327 / 1,298
【326 ルチルの秘めた力】
しおりを挟む
時間差での攻撃により、一時はマイリスの遠距離攻撃を躱し、帝国兵を抑え込めていた。
倍以上の数を有する帝国兵とも互角に渡り合っていたが、長くは続かなかった。
マイリスの対応能力はパトリックの想像以上だった。
「・・・なるほど、そういうタイミングか。それなら、こっちもそれに合わせて撃つだけです」
自分の攻撃がどのタイミングで読まれているのか?
マイリスは数回の攻撃のあとにそれを把握した。
一度感覚を掴めば、それ以降はマイリスの独壇場だった。
時間差で放たれた魔法すらタイミングを読まれ、撃った直後に相殺されてしまう。
徐々にペースを崩されるカエストゥス軍に対し、帝国は支配力を強めて行き、あと一歩というとこまでカエストゥスを追い詰めていた。
「・・・ん?あの炎はへリングさんの天地焦炎斬・・・あれを出すなんて、けっこうてこずってるみたいですね」
2000メートル先にある、8メートルの石壁よりも高く上がる炎の柱に気付き、マイリスは表情を引き締め直した。
「さすがカエストゥスです。でも、ここまで追い込めば、僕達の勝利は揺るぎませんよ」
マイリスは指先をメディシングに向け構えると、慣れた仕草で狙いを付け、魔力を込め撃ち放った。
「なんだあの火柱は!?」
パトリックが石壁を降り、門番に重厚で大きな門を開けるよう命じた時、石壁よりも高く、まるで天をも焼き付くしそうな程に激しい炎が突如立ち昇った。
周囲の兵士達からもその異常な光景に、驚愕の声がもれる。
その炎に僅かばかり目を奪われてしまったが、パトリックはすぐに状況を察した。
あの男だ。
ルチルが戦っているあの男が、勝負に出たのだろう。
帝国の兵士達を抑えるだけで精一杯の状況で、あの炎がどう働くのか?
「・・・ルチル、信じているぞ!」
パトリックは再び門番に開門を指示する。
・・・ルチルはまかせろと言ったんだ。大丈夫だ、ルチルは強い。信じるんだ。
目にした炎の大きさには衝撃を受けた。あの炎をどう使うのか?そしてその結果によっては、ギリギリで耐えているこの均衡が破られる事になるだろう。
不安も懸念もあったが、今この状況でパトリックまでルチルの加勢に向かう訳にはいかない。
目の前には、ギリギリの状態で結界を維持している青魔法使い達がいるのだ。
パトリックはルチルを信じ、待機していた剣士隊を引きつれ飛び出した。
「カエストゥスはもう限界だ!撃って撃って撃ち続けろ!こんな結界破壊してやれ!」
門を開けパトリックと剣士隊が出ると、壁から十数メートル先に張り巡らされた結界の前で、肉厚の鎧で全身を固めた大柄な男が、声高々と号令を出していた。
その手には、並みの体力型ではとても扱えそうに見えない程、巨大な鉄のハンマーが握られている。
片手で軽々と肩にかけているところをみると、そうとうな腕力の持ち主だという事が分かる。
「あーっ!まどろっこしい!どけっ!俺がやる!」
大柄な男は魔法使い達を押しのけると、体をいからせながら大股で前に進み結界の前に立つ。
「おお!ブリックス兵士長!」
「やる気だ!兵士長がやる気だぞ!」
「兵士長の、全てを破壊する一撃!久しぶりに出るぞ!」
期待を込めた歓声に気を良くしたブリックスは、勢いよくその巨大な鉄のハンマーを振りかぶった。
「こんなクソ結界はなぁぁぁ!こうやってぶっ叩けば一発なんだよぉぉぉ!」
ブリックスの全てを破壊する一撃がカエストゥスの結界にぶち当たったと思われた瞬間、突如、大きな破裂音が響き渡り、それと同時にブリックスの巨体が真後ろに弾き飛ばされた。
ブリックスは、何度か転がった後に力なく横たわる。
その口からは泡が吐き出され、小刻みな痙攣をおこしている。
肉厚の鎧の胸部は砕け、むき出しになった胸板は黒く焦げて煙が立っていた。
ブリックスの姿を見て、その場にいた全ての帝国兵が沈黙する。
「ここは一歩も通さん。そいつと同じようになりたいヤツは前に出ろ」
パトリックは指先を突き付け、眼光鋭く帝国軍を睨みつけた。
その指には、金色に輝く雷の指輪がはめられていた。
炎の剣と呼ぶにはあまりに大きすぎる。
へリングの振り下ろしたその一撃は、ルチルの体など丸のみしても余りある大きさだった。
「ウオラァァァーッ!」
迫り来る炎を見て、ルチルはこのままではかわしきれないと判断した。
横に飛び退いたとて、熱波が届かない距離までは逃げられないだろう。
そしてへリングが横に凪ぎ払ってくる事も予想できる。
これ程の質量で、さらに炎という形が定まっていないものを、いつまでもかわしきる事はできない。
・・・ならばやるしかない
ルチルが爪先を地面に強く打ちつけると、足元から金色に輝く光が放出される。
ヘリングがその光を目にした時には、すでにルチルはヘリングの後ろを取っていた。
なんだと!?
どうやって?いつの間に後ろに回った?一瞬足が光ったと思ったら、次に意識が捉えた時は背中を取られていた。
多くの疑問が頭に浮かんだが、考えるよりも今は背中をとられたという危機を脱する事が最優先だ。
驚きの声さえ呑み込み、ヘリングは腰を捻り、振り下ろした腕を無理やり横に払い背後のルチルに炎の柱を打ちつける。
「ラァァァァーッツ!」
だが、ヘリングが振り切るより早く、ルチルはヘリングの懐に入り込んでいた。
「遅いッツ!」
左脇腹から右肩へ、ルチルのシャムシールがヘリングを袈裟懸けに斬り裂いた。
倍以上の数を有する帝国兵とも互角に渡り合っていたが、長くは続かなかった。
マイリスの対応能力はパトリックの想像以上だった。
「・・・なるほど、そういうタイミングか。それなら、こっちもそれに合わせて撃つだけです」
自分の攻撃がどのタイミングで読まれているのか?
マイリスは数回の攻撃のあとにそれを把握した。
一度感覚を掴めば、それ以降はマイリスの独壇場だった。
時間差で放たれた魔法すらタイミングを読まれ、撃った直後に相殺されてしまう。
徐々にペースを崩されるカエストゥス軍に対し、帝国は支配力を強めて行き、あと一歩というとこまでカエストゥスを追い詰めていた。
「・・・ん?あの炎はへリングさんの天地焦炎斬・・・あれを出すなんて、けっこうてこずってるみたいですね」
2000メートル先にある、8メートルの石壁よりも高く上がる炎の柱に気付き、マイリスは表情を引き締め直した。
「さすがカエストゥスです。でも、ここまで追い込めば、僕達の勝利は揺るぎませんよ」
マイリスは指先をメディシングに向け構えると、慣れた仕草で狙いを付け、魔力を込め撃ち放った。
「なんだあの火柱は!?」
パトリックが石壁を降り、門番に重厚で大きな門を開けるよう命じた時、石壁よりも高く、まるで天をも焼き付くしそうな程に激しい炎が突如立ち昇った。
周囲の兵士達からもその異常な光景に、驚愕の声がもれる。
その炎に僅かばかり目を奪われてしまったが、パトリックはすぐに状況を察した。
あの男だ。
ルチルが戦っているあの男が、勝負に出たのだろう。
帝国の兵士達を抑えるだけで精一杯の状況で、あの炎がどう働くのか?
「・・・ルチル、信じているぞ!」
パトリックは再び門番に開門を指示する。
・・・ルチルはまかせろと言ったんだ。大丈夫だ、ルチルは強い。信じるんだ。
目にした炎の大きさには衝撃を受けた。あの炎をどう使うのか?そしてその結果によっては、ギリギリで耐えているこの均衡が破られる事になるだろう。
不安も懸念もあったが、今この状況でパトリックまでルチルの加勢に向かう訳にはいかない。
目の前には、ギリギリの状態で結界を維持している青魔法使い達がいるのだ。
パトリックはルチルを信じ、待機していた剣士隊を引きつれ飛び出した。
「カエストゥスはもう限界だ!撃って撃って撃ち続けろ!こんな結界破壊してやれ!」
門を開けパトリックと剣士隊が出ると、壁から十数メートル先に張り巡らされた結界の前で、肉厚の鎧で全身を固めた大柄な男が、声高々と号令を出していた。
その手には、並みの体力型ではとても扱えそうに見えない程、巨大な鉄のハンマーが握られている。
片手で軽々と肩にかけているところをみると、そうとうな腕力の持ち主だという事が分かる。
「あーっ!まどろっこしい!どけっ!俺がやる!」
大柄な男は魔法使い達を押しのけると、体をいからせながら大股で前に進み結界の前に立つ。
「おお!ブリックス兵士長!」
「やる気だ!兵士長がやる気だぞ!」
「兵士長の、全てを破壊する一撃!久しぶりに出るぞ!」
期待を込めた歓声に気を良くしたブリックスは、勢いよくその巨大な鉄のハンマーを振りかぶった。
「こんなクソ結界はなぁぁぁ!こうやってぶっ叩けば一発なんだよぉぉぉ!」
ブリックスの全てを破壊する一撃がカエストゥスの結界にぶち当たったと思われた瞬間、突如、大きな破裂音が響き渡り、それと同時にブリックスの巨体が真後ろに弾き飛ばされた。
ブリックスは、何度か転がった後に力なく横たわる。
その口からは泡が吐き出され、小刻みな痙攣をおこしている。
肉厚の鎧の胸部は砕け、むき出しになった胸板は黒く焦げて煙が立っていた。
ブリックスの姿を見て、その場にいた全ての帝国兵が沈黙する。
「ここは一歩も通さん。そいつと同じようになりたいヤツは前に出ろ」
パトリックは指先を突き付け、眼光鋭く帝国軍を睨みつけた。
その指には、金色に輝く雷の指輪がはめられていた。
炎の剣と呼ぶにはあまりに大きすぎる。
へリングの振り下ろしたその一撃は、ルチルの体など丸のみしても余りある大きさだった。
「ウオラァァァーッ!」
迫り来る炎を見て、ルチルはこのままではかわしきれないと判断した。
横に飛び退いたとて、熱波が届かない距離までは逃げられないだろう。
そしてへリングが横に凪ぎ払ってくる事も予想できる。
これ程の質量で、さらに炎という形が定まっていないものを、いつまでもかわしきる事はできない。
・・・ならばやるしかない
ルチルが爪先を地面に強く打ちつけると、足元から金色に輝く光が放出される。
ヘリングがその光を目にした時には、すでにルチルはヘリングの後ろを取っていた。
なんだと!?
どうやって?いつの間に後ろに回った?一瞬足が光ったと思ったら、次に意識が捉えた時は背中を取られていた。
多くの疑問が頭に浮かんだが、考えるよりも今は背中をとられたという危機を脱する事が最優先だ。
驚きの声さえ呑み込み、ヘリングは腰を捻り、振り下ろした腕を無理やり横に払い背後のルチルに炎の柱を打ちつける。
「ラァァァァーッツ!」
だが、ヘリングが振り切るより早く、ルチルはヘリングの懐に入り込んでいた。
「遅いッツ!」
左脇腹から右肩へ、ルチルのシャムシールがヘリングを袈裟懸けに斬り裂いた。
0
お気に入りに追加
152
あなたにおすすめの小説
元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。
異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。
ファンタスティック小説家
ファンタジー
科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。
実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。
無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。
辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。
ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました
星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
チートな親から生まれたのは「規格外」でした
真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て…
これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです…
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます
時々さかのぼって部分修正することがあります
誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)
感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる