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理太郎

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【323 壁際の攻防】

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「・・・本当に・・・ヘリングさんはしかたない人ですね」

そう口にするマイリスだが、どこかヘリングとのやりとりを楽しんでいるように、口元には笑みが浮かんでいた。

ヘリング達が一定の距離を進むと、マイリスは後ろに待機している残りの魔法兵達に号令をかけた。

「それでは作戦の確認をします。ヘリングさんが攻撃をしかけたタイミングで、僕達は遠距離攻撃をしかけます。と言っても、この距離から攻撃できるのは僕しかいないので、黒魔法使いの皆さんは各々の射程距離まで近づいて攻撃を行ってください。青と白の魔法使いの方は結界と回復でフォローです。つまり、三人一組で行動をするという事です。絶対に三人一組で行動してください。
カエストゥスは、あの石壁の上から魔法と矢で攻撃をしかけてきます。数百、数千の魔法や矢は、僕達魔法使いが躱せる物ではありません。魔力切れを恐れず、天衣結界が使える人は天衣結界で、防御は全力で行ってください。持久戦を考えて、休んで魔力を回復させながら攻撃をしかけてください。それでは作戦開始です!」


マイリスが言葉を切ると、帝国兵達はそれぞれのパートナーと目を合わせ、意思を確かめ合った。

帝国軍は総数二万。そのうちヘリングが引き連れて出撃した数は12,000人。
残り八千人の魔法使いをマイリスが率いる事になる。


メディシング周辺の地形は樹木が少なく大きく開けているため、カエストゥスからはその動きは一目瞭然となる。
崖もあり起伏が多いため身を隠す場所はあるが、移動時にはどうしても姿を現す必要があるため奇襲をかける事は不可能だった。

それがメディシング防衛に付いている指揮官パトリックの認識であり、防衛戦における策を決める軸となっていた。

だが・・・・・


「あ、始まったみたいですね。じゃあ僕もどんどん撃っていきましょう!」

マイリスは右手人指し指をメディシングに向ける。指先には魔道具、指門の筒がはめられている。

狙いは指揮官パトリック。

魔道具により射程距離と精密性が強化されてはいるが、それだけで2,000メートル先の目標を取られる事はできない。

マイリスには、魔道具の強化が無くても誰よりも優れている能力があった。


「・・・カエストゥスの指揮官パトリックさん、僕からは逃げられませんよ。あなたがどこにいるか、手に取るようによく分かります」


魔力探知。
それは魔法使いならば大小の差はあれど、誰でもできる事である。
青魔法使いのサーチに似ているが、魔力探知は、あくまで魔力だけを探るものである。

だが、探知できる範囲はせいぜい数十メートルから百メートル程度。その目で相手を認識できる程度である。

しかし、マイリスは2,000メートル先のパトリックの魔力を捉え、その位置を正確に把握し狙いを付けていた。


「突然変異・・・よく言われたなぁ。鋭すぎる感覚って、気持ち悪がられるみたいなんです。子供の頃はなんでみんな僕を避けるのか、分かりませんでした。ただ、魔力を探って、友達がどこで何をしているか、それを口にしただけなんですけどね。大人になった今なら分かるけど、小さな子供には他人からどう見えるかなんて分かるわけないじゃないですか?本当・・・人って残酷ですよね」


自分の能力を使う度に思い出す子供の頃。
どこか遠くを見るような眼差しで、マイリスは一人呟いた。






「黒魔法使いと弓兵は撃ち続けろ!青魔法使いは結界だ!訓練した通り、こちらの攻撃を妨げないように範囲をよく見て落ち着いて結界を張れ!」

メディングの石壁の上では、パトリックが声を高く指示を出す。

帝国軍は指揮官ユニエル・ヘリングを先頭に、体力型を前に出し突撃をかけてきた。
当然彼らには後方の青魔法使いが結界をかけており、カエストゥス軍による頭上からの攻撃魔法と矢を跳ね返している。

帝国の兵は体勢を崩されてもすぐに起き上がり、どんどん距離を詰めてくる。
一人一人に結界が継続してかけられているため、ダメージはないのだ。まだ数百メートルの距離はあるが、いずれ詰められる事は目に見えていた。






「フハハハハ!メディシングが防衛に優れているって言ってもよぉ、体力型が結界に護られて突撃しかけてんだ!防ぎきれるわけねぇよな?どうすんだ!これで詰められて終わりかよ!?」

先頭を走るヘリングは、正面に迫る爆裂弾を腕を振るって弾き飛ばし、頭上に降り注ぐ矢の雨を深紅の鎧から発する炎で焼き払い、一切足を止めずに走り抜けた。

そのスピードは後に続く兵士達を瞬くまに引き離し、もはや単騎での突撃に見える程だった。

「石壁に頼り過ぎなんだよ!これしか策がねぇってんなら速攻でぶっ潰してやらぁ!」

圧倒的スピードでメディシングの壁際まで迫ったヘリング。

だが、パトリックも上から魔法と矢を放つだけで勝てるとは思っていなかった。
当然詰められる事も想定し、策は用意されていた。




「まぁ、まさかたった一人で突っ込んでくるとは思わなかったけどな」

ヘリングがその炎を宿した拳を、壁に叩きこもうとしたところで、パトリックが手を振り号令を出した。

「今だ!撃てぇーッツ!」

石壁の上には、すでに狙いを付けていた黒魔法使い達が、ヘリングに向かって魔力を解き放った。

氷の上級魔法 竜氷縛りゅうひょうばく

その数実に10体。
大きさにして5~6メートルはあろう氷の竜が、ヘリングに向かって襲いかかった。


すでに拳を壁に向かって振るっていたヘリングは、竜氷縛に対しての回避と防御に一手遅れる。

「チッ、面倒な魔法使いやがって!ずっと、上級魔法を使って来なかったのはこのためか!」

顔を上げ、舌打ちをする。
逃げようとしても行動が遅れすでに避ける事は不可能だった。


ヘリング達が突撃をかけても、メディシングから放たれる攻撃は、初級と中級の黒魔法、そして矢だけだった。

上級魔法を使って来なかったのは、敵の頭から上級魔法に対しての意識を薄くさせ、壁際に詰められた時に一網打尽にするため。


「どうする?竜氷縛は触れた瞬間に固められるぞ。それとも、帝国ご自慢の炎で力比べをしてみるか?」

おそらくコイツが帝国の大将だろう。
ここまで単騎で走り抜けてきたスピード、そして魔法を弾き、矢を躱し抜けた動き、どれも群を抜いていた。
こんな序盤で討ち取れれば、この戦いは勝ったも同然だ。

だが、そんなパトリックの考えを嘲笑うかのように、10体の竜氷縛は、突如その頭や体をコナゴナにうち砕かれ、氷の欠片となって散らされた。




「なに!?」
パトリックは驚きに目を開き、ヘリングは援護の正体に気付きニヤリと笑った。


それは、はるか遠方、2,000メートル後方より放たれた爆裂魔法だった。


「・・・ふぅ、危ない危ない。さすがにあんなの10発も喰らったら、ヘリングさんでもただじゃすまないですよ。全く、ヘリングさんはもっと僕に感謝すべきですね」


指門の筒から立ち昇る煙を吹き消して、マイリスは微笑んだ。
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