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理太郎

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【315 前線に立った指揮官】

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ロビンを先頭に、勢いに乗った五千人のカエストゥス兵が総当たりで仕掛ける攻撃に対し、帝国は踏みとどまる事がやっと・・・いや、それどころから押されていた。

帝国軍は体力型ではカエストゥスの上をいくが、魔法ではカエストゥスが帝国を凌ぐ。
しかし、数で倍以上の差をつけている帝国が押されている事には、明確な理由があった。


「・・・数の理が通じなくなってきたな。ロビン・ファーマー、これほどの男だとは・・・」

「フルトン様、私が出ますか?」


最後尾では指揮官となったフルトンが、右手にはめた黒いグローブの感触を確かめるように、二度三度拳を握っている。

そしてその隣には、金色の目をした女性が厳しい目で戦局を見据えていた。

「キャシー、キミはここで私の代わりに指揮を執りなさい。ロビンは私でなければ止められないでしょう」

「ですが・・・フルトン様、魔力はどれほど回復してますか?」

抑揚の無い声だが、キャシーはフルトンの体を気にかけるように見ていた。


キャシー・タンデルズ。24歳。
黒魔法使いであり、今回の国境沿いの戦いでは、ミラー、フルトンに次ぐ三番手の立ち位置に付いている。

赤紫色の長い髪を首の後ろから流すように三つ編みに結っている。
金色の瞳は意思の強さを見せるように少し鋭く、シャープな顔立ちと相まってややキツメの印象だ。
フルトンより少しだけ背が高く、173~174cmはあるように見える。魔法使いの女性にしては長身の部類だろう。

「そうですね・・・6~7割というところでしょうか。まぁ、できればもう少し回復させたいものですが、ここでロビンを止めなければ、本当に全滅させられかねません」

フルトンが前に出ようとすると、キャシーがその背中に更に言葉をかける。


「フルトン様、ミラー様の魔道具は・・・」

キャシーの言葉に足を止め、フルトンはゆっくりと振り返った。

「・・・えぇ、分かっております。ミラー様の魔道具は、ミラー様が使用する事を前提に作られております。私では負担が大きすぎます。ですが、土竜では止められないでしょう。やるしかありません」

「・・・フルトン様」

まだ言葉を続けようとするキャシーの肩に手を置いて、フルトンは優しく言葉をかけた。

「キャシー・・・ご心配ありがとうございます。ですが大丈夫です。土竜で遠距離から攻撃をするだけでしたら、ミラー様が私を副団長に任命されると思いますか?私、これでも強いんですよ?」


「・・・・・ふふ、そうでしたね。分かりました。では、私はここで指揮を引き継ぎます」

自分を強いと言い切り、微笑みかけるフルトンに、キャシーもまた微笑みで返した。

そしてフルトンは今度こそ振り返らず前線へと出て行く。


「・・・フルトン様、私はあなたに見いだされてここまで来れました」


今、キャシーは深紅のローブを身に着けている。
強い精霊の加護を受けている深紅のローブは、炎だけでなく風や氷魔法に対しての耐性も強い。

だが、強い加護を受けている装備は、その加護に耐えられるだけの器が必要になる。
帝国でも、副団長以上を務められる魔力が必要になる。

三番手のキャシーが深紅のローブを纏える事は、不可能ではないにしても並々ならぬ努力が必要だった。

「・・・・・私一人では深紅のローブは纏えなかったでしょう。フルトン様・・・この命、あなたのためでしたら・・・」

小さくなるその背を見つめ、キャシーは呟いた。





「そのままいけ!怯む事は無い!我が軍の勝利は目前だぞ!」

ロビンの声が戦場に響き、カエストゥス軍の背中を押す。戦局はカエストゥスが優位に進めていた。

その立役者は間違いなくロビンだった。ロビン一人で、すでに帝国兵の1/10は倒している。
その有志に勢いづいたカエストゥス兵が、帝国兵を次々と倒していく姿は、人数差などまるで感じさせなかった。

「ハァァァァッツ!」

ロビンがその腕を振るうたび、灼炎竜は右へ左へ意のままに動き帝国兵を焼き払っていく。

帝国の黒魔法兵が同じく灼炎竜で対抗してくるが、おそらく上位の使い手だったであろうディミトリーがなすすべも無く敗れた事から、決して深く入って来ず、遠巻きに牽制するような攻撃だった。

「そんな弱腰でこのロビン殺れると思ったかーッツ!?」

ロビンの叫びに呼応するように、その体を纏う炎の竜が大きさを増す。
10メートル級の灼炎竜の数を三体出現させると、縦横無尽に帝国兵を焼き殺していく。


鬼気迫る表情、そのあまりの迫力と容赦のない戦いぶりに、帝国の兵士達は完全に飲まれていた。
このままでは、本当に一万を超える軍がロビン一人に全滅させられる、そう思わせる程に今のロビンには凄まじい気がともっていた。


「むッツ!?」

視界の端で何かが光った。
ロビンは反射的に顔を右にそらすと、目でとらえきれない程のなにかが顔のすぐ脇を通り過ぎる。

一瞬遅れて左耳に激痛が走る。

「くっ・・・これは?」

まるで焼かれたように熱く、鋭く強い痛みに、左手を耳に当ててみると、あるべきはずの場所に耳が無く、その手は耳があった場所を押さえるように触れていた。

どろりとした血が左手を染める。


「くっくっく・・・さすがですね。よくぞこの結界刃けっかいじんの一撃を躱せたものです」


前線の帝国兵が道を開ける。

声の主、ステイフォン・フルトンがその姿を現した。
十数メートルは離れているが、ロビンの灼炎竜の熱気が吹雪をかき消し、互いに姿を視認できた。

「・・・貴様は?」

眼光鋭くロビンが睨みつける。

「お会いするのは初めてですね。私は、ステイフォン・フルトン・・・今はこの軍の指揮官です」

「・・・指揮官だと?ジャキル・ミラーではないのか?」

帝国の指揮官はジャキル・ミラー。そう聞いており、ロビン自身も師団長のミラーならば当然だろうという認識だった。だが、目の前のフルトンという男は自分が指揮官だと言う。

ロビンは話しがつかめず、怪訝な表情を向け当然の疑問を口にしただけだった。


だが、ミラーを尊敬してやまないフルトンにとっては、挑発以外のなにものでもなかった。


「・・・・・貴様らが・・・貴様らが殺しておいて・・・よくもそんな事が言えたなぁぁぁッツ!」

怒声を上げるフルトンの体から、青く光る魔力が沸き立つ。

来る!
凄まじい殺気を当てられたロビンは、フルトンからの攻撃に備え、灼炎竜をフルトンに向けた。



次の瞬間、斬り飛ばされたロビンの右腕が宙を舞った。
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