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【283 皇帝と七人の護衛】

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轟音と共に爆風と砂埃が舞い一瞬の隙が生まれる。

「皇帝!」

ブロートン帝国黒魔法兵団団長 テレンスの爆発魔法で、壁を吹き飛ばし大穴を開けると、皇帝は正面を見たまま穴の外へ飛び出した。

三階であるが、皇帝も黒魔法使い。足元に風を集め軽やかに地面に着地した。


「次は俺達だ!」

第四師団長のコバレフは、まるで犬や猫、小動物を扱うように軽々とジャキル・ミラーのローブの衿を掴むと、そのまま躊躇う事なく飛び降りた。

2メートルを超える巨躯が飛び降りた事で、着地と同時に大きな衝撃音を響かせ中庭を揺らす。

「ぐッ、ゲホッ・・・コバ、レフ、お前と違って俺は魔法使いなんだ!もう少し丁寧に抱えろ!」

「うるっせーなー、細けぇ事を言ってんじゃねーよ。怪我せず降りられたんだ。礼の一つぐらい言えよ」


体力型のコバレフは、三階から飛び降りるくらいでダメージを受ける事もなく、掴んでいたミラーをその場に離して立たせた。

後ろ衿を掴まれたミラーは、喉を撫でながら軽く咳き込み、コバレフに恨み言を口にする。



次に降り立ったのは、第三師団長のジャック・パスカル。続いて第二師団長ルシアン・クラスニキだった。

体力型の二人は、まるで2~3段程度の階段を飛び降りる気軽さで、三階から飛び降り地面に着地する。


「・・・連中、追って来ないとこを見ると、クラレッサのやつ上手く足止めできてるみたいだな」

ジャック・パスカルが顔を上げ、たった今自分が飛び降りてきた三階の穴に顔を向ける。

「そうだな。ブレンダンに対抗手段があったのは想定外だったが、それでもクラレッサが霊力を発している間は、誰も迂闊には動けまい。味方ながら恐ろしいものだ」

ルシアンもジャックの言葉に同意し、三階に目を向けた。


「・・・お、セシリアが来たぞ」

三階の大穴に立ち込める煙の中から、背中を向けてセシリア・シールズが飛び出した。
頭を下にした姿勢で真っ逆さまに落ちてきたが、一階まで落ちたあたりでクルリと体を縦に回し、両足を揃え軽やかに着地した。腰まである長く赤い髪が風に舞う。


「セシリア、お前のお気に入りとはもういいのか?」

ルシアンが声をかけると、セシリアは腕を組みやや不満そうに答える。

「ん~・・・せっかく熱くなってきたところだったんだけどね。まぁ、皇帝の命令じゃしかたないさ」

セシリアもまた三階の大穴を見上げる。
先ほどまでのヤヨイとの戦いを思い出し、嬉しそうに唇を持ち上げる。

「それに・・・また会えるからね」

また会える。

約束を交わしたわけではない。だがセシリアの言葉は、まるで望めばいつでも会えるという程に、確信を持っていた。

「フッ、そうか・・・セシリア、お前が言うと、なぜかそう思えるから不思議だよ。ならば、次は戦場で会えるのだろう」

ルシアンは目を閉じ少しだけ笑みを作る。
セシリアの言葉に自分も同じ望みを持ったからだ。

「私も楽しみにしよう・・・史上最強と思う存分戦える時を」

ルシアンもまた、視線を交えたジョルジュと戦場で出会う事を願っていた。



「お~、テレンスとクラレッサだ」

ジャックが右手を軽く挙げ、三階からゆっくりと降りて来るテレンスとクラレッサを指す。

黒魔法使いのテレンスは足に風を纏い、妹のクラレッサを両手で抱き上げている。

兄のテレンスに抱き上げられているクラレッサは、その視線を三階の大穴に向けており、そして視線の先の大穴は、精神と肉体を蝕む恐ろしい何かに防がれていた。


「やっぱりよぉ、全然見えねぇけどカエストゥスが追って来ないのは、クラレッサの霊力なんだろうな。すげぇ嫌な感じだけは肌でビリビリ感じるぜ」

ジャックは誰に言うでもなく言葉を口にする。
それを拾い、ジャキル・ミラーが腕を組みながら息を一つ付いた。

「ふぅ・・・全く、魔法使いとしては複雑な気分だよ。魔法のような力だが魔法ではない。霊力なんて訳の分からん力でこうも圧倒的なのだから」

テレンスは地面に着地すると、クラレッサを静かに優しく下した。

「・・・兄様、やっぱりすごい、あのおじいちゃん、私の悪霊と互角です・・・押し切れない」

まるで憧れの人物に向けるような、羨望の眼差しを三階の大穴に向けるクラレッサに、テレンスは驚いていた。

「クラレッサ・・・嬉しいんだね、自分と同じ力を持った相手に出会えて・・・」

兄である自分だけは、クラレッサの気持ちを理解できていると思っていた。
御霊の目を使用するようになり、クラレッサの心は死者達の怨念によって蝕まれていき、人間らしい感情をどんどん無くしていった。

だが、ブレンダンが霊力を使用した時、クラレッサは嬉しそうに笑った。
そして今も、ブレンダンと霊力をぶつけ合っているのに笑顔を見せている。

理由はどうあれ、もうこんな喜びに満ちた表情を見れるとは思っていなかった。


「皮肉だね・・・僕らがもしカエストゥスに残っていたら・・・・・」

テレンスは呟きは、自分の耳にも届かない程の小さな囁き声だった。

言葉を最後まで言わずに飲み込んだのは、皇帝への忠誠心か・・・あるいは自分達の人生を悔やまぬため、心を護るためだったのかもしれない。



「全員揃ったな・・・」

護衛が全員中庭に降り立った事を確認すると、皇帝は右手の平を空に向けて上げた。

「では、帰るとしよう」

その言葉に全員が頷いた事を合図に、皇帝は空に向けて爆裂弾を撃ち放った。
何発も何発も・・・・・


夜空で爆ぜる爆裂弾は、まるで花火のようだった。
そしてそれを合図に、カエストゥスの街でいつでも動けるに待機していた、ブロートン帝国一千人の兵士達が動き出した。


「いよいよ始まるぞ・・・戦争だ」

不敵に口を曲げて皇帝は笑った。
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