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【307 罠】

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「はぁ・・・はぁ・・・」

結界を解き呼吸を整える。疲労感に膝が折れそうになるが、この場で指揮をとっている自分がそんな姿は見せられないと、気を張り立ち続ける。

「・・・チッ、俺に天衣結界まで使わせやがった」

忌々しそうに、言葉を吐き捨てる。
並みの上級魔法であれば通常の結界でよかった。そう判断し最初は通常の耐魔結界を展開した。
だが、帝国から放たれた土竜を見た瞬間、ビボルは天衣結界でなければ受け切れないと判断した。

結果、天衣結界を張り巡らせたビボルは、フルトンの土竜は凌ぎきれたが、その魔力の大半を消耗させられる事になった。


ビボルの結界が切れると同時に、剣士隊が前線に並び出た。ビボルの指示でいつでも突撃できるようにそれぞれが、剣や槍を構え前を見据えている。


「・・・へっ、お前ら全員、良いツラしてんじゃねぇか・・・」

剣士隊に怯えの色は見えなかった。
全員が生きて帰るなどは夢物語。ビボルの合図で死地へと足を踏み出す事になる。
だが、覚悟を決めたその目には、目的を持った強い意思が宿っていた。

ある者は国のため。ある者は家族のため。ある者は自分の強さを証明するため。

目的は様々だが、護るもののために命を懸けて戦う。
これだけは全員が共通した意思だった。


「ビボル様、いつでもいけます」

ビボルの前に立つ一人の兵士が正面を向いたまま言葉を発した。
声の印象からすると20代、いや10代かもしれない。まだまだ若い。


「ふっ、若ぇの・・・良い気迫だ・・・・・よし!これより中級黒魔法を叩きこむ!その後俺の合図で全軍突撃だ!気合い入れろよ!」

自分の半分も生きていない若い兵士の言葉に、ビボルはふらつく自分の足を強く叩いた。

「根性入れろよ・・・俺ぁビボルだぞ!」

前を見据えるビボルの視線の先で、だんだんと爆発による煙が晴れて来る。



・・・・・・・・・・・見えた!


「第三部隊ッツ!撃てぇーッツ!」

こちらに向かい突進してくる帝国兵を視界で認識すると同時に、ビボルは一歩後ろで構えていた第三部隊の黒魔法使い千人に号令を発した。

爆裂空破弾
双炎砲

千人の魔法使いによる千発の中級黒魔法は、けたたましい轟音と共に一斉に帝国に撃ち込まれた。






体力型を最前列に配置し突撃をかけているが、帝国も無論青魔法使いを後ろに付けている。

「ふん、予想通りだ。最初の一手でテメェのやり口は見抜いてんだよ」

最後尾に待機しているジャキル・ミラーは、ビボルの最初の攻撃を受け、近距離より遠距離での戦いに自信を持っていると見ていた。

そのためこちらが距離を詰める事を嫌い、必ず魔法の一斉射撃で来ると読んでいた。


「爆裂空破弾に双炎砲か、ただの兵士でこれだけの魔力で撃ってくるとは大したものだ。さすが魔法大国・・・だが!」

帝国の青魔法兵達は、魔力を合わせ一斉に結界を発動させる。
それは最前戦に立つ帝国の兵士達の前に青く光る壁となってあらわれ、撃ち込まれる千発の爆発を防ぎ、炎を受けきった。

「よし!今だ!いけぇぇぇッツ!」

ミラーの叫びと同時に、帝国の兵士達が一気に加速する。
後ろの青魔法使いを一瞬で置き去りにして、カエストゥス側に斬りこんだ。





「野郎!さっきまでのスピードは俺をめるためか!?」

帝国の最前線に立ち、こちらに向かって来た兵士達は、重量のある鉄の鎧を着こんでいたため、向かってくるスピードも重鈍とまでは言わないが、決して速いものではなかった。

ビボルの号令で放った千発の中級黒魔法は結界で防がれた。
だが、これはビボルの想定内だった。
敵も当然こちらの遠距離攻撃を警戒している。最初の攻防でそれは持たれて当然だった。

そのためビボルは二発目の用意をさせていた。
距離感を測り、姿が見え次第撃ち込ませる。敵の結界を破壊できれば良し。破壊できなくても敵の青魔法使いを疲弊させられる。

回復と防御。この二つの内、ビボルは敵の結界、防御を削ぐ事を第一に考えた作戦を立てていた。
結界がある以上攻撃が通らないからだ。

爆裂弾の連射。
千人による中級黒魔法の一斉攻撃。

事実、これで帝国の青魔法使いの魔力はかなり消耗させられていた。
もう一度大きな魔法を受ければ、帝国の結界は破られていたかもしれない。

ビボルは帝国の防御を奪うところまで追いつめていた。

だが、ミラーの読みがビボルの策を上回った。

重い装備のため足が無いと見せていたのは、隙をつきカエストゥス陣の深くまで切りこむため。
魔法を撃てば自軍まで巻き込む距離まで、距離を詰められていた。


「くっ!剣士隊!突撃だ!迎えうてぇぇぇぇッツ!」

自陣の懐まで入られ、ビボルは声を張り上げた。

ぶつかり合う剣戟けんげき
カエストゥスとブロートン帝国、両国の気の高まりに呼応するかのように、セインソルボ山に降る雪は激しさを増した。
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