325 / 1,370
【324 遠距離攻撃】
しおりを挟む
黒魔法使いでも、特に能力の高い10人による竜氷縛が砕かれた時、パトリックは理解した。
この戦いにおける最大の脅威、それはこの遠距離攻撃の魔法使いだと。
最初に帝国軍の姿を確認した位置、おそらくそこに留まっている。
その位置から推測して、1,500・・・いや、2,000メートルは離れているだろう。
これだけ遠距離から、これほど正確無比に的を射抜く能力を持った魔法使いを、パトリックは他に知らない。正確性だけならウィッカーをも凌駕している。大陸一と言って過言でない。
そして・・・
「この威力・・・おそらく爆裂空破弾、だがこの威力は・・・」
パトリックの頬を一筋の汗が伝い落ちる。
魔法の威力は術者の魔力で差が出る。そして、この遠距離攻撃の魔法使いは、マイリスは中級魔法の爆裂空破弾で、上級魔法の竜氷縛を破壊したのだ。
「2.000メートルからの遠距離攻撃、中級魔法を続けて10発撃てる連射能力、針の穴を通す正確性、そしてこの威力・・・・・強い。これほどの使い手が帝国にいたとは・・・」
「パトリックさん!集中してください!」
僅かな時間だが、パトリックの気が目の前のヘリングから外れた時、ルチルがパトリックの脇を通り抜け、石壁から飛び降りた。
「なっ、ルチル!?」
「あいつはまかせてください!」
手にしている武器は切っ先に向かって傾斜した、細身で独特の形状の剣、シャムシール。
それは非常に細かく振動していた。
「あぁ!?俺とやるってのか!?面倒くせぇなぁ!」
「女の相手もできないの?腰抜けだね!」
ルチルは剣を持つ右手を振り上げ、ヘリングの脳天目掛けてそのまま振り下ろした。
「言ってくれんじゃねぇ・・・」
ヘリングは炎を纏った左の拳を、ルチルの剣を受けるように前に出した。
左の腕当てで剣を受け止め、右の拳でルチルの胸を貫く。そう考えた直後、ヘリングの耳が捉えたその音に、ヘリングは一歩体を引いた。
そしてその判断は正しかった。
「ちっ!」
ルチルの挑発に乗らず、ヘリングは己の勘を信じた。
ルチルの剣がヘリングの左腕をかすめる。
ヘリングの左の腕当てに亀裂が入り、砕かれた装甲が飛び散った。
「・・・そいつは、振動か?すげぇじゃねぇか!」
ヘリングは笑った。その目には、目の前の強者への興味がありありと浮かんでいた。
「・・・直前でよく躱したね・・・勘の良いヤツは嫌いじゃないよ」
ルチルもまた静かに笑った。
目の前の男は自分よりはるかに格上だ。それは対峙して一瞬で感じ取った。
だが、恐怖は無かった。
なぜなら・・・・・
「あの大男・・・コバレフ、あいつとあんた、どっちが強いのかな?」
敗れたが、コバレフとの戦いがルチルを押し上げた。
「お前、コバレフさんを知って・・・いや、お前か?コバレフさんを殺ったのは?」
「・・・いいえ、コバレフを倒したのは私の尊敬していた人よ。私はその人のおかげで今生きている。そして、私はコバレフと戦って強くなった。あなたからはコバレフと同格の強さを感じる。だから、あなたに勝つ事が、強くなる事が私のあの人への恩返しよ」
「・・・何言ってるか全然分かんねぇよ。けど・・・お前が俺との戦いに命かけてるのは分かった。俺はユニエル・ヘリング。お前の超えられねぇ山だ」
ルチルの覚悟が伝わり、ヘリングの目が鋭い光を放った。
「ルチル、分かった。そいつはお前にまかせる。俺は・・・」
お前がその男に勝つ事を信じる!他は全てまかせろ!
「敵が向かってくるぞ!撃ち続けろ!竜氷縛の準備もだ!」
パトリックの号令で、石壁の上の魔法使い達が一斉に魔法を撃ち、弓兵が矢を射る。
だが、メディシングに向かってくる帝国軍の兵士達は、依然結界で護られており、決定的なダメージを与える事ができず、カエストゥスの攻撃は足止め程度にしかならなかった。
「竜氷縛、いけます!」
先ほどヘリングに竜氷縛を放った黒魔法使い10人が、パトリックに準備整った事を伝える。
「よし!それでは一斉に・・・」
向ってくる帝国兵に、一斉に撃ち放つよう合図を出そうとしたところで、パトリックは一瞬頭をよぎった可能性に言葉を止める。
そして、パトリックはその可能性を考え、言葉を変えて指示を出した。
「・・・あ、懲りないですねぇ。また竜氷縛ですか?僕が狙っている以上、好きにはさせませんよ」
メディシングから、2,000メートル後方では、マイリスが全ての魔力を探知し、カエストゥスの動きを完全に把握していた。
右手人差し指にはめている指門の筒。
特異なまでの広範囲魔力探知と指門の筒。この二つでマイリスは、遠距離攻撃での無類の強さを見せる。
「数は・・・5体ですね。何度やっても無駄です!」
マイリスの指先に込めた魔力が、指門の筒から圧縮され撃ち放たれた。
「・・・来るぞ!今だ!撃てーッツ!」
マイリスの魔法が放たれ、その軌道を視認すると同時にパトリックは声を張り上げた。
その言葉を受け、魔法を待機させたいた5人の黒魔法使いが竜氷縛を撃ち放つ。
「なにっ!?」
マイリスの放った五発の爆発魔法、爆裂空破弾は、狙い通り五体の氷の竜を打ち砕いた。
だが、そのすぐ後ろから時間差で放たれた五体の氷の竜が、大顎を開き帝国兵を呑み込むと、次々と氷の彫像へ変えていった。
「・・・すごいな。この短い時間で、もう僕の攻撃に対応したって言うのですか?」
マイリスは自分の攻撃の正確性、連射能力、破壊力、全てを分かった上でたてられた対策に、感嘆の声を漏らした。
「遠距離攻撃ゆえに、届くまでに僅かばかり時間がかかる。それでも数秒程度だが、流石に対応できなかったようだな」
パトリックの読みが、マイリスの遠距離攻撃の間隙をついた。
この戦いにおける最大の脅威、それはこの遠距離攻撃の魔法使いだと。
最初に帝国軍の姿を確認した位置、おそらくそこに留まっている。
その位置から推測して、1,500・・・いや、2,000メートルは離れているだろう。
これだけ遠距離から、これほど正確無比に的を射抜く能力を持った魔法使いを、パトリックは他に知らない。正確性だけならウィッカーをも凌駕している。大陸一と言って過言でない。
そして・・・
「この威力・・・おそらく爆裂空破弾、だがこの威力は・・・」
パトリックの頬を一筋の汗が伝い落ちる。
魔法の威力は術者の魔力で差が出る。そして、この遠距離攻撃の魔法使いは、マイリスは中級魔法の爆裂空破弾で、上級魔法の竜氷縛を破壊したのだ。
「2.000メートルからの遠距離攻撃、中級魔法を続けて10発撃てる連射能力、針の穴を通す正確性、そしてこの威力・・・・・強い。これほどの使い手が帝国にいたとは・・・」
「パトリックさん!集中してください!」
僅かな時間だが、パトリックの気が目の前のヘリングから外れた時、ルチルがパトリックの脇を通り抜け、石壁から飛び降りた。
「なっ、ルチル!?」
「あいつはまかせてください!」
手にしている武器は切っ先に向かって傾斜した、細身で独特の形状の剣、シャムシール。
それは非常に細かく振動していた。
「あぁ!?俺とやるってのか!?面倒くせぇなぁ!」
「女の相手もできないの?腰抜けだね!」
ルチルは剣を持つ右手を振り上げ、ヘリングの脳天目掛けてそのまま振り下ろした。
「言ってくれんじゃねぇ・・・」
ヘリングは炎を纏った左の拳を、ルチルの剣を受けるように前に出した。
左の腕当てで剣を受け止め、右の拳でルチルの胸を貫く。そう考えた直後、ヘリングの耳が捉えたその音に、ヘリングは一歩体を引いた。
そしてその判断は正しかった。
「ちっ!」
ルチルの挑発に乗らず、ヘリングは己の勘を信じた。
ルチルの剣がヘリングの左腕をかすめる。
ヘリングの左の腕当てに亀裂が入り、砕かれた装甲が飛び散った。
「・・・そいつは、振動か?すげぇじゃねぇか!」
ヘリングは笑った。その目には、目の前の強者への興味がありありと浮かんでいた。
「・・・直前でよく躱したね・・・勘の良いヤツは嫌いじゃないよ」
ルチルもまた静かに笑った。
目の前の男は自分よりはるかに格上だ。それは対峙して一瞬で感じ取った。
だが、恐怖は無かった。
なぜなら・・・・・
「あの大男・・・コバレフ、あいつとあんた、どっちが強いのかな?」
敗れたが、コバレフとの戦いがルチルを押し上げた。
「お前、コバレフさんを知って・・・いや、お前か?コバレフさんを殺ったのは?」
「・・・いいえ、コバレフを倒したのは私の尊敬していた人よ。私はその人のおかげで今生きている。そして、私はコバレフと戦って強くなった。あなたからはコバレフと同格の強さを感じる。だから、あなたに勝つ事が、強くなる事が私のあの人への恩返しよ」
「・・・何言ってるか全然分かんねぇよ。けど・・・お前が俺との戦いに命かけてるのは分かった。俺はユニエル・ヘリング。お前の超えられねぇ山だ」
ルチルの覚悟が伝わり、ヘリングの目が鋭い光を放った。
「ルチル、分かった。そいつはお前にまかせる。俺は・・・」
お前がその男に勝つ事を信じる!他は全てまかせろ!
「敵が向かってくるぞ!撃ち続けろ!竜氷縛の準備もだ!」
パトリックの号令で、石壁の上の魔法使い達が一斉に魔法を撃ち、弓兵が矢を射る。
だが、メディシングに向かってくる帝国軍の兵士達は、依然結界で護られており、決定的なダメージを与える事ができず、カエストゥスの攻撃は足止め程度にしかならなかった。
「竜氷縛、いけます!」
先ほどヘリングに竜氷縛を放った黒魔法使い10人が、パトリックに準備整った事を伝える。
「よし!それでは一斉に・・・」
向ってくる帝国兵に、一斉に撃ち放つよう合図を出そうとしたところで、パトリックは一瞬頭をよぎった可能性に言葉を止める。
そして、パトリックはその可能性を考え、言葉を変えて指示を出した。
「・・・あ、懲りないですねぇ。また竜氷縛ですか?僕が狙っている以上、好きにはさせませんよ」
メディシングから、2,000メートル後方では、マイリスが全ての魔力を探知し、カエストゥスの動きを完全に把握していた。
右手人差し指にはめている指門の筒。
特異なまでの広範囲魔力探知と指門の筒。この二つでマイリスは、遠距離攻撃での無類の強さを見せる。
「数は・・・5体ですね。何度やっても無駄です!」
マイリスの指先に込めた魔力が、指門の筒から圧縮され撃ち放たれた。
「・・・来るぞ!今だ!撃てーッツ!」
マイリスの魔法が放たれ、その軌道を視認すると同時にパトリックは声を張り上げた。
その言葉を受け、魔法を待機させたいた5人の黒魔法使いが竜氷縛を撃ち放つ。
「なにっ!?」
マイリスの放った五発の爆発魔法、爆裂空破弾は、狙い通り五体の氷の竜を打ち砕いた。
だが、そのすぐ後ろから時間差で放たれた五体の氷の竜が、大顎を開き帝国兵を呑み込むと、次々と氷の彫像へ変えていった。
「・・・すごいな。この短い時間で、もう僕の攻撃に対応したって言うのですか?」
マイリスは自分の攻撃の正確性、連射能力、破壊力、全てを分かった上でたてられた対策に、感嘆の声を漏らした。
「遠距離攻撃ゆえに、届くまでに僅かばかり時間がかかる。それでも数秒程度だが、流石に対応できなかったようだな」
パトリックの読みが、マイリスの遠距離攻撃の間隙をついた。
0
お気に入りに追加
220
あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~
新米少尉
ファンタジー
「私は私の評価を他人に委ねるつもりはありません」
多くの者達が英雄を目指す中、彼はそんなことは望んでいなかった。
ただ一つ、自ら選択した道を黙々と歩むだけを目指した。
その道が他者からは忌み嫌われるものであろうとも彼には誇りと信念があった。
彼が自ら選んだのはネクロマンサーとしての生き方。
これは職業「死霊術師」を自ら選んだ男の物語。
~他のサイトで投稿していた小説の転載です。完結済の作品ですが、若干の修正をしながらきりのよい部分で一括投稿していきますので試しに覗いていただけると嬉しく思います~

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?
伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します
小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。
そして、田舎の町から王都へ向かいます
登場人物の名前と色
グラン デディーリエ(義母の名字)
8才
若草色の髪 ブルーグリーンの目
アルフ 実父
アダマス 母
エンジュ ミライト
13才 グランの義理姉
桃色の髪 ブルーの瞳
ユーディア ミライト
17才 グランの義理姉
濃い赤紫の髪 ブルーの瞳
コンティ ミライト
7才 グランの義理の弟
フォンシル コンドーラル ベージュ
11才皇太子
ピーター サイマルト
近衛兵 皇太子付き
アダマゼイン 魔王
目が透明
ガーゼル 魔王の側近 女の子
ジャスパー
フロー 食堂宿の人
宝石の名前関係をもじってます。
色とかもあわせて。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました
おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。
※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。
※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・)
更新はめっちゃ不定期です。
※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった
今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。
しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。
それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。
一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。
しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。
加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。
レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる