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【265 夕暮れの道】

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ロペスさんとの対策会議が終わると、外はすっかり薄暗くなっていた。
時計を見ると午後5時を回ったところだったので、4時間くらい話していた事になる。

「ロペスさん、今回は、急にお時間を作っていただいて、ありがとうございました」

全員が部屋から出たところで、私がロペスさんにお礼の言葉を口にすると、ロペスさんは気にするな、と言うように軽く手を振った。

「当然の事だ。むしろよく知らせてくれたと感謝しているよ。おかげで俺の懸念も確信をもった行動に移せる。ヤヨイさん、後一か月だ・・・こちらは迎える側だから、国内の警備や、諸国への人数制限の通達と調整はなんとでもなる。だが、やはり問題は師団長だ。ヤツらが何かした時に抑えるのは、一般兵では不可能だ。もしもの時は頼んだぞ」


ロペスさんは、近いうちにまた会おう、と言葉を残して、待機していた従者達を従えてその場を後にした。

私達はロペスさんを姿が見えなくなったところで、王宮を出て中庭に集まった。

城門に目をやると、ロペスさんが私達のために用意した馬車が二台待機していた。

一台は私達が街へ戻るための馬車で、もう一台はジョルジュさん用だろう。
ジョルジュさんは、お城から北の森のツリーハウスに住んでいるので、私達とは方向が違うのだ。
ロペスさんは仕事ができるだけじゃなくて、細かな気遣いもできる人だ。


「ふむ、今日のところはこのまま帰るとするか。ロビン、お主は魔法兵団の宿舎に寄るか?」

「はい、今日はほとんどこちらにいましたから、帰る前に一度顔を出しに行こうと思います。それに、今回話し合った事を、魔法兵団に伝えるのは私が任されましたから、それも話さねばなりませんしね」

ロビンさんの言葉に、ドミニクさんも相槌をうった。

「そうですね。剣士隊へ話す事は俺の仕事ですから、俺もこれから話しにいかないとな。
今日は帰りが遅くなりそうだ」

ドミニクさんは190cmを超える大きな体で背伸びをし、長い話し合いで疲れたのか右手で左肩を揉んだ。

「ふふ、ドミニクさん、リン姉さんは今日は多分6時過ぎまではレイジェスにいると思うんです。やりかけの武器のメンテ、仕上げたがってましたから。帰りに寄って、私から遅くなる事話しておきますね」

「あ、それは助かりますね。リンダも元剣士隊だから、帰りの時間が遅くなってもそう文句は言いませんが、やっぱり気になると思うので。ウィッカー、お前の奥さんも今日はレイジェスか?」

ドミニクさんがウィッカーさんに話しを向ける。

「はい、今日は俺もヤヨイさんも店を開けたので、メアリーには店に入ってもらいました。
孤児院にはトロワとキャロルがいるし、今は10~12歳くらいの子も多いですから。スージーとチコリも手伝ってくれてますしね。食事の補助が必要な子は2~3人くらいかな。だから、今はそんなに手がかからなくなってるんです」

「娘のティナちゃんもしっかりしてるからな。あの子も五歳なのに色々手伝ってるそうじゃないか?」

ドミニクさんがウィッカーさんの娘を褒めると、ウィッカーさんは表情を緩ませた。

「あ、いやいや、メアリーの真似をしてるだけですよ。メアリーが料理も洗濯も、何でも楽しそうにやってるんで、ティナもその影響ですかね」

「ハッハッハ!幸せそうでなによりだよ!じゃあ、早く帰ってパパの顔を見せてやるんだな!」

ドミニクさんが、ウィッカーさんの背中をバシッと叩くと、ウィッカーさんがちょっと前のめりに体勢をよろける。

「いってぇ~、ドミニクさん、勘弁してくださいよ」
「あぁ、すまんすまん、つい力を入れすぎた。しかし・・・お前、ずいぶん鍛えたな?ロビンさんもかなりのものだが、お前も魔法使いとは思えん程に、筋肉が付いているぞ」

ドミニクさんは、今自分でウィッカーさんの背中を叩いた右手に目を向け、感触を確認するかのように、右手を少し握る。

「まぁ、魔法使いの俺は体力が低いですから。だから、鍛えて置こうと思ったんですよ。できる事が増えて損は無いし。ジョルジュには弓を、リン姉さんには剣やナイフを、ドミニクさんも盾を教えてくれるじゃないですか?みんなのおかげです」

「それは、そうだがな。だが、さすがにリンダの連双斬はできないだろ?」

連双斬。
リンダさんオリジナルの必殺技だ。
相手の鎧、盾、武器を斬るためにリンダさんが作ったこの技は、一撃目で対象にほんの少しでもいいから傷を付ける。そして二撃目はその傷に剣を引っ掛ける事で、より力が込めやすくなり、対象を斬り裂く。という技だ。

ドミニクさんも真似をした事があるらしいけど、全くできなかったと言う。

「技は教えてもらいましたが、魔法使いの俺にはそもそも不可能なのかもしれません。鉄の盾を固定して、試してみたんです。何度目かで技事態は成功したんですが、盾を切り裂く事はできませんでした。筋力が足りないんでしょうね。それに、そもそも動かない木や、縛り付けた盾で成功しても意味はないですし、実践であれを使えるリン姉さんがすごいんですよ」

「いやいや、同じ個所に当てれるだけでも大したものだと思うぞ。剣を全く同じ個所に当てるなんて、普通出来るもんじゃない。リンダの当て感の良さは天性のものだ。それをウィッカー、魔法使いのお前がそこまでできるのは本当にすごい事だぞ」

ドミニクさんに褒められて、ウィッカーさんは、そうかな?と照れた様子で鼻を掻いた。

「じゃあ。俺はそろそろ行くとするか。みんな、またな。ヤヨイさん、面倒かけますがよろしくお願いします」

そう言って、ドミニクさんは剣士隊の修練場へ歩いて行った。


「じゃあ、私も行くか。パトリック、お前はヤヨイさんと帰っていいぞ。いいか、ちゃんとエスコートして帰るんだぞ?」

ロビンさんが、真顔でパトリックに指を突き付けるので、パトリックはちょっと怯んでしまった。

「お、親父、分かってるけどよ、結婚してもう五年だぜ?その、なんつーか・・・息子の嫁離れしろよ」

「何を言う?そりゃブレンダン様にウィッカー、ジョルジュもいるんだ。そこらの悪党なんぞ話しにはならん。しかしだ・・・つまづいて転んだらどうする?そのためのエスコートだろうが?」

「お、おう・・・」

ロビンさんが真顔で言うので、パトリックも何も言えなくなってしまったようだ。

結婚して子供もできると、孫が可愛くてしかたないとなるかと思った。
実際、モニカさんは特に孫が可愛くてしかたないみたいだ。

もちろんロビンさんも孫を可愛がってくれるけど、相変わらず私も大事にしてくれる。むしろテリーとアンナが産まれた事で、より一層大事にされていると感じるくらいだ。


テリーとアンナのお母さんなんだから、体はとにかく大事にするんだよ。
ロビンさんからそう言われた時、自分は母親なんだなってあらためて実感できた。


可愛い二人の子供のためにも、私は自分の事も大事にしなきゃならないな。
だから、今日はロビンさんの言う通り、パトリックにエスコートしてもらおう。


「ねぇ、パトリック・・・」

私が手の平を見えるように右手を差し出すと、パトリックは一瞬きょとんとしたけれど、何がしたいか察したようで、少し顔を赤くして、う~ん、と唸った。

「ヤヨイ・・・キミってそういうとこあるよな」
「ふふ、よろしくお願いしますね」


まるで付き合い始めた頃のようだった。

パトリックは久しぶりに顔を赤くして、私の手を取ると、足元に気を付けて、と言って中庭から、城門前に待たせている馬車までゆっくりエスコートしてくれた。

私はこのお城の中庭が好きだ。
噴水があって、とても景色が綺麗なのだ。夕暮れ時は陽の光が薄く当たり、噴水が少し切ない雰囲気になり、それもなんだか見入ってしまう。


「・・・パトリック、綺麗ね」

噴水の前で私が足を止めると、パトリックも足を止めて私を見る。

「・・・ん?なにがだ?」

「・・・パトリックって、もうちょっと女心分かったほうがいいと思うわよ」

なんで文句を言われたか分からない顔をしているパトリックに、
後ろからついて来るブレンダン様、ウィッカーさん、ジョルジュさんが、少し笑いながら声をかけた。

「パトリック、ヤヨイさんの言う通りじゃぞ?もうちょっと察する事ができんか?」
「パトリックさん、なんかそのたどたどしい感じ、昔を思い出しますね」
「パトリック、噴水の前で止まったんだから、噴水しかなかろう?」

少しからかわれて、パトリックさんは、うるさいな!と後ろを歩く男三人に抗議の目を向けるけど、三人とも全く意に介さず流していた。

私が、行きましょう。と促すと、パトリックは気を取り直してまた私の手を取って歩いてくれた。

ゆっくりと・・・・・




「はい、ついたよ。ヤヨイ」
「ふふ、ありがとう旦那様」

馬車に乗ろうとして、ふいうちでパトリックの頬にキスをすると、パトリックは一瞬で真っ赤になって、もごもごと何か言おうとしているのが、ちょっと可愛い



・・・・・いつも私を大事にしてくれてありがとう。大好きだよパトリック
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