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256 闇から解き放つ力 ④
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絶え間なく鳴り響く破壊音。
エンスウィル城三階、玉座の間では光と闇の魔力が激しくぶつかり合い、
それによって起こる衝撃は、城を破壊し外へと響かせていた。
ウィッカーの光の波動が闇の化身の右腕を貫く。
闇の化身の右腕は、肩口から消滅するが、すぐに黒い瘴気が欠損部分に集まり無くなった腕を形作る。
右腕の再生を待たずに、闇の化身は左腕から闇の波動を撃ち放つ。
それは、ウィッカーの光の波動と酷似していた。
光と闇、属性の違いはあるが、魔力の使い方が同じであった。
手の平を起点に魔力を放つ。
これだけの事ではあるが、ウィッカーにとっては意外な展開だった。
「人型のまま戦うとは思わなかったよ。あの日見た、巨大に渦巻く闇になって襲ってくると思っていたからな」
戦い方まで、人間と同じとは思わなかった。王子を吞み込んだ事による影響か?
大きく右へ飛び、闇の波動を躱しながら左手に光の魔力を集め、波動として撃ち放つ。
闇の化身は左へ飛び退き光の波動を躱すと、再生した右腕から闇の波動を撃ち放つ。
「コイツ!?」
ウィッカーは風魔法で足元に風を集め、空中へ飛び上がり闇の波動を回避した。
・・・戦いながら学習している。
俺の戦い方、魔力の操作、闇魔法黒渦は意思を持っている・・・・・だが、これはもう・・・・・
「もはや、魔法じゃないな。多くの命を呑み込んで産まれた、闇の化け物だ!」
ウィッカーは空中から闇の化身を見下ろし両手を重ねると、光の魔力が集中する。
そのウィッカーを追うように、闇の化身が飛び上がった。
「天魔光閃!」
ほんの数メートルの至近距離で放たれたウィッカーの天魔光閃だが、闇の化身は予測していたかのように、身を捻り、躱すと同時に不安定に揺らめく両手で掴みかかって来た。
至近距離で天魔光閃を躱された事は予想の範囲内だった。
ウィッカーは動じる事なく、足に纏う風を操り後ろへ飛び退くと、闇の化身と大きく距離を空ける。
「なるほど・・・最初に撃った光の球は食らわれたが、あれは瞬時にできるわけではないようだな。基本的な防御方法は躱す事か」
だが、反応はかなり鋭い。やはり王子を取り込んだだけの事はある。
中身が戦闘経験の無い闇だとしても、王子を取り込んでいるんだ。そして戦いの中で成長している。
連続して撃ち放たれる闇の波動は、ウィッカーの顔を、腕を、胴体をかすめていく。
光を纏って戦っているが、闇の波動はウィッカーの光を貫くだけの威力を備えていた。
「さすが王子の魔力だ・・・俺の光の法衣を貫いてくるとはな・・・だが!」
立ち止まる事を許さない程に連続して撃ち出される闇の波動。
だが、その全てをウィッカーは見切り躱していく。最初の数発以外、かする事さえ許していなかった。
闇の化身を中心にし、ウィッカーは円を描くように躱し続けた。
「攻撃が単調過ぎる。真っ直ぐ撃つだけで当たると思っているのか?」
ウィッカーの光の法衣を貫く程の魔力を持っているが、戦闘経験の無さから攻撃は直線的で単調だった。
戦争を経験し、200年の長き時を生きるウィッカーにとって、魔力が高いだけの敵など、制圧する事は造作も無い事だった。
「・・・ここまでだ」
円を描きながら躱し続けたウィッカーだが、右足に纏う風を爆発させ、中心の闇の化身に向けて一気に加速した。
その速度は、瞬く程の刹那に闇の化身の正面に迫り、ウィッカーの光輝く右手は闇の化身の頭を鷲掴みにしていた。
「消えろ」
ウィッカーの体を包む光が強まると、闇の化身の頭を掴むウィッカーの右手の光が、一際強い魔力を放った。
そして次の瞬間、天にも届くほの巨大な光の柱が、闇の化身の体を容赦なく焼いていく。
声、音、どれに該当するか特定できないが、闇の化身の断末魔が城内に響き渡る。
やがて光の柱が収束し消えると、ウィッカーの右手には、掴んでいたはずの闇の化身の頭も体も、跡形もなく消えていて、ただ空に向かって右手を差し出していた。
「・・・・・風の精霊よ、コイツではないのか?」
今戦った闇の化身は間違いなく消滅した。
だが、ウィッカーは違和感を感じていた。
ウィッカーの知っている限り、タジーム・ハメイドは闇に呑まれ、その魂はカエストゥスに捕らわれているはずだった。
闇を消せばタジームの魂は解放され、カエストゥスも闇の支配から解き放たれる。
それは、この200年でウィッカーがたどり着いた答えだった。
闇の化身を倒した事で、確かに瘴気は幾分薄くなったように感じる。
時間と共にもっと薄まっていくだろう。
だが、あまりに手ごたえがなかった。
そう、王子を解放したという感触がまるでない。
ウィッカーが目を閉じ精神を集中すると、ウィッカーの周りの風が動き出す。
それは風から風へ、言葉を伝えるように、たった今戦いがあった場所とは思えないくらい、優しい風の動きだった。
風の精霊へ言葉を伝えるには、風の精霊に認められ、心を通わせる事。
本来であれば、ジョルジュ、ヤヨイのように、精霊の集まる森の中で祈りを捧げ心を通じ合わせていくのだが、ウィッカーの場合、カエストゥスの敗戦後、風の精霊から一方的に力を貸してきたのである。
たった一人で戦い続ける姿を見て、孤独に打ちひしがれそうになりながらも懸命に生きる姿を見て、
風の精霊はウィッカー・バリオスを支え、共にある事を決めた。
「・・・そうか、ならばコイツは黒渦の一部ではあるが、本体ではなかった。そういう事かもしれんな」
頬に当たる風を感じ、精霊のささやきを聞く。
玉座の間の黒い瘴気はだいぶ薄れてきた。
だがウィッカーは、この瘴気は完全に消える事はないように感じていた。
まだカエストゥス領土内に残っている風の精霊にも、たった今ウィッカーが戦った闇の化身が、黒渦の本体かは分からなかった。
だが、闇の化身が正体を現した時に感じた禍々しさは、200年前、タジームが闇に呑まれた時に感じたものと比べ大きく劣っていると精霊は伝えて来た。
「そうか・・・・」
ウィッカーの金色の髪が風に揺れる。
瘴気が薄れ、少しだけ風に元気が戻ってきたように感じるのは気のせいではないだろう・・・・・
光魔法、天魔光閃により開けられた大穴から外に顔を出し、全身で風を感じる。
「・・・風を感じろ、か・・・・・ジョルジュ、お前の言う通りだな」
陽の光を浴びて、緑の匂いと共に風を感じる。
自然を蝕んでいた闇の瘴気が薄れ、精霊の喜びが伝わって来る。
「・・・ケイトとの約束は守れそうだ。そろそろ帰るか・・・レイジェスに」
闇の驚異が完全に去ったわけではない。
だが、このカエストゥスを掌握していた闇の化身を倒した事で、瘴気は大分薄くなった。
これならば風の精霊の生存も脅かされる事はないだろう。
「風の精霊よ、俺はレイジェスに戻らなければならない。だが、ここの闇は大分薄く弱まった。これならば大丈夫だと思う。・・・・・なにかあればいつでも風を送ってくれ。俺は、必ず駆け付ける」
空へ向かい言葉を告げる。
まるで階段でも降りるように、大穴から外へ、一歩足を前へ出すと、そのまま重力に従い体は地上へ落下する。
地上スレスレで足元に風を起こすと、少しの風圧で体が一瞬だけ浮かび、ゆっくりと地に足が降り立つ。
「・・・ここには黒渦の本体、そして王子の魂は無かった。ならば・・・・・」
ウィッカーは歩き出した。
かつて魔法の指導で何度も訪れたエンスウィル城へ背を向けて。
城を出て街並みを見渡す。
かつての面影は見る影も無い荒地と化していた。
急いではいた。できるだけ早くレイジェスに戻らなければならない。
だが、大通りを歩き、一つの建物の前で足が止まり、どうしても動けなかった。
大分倒壊しているが、看板に僅かに残る店名、毎日のように出入りしていたドア、人の列を眺めた窓ガラス・・・・・そのどれもが懐かしい。
「・・・・・・・・・・ヤヨイさん」
レイジェス
王子のいるリサイクルショップ
【ウィッカーさん、接客上手ですね!】
【ウィッカー様!見てください!ポーさんが完売です!感動です!】
【ウィッカー!買い取り忙しいから手伝って!】
ヤヨイさん・・・・・メアリー・・・・・ジャニス・・・・・みんな・・・・・・・
全てを終わらせたら、俺もいくよ
そう遠い未来ではないと思う
きっと、みんな揃って・・・あっちでも店を開いてるんだろ?
ずいぶん遅刻してるけど、必ず行くから・・・・・・・
だから、待っててくれ
どのくらい立ち止まっていただろう
やがて思いを断ち切るように顔を反らすと、少しだけ足を速く動かしその場を後にした
エンスウィル城三階、玉座の間では光と闇の魔力が激しくぶつかり合い、
それによって起こる衝撃は、城を破壊し外へと響かせていた。
ウィッカーの光の波動が闇の化身の右腕を貫く。
闇の化身の右腕は、肩口から消滅するが、すぐに黒い瘴気が欠損部分に集まり無くなった腕を形作る。
右腕の再生を待たずに、闇の化身は左腕から闇の波動を撃ち放つ。
それは、ウィッカーの光の波動と酷似していた。
光と闇、属性の違いはあるが、魔力の使い方が同じであった。
手の平を起点に魔力を放つ。
これだけの事ではあるが、ウィッカーにとっては意外な展開だった。
「人型のまま戦うとは思わなかったよ。あの日見た、巨大に渦巻く闇になって襲ってくると思っていたからな」
戦い方まで、人間と同じとは思わなかった。王子を吞み込んだ事による影響か?
大きく右へ飛び、闇の波動を躱しながら左手に光の魔力を集め、波動として撃ち放つ。
闇の化身は左へ飛び退き光の波動を躱すと、再生した右腕から闇の波動を撃ち放つ。
「コイツ!?」
ウィッカーは風魔法で足元に風を集め、空中へ飛び上がり闇の波動を回避した。
・・・戦いながら学習している。
俺の戦い方、魔力の操作、闇魔法黒渦は意思を持っている・・・・・だが、これはもう・・・・・
「もはや、魔法じゃないな。多くの命を呑み込んで産まれた、闇の化け物だ!」
ウィッカーは空中から闇の化身を見下ろし両手を重ねると、光の魔力が集中する。
そのウィッカーを追うように、闇の化身が飛び上がった。
「天魔光閃!」
ほんの数メートルの至近距離で放たれたウィッカーの天魔光閃だが、闇の化身は予測していたかのように、身を捻り、躱すと同時に不安定に揺らめく両手で掴みかかって来た。
至近距離で天魔光閃を躱された事は予想の範囲内だった。
ウィッカーは動じる事なく、足に纏う風を操り後ろへ飛び退くと、闇の化身と大きく距離を空ける。
「なるほど・・・最初に撃った光の球は食らわれたが、あれは瞬時にできるわけではないようだな。基本的な防御方法は躱す事か」
だが、反応はかなり鋭い。やはり王子を取り込んだだけの事はある。
中身が戦闘経験の無い闇だとしても、王子を取り込んでいるんだ。そして戦いの中で成長している。
連続して撃ち放たれる闇の波動は、ウィッカーの顔を、腕を、胴体をかすめていく。
光を纏って戦っているが、闇の波動はウィッカーの光を貫くだけの威力を備えていた。
「さすが王子の魔力だ・・・俺の光の法衣を貫いてくるとはな・・・だが!」
立ち止まる事を許さない程に連続して撃ち出される闇の波動。
だが、その全てをウィッカーは見切り躱していく。最初の数発以外、かする事さえ許していなかった。
闇の化身を中心にし、ウィッカーは円を描くように躱し続けた。
「攻撃が単調過ぎる。真っ直ぐ撃つだけで当たると思っているのか?」
ウィッカーの光の法衣を貫く程の魔力を持っているが、戦闘経験の無さから攻撃は直線的で単調だった。
戦争を経験し、200年の長き時を生きるウィッカーにとって、魔力が高いだけの敵など、制圧する事は造作も無い事だった。
「・・・ここまでだ」
円を描きながら躱し続けたウィッカーだが、右足に纏う風を爆発させ、中心の闇の化身に向けて一気に加速した。
その速度は、瞬く程の刹那に闇の化身の正面に迫り、ウィッカーの光輝く右手は闇の化身の頭を鷲掴みにしていた。
「消えろ」
ウィッカーの体を包む光が強まると、闇の化身の頭を掴むウィッカーの右手の光が、一際強い魔力を放った。
そして次の瞬間、天にも届くほの巨大な光の柱が、闇の化身の体を容赦なく焼いていく。
声、音、どれに該当するか特定できないが、闇の化身の断末魔が城内に響き渡る。
やがて光の柱が収束し消えると、ウィッカーの右手には、掴んでいたはずの闇の化身の頭も体も、跡形もなく消えていて、ただ空に向かって右手を差し出していた。
「・・・・・風の精霊よ、コイツではないのか?」
今戦った闇の化身は間違いなく消滅した。
だが、ウィッカーは違和感を感じていた。
ウィッカーの知っている限り、タジーム・ハメイドは闇に呑まれ、その魂はカエストゥスに捕らわれているはずだった。
闇を消せばタジームの魂は解放され、カエストゥスも闇の支配から解き放たれる。
それは、この200年でウィッカーがたどり着いた答えだった。
闇の化身を倒した事で、確かに瘴気は幾分薄くなったように感じる。
時間と共にもっと薄まっていくだろう。
だが、あまりに手ごたえがなかった。
そう、王子を解放したという感触がまるでない。
ウィッカーが目を閉じ精神を集中すると、ウィッカーの周りの風が動き出す。
それは風から風へ、言葉を伝えるように、たった今戦いがあった場所とは思えないくらい、優しい風の動きだった。
風の精霊へ言葉を伝えるには、風の精霊に認められ、心を通わせる事。
本来であれば、ジョルジュ、ヤヨイのように、精霊の集まる森の中で祈りを捧げ心を通じ合わせていくのだが、ウィッカーの場合、カエストゥスの敗戦後、風の精霊から一方的に力を貸してきたのである。
たった一人で戦い続ける姿を見て、孤独に打ちひしがれそうになりながらも懸命に生きる姿を見て、
風の精霊はウィッカー・バリオスを支え、共にある事を決めた。
「・・・そうか、ならばコイツは黒渦の一部ではあるが、本体ではなかった。そういう事かもしれんな」
頬に当たる風を感じ、精霊のささやきを聞く。
玉座の間の黒い瘴気はだいぶ薄れてきた。
だがウィッカーは、この瘴気は完全に消える事はないように感じていた。
まだカエストゥス領土内に残っている風の精霊にも、たった今ウィッカーが戦った闇の化身が、黒渦の本体かは分からなかった。
だが、闇の化身が正体を現した時に感じた禍々しさは、200年前、タジームが闇に呑まれた時に感じたものと比べ大きく劣っていると精霊は伝えて来た。
「そうか・・・・」
ウィッカーの金色の髪が風に揺れる。
瘴気が薄れ、少しだけ風に元気が戻ってきたように感じるのは気のせいではないだろう・・・・・
光魔法、天魔光閃により開けられた大穴から外に顔を出し、全身で風を感じる。
「・・・風を感じろ、か・・・・・ジョルジュ、お前の言う通りだな」
陽の光を浴びて、緑の匂いと共に風を感じる。
自然を蝕んでいた闇の瘴気が薄れ、精霊の喜びが伝わって来る。
「・・・ケイトとの約束は守れそうだ。そろそろ帰るか・・・レイジェスに」
闇の驚異が完全に去ったわけではない。
だが、このカエストゥスを掌握していた闇の化身を倒した事で、瘴気は大分薄くなった。
これならば風の精霊の生存も脅かされる事はないだろう。
「風の精霊よ、俺はレイジェスに戻らなければならない。だが、ここの闇は大分薄く弱まった。これならば大丈夫だと思う。・・・・・なにかあればいつでも風を送ってくれ。俺は、必ず駆け付ける」
空へ向かい言葉を告げる。
まるで階段でも降りるように、大穴から外へ、一歩足を前へ出すと、そのまま重力に従い体は地上へ落下する。
地上スレスレで足元に風を起こすと、少しの風圧で体が一瞬だけ浮かび、ゆっくりと地に足が降り立つ。
「・・・ここには黒渦の本体、そして王子の魂は無かった。ならば・・・・・」
ウィッカーは歩き出した。
かつて魔法の指導で何度も訪れたエンスウィル城へ背を向けて。
城を出て街並みを見渡す。
かつての面影は見る影も無い荒地と化していた。
急いではいた。できるだけ早くレイジェスに戻らなければならない。
だが、大通りを歩き、一つの建物の前で足が止まり、どうしても動けなかった。
大分倒壊しているが、看板に僅かに残る店名、毎日のように出入りしていたドア、人の列を眺めた窓ガラス・・・・・そのどれもが懐かしい。
「・・・・・・・・・・ヤヨイさん」
レイジェス
王子のいるリサイクルショップ
【ウィッカーさん、接客上手ですね!】
【ウィッカー様!見てください!ポーさんが完売です!感動です!】
【ウィッカー!買い取り忙しいから手伝って!】
ヤヨイさん・・・・・メアリー・・・・・ジャニス・・・・・みんな・・・・・・・
全てを終わらせたら、俺もいくよ
そう遠い未来ではないと思う
きっと、みんな揃って・・・あっちでも店を開いてるんだろ?
ずいぶん遅刻してるけど、必ず行くから・・・・・・・
だから、待っててくれ
どのくらい立ち止まっていただろう
やがて思いを断ち切るように顔を反らすと、少しだけ足を速く動かしその場を後にした
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