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【326 ルチルの秘めた力】

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時間差での攻撃により、一時はマイリスの遠距離攻撃を躱し、帝国兵を抑え込めていた。
倍以上の数を有する帝国兵とも互角に渡り合っていたが、長くは続かなかった。

マイリスの対応能力はパトリックの想像以上だった。


「・・・なるほど、そういうタイミングか。それなら、こっちもそれに合わせて撃つだけです」

自分の攻撃がどのタイミングで読まれているのか?
マイリスは数回の攻撃のあとにそれを把握した。

一度感覚を掴めば、それ以降はマイリスの独壇場だった。
時間差で放たれた魔法すらタイミングを読まれ、撃った直後に相殺されてしまう。

徐々にペースを崩されるカエストゥス軍に対し、帝国は支配力を強めて行き、あと一歩というとこまでカエストゥスを追い詰めていた。



「・・・ん?あの炎はへリングさんの天地焦炎斬・・・あれを出すなんて、けっこうてこずってるみたいですね」

2000メートル先にある、8メートルの石壁よりも高く上がる炎の柱に気付き、マイリスは表情を引き締め直した。

「さすがカエストゥスです。でも、ここまで追い込めば、僕達の勝利は揺るぎませんよ」

マイリスは指先をメディシングに向け構えると、慣れた仕草で狙いを付け、魔力を込め撃ち放った。





「なんだあの火柱は!?」

パトリックが石壁を降り、門番に重厚で大きな門を開けるよう命じた時、石壁よりも高く、まるで天をも焼き付くしそうな程に激しい炎が突如立ち昇った。

周囲の兵士達からもその異常な光景に、驚愕の声がもれる。

その炎に僅かばかり目を奪われてしまったが、パトリックはすぐに状況を察した。

あの男だ。
ルチルが戦っているあの男が、勝負に出たのだろう。

帝国の兵士達を抑えるだけで精一杯の状況で、あの炎がどう働くのか?


「・・・ルチル、信じているぞ!」

パトリックは再び門番に開門を指示する。

・・・ルチルはまかせろと言ったんだ。大丈夫だ、ルチルは強い。信じるんだ。

目にした炎の大きさには衝撃を受けた。あの炎をどう使うのか?そしてその結果によっては、ギリギリで耐えているこの均衡が破られる事になるだろう。

不安も懸念もあったが、今この状況でパトリックまでルチルの加勢に向かう訳にはいかない。
目の前には、ギリギリの状態で結界を維持している青魔法使い達がいるのだ。

パトリックはルチルを信じ、待機していた剣士隊を引きつれ飛び出した。





「カエストゥスはもう限界だ!撃って撃って撃ち続けろ!こんな結界破壊してやれ!」

門を開けパトリックと剣士隊が出ると、壁から十数メートル先に張り巡らされた結界の前で、肉厚の鎧で全身を固めた大柄な男が、声高々と号令を出していた。

その手には、並みの体力型ではとても扱えそうに見えない程、巨大な鉄のハンマーが握られている。
片手で軽々と肩にかけているところをみると、そうとうな腕力の持ち主だという事が分かる。

「あーっ!まどろっこしい!どけっ!俺がやる!」

大柄な男は魔法使い達を押しのけると、体をいからせながら大股で前に進み結界の前に立つ。

「おお!ブリックス兵士長!」
「やる気だ!兵士長がやる気だぞ!」
「兵士長の、全てを破壊する一撃!久しぶりに出るぞ!」

期待を込めた歓声に気を良くしたブリックスは、勢いよくその巨大な鉄のハンマーを振りかぶった。

「こんなクソ結界はなぁぁぁ!こうやってぶっ叩けば一発なんだよぉぉぉ!」


ブリックスの全てを破壊する一撃がカエストゥスの結界にぶち当たったと思われた瞬間、突如、大きな破裂音が響き渡り、それと同時にブリックスの巨体が真後ろに弾き飛ばされた。

ブリックスは、何度か転がった後に力なく横たわる。
その口からは泡が吐き出され、小刻みな痙攣をおこしている。
肉厚の鎧の胸部は砕け、むき出しになった胸板は黒く焦げて煙が立っていた。

ブリックスの姿を見て、その場にいた全ての帝国兵が沈黙する。


「ここは一歩も通さん。そいつと同じようになりたいヤツは前に出ろ」

パトリックは指先を突き付け、眼光鋭く帝国軍を睨みつけた。
その指には、金色に輝く雷の指輪がはめられていた。





炎の剣と呼ぶにはあまりに大きすぎる。
へリングの振り下ろしたその一撃は、ルチルの体など丸のみしても余りある大きさだった。

「ウオラァァァーッ!」

迫り来る炎を見て、ルチルはこのままではかわしきれないと判断した。

横に飛び退いたとて、熱波が届かない距離までは逃げられないだろう。
そしてへリングが横に凪ぎ払ってくる事も予想できる。
これ程の質量で、さらに炎という形が定まっていないものを、いつまでもかわしきる事はできない。


・・・ならばやるしかない


ルチルが爪先を地面に強く打ちつけると、足元から金色に輝く光が放出される。

ヘリングがその光を目にした時には、すでにルチルはヘリングの後ろを取っていた。


なんだと!?
どうやって?いつの間に後ろに回った?一瞬足が光ったと思ったら、次に意識が捉えた時は背中を取られていた。

多くの疑問が頭に浮かんだが、考えるよりも今は背中をとられたという危機を脱する事が最優先だ。
驚きの声さえ呑み込み、ヘリングは腰を捻り、振り下ろした腕を無理やり横に払い背後のルチルに炎の柱を打ちつける。

「ラァァァァーッツ!」

だが、ヘリングが振り切るより早く、ルチルはヘリングの懐に入り込んでいた。

「遅いッツ!」

左脇腹から右肩へ、ルチルのシャムシールがヘリングを袈裟懸けに斬り裂いた。
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