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【274 王位継承の儀 ⑦】

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「ロビン、ドミニク・・・これまでワシに付いて来てくれた事、心から感謝する。これからは、ワシの分までマルコを・・・・・そして、今更ワシが口にできた事ではないが、タジームを・・・・・どうか頼む」

王位継承の儀が終わり、前国王として各国への最後の挨拶も終えた。

ラシーン・ハメイドは月明かりだけが入る自室で、窓から外に目をやりながら、後ろに控えるロビンとドミニクに、国王としての労いと、父親としての願いを言葉にし伝えた。


「もったいないお言葉です。私もドミニクも、陛下にお仕えできた事を、誇りに思っております」

「私も同じ思いです。これからも変わらぬ忠誠心で、マルコ様・タジーム様をお支えしてまいります」

ロビンとドミニクが片膝を付き頭を下げている事を気配で察し、ラシーン・ハメイドはゆっくりと後ろを振り返った。


「・・・タジームは、今日来ておったな。マルコの護衛の仮面の男がそうなのであろう?」


ラシーン・ハメイドの問いかけに、ロビンとドミニクは僅かに体が反応した。そのびくりとした反応を見て、ラシーンは確信を持った。
ロビンとドミニクが、どう言葉を返せばいいか思案していると、ラシーンは返事を待たずに言葉を続けた。


「よい・・・よいのだ。仮面を付けていたので、素顔は見れなかったが、ずいぶんと背が伸びて、逞しく成長した事が知れただけで良かった。それに、空気が穏やかになっていた。ブレンダンの・・・皆のおかげだな。マルコとは関係を修復できそうなのだな?」


「・・・はい。先日、孤児院でお顔を合わせました。タジーム様は、恨んでいないと・・・自分とマルコ様は兄弟だからと口にしておられました。ご安心くださいませ」

王位継承の儀の三日前、マルコはロビンとドミニクを連れて、ブレンダンの孤児院を訪れた。
兄タジームに会うために。

これまで兄が虐げられている事に見向きもしなかった事を謝罪し、もし許されるのならば、また兄弟として関係を築いていけたらという思いからだ。


「そうか・・・・・それが聞けて良かった」

ラシーンは、静かに目を閉じると、再びロビンとドミニクに背を向け、窓から外へ目を向けた。


「・・・今夜はもう休もう。お前達も下がってよいぞ」

ロビンとドミニクは顔を合わせると、国王の言葉通りにしようと立ち上がった。

「それでは、我々は扉の前におりますので、なにかありましたらお声がけくださいませ」

本来であれば、ロビンとドミニクがそこまでしなくていい。
従者を待機させておき、近くの部屋で休養をとっていてもいい。だが、今回はブロートン帝国がなにかをしかけてくる前提で行動しており、実際にロペスが攻撃を受けている。

ラシーンが部屋を出ろと言う以上、部屋からは出なければならないが、扉一枚隔てた通路での待機。
これ以上は譲れない線であった。



「・・・陛下、タジーム様はマルコ様とお会いした日、こうも言われておりました・・・」

退室しようとロビンは扉に手をかけたが、そこで足を止めラシーン・ハメイドに体を向き直した。

王位継承の儀が始まる前に見せた涙

そして今もタジームを頼むと、父として自分達に願いを口した事


ロビンは話すつもりはなかった
だが今日のラシーン・ハメイドは、まるで昔に戻ったように、表情から険が取れている
そしてタジームに対する、確かな愛情が感じられた


陛下、やっと・・・戻られたのですね


ラシーンが振り返るのを待って、ロビンは言葉を続けた


「いつか、父ともう一度・・・笑って話したいな・・・・・と」


ロビンはそのまま一礼すると、ラシーンに目を合わせる事なく扉を開け外へ出た
ドミニクもそれに続き、一礼し退室する




一人、部屋に残ったラシーン
その口から漏れる嗚咽は誰の耳にも届かない

そしてラシーンの懺悔と感謝の念は、今は亡き王妃へ心から送られていた



ルイーゼよ・・・ワシは駄目な父親だった
だが、お前の優しい心はしっかりと二人の息子に受け継がれていたよ

マルコは兄を想い、孤児院に行き謝罪をしたそうだ・・・・・

タジームは、こんな愚かなワシを・・・まだ、父と・・・・・





「父上・・・・・」

ラシーンの嗚咽が治まった頃、軽いノックの後にマルコが部屋に入ってきた。

こんな夜更けにマルコが訪ねてくるのは珍しい。
いや、ラシーンが部屋へ籠るようになってからは、一度も訪れた事は無かった。


「マルコか、どうし・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・た」


マルコの手にしたナイフが、ラシーンの腹を深く突き刺していた。

ラシーンは信じられない物を見るように、己の腹に突き刺さったナイフを目にした後、そのナイフを握るマルコに目を向けた。

「マ、マルコ・・・いや・・・・・・ち、が・・・・・・・・・・・・・」

言葉を出そうとすると、喉の奥から言葉の代わりに溢れ出たものが吐き出された。

絨毯を赤く染める液体の上に膝を付き、僅かに残った力でもう一度だけラシーンは首を上に向け、マルコの姿をしたソレを目に映した。


「・・・ち・・・がう・・・・・・・・・・・・・・・」


息子ではない

では誰だ?なにが目的だ?本物のマルコはどうなった?これからこの国は・・・・・・・・・・

力無く前のめりに倒れ伏したラシーンの脳裏には、一瞬の間に様々な疑問や懸念が浮かんだが、最後に頭に思い描いたものは、家族四人で笑い合った短かったけれど、幸せだったあの日々だった。



・・・・・ルイーゼ、迎えに来てくれたんだね・・・・・ありがとう


目を閉じる瞬間
淡く光る透明感のある手がラシーンに差し伸べられた

その手は亡き妻のものだった

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