上 下
269 / 1,277

【268 王位継承の儀 ①】

しおりを挟む
大勢のカエストゥス国民が見守る中、王位継承の儀はつつがなく進んだ。

体調が心配されていた国王陛下も、この日はまるで憑き物でも落ちたかのように、晴れ晴れとした表情で儀式を遂行した。

継承に当たって、これからこの国をどのように導いていくべきか、自分の前にひざまずくマルコ様に向け、力強く言葉をかけている。

体は痩せ衰えているけれど、それと相反して言葉からは確かな意思と強さが感じられた。

来賓席に座るクリンズベリー国王も、ロンズデール国王も、おそらくカエストゥス国王がふさぎ込んでいる話しは聞いていたと思う。
それだけに、噂と正反対の今日の国王の姿には、驚きを隠せなかったようだ。


しかし、ブロートン帝国 皇帝ローランド・ライアンは違った。
式典の最中だと言うのに、頬杖を付きどこか楽しそうに、演説するラシーン国王に目を向けている。


帝国の皇帝は、アタシが想像していたより若い男性だった。
おそらく40歳程、45歳まではいっていないだろう。

白い毛も混じっているが、オールバックにまとめた濃いめの金色の髪のおかげで、あまり目立たず、顔だけでは老いが分かりにくい。
皇帝としての自信だろう。その視線の鋭さには見た者を怯ませるに十分な気が宿っており、ほんのわずかでも甘く見た態度は命取りになりそうだ。



「・・・あれが皇帝・・・ヤバイな・・・・・」

遠目にも分かった。
皇帝はただの飾りじゃない。大陸一の軍事国家の皇帝に相応しい実力を備えている。
そして魔法使いだ。この場では魔力を抑えているため、参列している戦う力の無い貴族や町民達にも、何のプレッシャーも与える事はない。

だが、ある一定のレベルを超えた者には分かる。

この世界では体力型と言われるアタシにも感じられる程・・・
皇帝が、その胸の中に抑えている魔力がどれ程巨大なものなのか・・・・・


「なんだよアレ?・・・ふざけんなよ、護衛なんていらないんじゃないのか?」

苦笑いし悪態をつくアタシの頬を、冷たい汗が一つ伝って落ちた




皇帝の後ろには三人の護衛が控えている。
今回も七人の護衛が入国したが、そのうちのう四名は、王宮内に用意した部屋で待機してもらっている。
つまり、式場内に皇帝と入った三名の護衛は、七人の護衛の内、上位三名と考えていいだろう。


一人はブロートン帝国第一師団長のセシリア・シールズ。
五年前、アタシにその瞳の力を使い熱を帯びた気を放った女だ。体力型だろうが、その瞳の力は魔法に似たようなものだろう。


二人目は、ブロートン帝国青魔法兵団団長のジャキル・ミラー。
五年前、かつて剣士隊副隊長だったゲーリーの精神を操り、リンダへの憎しみを増幅させ、レイジェスに乗り込ませた男だ。
結局その件も、五年前の話し合いでは帝国は関係無いと認めなかったが、アタシ達はコイツの仕業だと確信を持っている。

三十代後半くらいだろう。痩せ形で、背はあまり高くない。薄茶色の髪はサイドを刈り込み、頭頂部だけ後ろへ流している。
丸メガネをかけ、深紅のローブを身に纏っている。どことなく、神経質そうに見える。


三人目は、ブロートン帝国第二師団長のルシアン・クラスニキ。
三十歳位だろう。一見すると、爽やかな好青年という印象だ。
身長は190cmくらいはあるだろう。短めの金髪を後ろに流すようにまとめ、鼻が高い。青い瞳と少し薄いが形の良い唇、若干面長に見えるが、ハリウッドの映画俳優と言っても通用しそうな見た目だった。

比較的装備の薄いセシリア・シールズとは反対に、ルシアンは全身を深紅の甲冑で覆っている。
特徴的なのは、両の肩当てだ。
垂直に数十cm程、まるで天を貫くように鋭く円錐形に尖って伸びていた。

そして左腕には深紅の兜を抱えている。

かなりの重量に見えるが、自分の装備の重さなど、全く意に介していないように涼しい顔をしている。
パワーも相当なもののようだ。




「・・・戦いになれば、アタシの相手はセシリア・シールズ・・・・・あとの二人は、ウィッカー・・・ジョルジュ・・・」

セシリア・シールズ・・・勝てるだろうか?
アタシは孤児院に襲撃に来たジャーグール・ディーロにも、ドミニクと手合わせした時も、戦う前から自分が勝つイメージがハッキリと見えた。

だが、あの女は全くイメージができない。
自分が劣っているとも思わないが、強さの底が全く見えない相手に初めて出会った。
こういう相手とは、できれば戦いたくはない。


ウィッカーとジョルジュ、あの二人はどうだろうか?
王子を除けば、大陸一の黒魔法使いのウィッカー。史上最強の弓使いと言われるジョルジュ。
誰が相手でも負けるとは思えない・・・だけど、この帝国の二人もやはり底が見えない。

大陸一の軍事国家のブロートン帝国。
青魔法兵団の団長にまで上り詰めたジャキル・ミラー。

そして、セシリア・シールズに負けずとも劣らない力量を感じる、第二師団長のルシアン・クラスニキ。

ウィッカーとジョルジュが負けるとは思えない。
思えないが・・・皇帝までも凄まじい魔力を秘めていると感じた今、できれば帝国とは戦わずにすませたい。


大きな緊張感の中、王位継承の儀は進んでいった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...