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【317 戦う理由】

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確かに私情はある。
私はフルトン様を助けるために、仲間まで巻き込む光源爆裂弾を撃とうとしている。

だが、決して私情だけではない。
我々帝国軍は、この戦争に命を懸けている。
そしてこの戦場での勝利条件は、この男ロビン・ファーマーを討つ事だ。

今、カエストゥスはロビンで持っている。
ロビンを倒せば、残りのカエストゥス兵が一気に総崩れになる事は目に見えている。


帝国の勝利のためならば、私はもちろん、この場にいる帝国兵は皆喜んでその命を捨てる。

現在の最高戦力であるフルトン様を生かし、ロビンを倒す。
現状で最大の勝利はこの形だ。

ミラー様を亡くした事は、帝国にとって痛恨だった。だが、それは割り切るしかない。
フルトン様がミラー様の意思を引き継いでいる。ならばそれでいい。

帝国の勝利のためなら、私は躊躇なく撃つ。




三体の灼炎竜が混ざり合い一体の巨大な竜へと姿を変える。

それはロビンの全力の灼炎竜だった。

光源爆裂弾を撃たれたとしても、深紅のローブを纏っていようとも、それすら呑み込みキャシーを喰らう。
この一撃で絶対に仕留めるという強い意思を宿した灼炎竜だった。


迫りくる灼炎竜を見て、キャシーは一瞬で自分の命運を悟った。

全魔力を注いだ光源爆裂弾を撃ったとしても相殺はできない。
そして深紅のローブで防ぎきれる火力でもない。逃げ切る事もできない。

自分は今、この竜に焼かれて死ぬ。


「・・・まぁ、いいか」

・・・少なくとも、フルトン様をお助けする事はできた。

死を覚悟したキャシーは、目を閉じて微笑んだ。



「キャシーッツ!逃げろ!」

灼炎竜の顎を防ぐ、青い結界がキャシーの正面に展開される。
15メートル級の灼炎竜、ロビンの全力の竜を阻むそれは天衣結界。

「・・・フルトン様!」

地上に目を向けたキャシーの金色の瞳には、空中に手を向け、キャシーへ結界を送るフルトンの姿が映った。

「長くは持たん!早く来い!」

「・・・はいっ!」

今この瞬間、キャシーを助けなければフルトンはロビンに攻撃ができた。
キャシーも竜に喰われていただろうが、ロビンの命もとれていたかもしれない。
だが、フルトンはキャシーへの防御を優先した。

その事が分かるから・・・申し訳なさもあるが、それ以上にキャシーは嬉しかった。



「・・・貴様ら帝国にも、情はあるんだな」

フルトンの天衣結界に阻まれた灼炎竜を戻し、ロビンは正面に立つフルトン、そして空から降り立ったキャシーに目を向けた。


「・・・何が言いたいかは分かりますよ。ですが私達も人間です。護りたい人も当然います。この場に立った兵士達にも、家族や恋人はいるのです」

「その気持ちが分かるのならば、なぜ戦争など仕掛けて来た?なぜ平和を踏みにじり血を流す!」

ロビンの怒声に、フルトンは一歩も引かずに言葉を返した。

「それが皇帝の望みだからです。我々ブロートン帝国にスラムが無い事はご存じですか?皇帝は全ての帝国民に、人として暮らせる最低限の生活を保障しております。格差はありますが、それでも、家が無い、明日の食料が無い、そんな家庭は一つとしてありません。つまり、生活苦で子供が捨てられる事は無いのです。カエストゥスと違ってね」

「・・・ほぅ・・・それは初耳だな。確かにカエストゥスは孤児も多い、そこだけ聞くと、帝国はなんと民に優しい国なんだと思うよ。だがな・・・戦争をしかけてきた貴様ら帝国はやはり許されんクズだ!
自分の国を一番に考える事はいい!だが、そのために他国を侵略していい理由などない!その腐った魂を俺の灼炎竜で焼き尽くしてやる!」

「・・・元より分かってもらおうなどと思ってませんよ。さぁ・・・おしゃべりは終わりです。決着をつけましょうか」


フルトンの全身から魔力が沸き立ち、指に挟んだ結界刃が青く光り輝いていく。

顔には出していないが、この時フルトンはすでに限界近くまで魔力を消費していた。

魔道具 結界刃は、ミラーにしか使えない魔道具ではない。
だが、ミラーが自分専用として作った魔道具であり、結界刃を使用するために必要な魔力は、ミラーが基準になっている。

一度の使用で消費する魔力は、フルトンにとっては非常に負担が大きかった。

そしてもう一つ、フルトンにとって想像以上の誤算があった。


・・・もう限界は近い・・・今度こそあたってくれ!


フルトンの右手が光り、結界刃が放たれた。





ロビンの目で捉えきれない程の速さ。

フルトンの指先が光った事は見えた。だが、光を目にした瞬間には、すでに斬りつけられている。
結界刃がロビンの左脇腹を抉り、激しい痛みに膝を落としそうになるが、ここで倒れるわけにはいかないという執念で持ちこたえる。

「・・・ふはははは!ロビン!苦しみ抜いて死ぬがいい!」

フルトンの笑い、そしてなぶるような言葉を聞き、ロビンは確信した。


・・・・・そうか、やはりコイツ・・・この魔道具を使いこなせてねぇんだな。

すぐには殺さない。そう口から出る言葉は全て、自分が結界刃を使いこなせない事を悟らせないため。


・・・そうだよな。でなきゃ俺の灼炎竜で追い詰められ、女に助けられたくせに、いまだになぶる理由がねぇ!


「ぐぁッツ!」

フルトンの魔力で操られた結界刃は、背中からロビンの右の脇腹を抉り、フルトンの手に戻る。
耐え切れずにロビンは前のめりに倒れ伏した。

「はぁ・・・はぁ・・・どうですロビン!苦しいでしょう!?ミラー様の苦しみの一端でも垣間見えましたか!?」

ついにフルトンの呼吸が乱れる。
ロビンに悟らせないように、できる限り抑えてはいるが、限界ギリギリの魔力の消費に、全身に大量の汗を掻き足が震え始めていた。


「・・・ぐぅ、ふっ・・・はっはっは・・・調子、こいてんじゃねぇぞ・・・てめぇ、その魔道具使いこなせてねぇだけだろ?下手くそが、死んだミラーも、向こうで泣いてんじゃ・・・ねぇ、のか?」


ロビンは大量の出血と痛みで体に力が入らなくなってきていた。
それでも肘を付き、膝を曲げ、必死に体を起こし正面のフルトンを睨み付ける。


「はぁ・・・はぁ・・・言ってくれましたねロビン。そうです・・私は、結界刃を使いこなせていません。ですが、今のあなたには関係のない事です!この一撃で死ぬあなたにはね!」


右手を地面に付ける。
フルトンが最後の魔力で選んだ攻撃は、尊敬するミラーの結界刃ではなく、最も使いこんだ黒い手袋。

土竜だった。




・・・・・これが、最後の炎になるだろう


ロビンは気力を振る絞り立ち上がると、残る全ての魔力を灼炎竜に注いだ。


「ロビンーッツ!」

フルトンの土竜が大地を抉り土砂を巻き上げ走る!
その土竜は、残りの魔力がほとんどないとは思えない程に、強く巨大だった。

「ぬおぉぉぉぉぉーッツ!」

気力を振り絞り腹の底から叫ぶ。
火の粉を舞い上げる炎の竜は、ロビンの魂に呼応するかのように大地を揺るがす程に猛り、そして向かってくる土竜に対し真っ向からぶつかっていった。


灼炎竜 対 土竜・・・決着の時が来た
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