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【284 追跡】
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「くそっ!このままじゃ逃げられる!」
テレンスが爆発魔法で開けた大穴から、皇帝に続き、護衛達が飛び降りて行った事を見て、ブレンダン達は当然追いかけようとした。
だが、そこで立ちふさがったのがブロートン帝国、白魔法兵団団長のクラレッサだった。
悪霊を宿した魔道具、御霊の目を使い、立った一人でブレンダン達の動きを止めて見せたのだ。
クラレッサが悪霊を放つ気配を察知し、ブレンダンが魔空の枝で霊力を帯びた結界を張りめぐらせたのは、クラレッサの悪霊をぶつけられるのとほぼ同時だった。
「ウィッカー、焦るでない。ここで結界から飛び出せば、どうなるかは分かるであろう?耐えるしかないんじゃ」
ブレンダンは口調こそ落ち着いたものだった。
だが魔空の枝を握る両手は小刻みに震え、額から流れる汗は頬を伝い滴り落ちていく。
悪霊の正体こそ見えないが、白い光を放ちブレンダン達を覆う結界にかかる強烈な圧力から、ブレンダンがどれほどの悪霊を相手に防衛しているのか察せられた。
「し、師匠!大丈夫ですか!?」
「・・・フッ、ワシを誰じゃと思うておる?魔戦トーナメント10連覇のブレンダン・ランデルじゃぞ?安心せい!こんな悪霊吹き飛ばしてやるわ!」
ブレンダンの気に応えるように、軋むような嫌な音を立てていた結界が強く光り、結界にまとわりついていたクラレッサの悪霊を跳ね返した。
「今じゃ!」
ブレンダンに跳ね返されたからか・・・
それとも、脱出の準備が整ったからか・・・
クラレッサの悪霊が消えた事を感じたブレンダンは、結界を解き声を張り上げた。
先陣を切り飛び出したのはウィッカーだった。
足元に風を纏い、一切の躊躇なく大穴から飛び降りる。
それに続いたのは弥生とジョルジュだった。
二人とも武器を構えたまま飛び降りると、風の精霊に呼びかけ落下の衝撃を和らげ着地した。
リンダ、ペトラ、ルチル、体力型の三人も弥生とジョルジュを追うように飛び降りた。
黒魔法使いのロビンは、大穴の前に立つと、青魔法使いのパトリックと、白魔法使いのエロールを先に飛び降りさせた。
落下の瞬間に、二人の体に魔法で風を纏わせる。
二人が無事に着地した事を確認すると、ロビンはブレンダンに目を向けた。
「ブレンダン様・・・」
「・・・ワシも年じゃな・・・ロビン、ワシに構うな・・・すぐに追いかける」
ブレンダンは片膝を付き、呼吸を整えていた。
ブレンダンがクラレッサの悪霊を跳ね返す事に、どれほどの力を使ったのだろうか・・・・・
ロビンは、はい、とだけ短く言葉を返すと足元に風を纏い飛び降りた。
「・・・ふぅ~・・・とんでもない娘じゃ、ありゃ皇帝よりやっかいかもしれんぞ」
「ブレンダン様、私は各国の国王に状況の説明をしなければなりません。追跡に参加はできませんが、その代わり国内の混乱は最小限に抑えて見せます」
ロペスは腰を下すと、ブレンダンに話しながら、自分達から距離をとって様子を伺っている、クインズベリー、ロンズデールの国王と兵士達に目を向けた。
「・・・うむ、そうじゃな。お主にしかできん事じゃ」
「師匠、すまんが俺も残る。城内が完全に安全だとはまだ言い切れまい。マルコとロペスは絶対に失ってはいけない。俺が護衛に着く」
タジームは探るように城内を見回しながら話した。
皇帝と護衛が城外へ出たといっても、なにかしらの罠、潜伏している者がいるかもしれない。
ラシーン・ハメイドが殺害された今、絶対の安全が確認できない以上、タジームの言い分はもっともな事だった。
「・・・そうじゃな、王子ならば誰も手出しできんじゃろ・・・」
ブレンダンは大きく息を付いて立ち上がり、首を鳴らしながら回す。
「さて、そろそろワシも行くとするか、王子、ちょいと頼めるかの?」
大穴の前に立ったブレンダンに、タジームは黙って風魔法を送った。
「よし・・・ロペス、後は任せたぞ!」
最後にロペスに声をかけると、ブレンダンは大穴から飛び降りた。
「うおぉぉぉぉーッ!」
左から右へ、ドミニクの薙ぎ払った剣が、コバレフの頬をわずかにかすめる。
「てめぇ!邪魔だオラァーッツ!」
声を荒げるコバレフの右の剣が、ドミニクの脳天に振り下ろされる。
ドミニクも190cmを超える長身だが、コバレフは更に10cm以上高い。
これまでコバレフと戦ってきた相手は、その振り下ろしによって頭から真っ二つにされてきた。
だが、ドミニクが左手に持った流水の盾は全てを受け流す。
「な!?」
絶対の自信を持った一撃が、ただ丸みをもっただけのだけの盾に滑るように受け流され、コバレフの表情に驚愕が浮かぶ。
真っ二つにするつもりで全力で振り抜いたため、コバレフの右腕は完全に下がり、右半身がガラ空きになった。
ドミニクの狙いはここだった。
かつての弥生との試合では、弥生の飛び道具に対して使用したが、本来は初見の相手に決定的な隙を作るために使用した方が効果的である。
「もらった!」
コバレフの全身は深紅の鎧に覆われている。
だが、頭だけは別だった。兜を付けておらず、むき出しである。
これは、2メートルを超える巨躯による自信の表れでもあった。
前傾姿勢で体が下がった事により、無防備な後頭部にドミニクの剣が振り下ろされる。
その切っ先がコバレフの頭に食い込んだと思われた瞬間、コバレフの深紅の鎧が凄まじい勢いで炎を吹き出した。
「ぐあぁッ!」
咄嗟に流水の盾を顔の前に出したが、ほぼまともに浴びたドミニクは、炎の勢いで後方に吹き飛ばされ、受け身すらとれず地面に背中を叩き付けられる。
それはコバレフを中心に、全方向に噴射するように放たれた炎だった。
深紅の鎧から吹き出る炎が。コバレフの全身を覆う。
「・・・てめぇ、けっこうやるじゃねぇか。俺の鎧に炎を出させるなんてよぉ」
コバレフはゆっくりと立ち上がると、ドミニクに向かい歩を進めた。
コバレフが一歩足を前に出すだけで、中庭の草花が焼け落ちていく。
「ぐっ、うぅ・・・な、なんだその鎧は・・・鎧が、炎を出すだと?」
ドミニクの首から下は、炎によって焼かれ、鎧の隙間からは服を焦がした煙まで出ていた。
「お前の盾には驚かされたが、俺の鎧にもびびってもらえたようだな?これが深紅の鎧の能力だ。元々は炎に対しての耐性があるだけだったが、火の精霊の加護で強化してある。それこそ俺の意思一つで炎を吹き出すほどにな」
一歩一歩近づいてくるコバレフ。すでに勝利を確認したように、口の端を持ち上げている。
「ぐっ、精霊の、加護だけで・・・そこまで、強化できる・・・わけが・・・」
ドミニクも体を起こし、膝に手をつきながらなんとか立ち上がる。
まともに炎を浴びた事で、体中が焼かれ全身に強い痛みが走っている。
鎧の下は相当な火傷を負っている事だろう。
「できんだよ。火の精霊ってのはなぁ、戦いが好きなんだ。まぁ、全ての武具がここまで強化されるわけじゃねぇ、力量に見合わない程強化されても使いこなせねぇからな。だが、俺達師団長クラスは特別だ。むしろよ、このくらいじゃねぇと、俺に釣り合わねぇだろ?」
そう言って目の前に立ったコバレフは、右手に持った剣を高々と振り上げた。その剣も炎に包まれ天に向かって燃え上がっている。
「皇帝も他のヤツらも行っちまったようだ。俺もそろそろ追いかけねぇとな・・・そんじゃ、そろそろ死ぬか?俺相手にお前はよく・・・・・」
コバレフの炎の剣が一層強く燃え上がる。闇夜とは思えない程に炎が辺りを照らす。
「頑張ったよ!」
コバレフの炎の剣がドミニクの頭に振り下ろされたその時、2メートルを超える巨躯のコバレフでさえ立っていられない程の強い風が吹き荒れ、コバレフを横から吹き飛ばした。
コバレフは派手に地面に転がされるが、すぐに左手で地面を跳ねて飛び上がる。
大きな体に見合わぬ軽い動きだった。そして風を受けた方向に顔を向ける。
「ちっ、てめぇ・・・セシリアを追って行かなかったのか」
コバレフの視線の先には、薙刀を構えた弥生がコバレフを睨みつけていた。
テレンスが爆発魔法で開けた大穴から、皇帝に続き、護衛達が飛び降りて行った事を見て、ブレンダン達は当然追いかけようとした。
だが、そこで立ちふさがったのがブロートン帝国、白魔法兵団団長のクラレッサだった。
悪霊を宿した魔道具、御霊の目を使い、立った一人でブレンダン達の動きを止めて見せたのだ。
クラレッサが悪霊を放つ気配を察知し、ブレンダンが魔空の枝で霊力を帯びた結界を張りめぐらせたのは、クラレッサの悪霊をぶつけられるのとほぼ同時だった。
「ウィッカー、焦るでない。ここで結界から飛び出せば、どうなるかは分かるであろう?耐えるしかないんじゃ」
ブレンダンは口調こそ落ち着いたものだった。
だが魔空の枝を握る両手は小刻みに震え、額から流れる汗は頬を伝い滴り落ちていく。
悪霊の正体こそ見えないが、白い光を放ちブレンダン達を覆う結界にかかる強烈な圧力から、ブレンダンがどれほどの悪霊を相手に防衛しているのか察せられた。
「し、師匠!大丈夫ですか!?」
「・・・フッ、ワシを誰じゃと思うておる?魔戦トーナメント10連覇のブレンダン・ランデルじゃぞ?安心せい!こんな悪霊吹き飛ばしてやるわ!」
ブレンダンの気に応えるように、軋むような嫌な音を立てていた結界が強く光り、結界にまとわりついていたクラレッサの悪霊を跳ね返した。
「今じゃ!」
ブレンダンに跳ね返されたからか・・・
それとも、脱出の準備が整ったからか・・・
クラレッサの悪霊が消えた事を感じたブレンダンは、結界を解き声を張り上げた。
先陣を切り飛び出したのはウィッカーだった。
足元に風を纏い、一切の躊躇なく大穴から飛び降りる。
それに続いたのは弥生とジョルジュだった。
二人とも武器を構えたまま飛び降りると、風の精霊に呼びかけ落下の衝撃を和らげ着地した。
リンダ、ペトラ、ルチル、体力型の三人も弥生とジョルジュを追うように飛び降りた。
黒魔法使いのロビンは、大穴の前に立つと、青魔法使いのパトリックと、白魔法使いのエロールを先に飛び降りさせた。
落下の瞬間に、二人の体に魔法で風を纏わせる。
二人が無事に着地した事を確認すると、ロビンはブレンダンに目を向けた。
「ブレンダン様・・・」
「・・・ワシも年じゃな・・・ロビン、ワシに構うな・・・すぐに追いかける」
ブレンダンは片膝を付き、呼吸を整えていた。
ブレンダンがクラレッサの悪霊を跳ね返す事に、どれほどの力を使ったのだろうか・・・・・
ロビンは、はい、とだけ短く言葉を返すと足元に風を纏い飛び降りた。
「・・・ふぅ~・・・とんでもない娘じゃ、ありゃ皇帝よりやっかいかもしれんぞ」
「ブレンダン様、私は各国の国王に状況の説明をしなければなりません。追跡に参加はできませんが、その代わり国内の混乱は最小限に抑えて見せます」
ロペスは腰を下すと、ブレンダンに話しながら、自分達から距離をとって様子を伺っている、クインズベリー、ロンズデールの国王と兵士達に目を向けた。
「・・・うむ、そうじゃな。お主にしかできん事じゃ」
「師匠、すまんが俺も残る。城内が完全に安全だとはまだ言い切れまい。マルコとロペスは絶対に失ってはいけない。俺が護衛に着く」
タジームは探るように城内を見回しながら話した。
皇帝と護衛が城外へ出たといっても、なにかしらの罠、潜伏している者がいるかもしれない。
ラシーン・ハメイドが殺害された今、絶対の安全が確認できない以上、タジームの言い分はもっともな事だった。
「・・・そうじゃな、王子ならば誰も手出しできんじゃろ・・・」
ブレンダンは大きく息を付いて立ち上がり、首を鳴らしながら回す。
「さて、そろそろワシも行くとするか、王子、ちょいと頼めるかの?」
大穴の前に立ったブレンダンに、タジームは黙って風魔法を送った。
「よし・・・ロペス、後は任せたぞ!」
最後にロペスに声をかけると、ブレンダンは大穴から飛び降りた。
「うおぉぉぉぉーッ!」
左から右へ、ドミニクの薙ぎ払った剣が、コバレフの頬をわずかにかすめる。
「てめぇ!邪魔だオラァーッツ!」
声を荒げるコバレフの右の剣が、ドミニクの脳天に振り下ろされる。
ドミニクも190cmを超える長身だが、コバレフは更に10cm以上高い。
これまでコバレフと戦ってきた相手は、その振り下ろしによって頭から真っ二つにされてきた。
だが、ドミニクが左手に持った流水の盾は全てを受け流す。
「な!?」
絶対の自信を持った一撃が、ただ丸みをもっただけのだけの盾に滑るように受け流され、コバレフの表情に驚愕が浮かぶ。
真っ二つにするつもりで全力で振り抜いたため、コバレフの右腕は完全に下がり、右半身がガラ空きになった。
ドミニクの狙いはここだった。
かつての弥生との試合では、弥生の飛び道具に対して使用したが、本来は初見の相手に決定的な隙を作るために使用した方が効果的である。
「もらった!」
コバレフの全身は深紅の鎧に覆われている。
だが、頭だけは別だった。兜を付けておらず、むき出しである。
これは、2メートルを超える巨躯による自信の表れでもあった。
前傾姿勢で体が下がった事により、無防備な後頭部にドミニクの剣が振り下ろされる。
その切っ先がコバレフの頭に食い込んだと思われた瞬間、コバレフの深紅の鎧が凄まじい勢いで炎を吹き出した。
「ぐあぁッ!」
咄嗟に流水の盾を顔の前に出したが、ほぼまともに浴びたドミニクは、炎の勢いで後方に吹き飛ばされ、受け身すらとれず地面に背中を叩き付けられる。
それはコバレフを中心に、全方向に噴射するように放たれた炎だった。
深紅の鎧から吹き出る炎が。コバレフの全身を覆う。
「・・・てめぇ、けっこうやるじゃねぇか。俺の鎧に炎を出させるなんてよぉ」
コバレフはゆっくりと立ち上がると、ドミニクに向かい歩を進めた。
コバレフが一歩足を前に出すだけで、中庭の草花が焼け落ちていく。
「ぐっ、うぅ・・・な、なんだその鎧は・・・鎧が、炎を出すだと?」
ドミニクの首から下は、炎によって焼かれ、鎧の隙間からは服を焦がした煙まで出ていた。
「お前の盾には驚かされたが、俺の鎧にもびびってもらえたようだな?これが深紅の鎧の能力だ。元々は炎に対しての耐性があるだけだったが、火の精霊の加護で強化してある。それこそ俺の意思一つで炎を吹き出すほどにな」
一歩一歩近づいてくるコバレフ。すでに勝利を確認したように、口の端を持ち上げている。
「ぐっ、精霊の、加護だけで・・・そこまで、強化できる・・・わけが・・・」
ドミニクも体を起こし、膝に手をつきながらなんとか立ち上がる。
まともに炎を浴びた事で、体中が焼かれ全身に強い痛みが走っている。
鎧の下は相当な火傷を負っている事だろう。
「できんだよ。火の精霊ってのはなぁ、戦いが好きなんだ。まぁ、全ての武具がここまで強化されるわけじゃねぇ、力量に見合わない程強化されても使いこなせねぇからな。だが、俺達師団長クラスは特別だ。むしろよ、このくらいじゃねぇと、俺に釣り合わねぇだろ?」
そう言って目の前に立ったコバレフは、右手に持った剣を高々と振り上げた。その剣も炎に包まれ天に向かって燃え上がっている。
「皇帝も他のヤツらも行っちまったようだ。俺もそろそろ追いかけねぇとな・・・そんじゃ、そろそろ死ぬか?俺相手にお前はよく・・・・・」
コバレフの炎の剣が一層強く燃え上がる。闇夜とは思えない程に炎が辺りを照らす。
「頑張ったよ!」
コバレフの炎の剣がドミニクの頭に振り下ろされたその時、2メートルを超える巨躯のコバレフでさえ立っていられない程の強い風が吹き荒れ、コバレフを横から吹き飛ばした。
コバレフは派手に地面に転がされるが、すぐに左手で地面を跳ねて飛び上がる。
大きな体に見合わぬ軽い動きだった。そして風を受けた方向に顔を向ける。
「ちっ、てめぇ・・・セシリアを追って行かなかったのか」
コバレフの視線の先には、薙刀を構えた弥生がコバレフを睨みつけていた。
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