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【302 帝国の情報 ①】

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「取引には応じよう。だが、最初に一つ教えてもらいたい。息子のジョンはどうしている?」

ベン・フィングの息子、ジョン・フィングは、6年前の闘技場での一件で、ベン・フィングと同様に捕らえられ牢に入れられていた。

「あぁ・・・」
ウィッカーは言い辛そうに一度言葉を切ったが、すぐに続きを発した。

「一昨年亡くなった。自害だった」




「・・・・・・・そうか」

ウィッカーから告げられた息子の死に、ベン・フィングは取り乱す事は無かった。

薄々と予感はあった。
ある時期を境に、食事を運んでくる兵士など、誰に聞いても言葉を濁し、はっきりとした返事をくれなくなったからだ。

ハッキリと死を告げれば、ベン・フィングが何らかの行動を起こすかもしれないと警戒しての事だった。

今回、ベン・フィングが取引に応じた場合のみ話す許可が下りていた。


「・・・予想していたみたいだな」


「あぁ・・・何も変わりはない。いつも通りだ・・・・・誰に何を聞いてもこんな返事ばかりだったからな。ジョンに何かあったと思うのは当然だろ?そうか・・・自害か」


上着を破りロープ状にして鉄格子に括り付けて首を吊った。

ウィッカーは聞かれなければ、死に方を話す気は無かった。

そしてベン・フィングはそれを聞いてこなかった。


この時、自害と言う言葉を噛みしめるように口にするベン・フィングが、何を考えていたのかは誰にも分からない。

ウィッカーもジョルジュも言葉をかける事は無く、ベン・フィングが口を開くまで待った。




「・・・・・分かった。それで、何から話せばいい?」

しばらく経ち、ベン・フィングが口を開いた。
この時には特に様子のおかしなところは見えず、一応の感情の整理はできていたように思えた。


「・・・あぁ、まずは師団長、魔法兵団長、そして皇帝の能力だ」

ウィッカーがそう告げると、ベン・フィングはくるりと背を向けイスを掴むと、牢の中央に置き腰を下ろした。

「・・・座って話していいか?見ての通り、体力が落ちていてな。長時間立つのは苦痛なんだ」


「・・・いいぞ。問題ない。それで、話しを聞かせてもらおうか」

痩せ細った体を向け、不気味に笑うベン・フィングに、やはり異様な圧を感じるが、ウィッカーは表情には出さず話しを促した。


「まぁ、能力面については俺も知っている事は少ない。当然だろ?自分の能力をベラベラ話すヤツなどいないからな。それに、俺が投獄されて6年だ。同じメンツとは限らないからな。
師団長だが、セシリア、ルシアン、ジャック、コバレフ、この四人で変わりないか?」

「セシリアとルシアンは変わりない。ジャックとコバレフはもう死んでいる」

「・・・・・ほぉ~、殺したって事だよな?やったのは誰だ?」

ジャックとコバレフの死を聞き、ベン・フィングの顔に驚きと好奇が浮かんだ。


「・・・ジャックはエロールがやった。コバレフは剣士隊だ」

ドミニクの名は口にしなかった。
それはドミニクを軽視したからではない。目の前の男にドミニクの名を口にする事が躊躇われたからだ。
もし、ドミニクの戦死に対し軽んじられる発言がされれば、自分を抑える自信がない。
無意識化での心理が、ウィッカーに歯止めをかけていた。


「エロール?知らんな。コバレフを剣士隊が?ほぉ・・・大したものだな。まぁ数に物を言わせたのかどうか知らんが、よくあの深紅の鎧を突破したもんだな」

「エロールは今18歳だ。6年間ここにいるお前が知らないのも無理は無いだろう。無駄話しはいい。深紅の鎧についてはある程度分かっている。火の精霊の加護で鎧から炎を吹き出すそうだな」

話しを遮るようにして切り替えたウィッカーに、ベン・フィングは僅かに眉間にシワを寄せたが、要求通りに深紅の鎧について話し出した。

「そうだ。深紅の鎧は攻撃手段にも使える。自分を中心に炎を噴射させるんだ。並みの相手ではあれを突破できんだろう。だが、強すぎる力ゆえに、限られた人間しか使いこなせない。深紅の鎧は師団長とそれに準ずる者、せいぜい副団長レベルまでしか使いこなせない。だから、あの鎧を身に着けた兵士がうじゃうじゃ出て来る事はない。そして深紅のローブだが、あれはローブから炎を発する事はない。だが魔法に対する耐性そのものが強く、炎はもちろんだが、それ以外の魔法も効きにくいんだ。魔法使いが戦う時は苦戦するだろうな」


「ほぉ、そいつは面倒だな。なるほど、深紅のローブについては分かった。それで、ルシアンについて聞きたいんだが、あいつの肩当てについて何かしっているか?」

ジョルジュが口を挟んだ。
ウィッカーとジョルジュが戦ったあの師団長、ルシアン・クラスニキ。円錐形に尖った肩当を地面に叩き付けると、大爆発が起こった。

間一髪上空に飛び回避できたが、驚異的な威力だった。


「ルシアンの肩当て・・・あぁ、ナパームインパクトだな」

「ナパームインパクト?そういう名の技なのか?」

思い出したようにベンが答えると、ジョルジュが確認するように言葉を発した。

「あぁ、ルシアンの肩当ての爆発の事だろ?詳しい原理までは知らんが、俺も一度だけ見た事がある。あれは左右一発づつで、任意のタイミングで爆発できるらしい。ルシアンはあれでサドっ気があるんだ。あの肩当てで突き刺してなぶり殺しを楽しむ事もあるって話しだ。紳士面してえげつねぇんだよ。ルシアンについては、俺はそのくらいしか知らねぇぞ」

「なるほど・・・分かった。左右一発づつで任意のタイミングか。それだけ分かれば十分だ」


ジョルジュが納得した事を見て、ウィッカーが言葉を出した。

「セシリアについてはどうだ?」


「・・・セシリアか、目の力は知っているか?あの女は目を合わせた相手に気を送り、体の内側にダメージを与える事ができる」

「それは知っている。俺は一度戦ったからな。首から下に目を向けて戦ったが、手ごわい相手だった」


「ほぅ、あの女と戦って生き残ったのか・・・だが、セシリアの目を知っているのならば他に俺からの情報は・・・あぁ、あったな。あの女の武器、血狂刃は・・・血を流したか?」


ベン・フィングの言葉にウィッカーの記憶がよみがえる。

セシリアが空中から放ったプロミネンス。
それに真っ向からぶつかったウィッカーの灼炎竜。

二つの力が拮抗した時、セシリアはその手に持つ片手剣、血狂刃を振り上げた。


「・・・あぁ、セシリアの剣は血を流した。そしてそれを浴びたセシリアは強さが一段増したな。そういう能力なんだろ?」


「血狂刃はもう一段階あるらしい」


ベン・フィングの告げた言葉に、ウィッカーは目を開いた。

「なっ、あれに・・・もう一つ上があるのか?」

鉄格子を掴み、動揺の隠せない声を出すウィッカーに、ベン・フィングはニヤリと笑みを浮かべた。


「ふん、これはさすがに知らんかったようだな。まぁ、俺も見た事はない。昔、俺が帝国に行った時、たまたま皇帝とセシリアの会話の一部を耳にしただけなんだ。血狂刃にはもう一つ上の力がある。効果は知らんが、セシリアの切り札には間違いないだろうな」


血狂刃にはさらに一つ上の力がある。
その言葉にウィッカーとジョルジュは顔を見合わせた。


「セシリアの事はもういいか?まぁ、俺もこれ以上は何も知らんがな。そして魔法兵団長だな?」

確認するベン・フィングに、ウィッカーは頷き口を開いた。

「あぁ、その魔法兵団長だが、ジャキル・ミラー。クラレッサ・アリーム。テレンス・アリーム。この三人だが、知っているか?」


ウィッカーが上げた名前に、ベン・フィングは眉を寄せ、口を曲げた。

「・・・ミラーしか知らねぇな。他二人は変わったって事か・・・アリーム・・・・・いや、待てよ・・・アリーム・・・どこかで」


何かを思い出そうとするように、顎を撫でるベン・フィングを見て、ウィッカーとジョルジュは次の言葉を待った。


「・・・そうか、どこかで聞いた事があると思ったぞ。呪われた兄妹の事だな」
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