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【304 帝国の情報 ③】

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「なるほど、兵の数はこちらより随分と多いな・・・予想はしとったが、それ以上じゃ」

エンスウィル城、大臣ロペスの執務室では、ロペスとブレンダンと向かい合う形で、ウィッカーとジョルジュがソファに腰を下していた。

ウィッカーとジョルジュが、牢でベン・フィングと話した事を報告する。
ロペスとブレンダンは時折確認するように言葉を挟みながら話しを全て聞くと、なるほど、と情報を整理するように頷いた。

「はい。兵の数は帝国がはるかに優位です。ですが地の利はこちらにあります。数で負けても決して後れは取らないでしょう」

ウィッカーの言葉にブレンダンも、うむ、と頷き同意を示した。


「・・・そして多くはないが、皇帝達の能力の一旦が知れた事も大きい。すぐに各方面に通達しよう」
ロペスがこれまでの話しを記した紙を、傍に控えていた従者に手渡し指示を出した。

「うむ、どの方面もまだ師団長の姿が見えんからな。最後尾で指揮をとっておるんじゃろう。しかし、動けんというのはもどかしいのう」

ブレンダンが眉をしかめて窓の外へ目をやった。
すぐにでも戦場へ駆けつけたい気持ちが見える。

「・・・お気持ちはお察しします。ですが、ブレンダン様しかクラレッサに対抗できる者はおりません。クラレッサがどこにいるか分かるまでは、城で待機していただくしかありません。大丈夫です。我が国の兵士達を、彼らを信じましょう」


ロペスの言葉にブレンダンは何かを考えるように目を閉じた。
前線に立つ兵士達を思うと気持ちがはやるが、自分の役目を考え駆け付けたい気持ちを抑えていた。

悪霊を使うクラレッサは、ブレンダンにしか抑える事はできない。
どの戦場にクラレッサが現れるかが分からない以上、首都の防衛に留まる事を余儀なくされた。

「・・・ブレンダン様だけでなく、ウィッカー、ジョルジュ、お前達もこの戦の要なんだ。戦局を見極め、必要とされる場所に送り込む。それまでは首都の防衛に専念してくれ。俺達の思いも寄らぬ方法で刺客が入り込む可能性だってあるんだ。頼んだぞ」

ロペスの言葉には緊張感があり、それはウィッカーとジョルジュの気を引き締めさせるには十分の迫力があった。

二人が頷いた事を見て、ロペスも納得し言葉を続けた。

「・・・よし、最後に一つ確認したいのだが、お前達から見たベン・フィングの印象が知りたい。ヤツの報告は信じていいと思うか?今後裏切らないと思うか?」

ロペスの考えは至極当然であった。
自分を6年もの間、投獄していた国に対して、ベン・フィングが完全に協力をするとはとても思えなかった。
いかに恩赦を与えようと、ベンの腹の中には恨みの感情しかないだろう。

「・・・あくまで印象での話しになるんですが、今回あいつが話した内容に嘘はないと思います。
皇帝達の能力については、俺達がすでに知っている事も多かったですが、新たに知りえた情報も、不自然に感じるものはなかったです。ただ、今回話した事が全てかと言うと・・・あやしいとは思います。なにか隠している事はあるでしょうね。そういう意味で完全には信用できないです」

ウィッカーはベン・フィングとの会話を思い出しながら答えた。
確かに嘘を付いている印象は無かった。聞かれた事にも全て答えていたし、自分から有益な情報を提示する事も多々あった。


だが、だからこそ疑わしい。


「ウィッカー、俺も同意見だ。ヤツは素直過ぎた。駆け引きを一切してこなかった。命の保障はある。最低限の自由のある生活も約束はした。元々死刑になる事から考えれば十分かもしれんが、元は大臣だった男だ。その程度の慎ましい生活で満足できると思うか?なにかしらの交渉はしてくるだろう?だが、何もなかった。おそらく今回ヤツが話した事は全て真実だ。だが、ヤツは何かを隠している」


あくまで憶測ではあるが、ベン・フィングは何かを隠している。それは全員一致の見解だった。
だが、より良い待遇との交渉にすら使わない情報を、簡単に話すとも思えず、監視体制でしばらく様子を見る事になった。





「なぁジョルジュ・・・ジャニスの様子はどうだ?」

ロペスとブレンダンへの報告も終わり執務室を出ると、ウィッカーが世話話でもするように、気楽な感じに問いかけた。

「ジャニスか?元気にしているよ。だが、やはりこの状況には心を痛めている。俺も毎日は帰れんからな、心配をかけている」

「そっか、元気なら良かったよ。しばらく会ってないから、どうしてるかなって思ってな。あいつ、本当はすごい繊細だからさ・・・戦争になんて巻き込んじゃ駄目なんだよ」

並びながら通路を歩く。
ロペスとブレンダンへの報告は終わり、一先ずの時間は空いたが、のんびり休憩という訳にはいかなかった。

「フッ・・・心配するな。俺も同意見だ。ジャニスを戦争に巻き込むつもりはない。それにジャニスには父さんと母さんが付いている。二人ともあれでかなりの腕だ。もし戦う事になったとしても、帝国兵なんぞにそうそう後れは取らん。まぁ、まず危険にさらされる事はなかろう。それでも万一の時には隣村にいる俺の姉を頼るように言ってある」

「あ~、そういやお前の姉ちゃんとは、結婚式の時に一度だけ会ったな。うん、そっか、他にも頼るところがあるなら安心だな。ジョルジュ・・・お前は本当にジャニスの事考えてるよな。お前がジャニスと結婚して本当に良かったと思うよ」

「あぁ、俺もジャニスと結婚出来て本当に良かったと思っている。ジャニスは素晴らしい女性だ」

「・・・お前って、本当にそういう事をためらいなく口にするよな」

「ん?俺は何かおかしい事を言っているか?俺からすれば、お前達が意識し過ぎだ。口にせねば伝わるものも伝わらんぞ」

ウィッカーは後ろ頭を軽く掻きながら、少しだけ口元に笑みを作った。

「いや、まぁお前が正しいとは思うよ。言ってる事も何もおかしくない」

ウィッカーがジョルジュを認める発言をすると、ジョルジュも満足したように笑みを見せた。

「フッ、少しからかっただけだ。お前の言い分もわかるさ。気恥ずかしいのだろう?そしてそれが人の大半だ」

ジョルジュは足を止めると、通路の窓から外を眺めた。
それは、自分の家がある方角だった。


「・・・ウィッカー、俺がお前達と出会って6年だ。時が経つのは早いものだな」

「・・・なんだよ、急に。まぁ、確かにあっという間だったかもな」


珍しく感傷に浸るようなジョルジュに、ウィッカーは少し目を細めるも、自分自身同じ思いを感じていた事を口にした。


「・・・・・勝つぞ」

「・・・あぁ、もちろんだ」

二人はこれまでの6年間を思い返していた。
かけがえの無い大切な時間。一瞬一瞬がキラキラと輝く宝物のようだった。

ここで終わらせないように、これから先も大切な人と思い出を刻んでいけるように。

必ず勝つと誓った。
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