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【301 取引】
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「・・・まさか、俺がここに来る事になるとはな」
隣を歩くジョルジュには顔を向けず、ウィッカーは独り言のように口にした。
「フッ、そうだな。お前はヤツの顔も見たくないと言っていたからな」
ジョルジュもまた、ウィッカーには目をやらず、正面に顔を向けたまま冷たい石造りの廊下に足音を響かせながら並び歩いた。
「・・・あぁ、不本意だが俺達しかいないからな。因縁のある師匠は駄目だ。もちろんジャニスも駄目だ。ヤヨイさんは真っすぐ過ぎるしな・・・そうすると、俺とお前しかいないよな」
「あぁ、その通りだ。だが、メインで話すのはお前に任せる。俺がやってもいいが、俺は今すぐ殺すべきだと思っているからな。交渉にならんかもしれん」
カエストゥス国、エンスウィル城の地下牢。
ウィッカーとジョルジュは、ロペスの指示で、今も投獄されているベン・フィングの元に足を向かわせていた。
「分かった。まぁ、しかたないか。ロペスさんはアイツが失脚した事で大臣になったわけだから、ロペスさんが行けば嫉妬とか、逆恨みで話しがこじれるかもしれないしな」
「そういう事だ。ロビンは腹の探り合いや、取引きができそうな性格にも思えん。やはり俺とお前しかいないだろう。まぁ、お前もヤツを憎んでいる事は知っている。感情的になりそうだと思ったら、俺が止めてやる。我慢して目的を果たす事だけを考えろ」
「・・・あぁ、分かったよ」
ベン・フィングの扱いは、前国王ラシーン・ハメイドにより、囚人としては特別な待遇がとられていた。
そのため、他の囚人とは顔を合わせる事がないよう、地下牢の最奥に扉を付け、誰の目にも触れないように隔離されていた。
「・・・あ、これはウィッカー様、ジョルジュ様。大臣からお話しは伺っております。今開けますので」
ベン・フィングの牢へ通じる扉の前には、鉄の鎧を身に着けた男性の監守が一人待機しており、ウィッカーとジョルジュの姿を確認すると、重厚な鉄の扉に鍵を差し込んだ。
「・・・ここから先は結界が張られております。お二人ならば何事もないと思いますが、もし囚人が暴れる事がありましたら、ご遠慮なく取り押さえてください」
扉を開け、先進むための説明をすると、監守は扉の中へ進むよう手を差し出した。
「分かった。じゃあ入らせてもらうぞ」
ウィッカーが言葉を返し、扉の中へ足を踏み入れた。
「・・・ほぅ、確かに結界が張られているな。わざわざ扉を付け隔離して、そうまでして生かしておく価値があったのかは疑問だがな」
後に続くジョルジュの言葉に、ウィッカーも同感だったが、特に言葉は返さずそのまま足を進めた。
そして一番奥の牢の前に立つ。
「・・・お前・・・本当にベン・フィングか?」
その牢の中にいた男を見せ、ウィッカーは驚きのあまり目を疑った。
六年前、王子の解放を求めて話し合いに訪れた時は、三人掛けのソファで、二人分の場所をとる程に肥えた体系をしていた。
だが、今目の前にいる男は、かつての半分、いやそれ以上に痩せ衰えていた。
骨と皮とまではいかないが、身長165cmで小柄なブレンダンよりも細く見える。
「・・・・・あぁ、誰かと思えば・・・貴様、ブレンダンの弟子か?確か・・・ウィッカーと言ったな?」
座っていたイスから腰を上げると、ベン・フィングはゆっくりと鉄格子の前まで近寄ってきた。
体は瘦せ細り、頭髪も大分薄くなったように見える。
顔色も悪く、健康とは言い難そうだが、落ちくぼんだその目の奥には、まだギラギラとした炎が宿って見えた。
「それで、ここに来たという事は・・・それなりの要件があっての事だろう?言ってみろ」
異様な雰囲気を纏うベン・フィングに、ウィッカーが僅かに気圧された事を見て、ジョルジュが前に立った。
「そうだ。それなりの用がなければ、こんな醜悪な風が漂う場所になど来るわけなかろう。ベン・フィング、お前と取引きがしたい」
「・・・あぁ、貴様は・・・確か森に住んでいる弓使いだったな?覚えているぞ。確か、ジョルジュとか言ったな。あの時、あの闘技場で貴様が・・・・・いや、今更恨み節を言ってもしかたないな。取引か、俺を頼るくらいなのだから、相応のメリットが俺にもあるのだろうな?」
薄ら笑いを浮かべ、ジョルジュに視線を移すベン・フィング。
ジョルジュも、その変貌ぶりには驚きを感じていた。
牢の中を見ると、ベットがあり、床には質素な物ではあるが絨毯が敷いてあった。
イスと机も置いてあり、何冊かの本まであった。
「囚人にしては、なかなか良い待遇じゃないか。住み心地はどうだ?」
品定めするように牢の中を覗きながら、ジョルジュが問いかけると、ベン・フィングは自嘲気味に笑いを漏らした。
「くっくっく・・・なにを寝ぼけた事言いやがる?良いわけねぇだろが?俺は大臣だったんだぞ?こんなくそみたいな場所で、くそみたいな飯を食わされて、満足してると思ってやがるのか!?」
最後の言葉には明確な怒気が込められていたが、ジョルジュは眉一つ動かさずに、ウィッカーに顔を向けた。
「だそうだ。ウィッカー、やはり俺はこのまま話していると、射殺してしまうかもしれん。ここからはお前が説明しろ」
ベン・フィングのあまりの変わりように戸惑いを覚えたウィッカーだったが、
ジョルジュに話を振られた時には落ち着きを取り戻していた。
「あぁ、分かった」
話しがジョルジュからウィッカーに移り、ベン・フィングの視線が移る。
「ベン・フィング、今ジョルジュが言った通り、お前と取引がしたい。俺達の要求は、お前が帝国に関して知りうる全ての情報だ」
ウィッカーの要求に、ベン・フィングの表情が一気に険しくなった。
その目は鋭く、鉄格子を挟み向かい立つ二人を睨みつけている。
「・・・まだ自分は帝国とは無関係。そう言うつもりか?言っておくが、新国王のマルコ様はそんな戯言は信じていない。お前は取引に応じなければ、明日にでも処刑される。それはもう決まっているんだ」
口を開かないベン・フィングに、ウィッカーは冷たく言い放つ。
「・・・ふ、ふはははは・・・そうか・まぁ、そうなるだろうな。詳しい事は聞いていないが、前国王の国葬は俺にも知らせが来た。俺の立場はラシーン様あってこそだったからな。ラシーン様が崩御されれば当然だろう・・・・・やはりあの日の爆発は、帝国と事を構えたという事だな」
事情を察したように笑い、自棄になっているような口調で言葉を続けるベン・フィングに、ウィッカーは言葉を挟んだ。
「そういう事だ。そしてお前への見返りだが、命の保障と、監視はつくし行動範囲は制限されるが、最低限の自由はある生活だ」
ベン・フィングは目を閉じ、少しの間口を閉ざした。
だが、選択権など無いようなものは分かり切っている。
ここで話さなければ処刑される。
「・・・分かった。取引に応じよう」
そう短く答えた。
隣を歩くジョルジュには顔を向けず、ウィッカーは独り言のように口にした。
「フッ、そうだな。お前はヤツの顔も見たくないと言っていたからな」
ジョルジュもまた、ウィッカーには目をやらず、正面に顔を向けたまま冷たい石造りの廊下に足音を響かせながら並び歩いた。
「・・・あぁ、不本意だが俺達しかいないからな。因縁のある師匠は駄目だ。もちろんジャニスも駄目だ。ヤヨイさんは真っすぐ過ぎるしな・・・そうすると、俺とお前しかいないよな」
「あぁ、その通りだ。だが、メインで話すのはお前に任せる。俺がやってもいいが、俺は今すぐ殺すべきだと思っているからな。交渉にならんかもしれん」
カエストゥス国、エンスウィル城の地下牢。
ウィッカーとジョルジュは、ロペスの指示で、今も投獄されているベン・フィングの元に足を向かわせていた。
「分かった。まぁ、しかたないか。ロペスさんはアイツが失脚した事で大臣になったわけだから、ロペスさんが行けば嫉妬とか、逆恨みで話しがこじれるかもしれないしな」
「そういう事だ。ロビンは腹の探り合いや、取引きができそうな性格にも思えん。やはり俺とお前しかいないだろう。まぁ、お前もヤツを憎んでいる事は知っている。感情的になりそうだと思ったら、俺が止めてやる。我慢して目的を果たす事だけを考えろ」
「・・・あぁ、分かったよ」
ベン・フィングの扱いは、前国王ラシーン・ハメイドにより、囚人としては特別な待遇がとられていた。
そのため、他の囚人とは顔を合わせる事がないよう、地下牢の最奥に扉を付け、誰の目にも触れないように隔離されていた。
「・・・あ、これはウィッカー様、ジョルジュ様。大臣からお話しは伺っております。今開けますので」
ベン・フィングの牢へ通じる扉の前には、鉄の鎧を身に着けた男性の監守が一人待機しており、ウィッカーとジョルジュの姿を確認すると、重厚な鉄の扉に鍵を差し込んだ。
「・・・ここから先は結界が張られております。お二人ならば何事もないと思いますが、もし囚人が暴れる事がありましたら、ご遠慮なく取り押さえてください」
扉を開け、先進むための説明をすると、監守は扉の中へ進むよう手を差し出した。
「分かった。じゃあ入らせてもらうぞ」
ウィッカーが言葉を返し、扉の中へ足を踏み入れた。
「・・・ほぅ、確かに結界が張られているな。わざわざ扉を付け隔離して、そうまでして生かしておく価値があったのかは疑問だがな」
後に続くジョルジュの言葉に、ウィッカーも同感だったが、特に言葉は返さずそのまま足を進めた。
そして一番奥の牢の前に立つ。
「・・・お前・・・本当にベン・フィングか?」
その牢の中にいた男を見せ、ウィッカーは驚きのあまり目を疑った。
六年前、王子の解放を求めて話し合いに訪れた時は、三人掛けのソファで、二人分の場所をとる程に肥えた体系をしていた。
だが、今目の前にいる男は、かつての半分、いやそれ以上に痩せ衰えていた。
骨と皮とまではいかないが、身長165cmで小柄なブレンダンよりも細く見える。
「・・・・・あぁ、誰かと思えば・・・貴様、ブレンダンの弟子か?確か・・・ウィッカーと言ったな?」
座っていたイスから腰を上げると、ベン・フィングはゆっくりと鉄格子の前まで近寄ってきた。
体は瘦せ細り、頭髪も大分薄くなったように見える。
顔色も悪く、健康とは言い難そうだが、落ちくぼんだその目の奥には、まだギラギラとした炎が宿って見えた。
「それで、ここに来たという事は・・・それなりの要件があっての事だろう?言ってみろ」
異様な雰囲気を纏うベン・フィングに、ウィッカーが僅かに気圧された事を見て、ジョルジュが前に立った。
「そうだ。それなりの用がなければ、こんな醜悪な風が漂う場所になど来るわけなかろう。ベン・フィング、お前と取引きがしたい」
「・・・あぁ、貴様は・・・確か森に住んでいる弓使いだったな?覚えているぞ。確か、ジョルジュとか言ったな。あの時、あの闘技場で貴様が・・・・・いや、今更恨み節を言ってもしかたないな。取引か、俺を頼るくらいなのだから、相応のメリットが俺にもあるのだろうな?」
薄ら笑いを浮かべ、ジョルジュに視線を移すベン・フィング。
ジョルジュも、その変貌ぶりには驚きを感じていた。
牢の中を見ると、ベットがあり、床には質素な物ではあるが絨毯が敷いてあった。
イスと机も置いてあり、何冊かの本まであった。
「囚人にしては、なかなか良い待遇じゃないか。住み心地はどうだ?」
品定めするように牢の中を覗きながら、ジョルジュが問いかけると、ベン・フィングは自嘲気味に笑いを漏らした。
「くっくっく・・・なにを寝ぼけた事言いやがる?良いわけねぇだろが?俺は大臣だったんだぞ?こんなくそみたいな場所で、くそみたいな飯を食わされて、満足してると思ってやがるのか!?」
最後の言葉には明確な怒気が込められていたが、ジョルジュは眉一つ動かさずに、ウィッカーに顔を向けた。
「だそうだ。ウィッカー、やはり俺はこのまま話していると、射殺してしまうかもしれん。ここからはお前が説明しろ」
ベン・フィングのあまりの変わりように戸惑いを覚えたウィッカーだったが、
ジョルジュに話を振られた時には落ち着きを取り戻していた。
「あぁ、分かった」
話しがジョルジュからウィッカーに移り、ベン・フィングの視線が移る。
「ベン・フィング、今ジョルジュが言った通り、お前と取引がしたい。俺達の要求は、お前が帝国に関して知りうる全ての情報だ」
ウィッカーの要求に、ベン・フィングの表情が一気に険しくなった。
その目は鋭く、鉄格子を挟み向かい立つ二人を睨みつけている。
「・・・まだ自分は帝国とは無関係。そう言うつもりか?言っておくが、新国王のマルコ様はそんな戯言は信じていない。お前は取引に応じなければ、明日にでも処刑される。それはもう決まっているんだ」
口を開かないベン・フィングに、ウィッカーは冷たく言い放つ。
「・・・ふ、ふはははは・・・そうか・まぁ、そうなるだろうな。詳しい事は聞いていないが、前国王の国葬は俺にも知らせが来た。俺の立場はラシーン様あってこそだったからな。ラシーン様が崩御されれば当然だろう・・・・・やはりあの日の爆発は、帝国と事を構えたという事だな」
事情を察したように笑い、自棄になっているような口調で言葉を続けるベン・フィングに、ウィッカーは言葉を挟んだ。
「そういう事だ。そしてお前への見返りだが、命の保障と、監視はつくし行動範囲は制限されるが、最低限の自由はある生活だ」
ベン・フィングは目を閉じ、少しの間口を閉ざした。
だが、選択権など無いようなものは分かり切っている。
ここで話さなければ処刑される。
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