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【312 待つ者と向かう者】
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「うわぁぁぁぁぁーッツ!ミラーさまぁぁぁぁぁぁぁーッツ!」
フルトンの絶叫がセインソルボ山に響き渡る。
喉が裂けるのではと思わせる程だった。頭を掻きむしり、大粒の涙を流し、声の限り叫び続ける。
いつも冷静沈着なフルトンのあまりの変貌に、帝国兵は誰も近づく事ができず、フルトンが落ち着く事を待つしかできずにいた。
帝国の白魔法使いがミラーにキュアをかけたが、全く解毒の効果が無くミラーは苦しみ抜いて死んだ。
ビボルの毒は、魔力を毒に変える。
それはビボルと同レベルの魔力を持っていなければ、毒を無効化できないという事だった。
そして魔法兵団団長のロビンと互角の魔力を持つビボルに対し、対抗できるレベルの白魔法使いは、今この場にはいなかった。
帝国は体力型ではカエストゥスを上回っていたが、魔法使いの技量はカエストゥスが上だった。
「き・・・きさまぁぁぁぁーッツ!」
フルトンはミラーが落としたナイフを拾うと、そのままビボルの背に突き刺した。
ビボルの体が一瞬痙攣し、口から血を吐き出す。
「このっ!クソ野郎ぉぉぉぉーッツ!よくもッツ!よくもッツ!よくもミラー様ぉぉぉぉぉーッツ!」
目を血走らせ、フルトンは何度も何度もビボルの背を刺し続けた。
すでにビボルは息絶えていたが、それでもフルトンの手は止まらない。
返り血でその顔を、その体を赤く染めていくフルトンに、仲間である帝国兵でさえ恐々としていた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・ミラー様・・・・・・」
しばらくして、息遣いを荒くしながら、やっとフルトンは手を止める。
目の前で倒れているミラーに近づく。
瞳孔は開ききり、鼻、そして口から血を流している姿は、一目で息絶えていると分かる。
フルトンは、そっとミラーの顔に手をかけその瞼を閉じる。
「・・・申し訳ありません。あなたの魔道具は私が使わせていただきます。必ずやこれでカエストゥスに罰を与えてやりましょう」
フルトンはミラーの魔道具を取り出すと、振り返り後ろで控えている帝国兵に顔を向けた。
「・・・・・今から私が指揮官だ」
ステイフォン・フルトンは静かに、だが、有無を言わせぬ低く重い言葉でそう告げた。
事前に調べた情報では、このセインソルボ山には、魔法兵団団長のロビン・ファーマーが指揮官として来ているはずだった。
だが、実際にここまで指揮をとっていた男はロビンはではなく、凄腕ではあったが見た事もない男だった。
そこから導き出せる答えは、この男はおそらくロビンの副官という立場なのだろう。
ロビンはまだどこかで待機し戦局を見ているはず。
ならば、この爆発による衝撃、そして爆煙で状況は推測できるだろう。
これほどの爆発はいかにカエストゥスと言えど、一人の人間に出せるものではない。
自国の人間が引き起こしたものでないと理解したロビンが、果たしてどう行動を起こすか?
慎重であれば一度首都へ戻り、体勢を整えるなりするだろう。少なくとも、軽々にこの場には来る事はない。
だが、おそらくロビンはここへ来るだろう。
調べた限り、ロビン・ファーマーという男は、勇猛果敢、そして仲間を見捨てる事はしない熱い男という事だった。
ならば、自軍が窮地に陥ったと思われるこの状況でロビンが来ない筈が無かった。
「カエストゥスはここへ来る。迎え撃つぞ!」
兵力の確認、陣形、フルトンの指示で帝国兵が動き出す。
増援として自軍の半数程を送っていた事により、ロビンの率いる隊はその数を四千程に減らしていた。
対して帝国軍は、ビボルとの交戦により数を減らしてはいたが、それでも一万五千を数える程であった。
更に複合魔道具 六芒魔星で、待ちの体勢で戦えるため、ロビンは圧倒的に不利な立場で挑む事になった。
だが、帝国の青魔法使いは結界を連続して使わされていたため、青魔法使いは魔力切れを起こしている者も決して少なくなかった。
ロビンの隊は全員が体力、魔力ともに充実していたため、その一点においては有利の事を構えられると見れなくもなかった。
だが、それでも一万以上の数の差を補えるかと言えば、それは厳しいと言わざるをえない。
ロビンが隊を進ませていると、前方にカエストゥスの魔法使い達の姿が見えた。
数百人はいるだろう。
皆一様に土を被っている事から、先程の大爆発に巻き込まれた事が見て取れる。
爆心地からはいまだ黒煙が天高く昇っており、この吹雪でも一向に治まる様子が見えなかった。
「ロ、ロビン様!止まってください!この先は危険です!」
ロビン達の姿を確認した白魔法使いの女性が一人、声を上げながら走り寄って来る。
「・・・なにがあった?」
声をかけてきた白魔法使いは、ローブも所々破れ、額から血を流していた。
爆発で負傷したところを治療もせずに、ロビンの元へ一刻も早く報告に走って来た事が分かる。
息を切らせながら、必死に自分が見たままの事を伝えると、ロビンの顔付きが一層険しくなる。
「・・・巨大なエネルギーの集合体、おそらく光源爆裂弾だろう・・・だが、一撃で数千人の軍勢を壊滅させる程の威力は考えられん・・・何らかの魔力を増幅する魔道具か?だが、ここまでの威力はやはり・・・いや、まさか?」
ロビンの頭に可能性として一つの魔道具が浮かんだ。
「・・・六芒魔星・・・複合魔道具か?いや、しかしあんな骨董品、どうやって・・・」
六芒魔星はほとんど数が出回らず、もはや見つける事さえ困難になっていた魔道具だった。
黒魔法使い6人という人数の条件の悪さもあり、そもそも求める人間が珍しい。
何十年も昔、一時だけ街に売り出されたが、ほとんど売れずにいつの間にか人々の記憶からも忘れ去られた代物だった。
だが、その威力は本物だった。
6人の黒魔法使いの魔力を集中させ、更に六芒魔星がその魔力を増幅させる。
ただの爆裂弾でも、上級魔法に匹敵させる程に高める事ができる。
一度その可能性が頭をよぎると、そうとしか考えられなくなった。
六芒魔星であれば、この山の形を変える程の威力も説明が付く。
おそらく六芒魔星による光源爆裂弾だ。
帝国は六芒魔星を元々持っていたのか、探し当てたのか、いずれにしても持っている。
「・・・戦争であれば、生きる魔道具だな」
そして今、優位に立った帝国はロビン達を迎撃態勢で待っている事だろう。
このまま飛び出せば、二発目の餌食になる事は目に見えていた。
苦い物を噛み潰したように、ロビンは眉をしかめた。
フルトンの絶叫がセインソルボ山に響き渡る。
喉が裂けるのではと思わせる程だった。頭を掻きむしり、大粒の涙を流し、声の限り叫び続ける。
いつも冷静沈着なフルトンのあまりの変貌に、帝国兵は誰も近づく事ができず、フルトンが落ち着く事を待つしかできずにいた。
帝国の白魔法使いがミラーにキュアをかけたが、全く解毒の効果が無くミラーは苦しみ抜いて死んだ。
ビボルの毒は、魔力を毒に変える。
それはビボルと同レベルの魔力を持っていなければ、毒を無効化できないという事だった。
そして魔法兵団団長のロビンと互角の魔力を持つビボルに対し、対抗できるレベルの白魔法使いは、今この場にはいなかった。
帝国は体力型ではカエストゥスを上回っていたが、魔法使いの技量はカエストゥスが上だった。
「き・・・きさまぁぁぁぁーッツ!」
フルトンはミラーが落としたナイフを拾うと、そのままビボルの背に突き刺した。
ビボルの体が一瞬痙攣し、口から血を吐き出す。
「このっ!クソ野郎ぉぉぉぉーッツ!よくもッツ!よくもッツ!よくもミラー様ぉぉぉぉぉーッツ!」
目を血走らせ、フルトンは何度も何度もビボルの背を刺し続けた。
すでにビボルは息絶えていたが、それでもフルトンの手は止まらない。
返り血でその顔を、その体を赤く染めていくフルトンに、仲間である帝国兵でさえ恐々としていた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・ミラー様・・・・・・」
しばらくして、息遣いを荒くしながら、やっとフルトンは手を止める。
目の前で倒れているミラーに近づく。
瞳孔は開ききり、鼻、そして口から血を流している姿は、一目で息絶えていると分かる。
フルトンは、そっとミラーの顔に手をかけその瞼を閉じる。
「・・・申し訳ありません。あなたの魔道具は私が使わせていただきます。必ずやこれでカエストゥスに罰を与えてやりましょう」
フルトンはミラーの魔道具を取り出すと、振り返り後ろで控えている帝国兵に顔を向けた。
「・・・・・今から私が指揮官だ」
ステイフォン・フルトンは静かに、だが、有無を言わせぬ低く重い言葉でそう告げた。
事前に調べた情報では、このセインソルボ山には、魔法兵団団長のロビン・ファーマーが指揮官として来ているはずだった。
だが、実際にここまで指揮をとっていた男はロビンはではなく、凄腕ではあったが見た事もない男だった。
そこから導き出せる答えは、この男はおそらくロビンの副官という立場なのだろう。
ロビンはまだどこかで待機し戦局を見ているはず。
ならば、この爆発による衝撃、そして爆煙で状況は推測できるだろう。
これほどの爆発はいかにカエストゥスと言えど、一人の人間に出せるものではない。
自国の人間が引き起こしたものでないと理解したロビンが、果たしてどう行動を起こすか?
慎重であれば一度首都へ戻り、体勢を整えるなりするだろう。少なくとも、軽々にこの場には来る事はない。
だが、おそらくロビンはここへ来るだろう。
調べた限り、ロビン・ファーマーという男は、勇猛果敢、そして仲間を見捨てる事はしない熱い男という事だった。
ならば、自軍が窮地に陥ったと思われるこの状況でロビンが来ない筈が無かった。
「カエストゥスはここへ来る。迎え撃つぞ!」
兵力の確認、陣形、フルトンの指示で帝国兵が動き出す。
増援として自軍の半数程を送っていた事により、ロビンの率いる隊はその数を四千程に減らしていた。
対して帝国軍は、ビボルとの交戦により数を減らしてはいたが、それでも一万五千を数える程であった。
更に複合魔道具 六芒魔星で、待ちの体勢で戦えるため、ロビンは圧倒的に不利な立場で挑む事になった。
だが、帝国の青魔法使いは結界を連続して使わされていたため、青魔法使いは魔力切れを起こしている者も決して少なくなかった。
ロビンの隊は全員が体力、魔力ともに充実していたため、その一点においては有利の事を構えられると見れなくもなかった。
だが、それでも一万以上の数の差を補えるかと言えば、それは厳しいと言わざるをえない。
ロビンが隊を進ませていると、前方にカエストゥスの魔法使い達の姿が見えた。
数百人はいるだろう。
皆一様に土を被っている事から、先程の大爆発に巻き込まれた事が見て取れる。
爆心地からはいまだ黒煙が天高く昇っており、この吹雪でも一向に治まる様子が見えなかった。
「ロ、ロビン様!止まってください!この先は危険です!」
ロビン達の姿を確認した白魔法使いの女性が一人、声を上げながら走り寄って来る。
「・・・なにがあった?」
声をかけてきた白魔法使いは、ローブも所々破れ、額から血を流していた。
爆発で負傷したところを治療もせずに、ロビンの元へ一刻も早く報告に走って来た事が分かる。
息を切らせながら、必死に自分が見たままの事を伝えると、ロビンの顔付きが一層険しくなる。
「・・・巨大なエネルギーの集合体、おそらく光源爆裂弾だろう・・・だが、一撃で数千人の軍勢を壊滅させる程の威力は考えられん・・・何らかの魔力を増幅する魔道具か?だが、ここまでの威力はやはり・・・いや、まさか?」
ロビンの頭に可能性として一つの魔道具が浮かんだ。
「・・・六芒魔星・・・複合魔道具か?いや、しかしあんな骨董品、どうやって・・・」
六芒魔星はほとんど数が出回らず、もはや見つける事さえ困難になっていた魔道具だった。
黒魔法使い6人という人数の条件の悪さもあり、そもそも求める人間が珍しい。
何十年も昔、一時だけ街に売り出されたが、ほとんど売れずにいつの間にか人々の記憶からも忘れ去られた代物だった。
だが、その威力は本物だった。
6人の黒魔法使いの魔力を集中させ、更に六芒魔星がその魔力を増幅させる。
ただの爆裂弾でも、上級魔法に匹敵させる程に高める事ができる。
一度その可能性が頭をよぎると、そうとしか考えられなくなった。
六芒魔星であれば、この山の形を変える程の威力も説明が付く。
おそらく六芒魔星による光源爆裂弾だ。
帝国は六芒魔星を元々持っていたのか、探し当てたのか、いずれにしても持っている。
「・・・戦争であれば、生きる魔道具だな」
そして今、優位に立った帝国はロビン達を迎撃態勢で待っている事だろう。
このまま飛び出せば、二発目の餌食になる事は目に見えていた。
苦い物を噛み潰したように、ロビンは眉をしかめた。
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