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【272 王位継承の儀 ⑤】
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王位継承の儀が終わり、新国王となったマルコ・ハメイドのお披露目の会食が始まった。
会食の行われる式場には何台ものテーブルが並べられていた。
肉に魚、豪華な料理が色とりどりに並び、各々が自由に取る立食パーティーだ。
新国王マルコ・ハメイドは、まずはブロートン帝国、クインズベリー、ロンズデールの国王に、今日この場に足を運んでもらった感謝の意を伝える。そして簡単な挨拶を述べた後、会食が始まった。
マルコ・ハメイドの元には、顔を覚えてもらおうと貴族達が次々と挨拶に訪れた。
ベン・フィングが失脚してからの六年、ロペスにより国王としての振る舞いを仕込まれたマルコは、僅か18歳にして名だたる貴族達を前にしても全く気後れせず、その立ち姿は実に堂々としたものだった。
そしてマルコには、ロビンとドミニクが一定の距離を保って付き従い、護衛としての役を務めていた。
「ブレンダン様、白髪の兄妹ですが、兄が黒魔法兵団長テレンス・アリーム、19歳。妹が白魔法兵団長クラレッサ・アリーム、17歳。どちらも去年団長に就任したばかりだそうです」
新国王マルコへ視線を向けたまま、ロペスが会場の隅に立つブレンダンの隣に歩み寄り声をかけた。
「ふむ、そうか。やはり兄妹じゃったか。それ以上の素性や、魔道具についてはどうじゃ?」
「残念ながら・・・時間をかければ分かる事もあるかもしれませんが、この短時間では・・・」
ブレンダンはより深い情報を求めたが、ロペスは首を横に振る。
そして新国王マルコに向けていた視線を、反対側のテーブルで大皿から料理を取り分けれている、白い髪のブロートンの白魔法使い、クラレッサに向けた。
トングが使い難いのか、おぼつかない手つきで、皿に乗った生ハムを掴もうと苦戦していると、カエストゥスの給仕係の男性が声をかけ、クラレッサの皿に生ハムを取り乗せる。
クラレッサは可愛らしく微笑みお礼を述べると、給仕係はその可憐な笑みに気を良くしたのか、他にも食べたいものはないか聞き、クラレッサの指定するものを取り乗せていった。
「・・・・・あの様子を見ると、おしとやかなお嬢様、という感じしかしませんが、ブレンダン様の話しを聞くと、とんでもない二面性があるのでしょうな」
「うむ。ワシも最初はそう思うた。じゃが、おそらく現時点でワシ以外にあやつと戦える者はおらんぞ。ワシの魔空の枝でなければ・・・いや、それでも難しいかもしれん」
ブレンダンの言葉にロペスは思わず目を剥き、信じられないといった顔でブレンダンを見た。
カエストゥスで最強と謳われた青魔法使い、ブレンダン・ランデルをもってして、ここまで言わせるとは・・・・・
「・・・それほど、なのですか?あのまだ17歳の少女が、ブレンダン様にそこまで言わせる程の力を秘めていると?」
「ワシの魔空の枝が、霊力を帯びた樹の枝に、魔力を込めて同化させた事は知っておるな?あのクラレッサという娘の魔道具も、霊力を使用しておるのは間違いない。じゃがな、どういう魔道具かは確認できておらんが、同じ霊力でも、あやつの霊力は悪霊、怨念や呪いと言ってもいい魔道具じゃ」
「悪霊、ですか?申し訳ない。私は霊力についてはほとんど知識がありません。ブレンダン様から聞いた程度しか・・・」
「あの場でワシが感じた感覚じゃが・・・あの娘の魔道具は、生命そのものに攻撃すると考えていいじゃろう。ワシを含め、あの場にいた全員が殺されておってもおかしくなかった。抵抗力の無い者には、防ぎようがないのじゃ」
ブレンダン、パトリック、エロール、ペトラ、ルチル、この国の精鋭五人をたった一人で全滅させる事もできた。その言葉に驚いたロペスは、視線を再びクラレッサに戻し・・・そして絶句した。
会場の隅の壁に立っていたロペスと、会場の中心で食事をしていたクラレッサ、二人の距離は十メートルは開いていた。
だが・・・・・目が合った。
まるでブレンダンとの会話を聞いていたかのように、ハッキリとロペスを認識し捉えていた。
白い髪の女、クラレッサ・アリームは、さっきまで愛想良く給仕係に向けていた顔は消えて、能面のように全く表情が無くなっていた。
小顔で女性らしい輪郭も、形の良い小さな唇も変わらない。
だが、その黒く丸い瞳は、まるで目を合わせた相手の命を飲み込もうとするかのようだった。
「く・・・あ・・・・・」
ロペスの喉の水分は一瞬で干からび、言葉を出そうにもカラカラの喉からは、うめき声しか出す事ができなかった。
「馬鹿な!?あの女、ここで仕掛けるつもりか!?」
ロペスが喉を押さえ苦しそうに呻き膝をつく。
ロペスを助けるためには、ここでやるしかないと判断したブレンダンは、魔道具・魔空の枝を取り出そうとローブの中に手を入れた。
だが、ブレンダンが魔空の枝を取るより先に、クラレッサの肩に手を置く者がいた。
同じ白い髪をした、クラレッサの兄、テレンス・アリーム。
テレンスがクラレッサに何か言葉をかけると、クラレッサは少しの間ロペスを見ていた。
だが、再度テレンスが言葉をかけると、了承したように軽く頷き、ロペスから視線を外しテレンスに促されるままその場を離れた。
「う、ゲホッ・・・あ、あれが、その悪霊とかいう、ちから・・・ですか?」
クラレッサが離れると、ロペスを襲っていた得体の知れない力が消え、縛り付けれた体が開放されたかのように言葉を出せるようになった。
ロペスは咳き込みながら立ち上がり、今自分が受けた正体不明の力について尋ねた。
「あぁ、あれが悪霊じゃ。危なかった・・・あの男が止めなければ、ワシはここで戦わねばならんかった」
突然膝をついたロペスを見て、周囲にいた従者や侍女がかけよってくるが、ロペスは立ちくらみがしただけだ。と、心配しないように話した。
「ブレンダン様、悪霊とは一体なんですか?魔法とは、全く別物のようですが」
「・・・一言で言えば怨念の力じゃ。理不尽に切り殺された人がいたとする。その人は殺される瞬間強い負の感情を持つじゃろう。恨み、憎しみ、なんにしても負の感情じゃ」
前を向いたまま悪霊について持ち合わせている知識を話すブレンダンの言葉を、ロペスは黙った耳にしていた。
「じゃが、まず何も起きん。何も起きんのが普通なのじゃ、いかに強い感情を残しても、それが生者に害をなす事などできようはずがない・・・・・じゃが、極まれに・・・本当に極まれにじゃが、その境界線を越えて、生ある者に害をなす程の強い怨念を残し、それが宿った物が残る事がある」
「・・・その強い怨念を宿した物が悪霊、なのですか?」
話しの核に触れ、ロペスが問いかけると、ブレンダンはロペスに顔を向け、ハッキリと頷いた。
「そうじゃ。悪霊もワシの魔空の枝と同じ、霊力には違いない。光と闇程に対極に位置する力じゃがの。そして、悪霊に対抗するには霊力しかないのだ」
「・・・なるほど、ならば、確かに魔空の枝を持っているブレンダン様しか、太刀打ちできぬ道理ですな」
「ロペス・・・この場でお主を攻撃してきた事からも、あのクラレッサという女は、制御に危ういところがあるようじゃ。あの女の監視はワシ一人でやる。お主は今話した事を、他の者にも伝えて来てくれんか」
「・・・分かりました。霊力、悪霊というものは、別物だという事ですね。ブレンダン様・・・お気をつけて・・・」
ロペスはブレンダンにその場を託し、その場を後にした。
一人その場に残ったブレンダンは、クラレッサの後ろ姿を目で追った。
・・・・・一体どんな人生を歩めば・・・・・
魔空の枝を操るブレンダンには、霊力を感じ取る事もできた
・・・・・一体どんな悪霊を宿した魔道具を持っている・・・・・
ブレンダンの目に映るクラレッサの背中には、
地の底へと引きずりこもうとする、血にまみれた無数の死者がしがみ付いていた
会食の行われる式場には何台ものテーブルが並べられていた。
肉に魚、豪華な料理が色とりどりに並び、各々が自由に取る立食パーティーだ。
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そしてマルコには、ロビンとドミニクが一定の距離を保って付き従い、護衛としての役を務めていた。
「ブレンダン様、白髪の兄妹ですが、兄が黒魔法兵団長テレンス・アリーム、19歳。妹が白魔法兵団長クラレッサ・アリーム、17歳。どちらも去年団長に就任したばかりだそうです」
新国王マルコへ視線を向けたまま、ロペスが会場の隅に立つブレンダンの隣に歩み寄り声をかけた。
「ふむ、そうか。やはり兄妹じゃったか。それ以上の素性や、魔道具についてはどうじゃ?」
「残念ながら・・・時間をかければ分かる事もあるかもしれませんが、この短時間では・・・」
ブレンダンはより深い情報を求めたが、ロペスは首を横に振る。
そして新国王マルコに向けていた視線を、反対側のテーブルで大皿から料理を取り分けれている、白い髪のブロートンの白魔法使い、クラレッサに向けた。
トングが使い難いのか、おぼつかない手つきで、皿に乗った生ハムを掴もうと苦戦していると、カエストゥスの給仕係の男性が声をかけ、クラレッサの皿に生ハムを取り乗せる。
クラレッサは可愛らしく微笑みお礼を述べると、給仕係はその可憐な笑みに気を良くしたのか、他にも食べたいものはないか聞き、クラレッサの指定するものを取り乗せていった。
「・・・・・あの様子を見ると、おしとやかなお嬢様、という感じしかしませんが、ブレンダン様の話しを聞くと、とんでもない二面性があるのでしょうな」
「うむ。ワシも最初はそう思うた。じゃが、おそらく現時点でワシ以外にあやつと戦える者はおらんぞ。ワシの魔空の枝でなければ・・・いや、それでも難しいかもしれん」
ブレンダンの言葉にロペスは思わず目を剥き、信じられないといった顔でブレンダンを見た。
カエストゥスで最強と謳われた青魔法使い、ブレンダン・ランデルをもってして、ここまで言わせるとは・・・・・
「・・・それほど、なのですか?あのまだ17歳の少女が、ブレンダン様にそこまで言わせる程の力を秘めていると?」
「ワシの魔空の枝が、霊力を帯びた樹の枝に、魔力を込めて同化させた事は知っておるな?あのクラレッサという娘の魔道具も、霊力を使用しておるのは間違いない。じゃがな、どういう魔道具かは確認できておらんが、同じ霊力でも、あやつの霊力は悪霊、怨念や呪いと言ってもいい魔道具じゃ」
「悪霊、ですか?申し訳ない。私は霊力についてはほとんど知識がありません。ブレンダン様から聞いた程度しか・・・」
「あの場でワシが感じた感覚じゃが・・・あの娘の魔道具は、生命そのものに攻撃すると考えていいじゃろう。ワシを含め、あの場にいた全員が殺されておってもおかしくなかった。抵抗力の無い者には、防ぎようがないのじゃ」
ブレンダン、パトリック、エロール、ペトラ、ルチル、この国の精鋭五人をたった一人で全滅させる事もできた。その言葉に驚いたロペスは、視線を再びクラレッサに戻し・・・そして絶句した。
会場の隅の壁に立っていたロペスと、会場の中心で食事をしていたクラレッサ、二人の距離は十メートルは開いていた。
だが・・・・・目が合った。
まるでブレンダンとの会話を聞いていたかのように、ハッキリとロペスを認識し捉えていた。
白い髪の女、クラレッサ・アリームは、さっきまで愛想良く給仕係に向けていた顔は消えて、能面のように全く表情が無くなっていた。
小顔で女性らしい輪郭も、形の良い小さな唇も変わらない。
だが、その黒く丸い瞳は、まるで目を合わせた相手の命を飲み込もうとするかのようだった。
「く・・・あ・・・・・」
ロペスの喉の水分は一瞬で干からび、言葉を出そうにもカラカラの喉からは、うめき声しか出す事ができなかった。
「馬鹿な!?あの女、ここで仕掛けるつもりか!?」
ロペスが喉を押さえ苦しそうに呻き膝をつく。
ロペスを助けるためには、ここでやるしかないと判断したブレンダンは、魔道具・魔空の枝を取り出そうとローブの中に手を入れた。
だが、ブレンダンが魔空の枝を取るより先に、クラレッサの肩に手を置く者がいた。
同じ白い髪をした、クラレッサの兄、テレンス・アリーム。
テレンスがクラレッサに何か言葉をかけると、クラレッサは少しの間ロペスを見ていた。
だが、再度テレンスが言葉をかけると、了承したように軽く頷き、ロペスから視線を外しテレンスに促されるままその場を離れた。
「う、ゲホッ・・・あ、あれが、その悪霊とかいう、ちから・・・ですか?」
クラレッサが離れると、ロペスを襲っていた得体の知れない力が消え、縛り付けれた体が開放されたかのように言葉を出せるようになった。
ロペスは咳き込みながら立ち上がり、今自分が受けた正体不明の力について尋ねた。
「あぁ、あれが悪霊じゃ。危なかった・・・あの男が止めなければ、ワシはここで戦わねばならんかった」
突然膝をついたロペスを見て、周囲にいた従者や侍女がかけよってくるが、ロペスは立ちくらみがしただけだ。と、心配しないように話した。
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「・・・一言で言えば怨念の力じゃ。理不尽に切り殺された人がいたとする。その人は殺される瞬間強い負の感情を持つじゃろう。恨み、憎しみ、なんにしても負の感情じゃ」
前を向いたまま悪霊について持ち合わせている知識を話すブレンダンの言葉を、ロペスは黙った耳にしていた。
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「・・・その強い怨念を宿した物が悪霊、なのですか?」
話しの核に触れ、ロペスが問いかけると、ブレンダンはロペスに顔を向け、ハッキリと頷いた。
「そうじゃ。悪霊もワシの魔空の枝と同じ、霊力には違いない。光と闇程に対極に位置する力じゃがの。そして、悪霊に対抗するには霊力しかないのだ」
「・・・なるほど、ならば、確かに魔空の枝を持っているブレンダン様しか、太刀打ちできぬ道理ですな」
「ロペス・・・この場でお主を攻撃してきた事からも、あのクラレッサという女は、制御に危ういところがあるようじゃ。あの女の監視はワシ一人でやる。お主は今話した事を、他の者にも伝えて来てくれんか」
「・・・分かりました。霊力、悪霊というものは、別物だという事ですね。ブレンダン様・・・お気をつけて・・・」
ロペスはブレンダンにその場を託し、その場を後にした。
一人その場に残ったブレンダンは、クラレッサの後ろ姿を目で追った。
・・・・・一体どんな人生を歩めば・・・・・
魔空の枝を操るブレンダンには、霊力を感じ取る事もできた
・・・・・一体どんな悪霊を宿した魔道具を持っている・・・・・
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