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【268 王位継承の儀 ①】
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大勢のカエストゥス国民が見守る中、王位継承の儀はつつがなく進んだ。
体調が心配されていた国王陛下も、この日はまるで憑き物でも落ちたかのように、晴れ晴れとした表情で儀式を遂行した。
継承に当たって、これからこの国をどのように導いていくべきか、自分の前にひざまずくマルコ様に向け、力強く言葉をかけている。
体は痩せ衰えているけれど、それと相反して言葉からは確かな意思と強さが感じられた。
来賓席に座るクリンズベリー国王も、ロンズデール国王も、おそらくカエストゥス国王がふさぎ込んでいる話しは聞いていたと思う。
それだけに、噂と正反対の今日の国王の姿には、驚きを隠せなかったようだ。
しかし、ブロートン帝国 皇帝ローランド・ライアンは違った。
式典の最中だと言うのに、頬杖を付きどこか楽しそうに、演説するラシーン国王に目を向けている。
帝国の皇帝は、アタシが想像していたより若い男性だった。
おそらく40歳程、45歳まではいっていないだろう。
白い毛も混じっているが、オールバックにまとめた濃いめの金色の髪のおかげで、あまり目立たず、顔だけでは老いが分かりにくい。
皇帝としての自信だろう。その視線の鋭さには見た者を怯ませるに十分な気が宿っており、ほんのわずかでも甘く見た態度は命取りになりそうだ。
「・・・あれが皇帝・・・ヤバイな・・・・・」
遠目にも分かった。
皇帝はただの飾りじゃない。大陸一の軍事国家の皇帝に相応しい実力を備えている。
そして魔法使いだ。この場では魔力を抑えているため、参列している戦う力の無い貴族や町民達にも、何のプレッシャーも与える事はない。
だが、ある一定のレベルを超えた者には分かる。
この世界では体力型と言われるアタシにも感じられる程・・・
皇帝が、その胸の中に抑えている魔力がどれ程巨大なものなのか・・・・・
「なんだよアレ?・・・ふざけんなよ、護衛なんていらないんじゃないのか?」
苦笑いし悪態をつくアタシの頬を、冷たい汗が一つ伝って落ちた
皇帝の後ろには三人の護衛が控えている。
今回も七人の護衛が入国したが、そのうちのう四名は、王宮内に用意した部屋で待機してもらっている。
つまり、式場内に皇帝と入った三名の護衛は、七人の護衛の内、上位三名と考えていいだろう。
一人はブロートン帝国第一師団長のセシリア・シールズ。
五年前、アタシにその瞳の力を使い熱を帯びた気を放った女だ。体力型だろうが、その瞳の力は魔法に似たようなものだろう。
二人目は、ブロートン帝国青魔法兵団団長のジャキル・ミラー。
五年前、かつて剣士隊副隊長だったゲーリーの精神を操り、リンダへの憎しみを増幅させ、レイジェスに乗り込ませた男だ。
結局その件も、五年前の話し合いでは帝国は関係無いと認めなかったが、アタシ達はコイツの仕業だと確信を持っている。
三十代後半くらいだろう。痩せ形で、背はあまり高くない。薄茶色の髪はサイドを刈り込み、頭頂部だけ後ろへ流している。
丸メガネをかけ、深紅のローブを身に纏っている。どことなく、神経質そうに見える。
三人目は、ブロートン帝国第二師団長のルシアン・クラスニキ。
三十歳位だろう。一見すると、爽やかな好青年という印象だ。
身長は190cmくらいはあるだろう。短めの金髪を後ろに流すようにまとめ、鼻が高い。青い瞳と少し薄いが形の良い唇、若干面長に見えるが、ハリウッドの映画俳優と言っても通用しそうな見た目だった。
比較的装備の薄いセシリア・シールズとは反対に、ルシアンは全身を深紅の甲冑で覆っている。
特徴的なのは、両の肩当てだ。
垂直に数十cm程、まるで天を貫くように鋭く円錐形に尖って伸びていた。
そして左腕には深紅の兜を抱えている。
かなりの重量に見えるが、自分の装備の重さなど、全く意に介していないように涼しい顔をしている。
パワーも相当なもののようだ。
「・・・戦いになれば、アタシの相手はセシリア・シールズ・・・・・あとの二人は、ウィッカー・・・ジョルジュ・・・」
セシリア・シールズ・・・勝てるだろうか?
アタシは孤児院に襲撃に来たジャーグール・ディーロにも、ドミニクと手合わせした時も、戦う前から自分が勝つイメージがハッキリと見えた。
だが、あの女は全くイメージができない。
自分が劣っているとも思わないが、強さの底が全く見えない相手に初めて出会った。
こういう相手とは、できれば戦いたくはない。
ウィッカーとジョルジュ、あの二人はどうだろうか?
王子を除けば、大陸一の黒魔法使いのウィッカー。史上最強の弓使いと言われるジョルジュ。
誰が相手でも負けるとは思えない・・・だけど、この帝国の二人もやはり底が見えない。
大陸一の軍事国家のブロートン帝国。
青魔法兵団の団長にまで上り詰めたジャキル・ミラー。
そして、セシリア・シールズに負けずとも劣らない力量を感じる、第二師団長のルシアン・クラスニキ。
ウィッカーとジョルジュが負けるとは思えない。
思えないが・・・皇帝までも凄まじい魔力を秘めていると感じた今、できれば帝国とは戦わずにすませたい。
大きな緊張感の中、王位継承の儀は進んでいった。
体調が心配されていた国王陛下も、この日はまるで憑き物でも落ちたかのように、晴れ晴れとした表情で儀式を遂行した。
継承に当たって、これからこの国をどのように導いていくべきか、自分の前にひざまずくマルコ様に向け、力強く言葉をかけている。
体は痩せ衰えているけれど、それと相反して言葉からは確かな意思と強さが感じられた。
来賓席に座るクリンズベリー国王も、ロンズデール国王も、おそらくカエストゥス国王がふさぎ込んでいる話しは聞いていたと思う。
それだけに、噂と正反対の今日の国王の姿には、驚きを隠せなかったようだ。
しかし、ブロートン帝国 皇帝ローランド・ライアンは違った。
式典の最中だと言うのに、頬杖を付きどこか楽しそうに、演説するラシーン国王に目を向けている。
帝国の皇帝は、アタシが想像していたより若い男性だった。
おそらく40歳程、45歳まではいっていないだろう。
白い毛も混じっているが、オールバックにまとめた濃いめの金色の髪のおかげで、あまり目立たず、顔だけでは老いが分かりにくい。
皇帝としての自信だろう。その視線の鋭さには見た者を怯ませるに十分な気が宿っており、ほんのわずかでも甘く見た態度は命取りになりそうだ。
「・・・あれが皇帝・・・ヤバイな・・・・・」
遠目にも分かった。
皇帝はただの飾りじゃない。大陸一の軍事国家の皇帝に相応しい実力を備えている。
そして魔法使いだ。この場では魔力を抑えているため、参列している戦う力の無い貴族や町民達にも、何のプレッシャーも与える事はない。
だが、ある一定のレベルを超えた者には分かる。
この世界では体力型と言われるアタシにも感じられる程・・・
皇帝が、その胸の中に抑えている魔力がどれ程巨大なものなのか・・・・・
「なんだよアレ?・・・ふざけんなよ、護衛なんていらないんじゃないのか?」
苦笑いし悪態をつくアタシの頬を、冷たい汗が一つ伝って落ちた
皇帝の後ろには三人の護衛が控えている。
今回も七人の護衛が入国したが、そのうちのう四名は、王宮内に用意した部屋で待機してもらっている。
つまり、式場内に皇帝と入った三名の護衛は、七人の護衛の内、上位三名と考えていいだろう。
一人はブロートン帝国第一師団長のセシリア・シールズ。
五年前、アタシにその瞳の力を使い熱を帯びた気を放った女だ。体力型だろうが、その瞳の力は魔法に似たようなものだろう。
二人目は、ブロートン帝国青魔法兵団団長のジャキル・ミラー。
五年前、かつて剣士隊副隊長だったゲーリーの精神を操り、リンダへの憎しみを増幅させ、レイジェスに乗り込ませた男だ。
結局その件も、五年前の話し合いでは帝国は関係無いと認めなかったが、アタシ達はコイツの仕業だと確信を持っている。
三十代後半くらいだろう。痩せ形で、背はあまり高くない。薄茶色の髪はサイドを刈り込み、頭頂部だけ後ろへ流している。
丸メガネをかけ、深紅のローブを身に纏っている。どことなく、神経質そうに見える。
三人目は、ブロートン帝国第二師団長のルシアン・クラスニキ。
三十歳位だろう。一見すると、爽やかな好青年という印象だ。
身長は190cmくらいはあるだろう。短めの金髪を後ろに流すようにまとめ、鼻が高い。青い瞳と少し薄いが形の良い唇、若干面長に見えるが、ハリウッドの映画俳優と言っても通用しそうな見た目だった。
比較的装備の薄いセシリア・シールズとは反対に、ルシアンは全身を深紅の甲冑で覆っている。
特徴的なのは、両の肩当てだ。
垂直に数十cm程、まるで天を貫くように鋭く円錐形に尖って伸びていた。
そして左腕には深紅の兜を抱えている。
かなりの重量に見えるが、自分の装備の重さなど、全く意に介していないように涼しい顔をしている。
パワーも相当なもののようだ。
「・・・戦いになれば、アタシの相手はセシリア・シールズ・・・・・あとの二人は、ウィッカー・・・ジョルジュ・・・」
セシリア・シールズ・・・勝てるだろうか?
アタシは孤児院に襲撃に来たジャーグール・ディーロにも、ドミニクと手合わせした時も、戦う前から自分が勝つイメージがハッキリと見えた。
だが、あの女は全くイメージができない。
自分が劣っているとも思わないが、強さの底が全く見えない相手に初めて出会った。
こういう相手とは、できれば戦いたくはない。
ウィッカーとジョルジュ、あの二人はどうだろうか?
王子を除けば、大陸一の黒魔法使いのウィッカー。史上最強の弓使いと言われるジョルジュ。
誰が相手でも負けるとは思えない・・・だけど、この帝国の二人もやはり底が見えない。
大陸一の軍事国家のブロートン帝国。
青魔法兵団の団長にまで上り詰めたジャキル・ミラー。
そして、セシリア・シールズに負けずとも劣らない力量を感じる、第二師団長のルシアン・クラスニキ。
ウィッカーとジョルジュが負けるとは思えない。
思えないが・・・皇帝までも凄まじい魔力を秘めていると感じた今、できれば帝国とは戦わずにすませたい。
大きな緊張感の中、王位継承の儀は進んでいった。
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