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【297 戦いの後 ①】
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「パトリック!こっちは片付いたぞ!」
街を焼き、住民を襲う帝国兵を制圧したロビンが、声を張り上げた。
「こっちも終わった!こいつで最後だ!」
パトリックが最後まで抵抗した帝国兵を押さえつけたところだった。
パトリックとロビンは城を出た後、先行するウィッカーやジョルジュ達に皇帝達の追跡をまかせ、住民を護るため帝国兵の制圧に乗り出した。
周到な準備がされており、パトリックとロビンが街に入った時には、すでに火の手が上がり大きな被害が出ていたが、魔法兵団団長ロビンの黒魔法は、いかに大陸一と言われる帝国兵であっても、一介の兵士が太刀打ちできるものではなく瞬く間に撃破されていった。
そしてパトリック。
六年前、孤児院を襲撃してきた殺し屋、ジャーグール・ディーロに不覚を取って以降、自分を鍛え直し、新たな魔道具を使用するようになっていた。
「その魔道具、雷の指輪、もうすっかり使いこなしているようだな」
ロビンがパトリックの右手人差し指にはめてある、金の指輪を指した。
「まぁ、6年も使ってればそりゃな。魔力の制御が難しいけど、使いこなせればこれ程便利な物はないよ」
「使用する魔力量に応じて雷を放つ。単純だが高度な制御力が求められるからな」
パトリックの言葉に、ロビンが言葉を付け加える。
「ちょっと魔力量が変わるだけで、必要以上に広範囲まで雷を飛ばしたりするしね。匙加減が難しいってみんなが諦める気持ちもよく分かったよ。俺だってこんな面倒なの元々使うつもりはなかったからね」
パトリックがこれまでの苦労を思い出すように苦笑いを浮かべると、ロビンはその背中を強く叩いた。
「だが、よく投げ出さずにものにした!以前の投げナイフを使っていた時とは、比べ物にならん程今のお前は強い!これなら俺も安心して隊長の座を譲れるというものだ」
息子の成長に心からの笑顔を見せるロビンに、パトリックが眉を寄せる。
「なに言ってんだよ?親父まだ50じゃないか。あと10年は団長できるだろ?ロペスさんが抜けなきゃ副団長だって、俺には分不相応だと思ってるよ」
「ふっ・・・そうだな。だがまぁ、息子の成長を嬉しく思ってるという事だ。パトリック、自信を持て。お前は十分副団長として団を引っ張っているぞ」
いつになく自分を褒める父に、パトリックは怪訝な表情見せる。
「・・・親父、なんか今日は変だぞ?いつもならまだまだ俺には任せられないって言わないか?」
無意識化でロビンは何かを感じ取っていたのかもしれない。
魔法兵団団長として、息子を贔屓目に見た事は無い。
だが、やはり自分の息子の成長は親として嬉しい事この上ない。
この六年でパトリックは一皮剥けた。
ジャーグール・ディーロに敗れ、それまで愛用していた魔道具から、あえて制御が難しく、意のままに操るには数年かかると言われる雷の指輪に変えて、根気よく修行を積み使いこなすまでに至った。
私生活においても、ヤヨイと結婚し二人の子宝に恵まれた事で、責任感が強くなり公私ともに良い影響を与えている。
ヤヨイのおかげだ。ロビンはそう感じていた。
女性との恋愛を意識すると全く話す事ができなくなり、男としてどうにも頼りなかったパトリックを理解し、長い目で見て付き合ってくれた。
ヤヨイがパトリックを変え、支えになってくれている。
もう自分がいなくても大丈夫だな
「・・・なぁに、たまには褒めてやらんと、お前が文句を言うと思ってな」
「なんだよそれ?まぁ、悪い気はしないけどさ。親父に褒められるなんて、ヤヨイと結婚した時以来じゃないか?」
「ハッハッハ、ヤヨイさんとの結婚はお前の人生で最高の決断だ。いつまでも仲良くするんだぞ?」
「・・・本当になんだよ今日は?調子狂うな・・・あ、部下達が戻って来たぜ。どうやらあっちも制圧したらしいな。行こうぜ」
そう言って部下達の前に行き、報告を受けるパトリックの背を見てロビンは口元に少しだけ笑みを浮かべた。
パトリック・・・
これからはもっと苛烈な戦争になる。
お前はこれからこの国を支える存在になる。そして家族も護らなければならない。
それはとても大変な事だ。
だが、ヤヨイさんがいる。そして母さんも力になってくれる。テリーとアンナの笑顔はお前に力をくれるだろう。
昔、俺がお前から力をもらっていたように・・・・・
パトリック・・・
愛する我が息子よ。
お前のためなら俺は・・・・・
「親父!なにぼけっとしてんだよ!?帝国兵は全て制圧し取り押さえたようだぜ。城へ連行でいいのか?早く指示してくれよ」
「・・・あぁ、すまんな。よし、では俺はこのまま住民の安否を確認して来る。パトリック、帝国兵の連行はお前に任せる。ロペスに状況の報告も忘れるな」
ロビンの指示に、パトリックは頷き行動に移った。
皇帝の光源爆裂弾によって、街の一角が吹き飛ばされたのはこの後の事だった。
「確か、この辺りだったな」
街から少し外れた森で、何度も爆音が鳴り響き、そして火の手が上がっている。
それを目にした時、リンダは直感で分かった。
カエストゥスの護衛と帝国の護衛、誰かは分からないが戦っていると。
帝国の護衛は一人一人が一騎当千、戦えばそれがどのような結果になるにしろ無事ではすまない。
もし味方が苦境に立たされていたら助けなければ。
そう思い、リンダは足を速め、そしてたどり着いた先で目にしたものは、火の粉舞う樹々、戦闘のすさまじさを物語るなぎ倒されたいくつもの大木と、周囲の草木を赤く染める飛び散った血液。
そしてその森の中で倒れている二人の男だった。
「エ、エロール!」
二人の男のうち、一人はエロールだった。
それに気づいたリンダはエロールに駆け寄り、そしてその姿を見て絶句した。
一目で分かった。両腕とも肘から下が潰されている。思わず目を覆いたくなる程、赤紫色に腫れ膨らんでいる。
両腕の肘から先の袖が焼け焦げている事から、炎を使った攻撃を受けた事までは把握できた。
この時、エロールは意識を失っているため、リンダに確認するすべはなかったが、エロールの左腕は折れた骨が肉を突き破り、大量の出血で危険な状態だった。
だが、エロールは意識を失う前にかろうじて左腕にヒールをかけていた。
回復の途中で意識を失ったため完治こそできなかったが、最後の力でかけたヒールは肉を突き破った骨を戻し、出血を止めるところまでは回復をさせる事ができていた。
「くっ、酷いな・・・魔力も使い果たしているようだ。待ってろ、すぐに城まで運んでやる」
リンダはエロールを背負うと、すぐそこで倒れているもう一人の男、ジャック・パスカルに目を向けた。
前のめりに倒れ伏しており、後ろ首がひどく抉れている事から、それが致命傷になった事は一目で分かった。
コイツをたった一人で倒したのか・・・・・
自分の目で見なければ、とても信じられなかっただろう。
城で目にした時、師団長の強さは肌で感じ取っていた。
自分が戦ったとして勝てたかどうか分からない。
リンダは決して自分の力に驕る性格ではない。だが、客観的に戦闘力を分析した時、カエストゥスの剣士隊では自分が最強だという事は自覚していた。
その自分でさえ、ジャック・パスカルを相手に一人で戦ったとして勝敗は分からなかった。
ましてエロールは、もっとも戦闘に向かないと言われている白魔法使い。
エロールの反作用の糸は知っている。
白魔法の癒しの魔力を、青魔法の結界と黒魔法の破壊の魔力に変換するのだ。
かつては黒魔法の破壊の魔力にしか変換できず、使用する度にマフラーもダメージを受け消耗していたようで、完成度が低いと言わざるをえなかった。
だが、六年前に喫した敗北により改良に改良を重ねたらしい。
特に驚いたのは、結界は物理結界だけかと思われたが、マフラーの両端を合わせる事で、両端とも黒魔法、もしくは青魔法に変換できるのだ。
これにより、片端だけでは対物理のみの結界が、魔法と炎や風などの範囲攻撃も防げる結界に変換する事ができる。
両端とも黒魔法に変換させた場合どうなるか?
これはエロールも教えてくれなかった。
気にはなったが、無理に聞けるものでもなかったし、正真正銘の切り札なのかもしれない。
リンダの知らない切り札を使ったのか?
それとも綱渡りのような攻防を凌ぎ切ったのか?
エロールの状態から、紙一重の勝利だった事は十分に感じとれた。
「・・・すごいヤツだ」
呟くように言葉を発すると、リンダはその場を離れた。
街を焼き、住民を襲う帝国兵を制圧したロビンが、声を張り上げた。
「こっちも終わった!こいつで最後だ!」
パトリックが最後まで抵抗した帝国兵を押さえつけたところだった。
パトリックとロビンは城を出た後、先行するウィッカーやジョルジュ達に皇帝達の追跡をまかせ、住民を護るため帝国兵の制圧に乗り出した。
周到な準備がされており、パトリックとロビンが街に入った時には、すでに火の手が上がり大きな被害が出ていたが、魔法兵団団長ロビンの黒魔法は、いかに大陸一と言われる帝国兵であっても、一介の兵士が太刀打ちできるものではなく瞬く間に撃破されていった。
そしてパトリック。
六年前、孤児院を襲撃してきた殺し屋、ジャーグール・ディーロに不覚を取って以降、自分を鍛え直し、新たな魔道具を使用するようになっていた。
「その魔道具、雷の指輪、もうすっかり使いこなしているようだな」
ロビンがパトリックの右手人差し指にはめてある、金の指輪を指した。
「まぁ、6年も使ってればそりゃな。魔力の制御が難しいけど、使いこなせればこれ程便利な物はないよ」
「使用する魔力量に応じて雷を放つ。単純だが高度な制御力が求められるからな」
パトリックの言葉に、ロビンが言葉を付け加える。
「ちょっと魔力量が変わるだけで、必要以上に広範囲まで雷を飛ばしたりするしね。匙加減が難しいってみんなが諦める気持ちもよく分かったよ。俺だってこんな面倒なの元々使うつもりはなかったからね」
パトリックがこれまでの苦労を思い出すように苦笑いを浮かべると、ロビンはその背中を強く叩いた。
「だが、よく投げ出さずにものにした!以前の投げナイフを使っていた時とは、比べ物にならん程今のお前は強い!これなら俺も安心して隊長の座を譲れるというものだ」
息子の成長に心からの笑顔を見せるロビンに、パトリックが眉を寄せる。
「なに言ってんだよ?親父まだ50じゃないか。あと10年は団長できるだろ?ロペスさんが抜けなきゃ副団長だって、俺には分不相応だと思ってるよ」
「ふっ・・・そうだな。だがまぁ、息子の成長を嬉しく思ってるという事だ。パトリック、自信を持て。お前は十分副団長として団を引っ張っているぞ」
いつになく自分を褒める父に、パトリックは怪訝な表情見せる。
「・・・親父、なんか今日は変だぞ?いつもならまだまだ俺には任せられないって言わないか?」
無意識化でロビンは何かを感じ取っていたのかもしれない。
魔法兵団団長として、息子を贔屓目に見た事は無い。
だが、やはり自分の息子の成長は親として嬉しい事この上ない。
この六年でパトリックは一皮剥けた。
ジャーグール・ディーロに敗れ、それまで愛用していた魔道具から、あえて制御が難しく、意のままに操るには数年かかると言われる雷の指輪に変えて、根気よく修行を積み使いこなすまでに至った。
私生活においても、ヤヨイと結婚し二人の子宝に恵まれた事で、責任感が強くなり公私ともに良い影響を与えている。
ヤヨイのおかげだ。ロビンはそう感じていた。
女性との恋愛を意識すると全く話す事ができなくなり、男としてどうにも頼りなかったパトリックを理解し、長い目で見て付き合ってくれた。
ヤヨイがパトリックを変え、支えになってくれている。
もう自分がいなくても大丈夫だな
「・・・なぁに、たまには褒めてやらんと、お前が文句を言うと思ってな」
「なんだよそれ?まぁ、悪い気はしないけどさ。親父に褒められるなんて、ヤヨイと結婚した時以来じゃないか?」
「ハッハッハ、ヤヨイさんとの結婚はお前の人生で最高の決断だ。いつまでも仲良くするんだぞ?」
「・・・本当になんだよ今日は?調子狂うな・・・あ、部下達が戻って来たぜ。どうやらあっちも制圧したらしいな。行こうぜ」
そう言って部下達の前に行き、報告を受けるパトリックの背を見てロビンは口元に少しだけ笑みを浮かべた。
パトリック・・・
これからはもっと苛烈な戦争になる。
お前はこれからこの国を支える存在になる。そして家族も護らなければならない。
それはとても大変な事だ。
だが、ヤヨイさんがいる。そして母さんも力になってくれる。テリーとアンナの笑顔はお前に力をくれるだろう。
昔、俺がお前から力をもらっていたように・・・・・
パトリック・・・
愛する我が息子よ。
お前のためなら俺は・・・・・
「親父!なにぼけっとしてんだよ!?帝国兵は全て制圧し取り押さえたようだぜ。城へ連行でいいのか?早く指示してくれよ」
「・・・あぁ、すまんな。よし、では俺はこのまま住民の安否を確認して来る。パトリック、帝国兵の連行はお前に任せる。ロペスに状況の報告も忘れるな」
ロビンの指示に、パトリックは頷き行動に移った。
皇帝の光源爆裂弾によって、街の一角が吹き飛ばされたのはこの後の事だった。
「確か、この辺りだったな」
街から少し外れた森で、何度も爆音が鳴り響き、そして火の手が上がっている。
それを目にした時、リンダは直感で分かった。
カエストゥスの護衛と帝国の護衛、誰かは分からないが戦っていると。
帝国の護衛は一人一人が一騎当千、戦えばそれがどのような結果になるにしろ無事ではすまない。
もし味方が苦境に立たされていたら助けなければ。
そう思い、リンダは足を速め、そしてたどり着いた先で目にしたものは、火の粉舞う樹々、戦闘のすさまじさを物語るなぎ倒されたいくつもの大木と、周囲の草木を赤く染める飛び散った血液。
そしてその森の中で倒れている二人の男だった。
「エ、エロール!」
二人の男のうち、一人はエロールだった。
それに気づいたリンダはエロールに駆け寄り、そしてその姿を見て絶句した。
一目で分かった。両腕とも肘から下が潰されている。思わず目を覆いたくなる程、赤紫色に腫れ膨らんでいる。
両腕の肘から先の袖が焼け焦げている事から、炎を使った攻撃を受けた事までは把握できた。
この時、エロールは意識を失っているため、リンダに確認するすべはなかったが、エロールの左腕は折れた骨が肉を突き破り、大量の出血で危険な状態だった。
だが、エロールは意識を失う前にかろうじて左腕にヒールをかけていた。
回復の途中で意識を失ったため完治こそできなかったが、最後の力でかけたヒールは肉を突き破った骨を戻し、出血を止めるところまでは回復をさせる事ができていた。
「くっ、酷いな・・・魔力も使い果たしているようだ。待ってろ、すぐに城まで運んでやる」
リンダはエロールを背負うと、すぐそこで倒れているもう一人の男、ジャック・パスカルに目を向けた。
前のめりに倒れ伏しており、後ろ首がひどく抉れている事から、それが致命傷になった事は一目で分かった。
コイツをたった一人で倒したのか・・・・・
自分の目で見なければ、とても信じられなかっただろう。
城で目にした時、師団長の強さは肌で感じ取っていた。
自分が戦ったとして勝てたかどうか分からない。
リンダは決して自分の力に驕る性格ではない。だが、客観的に戦闘力を分析した時、カエストゥスの剣士隊では自分が最強だという事は自覚していた。
その自分でさえ、ジャック・パスカルを相手に一人で戦ったとして勝敗は分からなかった。
ましてエロールは、もっとも戦闘に向かないと言われている白魔法使い。
エロールの反作用の糸は知っている。
白魔法の癒しの魔力を、青魔法の結界と黒魔法の破壊の魔力に変換するのだ。
かつては黒魔法の破壊の魔力にしか変換できず、使用する度にマフラーもダメージを受け消耗していたようで、完成度が低いと言わざるをえなかった。
だが、六年前に喫した敗北により改良に改良を重ねたらしい。
特に驚いたのは、結界は物理結界だけかと思われたが、マフラーの両端を合わせる事で、両端とも黒魔法、もしくは青魔法に変換できるのだ。
これにより、片端だけでは対物理のみの結界が、魔法と炎や風などの範囲攻撃も防げる結界に変換する事ができる。
両端とも黒魔法に変換させた場合どうなるか?
これはエロールも教えてくれなかった。
気にはなったが、無理に聞けるものでもなかったし、正真正銘の切り札なのかもしれない。
リンダの知らない切り札を使ったのか?
それとも綱渡りのような攻防を凌ぎ切ったのか?
エロールの状態から、紙一重の勝利だった事は十分に感じとれた。
「・・・すごいヤツだ」
呟くように言葉を発すると、リンダはその場を離れた。
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