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【306 土竜】
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カエストゥスに数で勝る帝国だが、魔力の消費は数の力でカバーしきれない程に激しかった。
絶え間なく撃ち込まれる爆裂弾に、帝国の青魔法使いはただ結界を張り防御に徹するしかなかった。
「チッ、クソがっ!面倒くせぇ事してきやがるじゃねぇか、おいフルトン!お前の土竜で突破できるか?」
帝国軍二万人の最後尾に立つジャキル・ミラーは、苛立ちを隠さずに、隣に立つ、ステイフォン・フルトンに言葉をぶつけた。
「はい。私の土竜なら突破可能です。ですがミラー様もご存じの通り、土竜は一度使用すると、その威力に応じて次に使用できるまでに待機時間が発生します。これだけの爆裂弾を撃ち込んでくるには、おそらくヤツらは数百人、いやそれ以上の黒魔法使いが前線に出ているでしょう。それを潰す威力となると、二度目の使用までかなりの待機時間がかかりますが・・・よろしいですか?」
ステイフォン・フルトン。
帝国軍青魔法兵団・副団長の男である。
ミラーより少しだけ若いが、30歳を目前に控えている。
頭髪は坊主に近い程短く、顎のラインもスッキリとしているが、鼻の下には綺麗に整えられた髭がある。
ブロートン帝国の深紅のローブを纏っている。
フルトンは右手に黒い革手袋をはめると、左手で右手首を掴み、感触を確かめるように何度かぐるぐると回し、ミラーに許可を求めるように顔を向けた。
「切り札の一つをこうも序盤に切らされるとはな・・・しかし、このまま青魔法使いが魔力を使い果たすわけにもいかねぇだろ?かまわねぇから使え。だがな、どうせなら特大のをかましてやれ」
ミラーが顎で促すと、フルトンは、はい、と言葉少なく頷き前線に進み出て行った。
「フン、小癪な戦法を使いやがるが、フルトンの土竜をさばけるかな?」
前線に出て行くフルトンの背を見ながら、ミラーは笑った。
突然の地響きだった。
ビボルが第二部隊と第三部隊を入れ替えた直後、帝国側から強い振動が地面を伝い響いて来る。
隊を入れ替えた直後というタイミングの悪さもあった。
入れ替わる動作事態はスムーズだったが、腰を据え体制を整えきらない内に足元を揺さぶられ、前線に立った黒魔法使い達は、姿勢を保てずその場に倒される。
地震か!?兵士達が戸惑いの声を上げる中、ビボルは冷静に前だけを見ていた。
想定内だった。
爆裂弾だけで終わる程、たやすい相手の訳がない。
そしてこの爆裂弾が突破されるとすれば、上級黒魔法か、それに並ぶ魔道具。
いずれにしろ攻撃魔法の類だと予想を付けていた。
それが地震という攻撃だった事にはいささか驚かされたが、それでもビボルの次の一手に遅れ喫する程ではなかった。
「全員俺の後ろに下がれ!第三部隊は俺が合図をしたら中級魔法を叩きこめ!第一と第二は接近戦に備えろ!剣士隊は前線だ!」
この地震だけでは終わらない。
こちらの体制を崩したこの好機に、おそらく上級黒魔法を放ってくる。
そう予測したビボルは、正面を向いたまま声を張り上げると、両手を前に出し魔力を解き放った。
ビボルを中心に、カエストゥス側を青く光る結界が包み込む。
その直後だった。
いまだ濛々と爆風が治まらない帝国側から、突如大地を揺るがす巨大な破壊音が鳴り響いたかと思うと、大地が岩を噴き飛ばしながら、カエストゥス側へと突き進んできた。
「おいおい!なんだそりゃ!?地面を抉ってんのか!?」
ビボルが目を開き、驚きの言葉を上げる。
火魔法、氷魔法、風魔法、あらゆる攻撃魔法と、それに準ずる魔道具での攻撃を想定していたが、
大地を抉り、岩を吹き飛ばしながら突き進んでくる巨大な破壊のエネルギーには、目を見張らされた。
「ずいぶんでけぇじゃねぇか・・・だがなぁ!」
大地を抉り、土砂を巻き上げ、岩を吹き飛ばし向かってくる破壊のエネルギーが、ビボルの結界とぶつかりあう。
その衝撃は大気を震わせ、大地を割り、周囲の岩肌を削り取った。
「ぐっ、わ、私の土竜を止めただと!?」
フルトンは、絶対の自信を持って放った土竜が防がれた事に目を見開いていた。
右手にはめている黒い革手袋は、フルトンの魔道具・土竜である。
土竜には二段階の使い方がある。
第一段階は、地面に手を当て任意の方角の地面を揺さぶる事ができる。
直接ダメージを与えられる程の威力はないが、相手の体制を崩す事ができる。
第二段階で使用者の魔力を破壊のエネルギーに変え、地面を通して対象に向け解き放つ。
大地を大きく抉り、それによって吹き飛ばされた岩や土砂を見れば、そのエネルギーの凄まじさは分かろうものだった。
今回フルトンは、ミラーに言われた通り全力で土竜を放っていた。
並みの結界では止める事は不可能であり、まともに受ければカエストゥスの前線を壊滅させる程の威力を持っていた。
だが、それほどの威力を持ってしても、フルトンの放った土竜と、ビボルの結界のぶつかり合いは拮抗していた。
「うぬぅぅ・・・これ程の結界とは!」
歯を食いしばり、地面に当てた手に魔力を流し続ける。
土竜はその威力を維持し続けるが、ビボルの結界を破るにはわずかに力が足りなかった。
「・・・くっ、これ以上は魔力切れを起こしてしまう!ミラー様・・・申し訳ありません!」
土竜はその威力ゆえに、魔力の消費も激しい。
フルトンは、このままではビボルの結界は突破できないと判断し、魔力を全て切らしてしまう前に、土竜を止める事を選んだ。
戦いはまだ続く。ミラーの期待に応えられなかったとしても、ここで副団長の自分が魔力を切らすわけにはいかない。
「・・・私の全力で放った土竜だ・・・次弾を放てるようになるまで、60分はかかるだろう」
残りの魔力を温存し、次の土竜を撃てるまでは回復に徹する。
土竜を必要とする場面はもう一度来るはずだ。
屈辱を呑み込み、フルトンは退いた。
後方でフルトンの動きを見ていたジャキル・ミラーは、土竜を解いた事を好判断だと捉えた。
戦いはまだ始まったばかりだ。
一度止められたとて、土竜はその一撃で戦局をひっくり返す威力がある。
ここでフルトンが魔力切れを起こす訳にはいかない。
数は帝国が上回っている。
だが、敵は周到な準備で数の不利を補い、それを上回ろうという力を見せつけて来た。
「・・・フルトン、分かってるじゃねぇか。それでいい。土竜が必要な時は来る」
長期戦を見据え、ミラーはカエストゥスを鋭く見据えた。
絶え間なく撃ち込まれる爆裂弾に、帝国の青魔法使いはただ結界を張り防御に徹するしかなかった。
「チッ、クソがっ!面倒くせぇ事してきやがるじゃねぇか、おいフルトン!お前の土竜で突破できるか?」
帝国軍二万人の最後尾に立つジャキル・ミラーは、苛立ちを隠さずに、隣に立つ、ステイフォン・フルトンに言葉をぶつけた。
「はい。私の土竜なら突破可能です。ですがミラー様もご存じの通り、土竜は一度使用すると、その威力に応じて次に使用できるまでに待機時間が発生します。これだけの爆裂弾を撃ち込んでくるには、おそらくヤツらは数百人、いやそれ以上の黒魔法使いが前線に出ているでしょう。それを潰す威力となると、二度目の使用までかなりの待機時間がかかりますが・・・よろしいですか?」
ステイフォン・フルトン。
帝国軍青魔法兵団・副団長の男である。
ミラーより少しだけ若いが、30歳を目前に控えている。
頭髪は坊主に近い程短く、顎のラインもスッキリとしているが、鼻の下には綺麗に整えられた髭がある。
ブロートン帝国の深紅のローブを纏っている。
フルトンは右手に黒い革手袋をはめると、左手で右手首を掴み、感触を確かめるように何度かぐるぐると回し、ミラーに許可を求めるように顔を向けた。
「切り札の一つをこうも序盤に切らされるとはな・・・しかし、このまま青魔法使いが魔力を使い果たすわけにもいかねぇだろ?かまわねぇから使え。だがな、どうせなら特大のをかましてやれ」
ミラーが顎で促すと、フルトンは、はい、と言葉少なく頷き前線に進み出て行った。
「フン、小癪な戦法を使いやがるが、フルトンの土竜をさばけるかな?」
前線に出て行くフルトンの背を見ながら、ミラーは笑った。
突然の地響きだった。
ビボルが第二部隊と第三部隊を入れ替えた直後、帝国側から強い振動が地面を伝い響いて来る。
隊を入れ替えた直後というタイミングの悪さもあった。
入れ替わる動作事態はスムーズだったが、腰を据え体制を整えきらない内に足元を揺さぶられ、前線に立った黒魔法使い達は、姿勢を保てずその場に倒される。
地震か!?兵士達が戸惑いの声を上げる中、ビボルは冷静に前だけを見ていた。
想定内だった。
爆裂弾だけで終わる程、たやすい相手の訳がない。
そしてこの爆裂弾が突破されるとすれば、上級黒魔法か、それに並ぶ魔道具。
いずれにしろ攻撃魔法の類だと予想を付けていた。
それが地震という攻撃だった事にはいささか驚かされたが、それでもビボルの次の一手に遅れ喫する程ではなかった。
「全員俺の後ろに下がれ!第三部隊は俺が合図をしたら中級魔法を叩きこめ!第一と第二は接近戦に備えろ!剣士隊は前線だ!」
この地震だけでは終わらない。
こちらの体制を崩したこの好機に、おそらく上級黒魔法を放ってくる。
そう予測したビボルは、正面を向いたまま声を張り上げると、両手を前に出し魔力を解き放った。
ビボルを中心に、カエストゥス側を青く光る結界が包み込む。
その直後だった。
いまだ濛々と爆風が治まらない帝国側から、突如大地を揺るがす巨大な破壊音が鳴り響いたかと思うと、大地が岩を噴き飛ばしながら、カエストゥス側へと突き進んできた。
「おいおい!なんだそりゃ!?地面を抉ってんのか!?」
ビボルが目を開き、驚きの言葉を上げる。
火魔法、氷魔法、風魔法、あらゆる攻撃魔法と、それに準ずる魔道具での攻撃を想定していたが、
大地を抉り、岩を吹き飛ばしながら突き進んでくる巨大な破壊のエネルギーには、目を見張らされた。
「ずいぶんでけぇじゃねぇか・・・だがなぁ!」
大地を抉り、土砂を巻き上げ、岩を吹き飛ばし向かってくる破壊のエネルギーが、ビボルの結界とぶつかりあう。
その衝撃は大気を震わせ、大地を割り、周囲の岩肌を削り取った。
「ぐっ、わ、私の土竜を止めただと!?」
フルトンは、絶対の自信を持って放った土竜が防がれた事に目を見開いていた。
右手にはめている黒い革手袋は、フルトンの魔道具・土竜である。
土竜には二段階の使い方がある。
第一段階は、地面に手を当て任意の方角の地面を揺さぶる事ができる。
直接ダメージを与えられる程の威力はないが、相手の体制を崩す事ができる。
第二段階で使用者の魔力を破壊のエネルギーに変え、地面を通して対象に向け解き放つ。
大地を大きく抉り、それによって吹き飛ばされた岩や土砂を見れば、そのエネルギーの凄まじさは分かろうものだった。
今回フルトンは、ミラーに言われた通り全力で土竜を放っていた。
並みの結界では止める事は不可能であり、まともに受ければカエストゥスの前線を壊滅させる程の威力を持っていた。
だが、それほどの威力を持ってしても、フルトンの放った土竜と、ビボルの結界のぶつかり合いは拮抗していた。
「うぬぅぅ・・・これ程の結界とは!」
歯を食いしばり、地面に当てた手に魔力を流し続ける。
土竜はその威力を維持し続けるが、ビボルの結界を破るにはわずかに力が足りなかった。
「・・・くっ、これ以上は魔力切れを起こしてしまう!ミラー様・・・申し訳ありません!」
土竜はその威力ゆえに、魔力の消費も激しい。
フルトンは、このままではビボルの結界は突破できないと判断し、魔力を全て切らしてしまう前に、土竜を止める事を選んだ。
戦いはまだ続く。ミラーの期待に応えられなかったとしても、ここで副団長の自分が魔力を切らすわけにはいかない。
「・・・私の全力で放った土竜だ・・・次弾を放てるようになるまで、60分はかかるだろう」
残りの魔力を温存し、次の土竜を撃てるまでは回復に徹する。
土竜を必要とする場面はもう一度来るはずだ。
屈辱を呑み込み、フルトンは退いた。
後方でフルトンの動きを見ていたジャキル・ミラーは、土竜を解いた事を好判断だと捉えた。
戦いはまだ始まったばかりだ。
一度止められたとて、土竜はその一撃で戦局をひっくり返す威力がある。
ここでフルトンが魔力切れを起こす訳にはいかない。
数は帝国が上回っている。
だが、敵は周到な準備で数の不利を補い、それを上回ろうという力を見せつけて来た。
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