした甘さと温かさに、ほっと息を付く。
「・・・美味いな」
「甘さ、それくらいで丁度良かったですよね?」
「あぁ、このくらいでいい」
「クッキーもありますよ。先輩、チョコとか何も入ってない普通のクッキーが好きでしたよね?」
「あぁ、それが好きなんだ」
エロールがクッキーをかじり、カフェオレを飲む。
フローラは正面に座り、ニコニコと満足気にその様子を見ている。
「・・・なぁ、クセッ毛」
「無造作ヘアですけど、なんですか?先輩」
「お前・・・戦えるか?」
チラリとフローラに目を向け、エロールが探るようにその言葉を口にすると、フローラの表情が曇った。
「・・・はい、私も部隊長に任命されてから、戦う覚悟は決めてきました。怖いですけど・・・頑張ります」
「・・・・・そうか」
エロールは腰を上げると、脇に置いていた紙袋を手に取りフローラの前に置いた。
「やるよ」
「え!せ、先輩が・・・私にプレゼントですか?」
フローラは目を開き、目の前の紙袋と、エロールの顔を何度も交互に見る。
「・・・驚き過ぎだ。ったく、話しが進まねぇな・・・ほら、これだ」
エロールはフローラの隣に腰を下すと、紙袋の中からマフラーを取り出し、フローラの首に巻いていく。
「え!えぇっ!?ちょっ、せ、せんぱい!・・・あ、これって?」
「俺と同じ魔道具、反作用の糸だ・・・と言っても、俺のと全く同じ効果があるわけじゃない。お前の今のレベルじゃ、攻撃も防御も全部使いこなすのは負担がでかすぎる。だから、防御だけだ。いいかクセッ毛、この反作用の糸がどんな攻撃からもお前を護る。だから安心しろ」
エロールに巻いてもらったマフラーの魔道具、反作用の糸を手に取り見つめるフローラ。
その口元が喜びでほころんでいく。
「・・・嬉しいです。先輩が編んでくれたんですよね?」
「俺以外に誰が編めんだよ?」
「先輩と同じ水色だ・・・えへへ」
「・・・あ~、他に糸が無かったからな」
「先輩、私・・・怖くなくなりました」
「おぅ、そりゃ良かった。・・・んじゃ、俺はそろそろ行くぞ」
エロールが立ち上がると、フローラが袖を掴み、エロールを引き留める。
「ん、どうした?」
「もう、帰っちゃうんですか?」
「・・・ん?食事もしたし、マフラーも渡したし、あと帰るしかないだろ?」
「・・・先輩って、ほんっとーに先輩ですよね?」
「なに言ってんだお前?」
エロールが心底理解できないという顔で首を傾げると、フローラは、もういいです!と少し強く言い、エロールの背中を押して部屋から追い出した。
「痛ってぇーなぁ!クセッ毛!お前本当になんなんだよ!?」
「先輩はもっと女心を勉強してください!」
バタン!と、勢いよくドアを閉められると、エロールは頭をぽりぽりとかきながら、わけわかんねぇ、と呟きフローラの部屋から離れる。
「先輩!なんでそこで帰るんですか!」
「あ!?」
今度は、バン!と、勢いよくドアが開き、口をへの字に曲げたフローラが顔を出す。
「普通、ドアの前で必死に謝って、なんとか機嫌直してもらおうと頑張るとこですよ!」
「あぁ!?お前何言ってんだ!?」
「もぅ!本当に先輩ですね!もういいです!じゃあ、早く入ってください!」
「いやいや、なんで?食ったし渡したし、あと何もする事ねぇよな!?」
「まだ七時じゃないですか!用事がないなら私の部屋でお話ししましょうよ!」
「なんで用事ねぇって決めつけてんだよ!」
「あるんですか!?」
「ねぇよ!」
「じゃあ私と一緒にいればいいじゃないですか!先輩、私の事嫌いなんですか!?」
「え?い、いや、そんな事ねぇけど・・・」
「・・・じゃあ、一緒にいてくださいよ・・・」
俯きながらエロールの前まで来ると、フローラはエロールの袖を摘まんだ。
「・・・面白い話しとか、なにも知らねぇぞ?」
「・・・先輩、ここは余計な事言わないで、ぎゅっとするとこですよ?」
「あぁ?なに言ってんだお前?」
「・・・もういいです。ほら、早く入ってください」
「はぁ~、わぁったよ。もうちょっと付き合うわ・・・」
エロールは諦めたように大きく息をつくと、フローラに袖を引かれ部屋に戻って行った。
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